No.8 ×臭のする森
どうも鬼無里です。
投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。
作者の勝手な予定によってご迷惑をおかけしたことをここにお詫び申し上げます。
かなり説明が多い回なので適当に読みばすことをおすすめします。
【ラドン森林】は大きく三つのエリアに分けられている。
一つ目は、入口と呼ばれるエリアで【ラドン森林】の最も南に位置しており、魔物の数が少なく、またそのランクも低いものしか存在していない。そのため、初心者冒険者や近くにある【ドルガーノ】の村人も入口エリアに入って薬草などを採取することが多い。
ただ定期的に魔物の数がいきなり増えりことがあるのでギルドの方で中ランクの冒険者パーティに向けて討伐系の依頼を出すことが多々あったりする。
要約すれば、危険度がかなり低く森の浅いエリア。それが入口である。
二つ目は、中帯。【ラドン森林】の中央辺りに位置するエリアで、三つのエリアの中で一番面積が広い。入口のエリアよりも木々が多く生えており、森がより深い。それだけに果実や好みを食べる小動物、さらにそれを狙う小型~中型の魔物が多く群れている。入口に現れる主だった魔物たちはそのほとんどがこの中帯に巣などの拠点を作っており、追い出されてしまった魔物が入口エリアに出現しているらしい。
繁殖期の少し前になると縄張り争いが激しくなって多くの魔物が追い出されて入口へと逃げていく。
――又は奥地に入り込んでしまって捕食される。
入口エリアでいきなり魔物の数が増えるのはその魔物たちが中帯で縄張り争いに負けて逃げ込んでくるからだといわれている。
三つ目である最後のエリアは、奥地。【ラドン森林】の最北端であり、この奥地を抜けると川幅500m以上はある大河【涙大川】に出るらしい。“らしい”というのは、実際に奥地を抜けた者が唯の一人としていないからだ。逆に【涙大川】から【ラドン森林】に行くルートも然り。それだけじゃなく、森を抜けるどころか奥地に一度は行って帰ってきた奴は一人もいないらしい。屍どころか骨の一つすら戻ってきてはいない。
公式に冒険者ギルドの方で調査のためにBランク以上の実力者で調査隊を組んで奥地へと向かわせたことがあったようだが、しかし、その調査隊の冒険者は全員が消息不明となり、一人として帰ってきた者はいなかったそうだ。後日、奥地に近い中帯エリアにある魔物の巣穴からその調査隊の一人であるA+ランク冒険者が身に纏っていた装備一式がボロボロになった状態で発見された。装備の状態を見るからに、まるで何か大きな獣にでも喰われてしまったような跡が残っていた。
それ以来、奥地は別名『捕喰の森』と呼ばれ、冒険者のギルドマスターから公式に立ち入り禁止エリアに認定された。
【ナナ・ルーバス】の周辺では唯一の立ち入り禁止エリア。
それでいて、そのエリア内についての情報は全くと言っていいほど分かっていない。
だから普通は入ろうとしない。近寄ることさえ危険だといわれている。
――今回みたいに、冒険者ランクA未満の俺らが入ることが異常なのだ。
奥地は中帯のエリアとも接しているのだが、その境界線を見分けることは案外容易い。なぜなら、奥地エリアには年中を通して晴れることのない霧がかかっており、また入口や中帯では見ることのできなかった赤い色をした樹木が群生しているからだ。
――そんな、霧が立ち込める赤々しく禍禍しい樹海の前に俺とシテンは立っていた。
まだ日は高く昇っているが霧の中は木々が乱立していて日差しを妨げており薄暗い。貉でも化けて出てきそうな雰囲気だ。
そして何よりも。
「……“ヨウ”様。もしかしてこの匂いは――」
「ああ、間違いなく血の匂いだ。それも飛び切りに濃い、濃厚な匂いだ。」
鉄臭いともいえるが、これは血の独特な匂い。酸化してどす黒くなった血の。
野戦病院でも恐らくはここまで濃い匂いは漂わない。
