リベラトリックス
「なぁ~んだ! ……本物のヒコヤンは、オカダ君が先に見付けちゃったのか!」
「まさかヒコヤンは二代目で、マリオットより下の小学生だったなんて夢にも思わなかったわ」
シュレム・マリオット姉妹は、骨折り損のくたびれ儲け。
「ふふふ、オーミ牛の焼肉をごちそうする約束は、パーになっちゃったね!」
僕が意地悪く言うとマリオットちゃんは憤慨した。
「何だとー! 楽しみにしていたのに! 肉を食わせろー!」
一般人には、まず手の届かない超高級食材オーミ牛。そりゃ期待するよなぁ。
マリオットちゃんは、僕の腕に噛みついたまま離さない。ブンブンしても振りほどけなかった。
制服美少女が査察官の腕に絡みついて振り回される図……とても珍しい光景……アディーがビデオ撮影。
「まあまあ……城下町で見付けたファミレスのハンバーグで我慢してよ。その代わり浮いたお金で、今夜はホテルに泊まろうと思う。もちろん大浴場付きのね」
「嬉しい! 野宿は、もう勘弁して欲しかったの。やっとお風呂に入れるわ」
シュレムとアディーは手を取り合って喜んだ。
「私はキャンプも大好きだけどね」
アディーは、そう言ってくれた。本心なのか、それとも僕に気を使ってくれたのか……。
しばらくすると城内から銃声が響いた。我々は思わず肩をすくめる。
「まさか二代目ヒコヤン……」
『ブリュッケちゃんにしましょうよ!』
女子三名が綺麗にハモった。
「ブリュッケちゃん、はりきり過ぎて無茶してないだろうな」
不安要素はある。偽ヒコヤンに銃を奪われて、撃たれたとか……。
スケさんとカクさんは、城に向かって走り出した。だが、心配は無用のようだ。鞄を取り返したブリュッケちゃんが意気揚々と、城から戻ってくるのを確認したからだ。
「お待たせ。この鞄でしょ!」
マリオットちゃんは飛び上がって喜んだ。
「ありがとう。中身も無事に戻ってくるとは思わなかったわ」
「引ったくりは、石垣を登って逃げようとしたんだけど、このライフルで近くを狙撃したら、諦めて全部返してくれたの」
アディーは感心して声を上げた。
「さすがは二代目。小学生とは思えないほど、いい仕事しますね~」
シュレムは自分の妹より小さい女の子を、危険な目に会わせる事に同意しかねるようだ。
「オカダ君、本当にこの子を旅に連れていくの?」
彼女は妹を守るだけで手が一杯だろう。婦警さんや僕達もいるとはいえ……。




