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出会い

1 出会い

 石橋あおいは、親からしてみるとひどく手のかからない娘だった。

 母子家庭のため分担している家事を嫌な顔せずにこなし、高校には休まず通い、成績も飛びぬけて優秀とまでは言えないまでも、それなりの順位だった。悪い友達とつるむこともない。

 母親は、そんな娘に対してどことなく物足りなさを感じていたが、周囲の同僚からは贅沢な悩みだと笑われた。

 そんな娘がある日、夕食の席で母親に対して自転車が欲しいと言い出した。

 あおいが乗っている自転車は中学校時代に買い与えた軽快車、いわゆるママチャリであり、高校1年生になって身長が165センチになったことから、サイズが合わなくなったのだろうと思った。

 あおいは、書籍代や学校の行事以外で母親に金銭を求めてくることは稀だった。

 言いにくそうにしているあおいを見て、娘にしては珍しいと母親は不思議に思った。

「10万円」

 母親は金額を思わず聞き返した。

 彼女はそれなりの組織の管理職であったから、その程度の金額を出すことは充分可能であったが、自転車とはホームセンターで販売されている2万円程度の物、というのが彼女の認識だった。

 母親は理由を尋ねた。なぜ、自転車がそんな値段するのか。

 あおいはいつも自分が通っている、古本屋兼リサイクルショップの店舗に置かれているロードバイクが一目見て欲しくなったと伝えた。

 ロードバイク?母親は前にニュースの動画で見たヨーロッパの自転車レースを思い浮かべた。

 目の前の娘は半ばあきらめているようだった。

 どうなのだろう。バッグや服ならわかるが、ロードバイクとは。

 しかし、母親は娘が中学校時代に続けていた陸上競技を止め、家に居る時間が長くなっていること

に気づいていた。

 目の前に置かれたミノストローネスープとサラダに目を落す。これもあおいが作った食事だった。

 気分転換にでもなればいいか。あおいの貴重な我儘につきあってあげよう。

 母親は絶対に危ないことはしない約束なら、と答えるとテーブルを立ち、自室の机の引き出しから急な出費のために現金封筒と取り出し、10万円を数える。その時、ふとヘルメットも被らせようと思い立ち、1万円追加した。

 不安そうに食卓に座っていた娘の前に11万円を差し出した。

 あおいは喜色満面、とまではいかなかったが、白い頬がかすかに上気して赤く染まっていた。

 感情表現があまり上手くない彼女にしては最上の喜びを表しているといってもよい。

「ありがとう」

 最近、あまり聞かなかった大きな声だった。

 母親は但し、と条件をつけた。

 必ずヘルメットを被って乗ること、と



 

 

 

 

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