野戦病院みたいに毎日のように人が死ぬ場所であっても、何年も永続的にあり続け血が流れる場所はない。あくまでも一時的に設置されただけの病院、または安置所であって、処刑場や屠殺場みたいに常にそこに血が流れる場所ではない。処刑場や屠殺場にしたって掃除ぐらいはされているからここまでは酷くない。
もし、地獄があるならばこのような匂いがするのではないのかと思うほどに強烈で凶悪な死臭であった。
毎日どれくらいの生物が奥地で血を流して死んでいくのだろう。
俺たちにとっては禁止エリアでも魔物やほかの生物にはその制限はない。もちろん、危険な場所ならば容易に近寄ることはないだろうけど、危険であっても入らなければならない時もある。
例えば敗れたとき。縄張り争いで追い出されたり、自分よりも上位の生物が現れたりすれば、逃げ込んで生き延びようとするわけだ。
実際中帯エリアではその争いはかなり激しいようで、毎日それなりの数の魔物が追い出されたりしているという冒険者ギルドの調査報告があるらしい。どうやって調べたのかは知らないが。
そんな弱者で敗者な生物が奥地で生き抜くことはまず不可能だろう。
だから毎日死んでいく。
何十何百もの生物があっさりと消えていく。
まあ、奥地に入り込んでしまう理由はそれだけではないのだけれども。
「……ううう。くっ……。」
気が付けば、シテンが額を手で押さえて苦しそうな顔をしていた。
「大丈夫か?慣れるまで少し休んでいこうか?」
はっきり言ってここまで濃い血の激臭は毒だ。
精神の方が参ってしまうほどに過激である。
まず、血のにおいに興奮に似た衝動が湧き上がり、それを抑え込もうとして理性が働き板挟みとなり、しかし終わること無き強い匂いは段々と本能にある原初的な恐怖が体の奥から溢れ、ついには悩そのものが危険信号を発してその場にいることを拒絶する。
説明すればそんな感じ。
たとえ暗殺稼業で人を殺しまくっているシテンでも慣れるのには時間がかかるだろう。
「い、いえ。大丈夫です。お気になさらず。」
青ざめた顔で、それでも無表情を保ちながらシテンは答えた。
「似たようなことは何度も体験していますので。――しかし、本当にこの中に入るのですか?“ヨウ”様の実力を疑うわけではありませんが流石に危険だと思われます。」
「ああ、確かに危険だろうな。俺だって生きて帰れる自信はない。それどころか今日で死んでしまうんではないかと本気で思っている。だけど、さっきも説明しただろう。――シテン。この奥地に入らなければならない理由を。」
どこか怯えているように見えるシテンに対して、俺はその質問に断定して同時に悟るような口調で答えた。
シテンはそれを聞いて黙った。
理解していて押し黙ってくれたのだ。
もう、やるしかないことを分かっていて、そしてその危険も十分承知の上で。
俺はそんな彼女が結構気に入っている。
そういう、問答がいらないところ。
……あのお節介焼きの委員長とは大違いである。
才能があるくせに、優しさはあるくせに、人を愛せるくせに、強いくせに。
委員長は結局何一つとして何もできないまま。
そして俺は――僕はここに来た。
殺意ではない何かが体の奥から流れた。
無意識的に。
無為な俺に。
……話を戻そう。
そうそう、実はシテンにはもう既にこの奥地へと移動する際にどうして奥地へと入るその理由を伝えていた。
今日の森は荒れていた。
中帯と入口の境界付近でフリー討伐をしていた俺は、そんな森の浅いところでオーガを始めとした中級以上の魔物を五体近く狩っていてた。その数はいくらなんでも多すぎた。――つまりは森が荒れている証拠である。
荒れているというのは、この場合では森のパワーバランスが乱れているということを指す。
中級以上の魔物は中帯の森が深いところまでいかないとなかなか遭遇しない。
どうしてこんなことになっているのかという理由は、現状では断定できるほどの情報がないために不明だけれども、これが異常事態であることはすぐに分かった。森の中で何かが起きていることを悟った。
