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誰よりも透明な好きだから  作者: 櫓 るな
1/1

ーツミビトの子守唄よりー

この物語はフィクションであり、実在の人物、団体とは一切関係ありません。また、歴史上におきましても想像を元に創作しておりますのでご了承ください。


平安時代



貴族に仕えた御家 ー紬之(つむぎノ)ー は、上級女官を多く送りだした言わば名家の一族であった。


機敏な気遣い、人を動かす信頼。

政治を担うこの時代において無くてはならない振る舞い


何をとっても紬之の前に出わしない程、秀でた人質、才を有していた。



...ただ、

紬之には欠陥と呼ばれたヒトが存在したことを除いてはの話...だが...


名誉、地位

紬之を手にした貴族は手放さないように手解きを要し条件を与え止まらせようとしたが、


いずれも断り続け、何にも手をつけようとはしない。

離れていくまでそう時間はかからなかった。


其れは、


彼らは人において、

人になりえないチカラを持っていたからだ。


限度なんてない。 感情なんて無くていい。

曖昧な決まりごとが彼らを彼らでなくしていく


そんなチカラを他人に明かしてはならない


禁忌とは、犯してはならないタブー

支配は、不安定な服従関係を表した。


これら二つは重なり合うことのない理であり、圧倒的な権力になりかねない


誰かがチカラを借りようとすればいつかボロがでる


派閥した二つの関係を結ぶことはできない


だから、定めた

禁忌、支配を有した十六に散りばめられた厄介な(チカラ)を、

ー朱の(もん)ーとー黎の(もん)ーとして身体にしるし、ヒトの為にヒトであるが為に紋に触れ印を解くその時には病者(あるじ)(ばつ)が下れるというカラクリによって。



平安時代末期において....


(チカラ)は紬之の仕えた天皇家や貴族を護る為にほんの一部の人間を通してのみ使われていた


ただ。


現在において、

強くありすぎるチカラは脅威でしかなく、彼らが心に身に担ったチカラは誰かを犠牲にしかねなかった。


千二百という長い月日を歩んだ紬之は現在では、天皇家と近い国の象徴とされていた。


時間は経った。

空気もヒトも場所も何かも止まったままではいられない。


身勝手な、理不尽なチカラとして彼らに与えられた

十六の(チカラ)は、無力とは言い難く強さとも違う意味を持つ。


血を繋ぐ程、(チカラ)は紬之の人間に依存していく、感情を心を見失わないように紋を斬るための余韻として二重の印、ウタがあった。


紋に重ねて印を声で繋ぐことで、ヒトとして生きることができた。


彼らはヒトだ。


だが、その(チカラ)はヒトをヒトとして動かしはしない。


理屈でも空想でもない。


だから、彼は ‘‘ あんた ’’ に()いた。


①、病を持っていたとして何に手を伸ばすのか。

②、この病を誰に向けるのか。


単純であってそうではない。

矛盾していて、其れは彼らを生かしていた。














- - - - - - - - - -

- - - - - - - - - -


PN 4:30



足が止まった。


公園の近く、小さな陰がみえた

陰がその子の小幅とともに動く。


朱い陽がその子を見定めた時、彼の計りに触れた


..ヒラリ、ユラリ、コットン......


視えないのに、音が、はなが、時間が

彼に聞こえない声を発した。


「あの子。....後、三日(みつひ)だよ。」


聞こえない声で何かを抑え込むようにいった。




ードクンッ..ー




彼から表情が消えた


何の前触れもなく

陰と動くその子から目を伏せて。


彼はこちらに微笑みかけたその子に手を振り公園から離れていく


先日の雨が染みる、少し冷たい春。


故意的なモノでなくとも

痛々しく


彼の心に移っていくのは


手を振ったあの子の小さな姿だった。


「..(しゅう)?....」


彼の名を呼ぶ声が聞こえない程に...


落ち着きを忘れていたのは、感覚が彼に話掛けていたからだった。



‘‘ 殺せ ’’


単純な言葉だった。



....ヒトの命が誰かに造られて生きているとしたら?

ー自分の意思など関係ないーのかもしれない。




造られた命は....


