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【1】

「自転車に便乗させてくれるよね?」


 月雲家の大きな時代がかった門をくぐったところで、真澄が公太郎の顔を覗き込む。真澄の方がかなり背が高いので、屈みこんでいる感じになり公太郎は少しだけ傷ついた。

 しかし真澄はそんなことは気にもしていないのか、返事も聞かずにさっさと慣れた様子で公太郎の自転車の後部座席、と云うか、荷台に座った。徒歩通学をしている真澄は中学時代からよく公太郎の自転車に便乗していたが、それは高校生になっても継続するつもりらしい。


「ちゃんとつかまってろよ」


 真澄が荷台に座ったのを確認すると、公太郎は自転車を漕ぎ出した。普通ならば二人の通う神坐(かみくら)高校までは自転車で十五分。二人乗りならばプラス五分と云うところだろうか。


「うん、よろしくね、ハム太郎」

「……『ハム太郎』じゃなく『公太郎』だ。『公』を『ハ』と『ム』に分けるな」

「でも、昔、自分で名前をそう書いてたじゃない?」

「幼稚園か小一くらいの頃の話だろうが! まだ漢字のバランスがとれなかっただけだ。あれはちゃんと漢字のつもりで書いていたんだ」

「あれあれ? ジョークのつもりだったのに意外と気にしているんだ?」

「気にしてないよ!」


 後ろで真澄がくすくすと笑っているのがわかった。


(それにしても、だんだんやりにくくなるなぁ、こいつ。昔はいつもぼくの後について来るだけの子分みたいだったのに、立場が逆転しつつあるような気がする)

(それに最近、妙に大人びて来て綺麗になって来たし、背もまだ伸びているみたいだし)


「なあ、真澄」と、公太郎が肩越しに声をかける。

「ん? 何かな?」

「おまえ、また大きくなったみたいだな」

「え? お、大きく? って、公太郎のエッチ。いつ見たのよ? 隠れて見るのはよくないよ。ちゃんと『見せて』って云えば見せてあげるから」

「は?」

「……確かにクリスマスに買ったブラがもうきつくなっちゃったんだよね。でもまだ由布子さんほどじゃないよ。……で、どこで見たの? 学校の女子更衣室?」

「いや、誰が胸の話をしてるよ? 背だよ。背の高さ!」


(こいつ、ぼくにノゾキ疑惑を持っていたのか?)


「え? あ、そうか。やだなぁ。公太郎にはめられた。ひどいよ、公太郎。ハム太郎って云った仕返し?」

「違う。おまえが勝手に勘違いしたんだろ!」

「あは。そうか。やだなあ、見せてあげる、とか云っちゃったよ」

 あははは、と、笑う真澄。


「で、背の話だっけ? ん~と、ちょっと伸びたかな?」

「うらやましいことで」と、公太郎は本音を漏らす。

「そんなことない。大丈夫だよ。男の子は五十歳くらいまで背が伸びるって云うから」

「云わね~よ。いい加減なこと云ってるんじゃない。それに五十歳は男の『子』とは呼ばないぞ」 

「あれ? そうか。うん。ちょっと勘違いしたかな」

「しないだろ、そんな勘違い」

 再び、あははは、と、背後で真澄の笑い声が聞こえて、公太郎はため息を洩らした。


 昔は公太郎がボス、真澄が子分と云う立ち位置だったが、真澄のマイペースっぷりを見る限りやはり彼我の立場は逆転しているようである。そう云えば自転車の二人乗りをしている時点で、もはや公太郎は真澄の運転手扱いであることに改めて気づいた。

「ところでさ、もう少し急がないと遅刻しちゃうよ」

 女主人が客観的に事務的に告げた。


「おまえが無駄話するから、自転車に集中できないんだよ」

「あれ、人のせいにするかな~」


 彼女は楽しそうに、くすくすと笑った。




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