それだけならば何も問題なく討伐を終えた時点ですぐさま帰ってしまえばよかったが、そうもいかないことが起きた。
その事態の根拠となるのが魔法が”阻害”されていたことである。
あくまでも俺が知っている知識の中では人間に魔法の“阻害”を使うことができる奴はいない。それも特定の個人を狙っての“阻害”ではなく空間、この【ラドン森林】全域に掛けて発動している。虐殺した二十八人ほどが魔法の行使が全員上手くいってなかったの好い証拠だ。
こんな芸当ができる奴。それは間違いなくアイツだろう。
【ラドン森林】の主であるあの化物が、いつもは静かに眠っているアイツが偶然起きてしまったのだろう。
この状況はマズいことだ。危険事態。それも災害級の。
森の中ではパワーバランスが乱れて、中級ランクの魔物が入り乱れて荒れている。
それを狩るだけならば、特に何も起こらなかっただろうし、むしろ平和が保たれただろう。
魔物が殺されることぐらいについてアイツは何か感じることはないだろうし、荒れている森のパワーバランスが戻されるので逆に楽になったと微笑んでいるかもしれない。
だがしかし、その後に多くの人間が森の中で乱闘をしてしまったのだ。
これは、俺たちにとってはただの殺し合いで、当事者以外には何も被害を及ぼしていないが、森の主であるアイツにとっては森の中で好き勝手されたと捉えるだろう。
アイツの気性から行って、恐らくこのことを許さない。
怒りを覚えていたとしてもちっとも不思議じゃない。
あの時は本当に判断をミスったと思う。目の前のことに没頭しすぎていたのか、アイツのことを少し忘れていた。もっと早くに気付いていれば、実際気付くことはできたと思うし、この森から抜けたところアイツらを殺しておけばよかったことで、それにアイツが起きているかどうかの確認を怠っていたのも大きなミスだ。
五人ほど奥地の方に逃がしてしまったから、さらに状況は悪いだろう。
ただでさえ魔物が好き勝手しているところに、人間どもが横暴を働いた。
そう捉えられても文句は言えない。
自分の庭で好き勝手されたら誰だって癇に障るだろう。
アイツにとってはこの森は庭同然だしな。
だから、鎮めなけらばならなかった。
誠意を籠めて謝りに行き、必死になって許しを請う。
もし、放っておけば怒りのままに近くの村や近く町が幾つか滅ぼされてしまうかもしれない。
それほどまでに強力で凶悪。
嵐や地震と同じく対処のしようがない。
絶対に敵わない圧倒的な存在。
実を言えば、俺とシテンだけならあるいは逃げ切ることもできると思う。
その代り拠点にしていた【ナナ・ルーバス】は恐らく滅んでしまうだろうけど。
俺たちはこの奥地に入るしかないのだ。
たとえ逃げたところで、どうせ喰われてしまうのだから。
「……暗殺者のくせに、間接的ではあるけど人助けをすることになるとはな。」
同じようなことは何度かあったけど、やっぱり柄じゃないな。
「――“ヨウ”様。」
「うん?なんだ」
「やはり、いまだに気分の方が優れません。」
「なら、休憩していくことにするか?」
「いえ、事は刻一刻を争います。休憩している時間はありません。しかし、このままだと“ヨウ”様の足手纏いになってしまうかもしれません。なので、気をしっかりと保つために。――精一杯私を虐めてください。」
「………………。」
もしかしたら、シテンを置いて一人で入った方が良かったかもしれない。
結構本気で、この時後悔した。
次話の投稿についてなのですが、これはかなり遅れると思われます。
話的にそろそろバトルパートで一章の終わりに近づけていくつもりなので一話がどうしても長くなってしまいそうなのです。
それに作者の現実世界の予定結構ハードなのでPCを戯れる機会減ってしまうと思われます。
読者の皆様には多大なる迷惑おかけします。申し訳ありません。