女媧
「チッ! 厄介な相手が出てきたぜ……」
カクさんがペリスコープ越しに外の様子を伺う。湖賊どもは、すぐに散ってそれぞれの配置に付いたようだ。
僕は怪妖洞で入手したショットガンのチューブ型弾倉にショットシェルを込めながら言った。
「いいか、くれぐれも開拓移民様の人口を減らすようなヘマはしないように……たとえ盗賊でもな」
「ちょっと! あんな連中……湖賊と戦うつもり? 冗談じゃないわ! 今すぐ外に出て降伏しましょうよ」
パリノーが大声で騒ぎ始めた。
「相手は強力な武器を持っている武装勢力よ。このままでは、ひょっとすると誰かが負傷しかねないわ。ここは降参して交渉しましょう。彼らは元B級奴隷でしょう? 命まで奪われる事はないわ」
パリノーは天井のハッチを必死になって解放しようとした。
「いつまで閉じこもってやがる……出てこい! 仔羊ちゃん達」
黄色いKRヘルメットを被ったデブが合図する。すると湖賊ビルショウスキー一家は、全方向からスタリオン高機動に向かって一斉に射撃してきた。
「きゃああああああ!」
四方八方から銃弾が雨霰のごとく着弾し、鈍い音が連続して響いた。小銃弾など、ただの一発も貫通しなかったのは言うまでもない。
スタリオンは部分的に流体装甲を採用しているので、弾痕は、あっという間に自然と塞がった。
「何ぃ!? 何だあれは」
双眼鏡で観察していたビルショウスキーは驚きの声を上げたのだ。
次の瞬間、スタリオンの40mmマルチグレネードランチャーから榴弾が発射され、前方のバリケード状に積み上げられた瓦礫を吹っ飛ばした。戦わずして逃げるのが正解だろう。
「待ってよ! 私は無関係だって言ってるでしょ」
パリノーはロックを解除すると、何と後部ドアから外へと脱出したのだ。
「きゃっ!」
無防備になったマリオットちゃんが青ざめる。
「危ねえ! 何て無謀なお嬢さんだ……オイラ達も出るぞ!」
スケさんとカクさんも、外部へ飛び出してドアロックした。
二頭はパリノーが荷物を抱えて一目散にガソリンスタンドまで逃げる姿を見定めた。
「命まで奪うなと、口で言うのは簡単だが……ある意味カルキノス退治より人間相手の方が大変だぜ」
「まずはロケットランチャーを持っている奴から、仕留めるわよ」
砂埃を巻き上げながらジグザグに走り、湖賊の目を眩ませつつ二頭は左右に展開していった。




