エウリクレイア
第十六章 運河都市
清々しい朝を迎えた。今日の天候も快晴なり、といったところか。
胸いっぱいに空気を吸い込むと、体に力がみなぎるのを感じる。もう発熱による体のだるさは、なくなったようだ。ずいぶんと、ここケプラー22bの環境に馴染んだものだと思う。
アマゾネス達はと言うと……すでに起きてメイクしながら身支度をしている様子。予想通りシュレムは何事もなかったように、つっけんどんとしている。平常運転なのは照れ隠しなのかな? むしろデレデレした態度に変貌すると、まわりの人達が動揺して僕から悪いウィルスをうつされたと勘ぐるかもしれない。
「何見てんのよ」
シュレムが色々と思考中である僕の視線に気付いた。
「いや、何でもありません」
はあ……今朝のアレは夢だったのかな。唇にかすかに感触が残っているけど。
スタリオン高機動車のフロントを改めて見ると、潰れて凹んで酷いものだ。ジェネレーターが不安定になるのも無理もない。これを修理できる技術者は、ケプラー22bに存在しているのだろうか。
「ゆっくりオーミハチマン市を目指して出発しよう。今日は俺が運転するよ」
そう宣言したものの、いくらアクセルを踏んでもモーターがうんともすんとも言わない。
辛うじてコンピュータは稼働しているみたいだが……動力系統か? 車があまりに電子化されていると、電源を喪失した場合こんなにも無力になってしまうのか。
僕は車外に出て、ガムテープ留めしているボンネットを開けた。
「ほわああぁ!」
そう雄叫びを上げると、ジェネレーターパックに渾身の頭突きを食らわせたのだ。瞬間、コンソールが再び輝きを取り戻し、各種のコンディションを表示し始めた。
「す、すごい……病み上がりとは思えん。こんな原始的でアホな方法でスタリオンが生き返って発電を開始したぞ」
カクさんが尻尾をピンと立てて、気合で直した僕の男気に感心する。
心配事と言えば、我々に残された食料も少なめだ。次のオーミハチマン市で食料を調達せねばなるまいて。まあ、はるか上空のインディペンデンス号から緊急食糧を投下することは可能なんだが。
懸念事項とアマゾネス達を満載したまま、スタリオンはオーミハチマン市に向かって快調にスピードを上げていった。