...... 実在した。




明治初期


天皇家に仕えた、一人の医術師の手により、Chimera(きめら)を使った人体実験が行われていた。



一つとして二つの可能性を残す遺伝子をクローン化し、ヒトではなく兵器として動かすことが目的で行われた。




結果として、


彼ら医術師が造りだしたのは、

何に代わることのない、生死定理を逸脱したバケモノだった。


ヒトの欲が形となり、兵器と言えば聞こえはいいが

後に引けない状況に彼らはこのことを隠した。



レナトゥスと名を与えられ、名の通り再生を意味しバケモノとなった人体実験の被害者の血が途絶えることはない



(チカラ)はレナを狩るたった一つの毒になった。



彼には視えた

感覚やあやふやなものでなく例えば形や色として


レナと人間の違いが


感覚が、彼を動かすことは何でもない彼自身にとって滑稽なことだとわかっていた。


「なんでもねぇー。....帰っか。」


真紅(まっか)な輪郭から少しずつ無に近づく。

ヒトと言う命の測りを見知らぬ間に、

彼は無意識のうちに答えを出していた。



「顔色悪いから、帰ったら寝ときな、...ね?」

「ありがと。」


素直とは程遠く、冷たげな顔をした彼の事を気遣い声を掛けたのは彼の姉、紬之 樟葉(くずは)だった。


(チカラ)病者(あるじ)により、代わる。


窮屈な程、人の心は想いでつくられていた。


意識はしていない。

ただ、 彼の計りにかかるだけ、


だけど...


何も背負わず生きていける程

優しくはなかった。


「..駄目だかんね。」


彼が何かを口にする前に

樟葉が彼の横顔をみながら冷たい口調で言葉を切った。


反論できずに歩みが止まった。


「..わかってんだよっ。」


弱々しく言い放った。

足掻くように、諦めたような口調で、


音のない声がこれ以上、何も言う気はないと感じさせた。


「...ならいい。」


ヒトとはかけ離れた(チカラ)には、ヒトとしての感情など必要なく、 バケモノに成り代わっても仕方のない(チカラ)だった。

だから...例えどれ程、憎しみ嫌ってもあくまで病者(あるじ)は自分の意思を殺しこの(チカラ)を使った。


ほんの一握りのヒトに容易く声をかけることさえ、この(チカラ)はヒトの生き方を代えてゆく。


「.....俺は、あの子に何ができるんだろうな?」


喉に何かが刺すような

言い難い痛みに、ただ言葉にした。


「..あの子にはあの子の時間があった。....あの子の大切な時間や記憶に土足で踏み込む気なの?」


反論はできない。


殺した思いもみえない死さえ彼には重荷だった。


だから...


「違う。......あの子は...」

「...言いたいなら言えばいい。」


.........。


言い訳を積み上げたところで状況が代わることなんてない。


禁忌


彼の(チカラ)が指した意思


だからこそ

触れて欲しくないのに離れてほしくない不安定なチカラだった。


病を使えば、

あの子の命を代えることができた

だけど...... おなじ形のまま残すことはできない。


頭では理解していても

気持ちの整理がつかないでいた。


ただ、


忘れられるはずなどない

聞こえのいい不快な記憶が彼を何より冷静にさせていった。


「あの子の死を代えるつもりはねぇーよ。...ただ、」

「ただ..?.」

「あの子の死には何かが足りねぇーんだ。」

「...ドウイウコト?」

「ヒトにしては、って話。」


二人の間には、死から代わるもう一つの姿と知りすぎた上での慈悲が見えないように通いあっていた。


「...泣きたいの?」

「はぁ?」

「泣いてもいいのに。...

ここにいるのは私だけなんだから。」

「泣くかアホっ。」


たわいも無い不安を消すように樟葉の言葉に彼は、彼の気持ちを素直にぶつける事ができた。


足が動く


少し狭い道に入り

公園が見えなくなった場所に



彼らの家



ー 紬之旅館 ー


趣と古い建造物が

惹きつけ、壊せない、優しい威圧感を感じさせた


二人の足音より先に幼い口調と呆れた声が聞こえてきた。



「だぁかぁらぁー。寝とけつっただろぉーがっ!」

「だって、っ、ねむくならんの。」

「んな事、知るか。......はよぉ寝んこしろっ!」

「んぅー」


......。


「ただいまー、って。何?」


鼻声で少し疲れた火照った顔が近づいてきた、

体が熱くぼーっとしていた。


「くずゅは、しゅーぅ。ゆずゅのが、ねんねていう。」


紬之の次男、楪乃(ゆずの)があきらか困った顔をしてこっちをみていた。


「おかえり。......樟葉、秀、」

「楪乃、どういうこと?.....」


樟葉が聞いたところ...

