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No.6 シテンの過去

どうも鬼無里です。


前回から引き継ぐことになったシテンの昔ばなしです。まあ、いつも通り主人公が語るいわば説明会ですね。



言ってしまえばシテンの設定をさらけ出しているようなものです。

バトルも恋愛も入ってないので面白みには欠けますが、後々、多分、恐らく、重要になってくる可能性があると思うお話ではあります。

 シテンは奴隷だった。

 

 それも生まれついて生粋の奴隷であった。



 だから、彼女は生い立ちも、生まれ故郷も、両親の顔も名前も、果てには自分の名前すらも分からなかったそうだ。


「私が物心ついた時にはご主人様と呼ばれる存在に首輪を掛けられ、暗くジメジメと湿っていた地下牢のような部屋で生活し、物のように扱われていました。」


 初仕事の後、オフで会うことになった喫茶店でシテンは、淡々と平淡とそんなことを話したのだ。

 メニューを運んできたウエイターが話を聞いていたのか、憐みに似た視線をシテンに向けていたのを覚えている。

 

 上手いこと相槌を打つことができなかった俺は、ただその話に沈黙で答えることしかできなかった。

 その時はまだ異世界に来て間もなかったのでこの世界の常識は知らなかったし、世界事情なんて分かるわけがなかった。暗殺の依頼を受けたのは巻き込まれただけであって、シテンと出会ったのもただの偶然。だからシテンが話してくれたことについてもなんて言葉をかけて良いのか、どのようなこと言うべきか分からなかった。


 ――いや、違うな。多分、俺は納得してしまったのかもしれない。シテンがそういった境遇で生きてきたことに。


「一番最初のご主人様の屋敷では、私が一番年下で、獣人族(ビースト)も私だけでした。そこで私は、主にご主人様達に遊び道具としての扱いを受けていました。」


 獣人族(ビースト)嫌いの主人だったという。


 理由などない、意味などない、ただ楽しむためだけに毎日のようにシテンは暴力を受け続けた。

 朝起きては腹を蹴られて、

 昼に屋敷の掃除をしていれば気に食わないからと顔を殴られて、

 夜に眠っていれば水をかけて叩き起こされ、ストレス発散のために背中が血の赤一色で染まるまで鞭で叩かれた。


「そんな生活が五年は続きました。……幸運だったのは獣人族(ビースト)の特に私の種族――熊種(グリズリー)人間族(ヒューマン)よりはるかに頑丈だったことです。幼かった私でも人間族(ヒューマン)の暴力程度なら死ぬこと耐え抜くことができたのです。」


 ……しかし、五年。毎日が拷問のような生活が五年も続いたのだ。

 聞けばその五年の間に片耳を失ったそうだ。

 生まれついての奴隷だったからこそ失ったモノがそれだけで済んだのかもしれない。

 マゾヒストについても頷くことができる。

 そうでもしないと精神(ココロ)が壊れしまっていただろう。

 痛みを喜びに変えるのはもっとも簡単な現実逃避で、一番適した心の防衛反応だったのかもしれない。


「それから、二回ほど同じような趣味を持ったご主人様の奴隷となりました。相変わらず暴力が続く毎日で、物として遊び道具として扱われる生活でした。しかし、四人目のご主人様は違いました。私の獣人族(ビースト)としての力を買って、私を駒として扱ったのです。」


 四人目の主人は犯罪組織のリーダーだった。

 

 そこではじめて彼女は名前を貰ったのだ。

 区別されるためだけに付けられた記号――シテンと。


「その頃には既に人間族(ヒューマン)をこえる程の体格と虎種(タイガー)にも勝る熊種(グリズリー)の腕力がありましたので、殺し屋として人を殺すための様々な(すべ)を教え込まれました。拷問や調教などの方法もそこで教えられていたのです。殺すだけでなく嬲る術も。」


