【2】
ふたりの通う神坐高校は町外れの山の中腹に建てられていた。
自転車は街中を抜けると、山の麓の公園の脇を抜け、やがて高校前にある通称『心臓破りの坂』に差しかかっていた。
さすがに二人乗りはきつい。公太郎は黙って立ちこぎで運転に集中する。遅刻ぎりぎりなので、坂道を駆け足で登っていく生徒たちが二人乗りで必死にペダルを踏み続けている公太郎とその荷台で平然としている真澄を横目で見て、うらやましそうな、また、憐れむような視線を公太郎に浴びせかけながら追い抜いていく。
(え? 追い抜いて?)
公太郎はそこで自転車を止めた。
「あれ? どうしたの、公太郎?」
「おまえ、周りを見て思わないか? 駆け足の奴らが追い抜いていくぞ。自転車にふんぞり返っているよりも自分の足で歩いた方が効率的だと思わないか?」
「うん。そうだね。公太郎がいつ気がつくかと思って試しに黙ってみたんだ」
しれっとした様子でそう云って、真澄は自転車を下りスカートの裾を直した。
「そんなこと、試してるのか、おまえは?」
「ごめんね。好奇心に負けちゃったんだよ」
「その好奇心は別の局面で使ってほしいな」
「そうだね。肝に銘じておくよ。じゃ、歩いていこうか。ここまで乗せてくれたお礼に、カバン、持ってあげる」
「え? ああ、大丈夫だよ」
自転車のかごに乗せていたカバンをとろうとした真澄を公太郎は慌てて制する。
「はは~ん」
真澄は、なるほど、と云うように頷いて見せた。
「公太郎、また、つれてきてるんだね?」
「え? つれてきてる、って何を?」
「しらばっくれてもダメだよ。コジローが入ってるんでしょ? 本当に仲良しだね。と、云うか、学校なんかにつれてきたら、コジローにストレスが溜まっちゃうんじゃないのかな?」
どうやらコジロー連れであることはお見通しのようであった。そのあたり幼馴染と云うのは行動パターンをしっかり把握されているのでやりにくいものである。
「バラすなよ」
「バラす? 私はそんな猟奇殺人者みたいなことはしないよ」
「いや、殺す方のバラすじゃない。何を物騒なことを云いだすんだ? 秘密にしとけってことだよ!」
「わかってるよ。いつものことだし。では口止め料として、かみくらデラックスミルク500ミリパックで手を打とう」
真澄が学食で人気のご当地牛乳の提供を指定してきた。
「脅迫かよ。ある意味、猟奇殺人者より性質が悪いかも知れない」
「人聞きが悪いなあ。これでも、次期『ミス神坐高校』の有力候補、と云われてるんだから、変な噂、立てないでね」
「我が校にそんなシステムはない」
「ん? そうだっけ?」
そんな話をしているうちに二人は、ようやく小高い山の上にある神坐高校の校門の前までやって来た。
そこに一台の車が停まっていた。真っ黄色のVWビートル――。