No.15 暗殺ギルド
どうも鬼無里です。
お久しぶりです。ここのところ様々なごたごたで更新が遅れていました。申し訳ありません。
今回はいろいろと説明を書いたりしていて無駄に長く、更にシテンやエリカを登場させていないのでコメディーに掛けているため書くのが辛かったです。
それは、さておきそろそろ、第二章の核心に迫って行こうかと言ったところまで来ています。
まあ、エンディングまでの流れはまだ決めていないのですが、取りあえずはどうぞ。
『人地獄』とは、別名“犠牲草”とも呼ばれる魔草ではないただの植物である。
『人地獄』などと物騒な名前が付いているためによくよく間違われやすいのだが、魔草とは違ってその体内に魔力をほとんど有していない。魔力を摂取して成長をすることしないただの植物である。
しかし、『人地獄』は魔草などの魔物よりも人々からは特に恐れられている。
ただの植物であるがゆえに魔草と違って空気中の魔力の濃度で繁殖や生命力に変化が起きず、尚且つ温暖な気候の地域ならほぼどこにでも生えてくる。その外見からはただ地面に葉が敷き詰められているようにしか見えないために誤って足を踏み出してしまい、そのまま『人地獄』の刃のように鋭い歯が並ぶ体内へと落とされて、血を固まりにくくする体液により失血死する。冒険者などはその注意策しっかりと教えられているために命を落とすことはないが、何処にでも生えてくるこの植物は何も知らない一般人――特に子供の命を奪っていく。
だから付けられた名前が“犠牲草”。
誰かが命を落とすまでその植物に気が付かない。
一時期この『人地獄』を一斉駆除しようという働きが各国で行われ、最近はその発生地域が限られているが時折冒険者ギルドに依頼が緊急で発注されるほどの数は残っているようだ。
閑話休題。
【ナナ・ルーヴァ】の街の東門付近、行商人たちが行きかう場所から少し外れた辺りで、俺は龍人族の行商人である老婆と一つの取引をしていた。
俺は『人地獄』の種が入っている密封された茶色の小ビンを龍人族の老婆に示した。
「これは間違いなく正真正銘『人地獄』の種だ。」
俺があの化物がいる森から採取した物のひとつである。
在庫は腐るほどある。
正直言って【ラドン森林】の奥地に生えすぎていたため多少間引きした。――いや、させられた。
その辺りの経緯は一先ず置いておくとして。
「この種――正確には『人地獄』の本体である核だが――コイツはどうやらすさまじく良く効く秘薬の材料になると聞いた。それもどうやら龍人族、その中でも古龍種のみが製造法を知っていると。」
俺はビンの中の種を転がして見せつける。
「確かに『人地獄』自体はまだまだそこらかしこに文字通り根を張って生息はしているけれど、それでもこうやって種が市場に流れることなど滅多にない。龍人族にしかその価値は分からないのだから、当然人間族にはゴミとして扱われる。幾らなんでもこの害草の種を保管している奴なんていないだろうし、正直扱いに困る。もしうっかりその辺りの草原にでも落とせば、その地域一帯が地獄に変わる。」
そもそも、国として『地獄草』の種は所持していると罰則をくらう代物だ。
麻薬ならば利益はあるが龍人族の古龍種にしか売れないような物を態々危険を冒して所持するバイヤーもいない。
故に俺は取引を持ち掛けた。
どんな物好きでも購入しないであろうこの危険物は果たして目の前の老婆からどのような反応を示すのだろうか。
「……それで婆さん。この種一体いくらで買う?」
俺は大して凄むことも、優位的な立場をとることもしないで老婆の目線を合わせる。
「………………。」
老婆はその瞳を今までにないぐらいに大きく開き、種には一切目を向けず俺と視線を合わせていた。
……そういえば、暗殺ギルドメンバーの一人が、龍人族の古龍種は相手の心を読み取る、云わば読心術のの様な能力を備わっている種族もいるらしい、とか言っていた気がする。
