ぎんりん2
2 出会い2
本を読んでいると、手持ち無沙汰な休み時間も間がもつ。
そのことに気づいた石橋あおいは、登校する際に必ず文庫部本を学生カバンに常備しておくとをが習慣となった。
彼女の学級内における評価は、女子にしては背が高いが、大人しい、目立たない、物静かなタイプ、というものであった。
そこに本という小道具を加えることで、休み時間などに余計に話しかけられる機会が減ることになる。
彼女は決して孤独を愛している訳ではなかったが、同年代の女子生徒たちの話題にあまり興味がもてなかった。
同級生の話題は恋愛、ファッション、テレビ番組の感想が大半であり、しかもその内容を真剣に議論する訳でもなく愛想笑いを浮かべ、相槌することで会話が成り立っていた。
勿論、学生にとって最大の恐怖である仲間内のイジメの目標にならない為の対策も忘れなかった。
常に愛想よく、そして返答は曖昧に。
休み時間は、いきなり本を開くことなく、女子グループの中心メンバーと会話を合わせ、少しづつフェードアウトし、自分のプライベートな時間を侵害しない程度の頼みごとは快く引き受ける。
そうすることによって、彼女は学級内の片隅に居場所を確保していた。
しかし、文庫本を買う費用という問題が発生した。
時間潰しが目的であったから、本こだわりは特にない。
けれど、アルバイトが校則で禁止されている高校生にとって、2日に一回文庫本を買うのはかなりの経済的負担であった。
彼女は通学路の途中である国道沿いに古本チェーン店があることを思い出し、そこに立ち寄ることにした。
そこは、母親が運転する車で何回か通ったことがあり、本の他に衣料やスポーツ用品が売っていることは知識としては知っていた。
あおいは、店内に入るとまっすぐと書籍コーナーに向かい、読みやすいと評判の作者の文庫本と、現代国語の授業で興味を持った作者の文庫本を一冊づつ買い求めた。
店内の時計を見ると、夕食の支度にはまだ少し時間があったので店内を見て回ることにした。
古着コーナーで気に入ったデザインの服を見つけては値札を見てあきらめ、自分専用にパソコンがあったらどんなにいいだろう、と思いながら家電コーナーを見て歩いていた。
店内をほぼ一周し、あまり興味の無いスポーツ用品売り場を通り過ぎようとしたとき、1台の自転車に目を奪われた。
チェレステブルーと呼ばれる独特な青色で塗装されたホリゾンタルフレーム、700×23cのタイヤが装着された扁平スポークのクリンチャーホイール、ドロップハンドル、薄いサドル。
それは紛れもなくロードバイクと呼ばれる、人力で舗装路を最速で走るための最適解であった。
そこには極限まで無駄をそぎ落とした、レーシングマシンやある種の兵器と共通した攻撃的とさえ言える美しさがあった。
彼女はその美しさに衝撃を受けた。
それは、教室の片隅で目立たないことを願いながら毎日を過ごす女子高生の生活には存在しない物だった。
これが欲しい。