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ジョゼシリーズ

星のジョゼ

作者: バオール
掲載日:2014/09/05

本当は連載で書きたかったけど、どうせエタルので短編にしました。

 汚れた路地が私の家です。

 寝て、起きて、ご飯を探して、路地の空を仰いだ。

 雲は白く、空は青く、夕焼けは赤く、夜は黒くて眠くなる。

「夜は優しい……」

 年齢の割りに体が小さいのが悩みだったけど、そのお陰で奴隷商人の手から逃げることができました。

 強面の男の人が街から姿を消してから数日が経ちました。

 私は自由になりましたが、自由はとても心許無くフワフワとした日々が続きました。


 異教徒の大聖堂から鐘の音が鳴り響くと、私の朝が始まる。

「陽がまた昇ってきた……」

 またご飯を探さなければいけない。

 路地を抜けて、陽が降りそそぐ広場にでました。

 朝食を摂る冒険者たちが今日の作戦を話している。

 私は巻頭衣で顔の汚れを拭いて、煉瓦の壁に背をつけて物欲しそうに見つめた。

 冒険者の一人が気付いて目線を反らした。

 負けられない闘いが其処にはあります……。


 五分後、負けました……。


 冒険者は私を無視して行ってしまいました。

 だが、私は負けません。

 いつまでのこの地位に甘んじるほど暇ではありません。


 私は今日から働くのです。

 そうです。

 お金が無くてご飯が食べられないなら、お金を稼げばいいのです。


 職業安定所ハローワークの扉を開くと、休憩時間中のようで珈琲を片手に談笑していた。

「お仕事をください!」

 私は受付机カウンターデスクの人に話しかけた。

 無反応。

 残念なことに受付机の背が高いので、私の姿は全く見えなかったようだ。

 私は待合室の椅子を抱えて、受付机の前に置いて、椅子に上って挨拶をした。

「おはようございます! 挨拶が忘れていました」

 受付の女の人はくすくすと笑って、私の顔をじっくりと見た。

「元気な子ね……仕事を探しているの?」

「はいっ! 明日食べるためのお金もありません。私は悲惨なのです」

「そうね……ここに来る人には少なからずそういう人が多いわ。……いくつか質問をするから答えてね」

「はいっ! 何でもしてください。おねえさん!」

「本当に元気ねぇ……でも、私はおねえさんって年齢じゃないからおばさんでいいわよ」

 珍しいことを言う人です。

「はい、おばさん。よろしくお願いします」

「まず、これから色々あると思うから連絡先を聞きたいんだけど」

 これは困りました。

 路上生活者にとってそんな手段はあるはずがありません。

「ま、毎日この時間帯に伺います……」

「そう……じゃあ、名前、生年月日、住所を教えて」

「ジョゼ・スターリング(Josephe・Sterling)です。磨羯宮まかつきゅうの産まれです。住所はですね。大聖堂近くの、珈琲店の路地裏の、倉庫の屋上です」

 おばさんがちらりと私を見て、少々唸った。

「スターリングか……東国の住人(イースターリング)、保障された品質……と言う事ね。家系は商人なの?」

「そ、そうです。凄いです! 名前聞いただけで分かるんですね」

「まあ、仕事だからね。そうなると、商人の奉公をしたいのかしら?」

「いえ……それが迷っていまして……数字には自信がありますが、異国ですので文字が読めなくて……」

「特別にしたい仕事も無い?」

「ええ、まあ……」

「自分探しはくだらないけど、正しい資質を見出すのは大事なことよ」

 おばさんは受付から出てきて、私の全身をじっくりと見つめた。

「は、恥ずかしいです」

「肌の色も良いわね。小麦色の肌ね」

「元からです」

「ちょうどいい仕事があるわ。逆に適した人が見つからなくて困っていたのよ。簡単な仕事だし、楽しいと思うわよ」


 次の日の朝。

 私はドキドキして通りで待っていると、私と同じ東国生まれの男の人がいました。

「おはようございますっ!」

 ぺこりと頭を下げると、男の人は笑った。

「おはよう。君はジョゼだね。俺はアルス・アンバー(Alsu・Umber)」

「はい! よろしくお願いします」

「俺は今日で終わりだから一日しか一緒にいられないけどね……」

「そうなんですか、せっかく一緒に仕事できるのに残念です」

「まあ、同郷同士だ。この街にいればいつでも会えるさ」


 男の人が私の手を繋いで、通りを歩いていき、辿り着いた先は大きな家だった。

「わあっ、大きな家ですね」

「家じゃないよ。劇場だよ」

「もしかして仕事内容を聞いていない?」

「はい……行けば分かるって言われたので」

「まあ、分かるか……」