面倒くさそうに経緯を話し始めた。


「..、迎えいったらぶっ倒れたから先生んとこ連れてったらただの風邪だってさ。」

「で、寝ないのね?」

「ぁあ。...んで、さっきからこの調子。

だから、楪梨(ゆずり)は一人で彼奴らの面倒みてんだよ。」

「大体の事はわかった。...秀、楪乃と一緒に立緋(りつひ)の事お願い。私は旅館と楪梨のヘルプに入るから。」

「了ぉ解。」



PN 5:30


彼は部屋に入り、取り敢えず立緋を横にならせたが..

寝てはくれない。


案の定、楪乃と交代で隣に付いていないと布団に入ろうともしない。


隣に誰かいないと不安なのか敏感になっていた。


立緋が目を閉じたのを見計らって楪乃に声を掛けた。


「..帰りに、後、三日の女の子をみた。」

「......通りで疲れてるわけだ。」

「..嫌気だけがのこんだよ.」

「.....」



楪乃には彼の言葉が何を指すのか分かっていた

だから..彼の言葉に安易に返すことができなかった。



心も

煮え切らない気持ちも

こんがらがって冷静になれずにいた


小さく呼吸している立緋


幼かった

あの子の手は何をしたんだろうか、


視えたモノを視えなかった事にして

避けたとしても所詮、あの子は消えない。


立緋の小さな手が少し汗ばんで時々咳き込む

涙腺が緩んで生温かい水が手に落ちてきた。


平生ではいられない。


知らない死より、

死に触れる事が怖いなんて馬鹿馬鹿しいことだと誰よりわかっていた。


あの子のことが頭の中で消えない


「しゅーぅ。...いたい?」


小さな手が彼の顔に触れた

ふと、我に返った。


楪乃は着替えを取りにいっている。


「大丈夫だよ。..立緋はいたくねぇーの?」

「...いたい。」

「.治っから。寝とけ、な?」


荒い息遣い

熱が上がってきたのか我儘を言うちからも無さそうだった。


...... 歪だった

あの子の姿は


...ことばを(はばか)られるような

人に近く、自然とはほど遠い姿だった。



横になって、暫くして

呼吸も落ち着き寝息が聞こえてきた。


落ち着く、

あんなにぐちゃぐちゃだったのに

あんなに気が重たかったのに


部屋の前に人影が見えた


「楪乃か?......ぁあ、ちょっと俺外でてく...」

「...。」

「.....って、付厳(つきひ)。入んなって!」


泣き顔で頬を赤くした十女、付厳が双子の弟、六男、立緋に抱きついた。


「駄目だろぉーがっ。」

「ヤダっ。りつといっしょにおる。」


立緋から引き離し

抑え込んだ


楪乃の奴、何ちんたらしてんだよっ!


二歳に成り立ての女の子に我儘いうなとは言い難い

言ったところで立緋とかわらないが仕方がない


「来いっ。」

「しゅーぅのいじわる。りつとおるのっ!」


はぁ。


彼は付厳を抱き上げ居間へ連れていくことにした

彼自身、落ち着きはしたが体調は優れていない


泣き声が止んだ


居間に着いたが誰もいない

楪乃の姿もなく入れ違いになった


無理矢理だったこともあり

めをみない付厳に怒鳴った。


拗ねて口をきかなくなったが少しして、


「..なんで?......なんであかんの。」


小さな声が聞こえた

泣き疲れておとなしい。


「立緋は寝ないと治んない。......ねれなくて疲れてたのな、寝れたのに起こしたら可哀想だろ?」

「じゃあ、つきは?....」

「我慢。」

「つきもかわいそうなのに?」

「あのなー。」


多分、不安で仕方がないんだろうな


彼は反抗的な態度をとらなくなった付厳を優しく背中を撫でた。


「....りつはいつなおんの?...」


彼らの母である現、紬之の当主は家を嫌い約束事を破った。


何をしても彼女が紬之の当主であることにはかわらない。


何故なら、彼女程強い潜在能力を持つものが紬之にいなかったことと、生まれながらにして霊力が強く特殊な体質だったことからだった。


家は彼女を離す気などさらさらなく


また、彼女の血を引く彼らにも強い(チカラ)があった。


彼女の恋人、彼らの父親二年前に殺された。


事の成り行きをしった彼女はそれを気に家から距離をおくようになった。


以来、彼女は彼を失う弾きがねとなった立緋と付厳を避け会うことを拒んだ


誰より想っている彼女に付厳は見放され立緋がいないと一人だと強く思うようになった。


「すぐ、治っから..な?」

「....ひとり.、つきはいつまでひとり?」

「んー、(こよみ)だって、陽依(ひより)だっていんだろ?」

「...やだ..りつがいいの。」


年の近い、八女の陽依や九女の暦じゃ駄目なのか?


