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ぎんりん18

 今日の夕食はハンバーグと野菜サラダだった。

 あおいが作るハンバーグは粗挽きの挽肉と普通の挽肉、よく炒めた千切りの玉ねぎ、そして塩だけを加えたシンプルなものだった。

 このレシピで作ったハンバーグは豊かな肉汁を湛えたひどく旨いものだった。

 あおいの母親は夕食を当番制にした時から彼女の料理について不満を漏らしたことは皆無だったが、ハンバーグが食卓に並ぶと決まってビールを飲む。

 それは、母親が上機嫌である証拠だった。

「なんかさ、あおい最近変わったよね」

 あおいと母親のルールその1

 家族で食事をしているときは、テレビをつけない。

「え?そんなことないよ」

 母親の正面から見据える視線に、あおいは視線を思わずハンバーグに落とした。

「好きな人、できた?」

 一瞬、幸太の顔が浮かぶが、あおいはそれを内心で全力で否定する。

 あんな無神経な奴・・・

「そ、そんなことあるわけないじゃない」

 母親が表情を崩す。

「なんだあ、我が娘もやっと人生に春が来たと思ったんだけどなあ」

 あおいと母親のルールその2

 家族と居るときは携帯電話を使わない。

 この時ほどスマートフォンが恋しいことはない。

 会話が気まずくなっても取りあえずスマートフォンを眺めれば間がもつ。

「でも、夢中になれることができたんだね」

 驚くあおい。

「え?なんでわかるの?」

 母親は右側の口角を上げた。

「あのねえ、あんなの母親何年やってると思ってるの?」

 この人には勝てないなあ。

「ロードバイクかな」

「この前買った高い自転車のこと?」

 うん、確かに高かったよね。

「そういえば、みのりって女の子っぽいモノがあんまり好きじゃなかったよね」

 小さい頃は人形、オママゴトセット、今はブランド品のバッグ、財布、流行の服や靴。

「そうだったっけ」

 親戚の叔父さんからディズニーキャラクターのぬいぐるみを貰った時は精一杯喜ぶフリをした。

 ファッション雑誌を読んでため息をつく級友に同意するフリもした。

「なにが魅力なの?」

 彼女の母親は率直な話し方をする。

 特に娘に対しては。

「シンプル、だからかな」

「シンプル?」

 力強く頷くあおい。

「目の前に克服しなきゃいけない条件があるんだけど、その問題を解決する方法はとってもシンプルなの」

「例えばどんな風に?」

「自転車って自分の限界が全てでしょ?」

 学生時代、ママチャリで上り坂に苦労した光景が目に浮かんだ。

「急な坂、まっすぐな道、そこをどうやって速く走れるか」

 ヤビツ峠、湘南平、国道134号線。

「その答えが全部自分の中にあることかな」

「うん、やっぱりあなた変わったわ。それから少し痩せた?」

 思わずカットソーの上から腹部を触るあおい。

「そ、そうかな」

 確かに彼女の体重は急速に落ちていた。

 食事を終え、自室に戻ったあおいは携帯電話に新着のメッセージを発見する。

 普段なら気だるい雰囲気でメッセージを開封するが、発信元がみのりだとわかって慌てて開封する

“土曜日のヤビツ行きのことなんだけど、急に仕事が入っちゃったゴメンね”

 妙なテンションの絵文字交じりのメッセージだった。

 思わず仰向けにベッドに倒れこむあおい。

 なんだ、楽しみにしてたのになあ

 それにしても、みのりさんてどんな仕事をしているのだろう?








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