ロミア
「ようこそ、オーミヒコネ市へ。地球人のオカダ査察官ですね」
ゲート守備隊の隊長と思わしき人物が、停車した高機動車に近付いてきた。守備隊も警察組織の一部である警備部所属なので、アディーのような婦警の制服に身を包んでいる。僕は何か手続きでもいるのかと思い、一人で車から降りた。
「お会いできて光栄です。オーミモリヤマ市でのご活躍の噂は、ここでもお伺いしております。本日の当市へのご訪問は、一体どういったご用件なのでしょうか?」
隊長は高身長のモデルのような体形の美女だった。少し緊張しているのか、笑顔の奥に当惑の色が伺える。
「デュアン総督から拝領した重要任務の途中に立ち寄らせてもらいました。補給と……お風呂が目的です」
「お風呂!?」
「ええ、チームの一員たっての要望でして……」
僕はちょっと恥ずかしくなった。まだ観光目的と言った方が良かったかな。
「お風呂ですか、当市に温泉はありませんので……どちらかのホテルなどに宿泊していただくか、銭湯をご利用していただくしか……いずれにしてもオカダ査察官に満足していただけるかどうかは疑問です」
デュアン総督から貰った資金は、大した額じゃなかった。まるで車中泊が前提のようなものだ。
僕は隊長にお礼を言って、もう一つの質問をした。
「是非知りたい情報なのですが、オーミヒコネ市には伝説の装甲殻類ハンターであるヒコヤンが住んでいるそうですが、どこに行けば会えるのでしょうか?」
すぐに分かるだろうと高をくくっていたのだが、予想に反して守備隊の隊員達にも知られてはいなかった。
「ヒコヤンはオーミヒコネ城のどこかに住んでいると聞いた事が……」
「いやいや、ケプラースベスベマンジュウガニを食べて中毒で死んだとか」
「私は海までケプラーズワイガニを狩りに行って溺れて死んだという噂を聞いた事がある」
「違うよ、城下町のラーメン屋で店長をしていたらしいよ。カニミソラーメンはヒットしたけど、チャーシューの代わりにカニカマを使ったアイデアが失敗して店が潰れたとか……」
結局、誰一人としてヒコヤンの正確な情報を知る者はいなかったのだ。
さすがは伝説の人物。性別は男という事と、赤いヘルメットを被っていたという古い目撃情報しか残していなかった。どうもここ数年は、なりを潜めているらしい。
我々は彼の所在と、お風呂を探しにオーミヒコネ城の城下町へとスタリオン高機動車を出発させた。




