No.7 ラドンの奥地
どうも鬼無里です。
久々の投稿となります。すみません。かなりの日数が空いてしまいました。
時間の有効活用が極限に下手な作者は執筆にものすごく時間がかかったりします。
今回は見せ場になるようなバトルシーンはありません。
ただ、ようやく物語が大きく展開します。
俺がシテンのいるところへと向かった時、シテンはちょうど人間族の男を片手――右手一本で頭を掴んで持ち上げているところだった。
「……“ヨウ”様。少々お待ちください。今直ぐに片付けますので。」
そう言ってシテンは、何とか頭を掴んでいる手を外そうとジタバタもがいている男の頭をグシャリと一思いに握りつぶした。
血が飛び散り、抵抗していた男の腕がダラリと降りる。辺りには血でできた水溜りが幾つかできていた。
全身の力が抜け、ただの屍と化したそれを投げ捨てて、シテンはこちらを向いた。
一礼をして。
「お待たせいたしました。“ヨウ”様。」
何事もなかったかのように無表情で言った。
流石は熊種。成人男性の頭部を片手で握りつぶす握力と、持ち上げる腕力は計り知れない。
流石は『片耳の剛獣』。あちこちに散らばっている死体は十を超えているが呼吸は落ち着いており息を乱していない。
流石は『闇夜の猛獣』。死体のどれもが頭を砕かれたり心臓を一突きにされていたりと、容赦なく殺している。
流石はシテン。殺し方がえげつない。
断末魔の叫びを嫌って首や喉を執拗に狙う俺とは違って、シテンは熊種のその腕力を使って豪快に殺していく。悪鬼羅刹、その言葉がこれ以上似合う奴は中々いない。
俺も実は引いていたりする。狂気の沙汰としか思えないほどだ。
シテンはそんな行為を無表情で淡々としているから余計に異常だ。
俺もあまり人のことは言えないけれど。
ていうか、これR-15で済む範囲の描写なのだろうか。
人の頭を砕く描写とか、どこかのグロ画像みたいだが。
R-18と言われても文句が言えないな……。
まあ、いいか。俺の悩むべき問題ではない。
恐らく画面の向こうで作者が頭を抱えて悩んでいるだろうけど。
知ったことか。
ちなみに、アイツは結構小心者だ。
それはそれとして。
――結果を言うと、俺たちは33人全員を殺しきることはできなかった。俺が十六人、シテンが十二人、二人で計二十八人殺したが残りの五人には森の奥地へと逃げられてしまった。
最初から逃げようとしてたのかどうかまでは分からないが、俺とシテンにほとんど相対せず虐殺が始まると同時に身を翻す様にして駆けて行ってしまったのだ。
「はあ……。よりにもよって森の奥地に逃げ込んだのか。まだ、森の入口に逃げ込んだ方が救いはあったのにな……。」
その場合は俺が一人残さず殺していたと思うけど。情け容赦掛ける必要も義理もない。それに俺らのような暗殺者にはまずもって真面な人情なんてないしな。
また、問題が一つ増えてしまったわけで、色々なことが山積みだ。
しかし、恐らく一番優先度が高いのは――。
既にその事態が起こっているのかどうかを確認するために、幾つかシテンに質問しておかなければならないことがある。
「シテン、幾つか尋ねたいことがあるから一つずつ正確に覚えている範囲で答えてくれ。虚飾はしないでくれるとありがたい。返答次第によっては、事は既に最上危険度まで上がっているかもしれないからな。」
「分かりました。」
シテンはこういった時に無駄な問答をしないでくれるから本当に助かる。
アッチの世界にいる俺の友達や知り合いは大抵こういった時に茶化したり、嘘を平気で吐いて騙したり、挙句の果てには黙っていた方が面白いから黙秘権を行使しますだとかほざく奴ばっかりだった。
冒険者ギルドの奴らは俺のことを揶揄する奴等が多いし、暗殺ギルドにはそもそも邪険に扱われ疎まれている。
そう言えば、冒険者ギルドのマスターは5~6回ほど依頼内容をでたらめに伝えてきたっけ。
道具屋の店主は俺が頼んだ道具全く違う道具を要らないといっているのに進めてくるし。