老婆の行動の真意は俺には分からないが、その膠着状態が体感時間で10~20分、恐らくは5分程度の事だったであろうが、しばらく続いた。
そうして老婆は一度目を瞑り、ゆっくりと開いて、
「にまっ」
とした笑みを作り、
「 。」
再び俺には聞き取れない言語で何かを呟いた。
老婆は腰に付けている巾着袋のようなものを探って俺に差し出した。
そこには黄金色に輝く小さめの硬貨が全部で十枚。
小金貨十枚――凡そ100万円である。
「……まいどあり。」
俺はよく商人が使う言葉を短く呟いてから、老婆に茶色の小ビンを手渡した。
金。
何とも拍子抜けではあるのだけれど笑いごとになど決してできない重点を置く問題である。金がなければ少なくとも人々が暮らす社会に於いては娯楽を嗜むどころか生活すらできない。文化圏を離れた、例えば樹海の奥地や山岳地帯などの前人未踏の地――いやそこまではいかなくとも村や集落の水準まで下がれば、金はあまり必要なものでなく物々交換やそれに値するような技術を持っていれば生きることはできる。自給自足というものだ。しかしながら、俺が暮らしているのはちゃんとした経済が回っている、紙幣通貨がいき通っている“街”であり、文明的に開いている地域である。それ故に何事にも金がかかるということだ。
例えば生活費。食事やその他の消耗品。寝床――宿泊施設の確保。税金。……etc.
この世界では安全やトラブルの解決にも金が掛かってくる。
警察はいない。警備隊も大した奴等ではない。
裁判所なんてないのだし、そもそも公平や平等などという言葉は煙に等しい幻想になる。
弱肉強食。死人に口なし。人の不幸は蜜の味。
それ故に俺らのような暗殺者という仕事がギルドを作れるまでに大きく成れる。
要約していくと、何事にも金は大事ということ。
そして今回の準備には自分のポッケトマネーからでは払えない料金が発生したため、仕方なく龍人の老婆と取引をしたのである。
準備は準備。
それは生活費。それは材料費。それは契約金。それは報酬。それは――
「如何やら最近巷を騒がせている殺人鬼や通り魔の騒動には警備隊の奴らが絡んでいるニャ。」
「へえ、まあ予想通りではあるな。」
東門から今度は街の南側へ向かって歩き、大通りから逸れて細い路地を二回ほど曲がった所。
基本一日中陰っている細い路地の曲がり角に、ポツンと一つだけ空樽が置いてある。
通行の邪魔になる程度に大きいその樽の上には何処となく高貴さがある黒猫が腰かけていた。ギラリと光る瞳、短めの尻尾、革製の首輪とそこに付けられた小さなロケット、そして極めつけは明るいベージュの外套その猫は着ている。
長靴を履いていないだけましだが、何処からどう見ても仕草は人間のそれである。
猫。
名前は既についており、クロロと名乗っている。
「幾らニャんでも一連通り魔事件には不可解なことが多すぎニャ。尻尾を掴んでくれと言わんばかり。発情期の雌猫でもここまであからさまじゃニャいニャ。」
ネコらしい皮肉を人間のように扱うクロロは、やれやれと言わんばかりに肩をすくめるようなポーズをとっている。
人間よりも人間味の溢れる猫である。
「さて、どこまで聞きたいニャ?」
「……警備隊側の協力者と、その話を持ち掛けた首謀者、それにバックについているマフィア組織と商人、後は殺されたAランクの冒険者のことについて。」
「最初と二つ目は前払いで済ませているから問題ニャいけど、残りは前金の小銀貨ニャんかじゃ到底足りないニャ。」
「ほらよ。」
俺は小金貨をクロロに向かって放り投げた。
クロロはそれを左手でキャッチするとまじまじと見つめて、そして訝しげな顔で俺の方を向いた。
「随分ニャ大金を払うニャ?最近は大した仕事も入っていニャいはずニャ?」
「足りているならば文句はないだろ。生憎とそれ以外持ち合わせもない。」
「対価は過不足なしが常識ニャ。下手に大金をつかむと身を亡ぼすは重要な教訓ニャ。」
「そうか、それならば情報を追加してもらうとしよう。一つはSSSランク冒険者“拳豪”とはいったい何者なのか。」