「...、なら俺は?」

「だっこしてっ。」

「んー。なら、俺は?」

「ぎゅーってしてっ。」

「おいっ、付厳。俺は?」

「しゅーぅだったらいいよ。でも、ぎゅーってして。」

「わぁあったから。もぅ泣くなよ、だだこねんなよ?」


甘えたい相手に無理に甘えたりしなくなったのは、見放されるのが怖いからなのか...


中途半端な甘えはかえって彼女を不安にさせた。


一区切りついて

少しだけ、付厳を連れて部屋にはいった。


「、付厳?...駄目だろ寝てんだからっ。秀もなんとか言えよっ。」

「しゅーぅがちょっとならいいっていった。」

「...はぁ。ちょっとだかんな。」


こうしてると気が紛れた

いつもの何気ないことが俺を普通と思わせてくれた


「いいっ。....りつがなおるまでがまんする。」

「..」

「あそべるようになってからおへやにいく。」

「そっか、....」


こないだまで我慢なんてできなかった癖に

少しづつ感情を抑え込むようになってきた


なぁ


俺はあの子を殺す


付厳や立緋と歳もかわらないあの子を....


嫌、とか

殺したくないなんて


言えない。


時間がおもちゃのように何も知らず動く


「しゅーぅ。....どこいくの?つきも行く!」

「駄目。」

「や。やぁーあ。」


しがみついて離れない。

ったく心配し過ぎなんだよっ...


誰もひとりにしねぇーってのにな。


複雑な歳だからか上がおおいせいなのか...


「楪乃、少し出てくる。しゃーなしこいつも連れてく樟葉に聞かれたら言っといて。」

「ん、ぁあ。どこいくの?」

「散歩。」



PN 7:00


家に居たら、危機感がなくて

焦りがでてきた


だから気分を変えようと外に出てきたんだが...


あの子の影は目にのこったまま.....

痛く胸に残るのは奇妙なあの子の笑顔だった。


考えないようにしていた。

... 手を下すのは誰もない俺なのだから


気がつけば足が止まった。




ギュッ


「付厳?....どうした。」

急に抱きついてきた、裾を強いちからで握り顔を疼くめる。


「あのこ、だれ?」

付厳の視線の先には間違いなくあの子がいた。


近づく彼の手を掴む


「..だめっ。あのこ、しゅーぅにいたいことするからっ。..ちかずいたらだめ!」


二歳と少しの幼な子は彼に言った。


いくな.


と、


荒い息遣いで、


彼は足を止めた

付厳の隣にしゃがみ込み背中をさすった。


「わかった。行かねぇーよっ.......んじゃ帰っか?」

「ぅん。...」


何もしなければあの子は何もしないと分かっていた

話をしたいが、ここには付厳がいた。



レナに近づけば(チカラ)は強く反応し

病者に関係なく、(チカラ)はレナの血に執着する。



彼女の(チカラ)


支配を意味し予知に近く相手を利用しかねない

一時間後の他人を(ほど)(チカラ)は、

通りを外れることなんてありえない。


彼はだから付厳の言葉に耳を傾けた。


レナは生きてはいない。


あの子の時間、

あの子の感情がたとえ心にあったとしても


比例しながら壊されていくのなら...


まがいものに近い人形が人に寄り付く


バケモノに成り代わる前に...


あの子をヒトのまま殺してあげたい。



「しゅーぅ。」

「ん?..もうちょっとで家だろーがっ、抱っこしねぇーよ?」

「ちがう.......おしっこっ。」

「は?...ったく、もっとはよ言ぃや。」


家からここまで距離もなく走ることにしたんだが....