ちょくちょくアルバイトでウエイターをやっているレストランの店主はシフトを適当に組みやがる。
行商人のばあさんは……まずもって話が通じない。いつも聞き取れない言葉を口に出している。
酒場のマスターは基本無口で何も喋らない。
……碌な奴がいないな。俺の周りには。
改めて思い返すとむしゃくしゃしてくる。
何故かシテンが一番真面に見えてきてしまうのはあまり捻くれてなく、最も俺に近しい人間だからだろう。物事に対して冷酷すぎるほどに淡白なところとか。共通点はいくつかある。
但し、シテンは俺と違い本質は超が付くほどのドМなのだけれども。奴隷の経歴があったとしても変態は変態である。そこに弁明の余地は一切ない。
兎にも角にも。今は質問をしなければ。
「じゃあ、まず。俺を尾行していた時にオーガなんかの中級以上の魔物に入口付近で遭遇しなかったか?何でもいいから。」
「はい。戦闘になる前にこちらが上手く身を隠してやり過ごしたので、その後何処へ向かったかまでは分かりませんが。」
「それは、たとえばどんな魔物だ?ゴブリンの亜種とかそういった特異体か?」
「いえ、私が見たのは『突進王』で番だったのか二体ほどが歩き回っておりました。」
『突進王』は確か危険度ではB~Aランク程度で、【ラドン森林】には生息していない魔物だ。偶にはぐれでやって来ることもあるそうなのだが今回のように番で、しかも入口付近に現れたの聞いた限りでは初めてだ。
オーガ以外にも、幾つか中級の魔物は討伐していたがシテンの話で完全にアウトだということに確信を持てた。今日の森は荒れまくっている。それも、普段は居ない魔物が現れるぐらいに。
よりにもよって、俺がフリー討伐を受けた時に被ってしまうとは。いつものことだがタイミングが悪いな。
どうやら不幸体質はこの世界でも引きずっていくことになりそうだ。
「次に聞くけど、一体どこまで仕込んでいたんだ?あの盗賊もどきの連中もお前がやったのか?シテンのレベルなら尾行されずにここまで来れるだろう。」
「……そのことなのですが、今回私は“ヨウ”様がいつも依頼を受ける前に止まる宿屋から出発なさった時から尾行し始めたのですが。」
「待て、いきなりおかしい。どれだけ前から尾行しているんだ。その証言からすると移動時間を含めて五日近くは俺のことを付きまとっていたことになるんだが。」
「はい、そうなりますね。もともと、日課のストーキングをしていたところちょうど“ヨウ”様が町から離れたところソロで依頼を受けたの見つけたので、私としては絶好のタイミングだと思い尾行を開始しました。」
「いや、納得するどころか疑念……むしろ不安が募りに募りまくっているんだけど。……はあ、まあいいや。話が進まないから続けてくれ。」
日課でストーキングするなとか。尾行とストーキングの違いはなんだとか。その辺りのことを突っ込んでおきたかったのだが、今の現状はそこまで時間があるわけではないので残念ながら割愛する。俺にあまりツッコミのスキルがないというのも理由の一つではあるが。
「本来ならば、“ヨウ”様が【ドルガーノ】の村についた時点で話を切り出そうかと思っていたのですが、私はそこで見失ってしまって二日掛けてようやく“ヨウ”様が討伐をされている地点まで来れたのです。ですから、私が行っていたこと言えばストーキングとその後の尾行だけで、他にも尾行している輩いるとは思いませんでした。恥ずかしながら、気付いたのは先程の時が初めてでした。暗殺者でありながら申し訳ありません。罵ってください。」
「いや、それは仕方がない。俺だって気付いたのさっきのことだったし。相手も一流とまではいかなかったが十分にプロレベルだった。特に気配を隠すことにかけては。」
申し訳なさそうな雰囲気を醸し出して謝罪とともに願望を丸出しにしてくるシテンの言葉に対して、俺はそう返事を返した。