「SSSランクニャんて化物の情報を聞いてニャにをするつもりニャ?まさか、次の標的はソイツとか言うんじゃニャイだろうニャ?」
「いや、そこまでの情報は要らない。一般的な知識がもらえれば十分だ。ただの好奇心と警戒を兼てのものだしな。」
噂とか評判とか記録とか、大雑把なデータがもらえればある程度人柄は分かる。
因みに好奇心は嘘だ。興味はあるがそれはどちらかと言えば警戒対象としての興味になる。
「分かったニャ。まあ、もともと”拳豪”は有名ニャ奴だから評判は噂は尽きニャいニャ。……それで、二つ目は?」
目を細めてクロロは俺に尋ねてくる。俺のことを探ろうとしているのかどうかは分からないが、警戒や好奇心の感情は見て窺えた。ネコの表情が読めているわけではないのだが。
俺は一度真上を見た。
建築物の屋根の隙間を縫って零れてくる光の先にはちょうど真上あたりにまで昇った太陽が見えていた。
「――二つ目は別にそこまで重要なことじゃない。そろそろ昼時だから美味しい肉を売っている店を紹介してくれ。できれば香辛料を売っている店も。」
さてと、そろそろランチタイムだな。
――クロロからの情報を要約すると凡そこのような内容だった。
今回の殺人鬼騒動を裏で操っている人物は恐らく二人の男女。
一人はこの街の警備隊の副隊長であるロット・ウェルダー。彼は自分の役職の権限を乱用して不正を見逃したり、部方たちを使って一般市民を脅したりをしている、いわゆる小悪党だ。それでも、証拠隠滅というか隠蔽工作の技術が無駄にあるために中々悪事を働いているという証拠が掴めずにいるらしい。それに加えて警備隊隊長が何やら病気を患っているらしく、ここ最近は特に好き勝手をやっているようだ。もともとロットはウェルダー家(王都で有名な商人の銘家。二・三回依頼を受けたことがある。)の次男というコネでこの街の警備隊隊長をやっているせいか、下手に彼に口出しができる人もいないようだ。重要なのはロット自身は今回の件に関しては警備兵たちに殺人鬼のことを見逃せていること、それにあまり彼は関与をしたくないこと、後は性格が臆病なために思い切った決断はしないこと。この三つ。
二人目は素顔を隠した女。クロロいわく『体臭が陰気くさい呪術師やら霊媒師がよく使う香の匂いがしたニャ。服越しだったけどあんまり鍛えている雰囲気はニャかったから十中八九術を使う系統の人間だろうニャ。』とのこと。そこから察するにその女らしき人物が所属している組織は三つ。一つ目は冒険者ギルド。ただし、これは初っ端から除外。ギルドの連中だったらすぐに身元がばれるからこのような犯罪行為はしないはずだ。(俺もばれているようだし。しかし、冒険者ギルドとは敵対していないから見逃されている。)二つ目はミリア教会。『アルス・ミリア』全土に広がっているいわゆる一神教の教会。昔、依頼で何度かそこの聖職者たちを暗殺したことがるのでその実態はよくよく分かっている。上層部は完全に腐敗しており、政治と絡んで内部での権力競争が激しい様子。あまりにも富を貪りすぎているために資金が足りなくなっており、そのうち免罪符でも売り出すのではないかと思われるほど堕落している。この教会なら呪術師や霊媒師何かが暗躍していてもおかしくはないが、とは言ったもののこの街の教会は小さい。規模も勢力も資金力も。手駒はいないはずだし、第一に暗躍するほどこの街での布教が進んでいるとは思えない。なので教会という線は消えた。最後に三つ目、マフィアや違法な組織。これは枚挙にいとまがないのだが、女性で呪術師で権力がそこそこ高い、という情報から考えていくと二つの組織に絞られる。
