イスメーネ
ブリュッケちゃんは隣のアディーにも訊いた。
「じゃあさ、アディーのお父さんって、どんな人だったの?」
「え? 私の父は皆さんと違って、今でも普通に家にいますよ」
「ええ~?」
「父はB級奴隷ですが、実家で主夫をしています。掃除、洗濯、家事、育児……多くの家庭でA級奴隷が担当する仕事を全部一人でこなしてました」
「へ~、そうなんだ」
シュレムが興味深そうな表情で、アディーを見た。
「家では母の教育方針が一貫していて、『困っている人や、弱者を助けよ』というスタンスを取っていましたね。当然B級奴隷にも母は優しいです。父は母に絶大な信頼を寄せていますし、今でも関係は良好なんですよ。私は幼いころから父と普通に仲良く暮らしている感じですかね」
僕はアディーが婦警という道を選んだ理由が何となく分かった。そしてアマゾネスの割には性格がのほほんとしていて、男にもトゲトゲしくないのは育った家庭環境のおかげだったのか。
シュレムは少し羨ましいのか、アディーに色々訊いていた。
「男を奴隷部屋に置かないの?」
「言い方は悪いですが、父は家の中を自由に移動する、いわゆる放し飼い状態です」
「一緒に寝たりしているの?」
「ウチは貧乏だったので家がとても狭いんですよ。あまり大っぴらには言えませんが、一部屋で全員寝てましたね。それに食事も常に一緒でしたよ」
「へぇ~……」
シュレムとマリオットちゃんは少し引いているような、それでいて分け隔てのない大らかな家庭に憧れを持つような言い方もしていた。
「皆驚くので、家の事は仲良くなった人にしか話さないんですよ……本当に。社会の規範であるべきの警察官をしていますしね」
「いやいや、アディーの父さんとやらに会ってみたいね。何となく、どんな姿かは想像できちゃうけど」
マリオットちゃんはアディーに、そう言った。そのころには僕の左脇で寝ているブリュッケちゃんから、すうすうと可愛い寝息が聞こえてきたのだ。