確かに、アイツらに気付くのは遅れた。いや、気付くのに遅れたというよりも違和感が全く感じられなかったのだ。普段、後を付けられていようものならば戦闘中でもない限り半径500m以内ならば意識しなくてもある程度把握できる。それに何かしらの視線や気配を感じるものだ。だけれども、アイツらからはそんな違和感は感じることができなかったし、それに1,000m近く離れたところから此方の動きを観察していた。あれだけの大人数で。
高度な隠密術を教え込まれた盗賊もどきなのか、それとも別の何かが……。
ああ、一つ方法があるな。
「これは私の推測なのですが、恐らくあの連中は“ヨウ”様の予定を知っていて【ラドン森林】に来ることを分かっており、先回りして待ち伏せをし森の中に隠れていたのだと思われます。それならば、尾行すとは違って後を追っていく必要がない分気配を上手く隠すことができますから。少なくとも、街や村からついていくよりもバレにくいはずです。」
その通り。
「だろうな。最初から隠れているのならばなかなか気配を探るのは難しい。そして、待ち伏せならばできるだけ大人数の方が好ましいから辻褄が合うな。」
人数が多ければ多いほどより楽に袋叩きにできるし、それに逃げられにくい。
一つの疑念はこれで解けたといっていいだろう。
だけど。
その行為は。大人数でこの森の中に入り込むという行為は大きな問題があるということを知らないのだろう。
この時点で、今の事態は最悪だと俺は悟った。
タイミングが悪すぎる。
今の心境は半分が焦燥、半分が諦念。
もうほとんど決まってしまっていることなのだけれども、まだ問いたださなければならないことがある。
「シテン、今さっき身体能力強化の魔法でも使って殺していたのか?」
正確に現状を把握するため質問を続ける。
「いえ。……そういえば、魔法の類は悉く(ことごとく)“阻害”されてしまいました。」
決定。判定絶望級。
やっぱりかとは思っていたけれど。薄々は気づいていたけれど。今日の森は“アイツ”が起きている。
この森の主。災害級の化物が。
「……すでにこれは手遅れだな。厄介なことになりそうだ。」
小さな声で溜息を洩らしながら呟いた。
俺は頭に手を当てて考え込む。
「――逃げた五人は追わなくてよろしいのでしょうか?」
どうするのが一番の最善策なのか。それをひたすら思考していた俺にシテンが訊いてくる。
俺は首を振って、
「もうそれどころじゃない。現在進行形で事態は厄介なことに発展しつつある。今日中に手を打たなければ最悪村が一つ滅ぶ。もしかしたら村一つ程度では済まないかもしれない。――なあ、シテン。重ね重ね質問をしてばっかりで気が引けるけれど、この森の、【ラドン森林】の奥地に入ったことはあるか?」
「いいえ。入口と中帯エリアまでは入ったことがありますが、奥地は禁止エリアなので……。」
「だよな。普通はそうだよな。」
入口・中帯・奥地と大きく三つのエリアに分けられる【ラドン森林】。
入口と中帯では低~中級ランクの魔物しか出現しない。
ただし、奥地は違う。
たとえSランク冒険者であっても奥地に入ることは冒険者ギルドによって公式に禁じられている。
なぜならば、奥地に入って帰ってきた者がいいない。
生存者ゼロ。
立ち入り禁止区域。
盗賊も魔物も避けて通る場所だ。
「はあ…………。」
俺は二回目となる溜め息を吐く。
こうなってしまっては、猶予も余裕もない。状況は絶望的だが、やるしかない。
「――シテン、そこら辺に転がっている死体の肩辺りから腕を切り離して集めてくれ。そうだな……、二・三体分の腕があれば十分だろう。俺はその間にナイフを回収してくる。」
「はい、分かりました。――しかし、“ヨウ”様。一体何をなさるのですか?」
ふと目を瞑ると森の奥の方から人の声によく似た耳障りで不快感が起きる断末魔が聞こえてくるような気がした。
それが決して幻聴じゃないと俺は知っている。
「これから、【ラドン森林】の奥地に向かう。――いいか、奥地に入った後は絶対に俺から離れるなよ?死ぬぞ。この森の主に殺されることになる。」
もしかしたら今日が命日になるかもしれない。
本気でそう思った。
お粗末さまでした。
次の投稿は9月1日を予定(=未定)しております。