その組織の名前をクロロ二つほど挙げた。一つは“魔女の血脈”と呼ばれる禁術やら呪いを研究する魔女たちや魔族信仰の狂信者たちが集まって作った反教会の組織とその配下のならず者集団。もう一つが“毒蛇の集い”、こちらは俺と同じような暗殺者とかが大多数を占めているマフィアというよりもヤクザに近い形態をとっている、いわば任侠的な組織。どちらも一癖二癖ある厄介な奴等が多い組織として裏社会でも煙たがられている。まあ、この場合間違いなく前者である可能性が高い。というか、“毒蛇の集い”は昔個人的な諍いによって俺に個人的なものであろうと組織的なものであろうと絶対に敵対したり邪魔したりちょっかいを出したりしないと一方的に契約してきた(契約というよりは懇願とかに近かった。泣いて地面に額をこすりつけていたからな。ヤクザのトップが。)ので、俺に対しては絶対に関与してこないはずだ。となると、その女が所属している組織は“魔女の血脈”。そしてクロロ曰く『コートニー・マレット』がその女である可能性が最も高いということ。
そのコートニーという名前の女は寡聞にして聞いたことの無かったが、クロロ曰く謎しかない女だそうだ。“魔女の血脈”の統括者ではあるそうなのだが、あまり目立った行動をこれまでに起こしたこともなく、素顔も仲間にすら見せたことが無いそうだ。ていうか、魔術で顔は偽造しているらしい。但し、女であることに誇りを持っているようで女の姿でちょくちょく現れているとのこと。クロロも匂い以外では判別のしようがないと言っていた。
流石猫。
余談だが獣人族は他の種族に比べると嗅覚は確かに高いのだが獣や魔物には劣るようで、少なくとも香水をたくさんつけていれば紛らわされてしまうそうだ。もう一つ付け加えると、動物よりも虫とかのの方がこと匂いに対しては敏感らしい。種類にもよるが匂いを触覚で感知しているからな。
話を戻す。
クロロが推測する程度には隠密に長けているようで、コートニー本人かどうかははっきりとしていないが、コートニーの噂はクロロも多くつかんでいた。
生きたまま人間をゾンビのような操り人形に変え、自由自在に使役しているだとか。
呪われている武具を平然と使いこなしているだとか。
姿形のない影の悪魔を召喚獣として、夜な夜な暗躍させているだとか。
これらの噂からついた名前が“新月の黒魔術師”。
まあ、お似合いと言えばお似合いだが、また恥ずかしい名前を付けられたものである。
因みに、『アルス・ミリア』での共通認識としては黒魔術なる魔術は存在しない。呪術や禁術などを総合的に黒魔術と呼んでいるだけだ。
しかし、厄介な相手ということはよく分かる。顔を自由に変えられて、その術の力はほとんど不明なのだから対策の立てようがない。
まあ、厄介なだけで別段危機感はないけど。
正体不明の相手と殺し合った経験はそれこそ星の数ほどあるわけで。
ただ、問題としては殺しづらいということだろう。面倒な話だ。
あとクロロからもらった情報は次の通り。
支援している商人はガント、ヘイノ、ベッテガ、コレッティ、ラッヘンマンの五人でいずれも王都に巨大な店舗を構えている商売グループの構成員で、武器や薬、そして奴隷なんかを商品として扱っているとのこと。
バックについているマフィア組織はアイヒマンの一家とブラック一家。ただしどちらも支援というよりは停戦協定という様な自分のやっていることを見逃してもらう交渉とかその辺りの事のようだ。
そして、殺されたAランク冒険者の二人について。
一人はリベルト。性別は男、年齢は三十後半。主に王都で活動する冒険者。ヒューマンでありながらも高い身体能力を駆使して2m以上の槍を使いこなす。性別は男。魔術は主に風を使ったものを得意としているが、どちらかと言えば苦手であり、体術や槍を使った近接戦闘を好んでいる。おもな功績としてはAランクの魔物【飛龍】〈ワイバーン〉の討伐、【グレイオス砂漠】の遺跡の攻略などなど。最近では目立った行動はしていない。ベテランだが新人には厳しいため嫌われている。よくよく、女性冒険者にちょっかいを掛けては無理矢理犯しているという噂もある。
