ローランシア
「何だっていい、俺を使ってくれ。アンタ達のためだったら、ビルショウスキー一家は命を投げ出して戦ってもいいぜ!」
ランドルトは、我々……正確にはアディーの方をチラッと見た。彼女は何やら調書を見ながら、携帯端末に入力中だ。
「それはビルショウスキー本人の希望なのか?」
僕は彼女の反応を確かめたが、相変わらず廃墟をバックに腕組みしながら黙ったままだ。
「俺も賛成だ! デュアンを倒して、全ての男奴隷を解放するんだ!」
例の筋肉サロペット野郎も瓦礫の椅子から立ち上がって拳を振り上げた。
「やかましい! 俺はケガ人は連れて行かないぜ。定員オーバーなんだよ!」
「そんな……車に乗りたい」
「お前も漁師のくせに何で湖賊なんかやってんだよ! 魚を獲れ! 魚を!」
半泣きで気味悪く懇願している筋肉野郎にケリを入れた。
「ビルショウスキー! こいつらを何とかしてくれ」
ライオン頭の女は、男どもを殴ってスタリオン高機動車から離れさせた。
「マリオットちゃんカワイイ!」
「はは……」
「ブリュッケちゃん最高!」
「……ありがと」
二人は乗車前、集合した男どもからアイドルのように声援を送られていた。荷物を持って苦笑いで、そそくさと移動。
「美人看護師さん、ありがとう!」
シュレムも、まんざらでもなさそうに笑顔で患者に手を振ったのだ。
「不潔にせず、感染症には気を付けるのよ。メガネさん、化膿止めをよろしく」
メガネは分かった、というような素振りでシュレムに手を振った。
僕は車の屋根から砂避けのマントを翻して言う。
「いつか、お前らの力を借りる時がきっと来るだろう。それまでに湖賊は辞めて俺に顔向けできるようにしておけ!」
蛇顔男と小太りオヤジが揃って舌打ちし、ジャケットを羽織ったメガネが直立不動で頷いた。
「さらばだ!」
パリノーが、ひょいと車内から顔を出した。
「その前にガソリン、ちょっと分けてくんない?」
ぐは! せっかく別れを告げたのに……本当に調子狂うなあ。
彼女は湖賊どものアジトから、ちゃっかりバイク用のガソリンをゲットしたのだ。
ライオン頭の女の逆立つ金髪は、若干しな垂れてきた。
「へん! お互いにまだ生きていたら、再び会う事があるかも知れないね」
それが湖賊のリーダーであるビルショウスキーから貰った最後の、はなむけの言葉だった。
もう日が暮れてしまう。恒星ケプラー22は太陽のように夕日になった。スタリオンは湖賊どもが見守る中、砂塵を上げて出口ゲートに向かって加速していったのだ。