間に合わなかった。


ま、おむつとったばっかだしな


「しゅーぅ。...ごめん。」

「しゃーねぇーだろ?...ほら、トイレついっててやるから残りも出しちまえ。」


客が出入りする為、表から入れなかった。

ま、そんで裏口から入る間際のところで漏らしたため後始末が面倒なことになった。


服はびちょびちょ、着替えるしかねぇーな


「..ごめん。」

「気にすんな。....んじゃ、着替えっかっ。」


あの子は、

あの子の近くにいた人は、あの子に何を思ったのだろうか。


「あーー!秀君、服どうしたの?....びっしょびしょっだ。」


部屋で着替えている所に樟葉の代わりで休憩に入った次女、楪梨(ゆずり)がつっかかってきた。


「お前、いちいち面倒くさいから絡むな。」

「秀君、機嫌悪いね。なんかあったんだ。」

「しゅーぅ。ごめん。」

「違うよ、秀君が機嫌悪いのはつきの所為じゃないよっ。だって怒ってたら抱っこなんてしてくれないよー。」


同じ双子でも、小さい時から楪乃の楪梨は違っていた。


あんま似てないなんて言えねぇーけどな


「んで、..お前、あいつらは?」

()ノが帰ってきたから、休憩中。」


にしても、部屋で寝る余裕がないな。


「秀君、言い忘れてたけど陽依(ひより)が怒ってたよ?」


忘れてた...


寝る余裕どころか休む余裕もない。


約束を忘れて散歩にいってたなんて言えねぇーし、 部屋にいって謝まっか。


「どこいた?」

「..陽依の部屋、....泣かすなよー。」


彼の二つ隣の部屋


付厳を抱き上げたまま、襖を開けた。


ーガッシャンー


足下に転がってきたのは色鉛筆だった。

何があったのか分からないまま声を掛けてみると...


「しゅう、きらい…...こんとって。」

「投げんなっ。危ないだろぉーがっ。」


怒っていた。


「悪かったって、...ごめんな。」

「いいっ。...しゅうはひよりのこときらいだからっ。」

「は?んなことねぇーよっ」

「じゃあなんで、ひよりとじゃなくて、つきひとこうえんいったの?」


なんで、


「ゆずのがいってた。....うそつき。」


あいつ余計なことを

ってかなんで散歩でどこいくかわかんだよっ。


「悪かった。....っ、てだから投げんな!」


付厳に色鉛筆があたりかけた事と彼自身が虫の居所が悪く


声が荒がった。


「ぅ..ぁ。ぁあーーーーあ。あーーー。」

「ごめんなっ。....」

「いゃ、しゅうなんてだいっきらい。」


部屋から出て行った陽依を捕まえる余裕がなく

散らばった色鉛筆を片付けることにした。


母親は年に二、三、家に帰ってくるかこないかの状況で、甘えたいのに甘えられないのは陽依も同じだ。


家の仕事、学校、なんやかんやで結局、放ったらかしになっちまう


悪いと思っていても時間がなかった。


「おきろ。」

「ぅーう。」

「夜、寝れなくなるだろ?...ほらっ。」


陽依が投げた色鉛筆を片付け、気がつけば重たい。

寝息が聞こえ、付厳を起こした。


赤、青、黄。


混ざることのない鮮やかな色、

ただ、一つ一つの色が名を持って、其れは人間と変わらないのかもしれない。


だけど...あの子、

レナには名がない。


あったのは、生きていた日の名だけだった。


あの子がヒトで無くなるまで時間はなく、気持ちを踏みにじっても答えを出さなければならない。


「しゅーぅ?」

「ん?....」

「なんでなくの?」

「え?...」


気持ちってのはそう簡単に抑えられはしない

濡れた頬に痛みが走った






PN 7:30


夕食の時間になって居間にいくと...


「楪梨はなんでいつもこーなの?」

「いま、なんて言った?」

「聞こえなかった?」

「ああーもぉ、むかつくつ。」

「俺もだよ?」


こっちはこっちで面倒な事になっていた


二人の喧嘩は放っておいて、気にせずに席についた


「しゅう.....これたべて」


暦がサラダに入っているトマトを口に近づけた


「駄目。...ん、...陽依は?」

「秀君が泣かせて拗ねて夕飯いらないんだって。」


喧嘩しながら嫌味らしく返事すんなっての


()()、ここにいない三つ子と双子と栞菜(かんな)は?」

「..栞菜(かんな)は剣道部の合宿。...あとは子供会の桜祭りだと思う」

「通りで誰もいねぇーのな。....」








































































































































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