二人目はエルネトス。こちらも男で、年齢は四十過ぎ。流れ者の冒険者で拠点はない。種族はエルフ。見た目は若く、好青年の印象があるが中身は残忍で残酷なため、疎まれている。風と水とその派生の氷を使いこなす魔術師で他にも回復系統や幻術系統の魔術も使える万能型魔術師。おもな功績としては【ヒュンデリタ湿地帯】の毒沼の交通ルートを見つけている。後は何度か街へ襲撃してきた中堅モンスターなどの群れを撃退したとか。奴隷なんかを買って嗜虐的趣味を発散しているとか。
この二人に接点らしきものは特になかったが、どうやら意気投合して酒を飲みながら街を歩いていたところ殺人鬼に襲われたらしい。
死因はどちらも鋭利でいて歪な刃物らしき武器で心臓部分を一突き。魔術を使っているかどうかは不明。現場には争った形跡はほとんどないらしい。
概ねこんなところ。
最後にSSSランク冒険者“拳豪”の話だが。まあ、これは俺の好奇心によるものなので省略する。
大して関係もないだろうし。
情報の整理も終わったところで現実に戻る。
俺はクロロと別れた後に鶏肉一羽分と胡椒やそれに準ずるスパイスを買い込んで、暗殺ギルドへと向かっていた。
【ナナ・ルーヴァ】の南側区域にある暗殺ギルドは、他の裏組織と違って比較的穏やかなエリアに設立されている。
確かに暗殺ギルドのご近所は一般市民の住宅地となっていて、殺伐とした世界からはかけ離れている。
そんな場所だからこそ平気で人殺しのギルドが誰にも気づかれることなく存在しているのかもしれないが、実際どうなっているのかはよくわからない。
俺がこの世界へ来る前は北側区域にあったらしく、二つ前のギルドマスターが潰れた宿屋を買い取ってギルドにしたそうだ。
大きな通りから細い路地へと逸れて、三つほど角を曲がると辿り着く。
ギルドに着いたら取りあえずは昼食を取ろうと考えながら、角を二つ曲がったところ。
「へへへ、やあ。あんちゃん、ここを通りたかったら有り金を全部おいていきな。」
薄汚れた衣服を纏ったガタイだけは無駄にいいゴロツキの男たち三人ほど現れた。
比較的治安が良い南側区域でこのようなならず者と出会うことにいささか驚きを感じたが、この街にいれば日常茶飯事な出来事でもあるため、むしろ『またか』という呆れも同時に感じている。
それにしても、なんでわざわざ南側区域でこのような窃盗行為に及ぶのか謎なところだ。
ここよりも、商人が多く店舗出している東側区域とかでやった方が儲かるのに。
といった、最早一般人からかなりずれたことを考えながら、目の前の男たちを観察する。
装備は軽装で、ナイフを構えている奴が二人に、サーベルのような曲刀を腰にぶら下げている者が一人。少なくとも鎧や盾を身につけているものはおらず、魔術的な媒介を持っているものもいない。
まあ、発言から分かるように俺個人に対しての恨みや復讐とかで本気で殺しに来ている奴ではないと断言できる。
唯一気になる点を挙げるとすれば、その男たちが同じような刺青をしていたことだ。
曲がった牙が二つ。
確かあれは、
「一つ質問しますが、貴方たちは“狡猾な牙”の構成員の方々ですか?」
あの盗賊ギルドと同じ刺青を付けている。
潰れたはずだったが。
「あん?何だいあんちゃんこの刺青の意味を知っているのか。」
そう曲刀を持っている男が忌々しそうに舌打ちをしながら俺の言葉に返事をした。
「ええ、僕も汚れている人間なので、その辺りの事情はよく知っています。」
「堅気じゃねえのか、どうすっかなあ。……まあ、いいか。おい、あんちゃん。だったら、俺たちの今の状況も知っているよなあ?」
当然、しっている。解体された盗賊ギルドの下っ端たちは他の組織に呑み込まれるか、こうやってゴロツキになって窃盗やら強盗に身を窶しているかのどちらかだ。
俺はコクリと頷いた。大して動揺もせずに。
「だったら話は早え、おら。金を寄こしな。」
ふうん、これはつまり与えるか奪うかどちらがいいかということか。
どちらだとしても問題はないが正直面倒事にする気はない。
どうしよっかな。昼食の時間も近いので流血シーンはちょっと避けたい。
