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No.14 取引商人

どうも鬼無里です。

一応なろうコン大賞に応募はしてみたのですがもちろん落ちました。

そんなわけで新キャラばかり出てくる第二章です。

拙いですがどうぞよろしくお願いします。

「――お前らが放っている人殺しが最近活動をしているみたいだが、一体何を企んでいるんだ?」


 暗い地下の酒場のカウンターでとある二人が話し合っていた。

 

 一人は男。小柄で貧弱そうな体に薄汚れたヨレヨレの外套を着ている。頼りなさげで、見るからに小心者だと分かるような風貌をしている。髪はそれでも整られている余裕があるのは恐らく仕事で良い役職についているのだろう。外套の中から覗くしっかりと深い藍色に染まった服や、宝石こそ付いていないが黄金色に輝く指輪は、その男の収入の高さを示している。極めつけは外套の外からでも分かるような帯刀ならぬ帯剣している腰のふくらみである。これらのことから察するにこの男は帯剣できるような武力が必要となる組織においてそこそこ役職に就いている、余裕の表れである綺麗な普段の服装を外套で隠している身分の人間であるということだ。

 帯剣できるような仕事は大きく分けて三つ。

 一つ目は冒険者や傭兵。

 二つ目は騎士や警備兵。

 三つ目は――これは職業とはいい難いが盗賊などの所謂ならず者たちである。

 冒険者や傭兵は男の身なりからして当てはまらない。その日暮らしの稼ぎで安定した収入が入らず、明日は死んでいるかもしれないような職業であるためにあまり身嗜みや装飾品には金を掛けないのがこの職業である。何よりも冒険者や傭兵は動きを阻害するような邪魔なものは身に着けない。

 そしてそう言った金がかかる装飾品を付け身嗜みを整えていることは、盗賊のようなならず者に身をやつした人間にはない余裕である。

 すると二つ目の騎士や警備兵が最も妥当ということになる。

 そしてこの街【ナナ・ルーヴァ】には騎士は在中していない。

 よってこの男は警備兵であり、そしてそこそこ収入が高い役職に就いている人物である。

 要は見るものが見れば一発で分かるような外見をしている、全く隠しきれていない男だ。


 もう一人は魔術師が来ているような不気味な黒いローブを目一杯に被り、その顔が見えないように隠しているため性別は分からない。ただ、線が細く肉付きが滑らかなため恐らく女らしい。あまりにも深くローブを被っているために口元程度しか肌が露出しておらず、その中の服装も隠されてしまっている。外見から判断できることはほとんどないが、それでも敢えて言うのならば少なくとも一般人が出せるような雰囲気を出していなかった。

 ひどく不気味で、それでいてあまりにも静謐せいひつとしている。

 例えるのならば黒魔術でも使う様な魔女や霊媒師のそれに酷似していた。

 そんな印象を抱く女である。


「別に大したことには使っていないわよ。いつものように邪魔な鼠たちを処理しているだけよ。」

「それにしては激しすぎないか?いくらなんでも人を襲い過ぎだろう。通り魔や無差別な殺人鬼に見せかけるためだからって殺し過ぎているが気がするが。」

「確かに今回は殺し過ぎてはいるわね。Aランク冒険者を殺すためにいろいろとした準備が必要だったし、計画の内ではあるわ。安心して頂戴。あなたが被害を被ることはまずないでしょうから。」

「それは分かってはいるが……。」

 男は言いよどんだ。

 言いたいことはあるが下手には反論できない。

「いずれにせよあと一週間ほどで決着は着くわ。私だってここまでのことをずっと続けていられるとは思っていない。ほかの組織からは薄々感づかれているし、期限はそんなに長くはできない。それは確かよ。」

