シビラ
第十四章 サバクオニヤドカリ
「わぁーっ! 北の砂漠地帯なんて初めて来たよ。学校で自慢できるかな?」
マリオットちゃんは荒涼とした風景に、彼女らしい呑気なコメントを発した。
砂漠とは言っても砂礫地で、サハラ砂漠のようにどこまでも続く乾燥地帯ではない。ビワ湖から吹く卓越風によって形成された湖岸砂丘であるが、あまりに大規模なので砂漠と呼ばれているのだ。
見渡す限り砂と岩石の不毛地帯で、時々トゲなしサボテンのような半透明のラグビーボール植物が屹立していた。ラガーマンなら思わずゴールに向けてキックしてしまいそうである。
スタリオン高機動車は、モーターのトルクを効かせて快調に砂丘を疾走する。岩石をレーダーで回避するのも自動でOKなのである。
「ブリュッケちゃん、ターゲットのサバクオニヤドカリってのは、どこにいるんだい? デカイからすぐに発見できると思ってたんだが」
「一応陸上生物だけど、完全に水なしでは生きていけないから、湖岸沿いにいるとは思うよ」
アディーも装甲殻類の姿を水平線と丘陵線とで双方探してみたが、今日はどこにも見当たらない。
「季節によって移動を繰り返しているから、シーズンオフなのかもしれません」
「何じゃそら。産卵期には湖にいるってカルキノス図鑑に書いてあるぞ」
「今が産卵期なのかしら?」
そういえば怪妖洞の地下で見たケプラーシオマネキの女王ガニも大量に産卵していたな。
ケプラー22bの衛星であるソドムとゴモラも昨晩は満月状だった。
カッパドキアのような奇岩地帯をしばらく進むと、遠くにオアシスが見えた。
「やった、水がいっぱいあるよ」
ブリュッケちゃんは昨日お風呂に入れなかったので、水浴びがしたくてたまらないのだ。
キレイ好きのマリオットとブリュッケちゃんは、いてもたってもいられなくなってきた。