ほら、他人の血が付いたまま料理をするのは衛生的によくないし。
俺は黙って大銅貨が幾つか入っている小さな巾着袋を一番近い男に投げ渡した。
それをキャッチした男は曲刀を持っている男に渡す。
どうやら、この三人のヒラエルキーは曲刀を持っている男が一番高いようだ。
曲刀を持った男はその中身を確認して、顔を顰めた。
「おい!こんなちっぽけな財布で満足するわけがないだろう。もっと寄こせよ!!」
しかし、俺は無言で、一歩の跳躍で曲刀をもっている男の目と鼻の先まで距離を詰め、そして静かに男の首に手を添えた。
「――どけ。殺すぞ。」
無言だが、男の目をじっと見つめて。それでいて殺意を集中して男に発した。
「――っ!うっ!」
何かを喋ろうとしているのか口を開こうとしたが、カチカチと歯を震わせるだけでまともにしゃべることすらできていない。
そういえば、人を睨みつけただけで殺すことができる先天的な異能があったな。
あまりの恐怖で脳のリミッターが壊れてしまうらしいが、その真偽は知らない。
まあ、でも死の一歩手前に立たされた時に人が真面にいられるとは到底思えないが。
「…………。」
完全に固まってしまっている男の首に添えた手をそのまま額に当てて軽く押してやると、何の抵抗もなく男は後ろ向きに倒れた。受け身も取ることなく派手に倒れたが、とっくに気絶していた様で声は上がらなかった。
残りの二人も完全に気おされて腰が抜けて地べたに尻もちをついて、俺を割けるように後退りをしていた。
失禁の後か水溜りと鼻腔を刺激するアンモニア臭を不快に思いながら、その二人を完全に無視してその場を通過する。
曲がり角を曲がって、ふと立ち止まる。
「まったく、煩い目だな。」
俺は肉屋からずっと後を付けてきた何者かの首に、巻き付けておいた人の目に見えないぐらいに細いその糸をスッと引っ張った。
粘土を糸で切った時のような手ごたえが残り気配は完全に消え去った。
何処からか血の匂いが漂ってくるが気に留めることはない。
そして、少し歩くとそこそこに開けた場所に出る。
もともとは酒場があったのだがとっくに潰れて更地になっている土地に隣接して建てられている些か耐久に難がありそうな宿屋。
幽霊屋敷とまではいかないものの、人が住んでいるようには思えない外装の建物である。
廃れた宿屋。
生憎とこの建物が目的地ではあるのだが。
「――お帰りなさいませ。」
その建物の入口の前には俺に対して従順であり、いつも無表情・無口な理解力があって無謀なことをしない、熊種の背が高い奴隷が一人。
「……別にここは俺の家じゃないんだがな。まあ、どうでもいいか。ただいま、シテン。」
それにしても、色々とシテンには裏工作をしてもらっていたのでこの時間ギルドへと来れるとは思っていなかったのだが。やはり、優秀さに定評がある副ギルドマスター兼ギルドマスターの秘書なだけはある。
さてと。
俺は木製の西洋屋敷を彷彿とさせる扉の前に立ち、手を掛けた。
暗殺ギルド“灯の旋律”。
それでは、物語を進めるとしますか。
お粗末さまでした。
そういえば、登場人物の一覧を作るの忘れていましたね(;´・ω・)
色々と考えたのですが、次の回でもまた主要な登場人物が出てくるので、この章が終わったら一覧を公開しようと思っています。
それにしても、ファンタジーなムードが一欠片もない、主人公にヒロイズム補正もない、まともなヒロインが登場しない、というなんて言うか書いていて常識が吹っ飛んでいきそうな小説ですよね。
ファンタジー小説ではあるので、それっぽい要素は出していくのですがどこどなく色あせたファンタジーだなーと常々感じております。
さて、次回は暗殺ギルドの面々を出していこうかと。
可愛い女の子とか、強い剣士とか、シテンとか、ナイスバディな巨乳なお姉さんとか。あとあと、募集した新キャラも出していきます。
それでは読者の皆様に多大なる感謝とも執筆を続けていきたいと思います。