 劇場の中は大理石の美しい紋様で眼を奪われた。朝焼け色の絨毯を踏みしめて歩くと、経年変化して黒くなった柾目の扉が出迎えてくれた。扉を開くと劇場の席だった。

「わあっ! 凄い」

 その声が響いて、私の体を揺らした。

「わあっ!」

 声が私の体を再び揺らした。

 男の人が同じようにワッと声を出した。

「何回も来ているから、その驚きを忘れてしまったな」

 パチパチと拍手が聞こえてきて、明朗な女の人の声がした。

「良い声ね。残念なのは肌が小麦色ってことかしら、この国だと白が主流だから役が限定されちゃうのよね」女の人は客席にいて立ち上がると、背中がぱっくりと割れた夜の帳色のドレスを着ていて、無駄が省かれた姿をしていた。年齢を感じさせない容姿だが、洗練された動きは指先まで神経を通しており別の世界の人に見えた。

「サラ・ファン・ハルト(Sarah・van・Hard)よ。お嬢さんのお名前は?」

「ジョゼ・スターリングです。よろしくお願いします。おねえさん!」

「私はおねえさんって程の年齢じゃないわね。せいぜいおばあちゃんよ」

 お、おばあちゃん……?

「サラはこう見えて還暦だ」

 サラはにこっと笑い私の頭を撫でてきた。手の肌は滑々で私の手より綺麗だった。

「女優だからね。美しくなければ生きている意味が無いのよ」


 私の仕事は着せ替え人形だった。

 主演であり脚本と演出に初挑戦のサラが試したかったのは、異国情緒を取り入れることだった。東国の戦士にはアルス、東国の少女召使に私……の服の色合わせをする仕事だった。

「服を着る前に、お風呂ね」

 私は真っ裸になってお風呂の扉をあけた。

 白い浴槽が宝石のように輝き、床はタイルを敷き詰められて固く、金属の突起があった。

「ねえねえ、アルス!」

 私は扉を開いて珈琲に砂糖を入れて鎧を着させてもらっているアルスを呼んだ。

「女の子がはしたない。真っ裸で外まで出てくるな」

 アルスは眉をしかめて、珈琲をおいしそうに飲んだ。

「どうやって体洗うの?」


 円形の金属を掴むと捻って、棒の先から水が出てきた。しばらくするとお湯になり、桶にお湯をたっぷりと溜めてくれた。

 白い塊を掌に擦りつけて、お湯で泡立てて、私の鼻にくっ付けた。

石鹸せっけんだ。体に擦りつけて、泡立てて、洗い流すんだ」

「凄いなぁ。これでお金がもらえるんだから最高だよ」

 私は全身を綺麗に洗い流すと、肌が自然に滑々になった気がした。


 楽な仕事だと思ったけど、サラの要求は細かかった。

 靴を変えたり、髪型を変えたり、小さな小物を付け足したり、あるいは大胆に服を切ったりした。

「どうもね……全部可愛いけどね」

「あの……」私が手をあげると、サラが指を差した。

「はい、ジョゼちゃん」

「この役柄から考えると、召使になってすぐなので誰かから貰った古着のサイズを直して着ていると思います。なので服が綺麗過ぎると思うんです」

 サラは唸って、天井を見上げて、視線を私に向けた。

「古着は良い考えね。ジョゼちゃん……もう少し付き合ってもらえる」

「はいっ!」

 その日は夜まで劇場で服合わせを行なった。


 服合わせは合計三日かかったけど、食事はサラが出してくれたので、最終日の給料払いでも十分だった。

「わあっ……ありがとうございます」

 銀貨百枚の袋を手渡された。

「お礼を言うのはこちらよ。ジョゼちゃん、劇が開演になった是非とも来て欲しいわ」

「演劇は難しいから観ても分かるかどうか分かりませんが」

「何を言っているの。ただの物語よ。面白いものは誰にだって通じるわ」

 サラは頭を撫でてきて、ドンドン激しくなってきた。

「可愛いなぁ。食うのに困ったら私のところへ来なさい。いつでも歓迎するわ」

「はい、ただもう少し自分で頑張ってみます」

 私がお辞儀をすると、サラは手を振ってくれた。


 職業安定所のおばさんに御礼を言いにいった。

「次の仕事をください!」

「あら……最初の仕事はどうだった?」

「面白かったです。色々服を着させてもらいまして」

「楽しそうで良かったわね」

 受付机に影が差して、私の頭に手が乗せられた。

「ジョゼ、仕事探しか?」

 アルスが楽しそうに笑って、受付のおばさんに挨拶をした。

「アルスも?」

「そうだ。明日食う金が無いんだ」

 受付のおばさんは受付依頼を確認してから言った。

「二人ともどんな仕事がやってみたい?」

 アルスと私の声は同調した。

「楽な仕事!」

 思わず笑ってしまった。

スローライフな感じにしました。気が向いたら連作短編にします。

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