 シテンの殺し方が暗殺者(アサシン)としてはやけに派手なのに納得がいく。

 そういった殺し方が正しいと教え込まれてしまえば体は自然と最善策として覚え込んでしまう。

 何故ならシテンは奴隷だから。

 生まれてからずっと奴隷だったから。

 ご主人様の言うことは絶対なのが当たり前なのだ。

 十二歳の時、初めて人を殺したそうだが、相手が殺してくれと泣き叫ぶまで痛めつけてから殺したと言っていた。

 シテンには才能があったのだろう。

 幼い頃から暴力を受けてくれば、体の何処をどう言った風に痛めつければいいのかをよく理解していた。


「七年間ほど、そのご主人様の下で殺し続けてきました。百人近くは殺したかもしれません。しかし、そんな日々も、ある日冒険者ギルドから依頼を受けてきた冒険者のパーティによって組織は壊滅し、終わりを迎えました。」


 首輪を掛けていたおかげで、殺されるどころかむしろ助けられることになった彼女は、その日奴隷から解放された。

 生まれて初めて彼女は――シテンは自由になったのだ。

 

 約二年間その冒険者パーティで暮らしたシテンは、パーティから紹介されて【ナナ・ルーヴァ】の街にやってきたのだという。


 【ナナ・ルーヴァ】は他の町や都市に比べて獣人族(ビースト)への差別が少ない街で、シテンが暮らしていくには向いていた。

 暗殺者と冒険者、二足の草鞋(わらじ)を履きながら今現在を生活しているようだ。


「私が話せることは、これで全てです。」


 シテンは話しを終えて、紅茶を飲む。

 

 気が付けば俺とシテンの周囲には人が一人もいなくなっていた。

 ウエイターもウエイトレスも客すらも。

 俺たちのテーブルの周りには誰一人として座っていなかった。


「そういえば、一つ話し忘れていたことがありました。“ヨウ”さん。」

 ティーカップを静かに置いて、思い出したかのようにシテンはそう言った。

「何か話すべきことがまだ残っているのですか?」

 俺は、これ以上話してもしょうがない気がした。

 恨みや、憎しみや、怒り。そういった本来れるべきはずの感情が抜けているシテンの話をこれ以上続ける意味を感じられなかった。


「はい。……実は私、処女なんです。」


 それは話すべきことなんだろうか?

 男性である俺に向かって。

 しかも、こんな店の中で。

 

  

 遠くに座ってる客の何名かがシテンのその言葉を聞いて気配を揺らしていた。

 

 …………。




 兎にも角にも、それまでのシテンの話を聞いて、すべてを総括した上で俺はこう呟いた。


「ふうん。まあ、そんなところですか。」

 と。

 シテンと同じく淡々と平淡に。

 


 ほぼ初対面の奴に話すには重すぎる話だと。そんな適当な感想を思い浮かべていた。


 この時、俺は恐らく自分とシテンとを比べていたのだろう。

 その境遇について。類似点・共通点を探していたのだろう。


「“ヨウ”さん。」

改まった雰囲気でシテン話しかけてきた。

「なんでしょうか?」

「私は“ヨウ”さんのことを信頼して私が話せることを全て話しました。」

店の中でな。処女の話とかいくら奴隷だったからって節操がなさすぎる気がしないでもなかった。

「だから、対価と言いますか……その、“ヨウ”さんに……。」


 シテンは口をもごもごさせて押し黙った。

 ああ、成程ね。対価として俺の過去を教えてくれと。


 ……ふむ。



 シテンの話が本当かどうかは分からないが、俺の過去だって相当な眉唾物だ。異世界から来たということは流石に店内なのでぼやかさなければならないが、それ以外は別に話しても問題ないだろう。

 シテンの話が本当ならば、俺に結構な信頼を寄せてくれていることになる。

 信頼という感情を無碍に扱うのはあまり俺の好きなところではない。

 それに、仕事仲間でもあるのだ。勿体ぶって教えないままにして、わざわざ邪険な関係を築かなくてもいいだろう。


 そんなことを考えて、俺は話すことを決めた。


 本当にくだらない。俺の過去を。



「――あの、“ヨウ”さん。どうか……私の処じy」

「分かりました。僕の――いや、俺の昔話を語りましょう。」


 

 何か小声で言おうとしたシテン言葉を遮って俺は自分自身の昔ばなしを話し始めたのだった。











 そんな、経緯があり。今では、俺はシテンのことを気に入っている。

 恨みも、憎しみも、怒りも。そんな感情を一つも出さずに自分の不幸を語る彼女のことを。

 

お粗末さまでした。


残念ながら主人公の過去はまたの機会に書こうと思っているので、次回は普通に場面が戻ります。

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