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ぎんりん21

 名古木の交差点で赤信号になった為停車するあおい。

 そうだ、さっきのコンビニで何か食べ物でも買おう

 右折車両がないことを確認してUターン。

 多少太ももに負担を感じたが難なくコンビニエンスストアに到着する。

 みのりのアドバイスのとおり薄皮アンパンと缶コーヒーを購入し店外に出る。

「ちょっと、アンタ」

 目の前に自分と同じくらいの年齢の少女が剣呑な目つきで話しかけてきた。

 白を基調とした素っ気無いサイクリングジャージとボブのヘアスタイルがスポーティな印象を与える。

 面識のない人間に声をかけられるだけで緊張するあおいは更にその声色で体がこわばるのを感じた。

「下りでスピード出しすぎ。最近ヤビツで事故が多いのを知らないの?」

 もちろん、ヤビツに来て二回目のあおいにとっては初耳だったが、スピードの出しすぎという自覚はあった。

 謝罪の言葉を口にしようとしたが、威圧的な態度に気おされて口ごもってしまう。

「まったく、いい迷惑だわ」

 目の前の少女はきびす返すと店舗の傍らに停めてあったロードバイクに跨ると、名古木交差点方面に下って行ってしまった。 

 それは、どことなくあおいの1885と印象が似ているロードバイクだった。

 先ほどの高揚した気分はすっかり消え失せ、罪悪感で心が満たされる。

 店先のスペースに腰を下ろすと義務的にアンパンを口に運び、コーヒーで流し込む。

 コーヒーの味が妙に苦く感じた。

 次の日。

 昨日の出来事でどことなく気分が晴れないまま、日曜日ということもありベッドに横たわっていると、みのりからメールが来た。

 “ちょっと話したいことがあるんだけど、ぎんりん亭までいいかな?”

 なんだろう?いつもと雰囲気が違うメールが気になったあおいはすぐさま向う旨の返事を送った。

 さて、格好をどうしようか?

 自宅からぎんりん亭は大した距離ではない。

 いつものTシャツとハーフパンツという組み合わせも悪くないけれど、ちょっとおしゃれな格好で乗りたいな。

 黒色のスキニーパンツと気に入っている7部袖の白色カットソーの組み合わせに決めた。

 もちろん、ヘルメットは着用していた。

 母親に声をかけてぎんりん亭に向った。

 国道134号線をロードバイクで走る。

 海風は気持ちよく、天気は快晴だった。

 そうだ、お昼ご飯はぎんりん亭で食べよう。

 目的地に着くと、いつものロードバイク用のスタンドにあおいのオルトレと見慣れない黒いロードバイクが駐輪してあった。

 あおいの胸がザワつく。

 あれ、この自転車どこかで見たような。

 それは、キャノンディールCAAD9と呼ばれるアメリカ製のアルミフレームのロードバイクであり、レースでも実績のあるバイクだった。

 まあ、いいか

 彼女は1885をスタンドに駐輪すると店内に入った。

 簡素な店内とスムースなジャズの音色。

 マスタの愛想のない「いらっしゃい」の言葉。

 あおいにとってそれは、少しづつ居心地のいいものに変わっていった。

 店内を見回すと日当たりのいい窓際のボックスシートにみのりが座っていた。

 あおいに気づいたみのりは、笑顔で手を振った。

 彼女もそれに気づき、その席に近づく。

 その時、あおいははみのりの対面にもう一人の人物が座っていることに気づかなかった。

 ボックスシートに近づき、みのりに話しかけようとしたあおいは、もう一人の人物が座っていることに気づいた。

 ボブカットのあおいと同年代くらいの少女。

 それは、昨日、彼女の速度超過を問い詰めた人物に間違いなかった。

「まなみちゃん、紹介するね。あなたと同じ貴重な女子高生ロード乗りのあおいちゃんだよ」

 みのりの言葉に少女があおいを見上げる。 

 あおいは体が硬直するのを感じた。

 まなみと呼ばれた少女の表情が一瞬で険しい表情に変わる。

 なんてことなの。

 あおいは許されるならば天を仰ぎたい気分だった。

「みのりさん、さっきのお話ですけどこんな人が居るクラブには入れません」

 まなみの言葉に驚くみのり。

「え?どうしたの、いきなり」

 その時のあおいの気分は、自分の罪を告発される犯罪者の気分だった。

 更に最悪なのは、その罪がまぎれもなく事実であるということだった。

 まなみはジロリとあおいを睨むと、立ち去ろうとした。

「ちょっと、あおいちゃんどいうこと?」

 困惑の表情を浮かべるみのり。

 しかし、あおいは自分がヤビツ峠の下りで速度を出しすぎてまなみに注意されたことを自ら言う勇気はなかった。

 口ごもるあおい。

「なあ、お嬢さん、喫茶店で注文したコーヒーも飲まずに席を立つなんてそれはちょっと無いんじゃないか?」

 あおいの背後からマスタの声が聞こえた。

 彼女が振り返ると、お盆にコーヒーカップを載せたマスタが立っていた。

 まなみは思わず浮かせた腰を再びボックスシートにもどした。

「このバカはロードバイクを始めたばかりでな。お前さんも初心者の頃はけっこう無茶した記憶はあるだろ?」

「それは、まあ・・・」

 テーブルに視線を落として答えるまなみ。

「まあ、勘弁してやれよ」

 あおいはマスタの以外な言葉に驚愕した。

 だが、そのショックも長くは続かない。

「この前、公道で全力で走るのは止めろって言ったよな?」

 リーゼントのマスタに睨まれ思わず背筋を伸ばすあおい。

「す、すみません・・・でした」

 あおいはうなだれるしかなかった。

 

 

 

 

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