キレネ
スーパー銭湯の露天風呂では、オバ様方がパニック状態となり浴室の方へと移動し始めた。
カクさんは、すっかり冷静さを失っている。確保していた脱出ルートを目指したものの、煙幕なしで姿が丸分かり。
「ちょっと! あれはカクさんじゃないの? 何でこんな所にいるのかしら?」
マリオットちゃんが胸元をタオルで押さえながら指差す先には、尻尾丸出しで茂みに隠れるカクさんの姿があった。シュレムも頭のタオルを胸に巻いた。
「あ~……何しに来たのか、あいつの場合は見当がつくわ……」
アディーは婦警らしく真面目に答えた。
「覗きは軽犯罪法違反に当たります。建造物侵入罪もあるかもしれません。ただしオオカミは、どーぶつなので無罪というかOKです」
シュレムはカクさんを懲らしめてやろうと思ったようだ。
「ブリュッケちゃん、カクさんを捕まえてきて」
「え? カクさんには危ない所を助けてもらったんだ」
「それと、これとは話が別よ。さあ、タオルを巻いて」
「ごめんよ、カクさん」
上下を布で隠したブリュッケちゃんは、カクさんを捕まえようと両手を構えながら近付いてゆく。
「カクさん、何が見たかったんだい? 残念だけど、ボクのはまだ……」
追い詰められたカクさんは、最後の力を振り絞って女湯と男湯を仕切る塀を飛び越えようとする。
しかしながら濡れた岩場でズルッと滑って失敗した。
塀に激突したカクさんは、打ち所が悪かったのか、そのまま失神してしまったのだ。
カクさんが次に目覚めた時は、なぜか温泉につかっていた。しかも周囲にはバスタオルを巻いたシュレム、アディー、マリオット、ブリュッケが一堂に揃っていた。
「あれ? オイラは何でこんな所にいるんだ? すぐにここから上がるよ……」
「まあ、まあ、遠慮せずに一緒に入りましょうよ!」
右のシュレムが、にっこり笑顔。
「オオカミは温泉に入ってはいけませんなどと、どこにも注意書きはありませんよ」
左のアディーも言葉を繋げる。
しかしながら温泉の熱さに舌を巻くカクさんは、もう楽しむ余裕などなかった。
「カクさん、今日は助けてもらってありがとう」
後ろからはブリュッケちゃんの声。
「いえいえ……」
「カクさん、それほどまでして私のが見たいのね。いいわ、特別に見せてあげる。ホラ!」
マリオットちゃんは前かがみになってタオルをずらすと、そこそこの谷間を見せつけた。
「ありがとう。もう十分です。満足しました」
このような感じでカクさんは、うら若き女性4人に囲まれながら、露天風呂につかったまま長時間出ることを許されなかったのである。出汁がどんどん出ていくのを、彼はのぼせる意識の中で感じた。




