ディオネ
「カクさんよ。残ったエビフライがもったいない、代わりに食べてもらえないだろうか」
僕は彼の黒く湿った鼻先に皿を突き出す。
「ごめんよ、持病のフィラリアが再発して、今とっても気分が悪いんだ」
「嘘をつけ! お前、オオカミのアニマロイドだろうが」
スケさんもトイレに行く? と言い残して、さりげなく席を外した。夫婦喧嘩は犬も食わないというが、アディーの料理はオオカミも食わず、猫科のジャガーも猫またぎなのか。
「ごめんなさい、こんなひどい料理、本当は出すつもりなかったの~」
アディーは徐々に泣き顔になり、タイトスカートがまくれるのも気にせず、その場にしゃがんだ。
ドサクサに紛れ、カクさんが極めて自然で華麗な流れで、アディーの両脚の間に頭を突っ込む。
「アディーさん、もう泣かないで。優しく慰めてあげるからさ……ん?」
動きが止まったアディーにカクさんは殺気を感じた。彼女の肩章付きの細い肩は小刻みに震えている。
「……新しくおろしたばかりのストッキングが伝線した……あんたの爪が引っかかって伝線したじゃないの!」
「うわあああぉ!」
カクさんはアディーに首根っこを鷲掴みにされ、2回転ほど振り回された挙げ句、藪の中に放り込まれた。
……これが普段から鍛えているアマゾネスの放つ力なのだろうか! カクさんは生きているかな? 大丈夫だろう……たぶんね。
それにしても何という怪力を発揮できるのか、この婦警さんは。普段ニコニコ顔なのに、怒らせるとめっちゃ怖いタイプなんだと思い知らされる。
「分かった、落ち着け、アディー巡査。ほら、君のエビフライ、黒焦げのコロモを取ったら、中のエビはパリパリで美味しくいただけるよ」
「オカダさん……」
アディーは涙を拭った。少し笑顔を取り戻したかな? 彼女が見守る中、僕はすべてのエビフライの殻と黒焦げをきれいに剥いて、スープと一緒に掻き込んだのだった。
「オカダ君はホントにいい人なんだね」
シュレムが初めて褒めてくれたような気がする。得点アップに繋がったならば、苦しい思いをしたかいがあったと言えるんじゃないかな。




