クサンティッペ
「ぎゃあぁ! 放せぇ! 化け物」
ビルショウスキーは装甲殻類であるケプラーシオマネキの巨大なハサミに、骨盤辺りを挟まれた。デカい尻がクッションになっていたようだが……肉にめり込んで、かなり痛そう。
兵隊ガニは軽々と彼女を持ち上げたかと思うと、小さい方のハサミで幼体も回収後、巣穴に向かうようなそぶりを見せた。
まだ上半身の方は自由だったので、ビルショウスキーは自動小銃を構え、ケプラーシオマネキのハサミに零距離で、残りの弾丸を叩き込む。
とたんに兵隊ガニはハサミの力を失い、その腕を根元から自切した。どすん、と彼女は落下する。そのまま本体はかしゃかしゃと、どこかに逃げ出したようだ。
「はあ、はあ……助かった……」
ビルショウスキーは、体に食い込んだハサミを忌々しそうに地面に落とすと、我に返って周囲を見遣った。
正面に僕とカクさん、背後にはスケさん……我ら査察団に完全に包囲されている。
「おっと動くなよ。俺は女を傷つけない主義なんでね」
カクさんが長い鼻先に皺を寄せ、牙をむいた。
「だけど私は平等主義者。盗賊は男でも女でも容赦しないわよ」
スケさんも背後から唸り声を上げた。
「ふふふ、狙った相手が悪かったな! 唯の旅人じゃなかったんだぜ」
やっと二頭に追い付いた僕は、ライオン頭のビルショウスキーに対し降伏して武器を差し出すように指示した。
彼女は肝が据わっており、装飾が散りばめられた高級スーツが汚れた事を嘆いている。さすが荒くれ男達のリーダーだな。
「ちきしょう! 一体何だってんだい! あんたB級奴隷? いや、ひょっとして……確か地球から来た男じゃなかったっけ?」
もうすでに僕の顔は、こんな湖賊どもにまで知れ渡ってしまったのか……。




