ローレライ
パリノーはガウンを半分脱ぎかけたところで、焚火の向こう側に回った。恥ずかしい表現をすると、まるでイタズラ仔猫ちゃんみたいだ。
「その火を飛び越してこい! ってのは何の小説だっけ?」
「う~ん、恋のファイヤーダンスかな?」
「違うわ。何なのよそれ」
炎の熱が夜の空気を揺らめかせ、ガウンを脱いだパリノーの裸をも夢のように照らし出した。ムチムチ感のない引き締まった、アスリートのような均整のとれた女体とでも言っておこうか。
「オカダ査察官、いやアツシさんかな。そんなに照れなくてもいいのよ……どっちが見たいの? 上かな、それとも下かしら? 私、自信があるのは下の方なんだけど」
パリノーは髪をかき上げ、バレエダンサーのような可憐な仕草で、くるりと回った。自らの言葉に偽りのない、惚れ惚れするような美しいデザインの下着とヒップラインを見せつけたのだ。
何だろう、悩殺されてしまったのだろうか、目が開かないや。意識も遠のいてゆく。眠気が限界に達してしまったのか……。
いつの間にか隣まで来たパリノーに、僕は逆に押し倒されてしまった。
「こんな美人を放っておいて、あなた罪深いわね……」
「パリノー……」
もう何も答えられない。
「フフフ、眠りに落ちたわね……オカダ査察官」
「やっぱ地球人なんてチョロイわね……」
「いや、どんな男でも私の魅力の前には、皆こうなってしまうのよね」
「睡眠薬入りのコーヒーとも知らず……」
「コーヒーなのに目が覚めるどころか、反対にぐっすり眠りこけるとはウケル」
「あんた女に油断しすぎぃ! 正に寝首を掻かれるという言葉そのものね」
「さようなら、永遠におやすみ……オカダ査察官。結構好きだったよ……」
リュックに隠し持っていたカミソリのように薄いナイフが首元に襲いかかる。