 女はいかにも自信に満ちた、確信を持った声でそう男に告げた。

 それを聞いた男はしばし考える素振りをして、迷いつつ躊躇いがちに訊きたいことを尋ねた。

「それで今回の標的はなんなんだ?一個人なのか?それとも組織か?」

「そのどちらもよ。」

 女は迷うことなく即答する。

「どうしても潰しておかなければならない奴がいるの。ソイツの組織ごと――居場所ごと裏世界から排除しなければ今後脅威になりうる存在よ。あなたには関係はないでしょうけど。それでも、残業は減るかもしれないわね。冒険者を殺したのも、無差別的に殺しまくったのもソイツを炙り出すための布石にすぎないことよ。」

 まあ、無差別に殺したのには他にも様々な意味はあるけどね。と、女は言って一口酒を飲んだ。

 男は黙ってその言葉の意味を咀嚼して、自分のグラスを見つめる。

 そこにあるのは様々な不安や疑念に悩まされている男の顔だった。

「もう接触は済んでいるわ。凡その縄張りも特定できたし、拠点も分かった。後は囲んで一網打尽にするだけよ。」


「ソイツは一体どんな奴なんだ?お前が脅威に感じるなんて奴は――」




「“ヨウ”と呼ばれている人間族(ヒューマン)、暗殺ギルドのギルドマスターよ。」


 この時、

――にゃおん――

と、二人の後ろを音を立てずに去っていく小さな影に彼らが気付くことはなかった。


 ≠


 冒険者ギルドを後にした俺はそのまま街の東側にある商店街へと向かい、いつもの雑貨屋に来ていた。


「――そこにある革製のホルダーと小振りのナイフ二振り、それに携帯食料の干し肉を一ビンと兵糧丸(古来戦国時代などで使われていた携帯保存食の事。本来ならば材料には米が含まれているが、ここでは米の代わりにクラチスと呼ばれる穀類が使われている。)を一袋、包帯二巻。後はナイフの手入れ用の油を一ビンくれ。」

「あいよ。全部で6,415Mcね。どうだい?他にも銀鯨(銀色をした少し大きめのイルカ。体長5m。)の鯨油を使ったランタンがあるけど買ってくか?“ヨウ”のあんちゃん。」

「いらん。」

 大して必要もない商品を進めてくる雑貨屋の店主の言葉を断り、俺はピッタリ金銭を払った。

 恐らくニッケル黄銅を使われている大二黄だいにおう硬貨を三枚、小銭である銅貨を四枚にさらに一桁下の鉄銭一枚、鉄銭に歪な穴が開いた小鉄銭が一枚――これらのぜにを腰に括り付けてある巾着袋から少々手間取いながらも取り出し、店主に手渡す。

 どうでもいいことだが一応この国の貨幣、つまりはミリア・コイン|(Mc)について補足説明。

 まず、あまり印刷関連の技術が文明的に発達していないのため紙幣はなく、硬貨オンリー。

 種類と価値は次の通り。

『・大金貨――50万Mc

 ・小金貨――10万Mc

 ・大銀貨――5万Mc

 ・小銀貨――1万Mc

 ・虹硬貨

   五紫銀貨――5千Mc

   四青銀貨――4千Mc

   三緑銅貨――3千Mc

   二黄銅貨――2千Mc

   一赤銅貨――1千Mc

 ・大銅貨――500Mc

 ・小銅貨――100Mc

 ・鉄銭――10Mc

 ・小鉄銭――1Mc  

                            ※凡そ一円=1Mc』

 他にもミスリル硬貨とか白金貨とかあるが基本的にはこの種類の硬貨しか一般市場では見かけない。

 金属関連の知識はあまりないのでどのような合金を使っているのかは不明だが、元の世界では見かけない色をした硬貨が多数存在している。虹硬貨などはその最たる例で、虹の色(『アルス・ミリア』において虹は五色の赤・黄・緑・青・紫とされている)に分けられている金属は一体どんな合金を使っているのかはわからない。それに、意外なことにこの世界では銅より鉄の方が採取量が多いらしいく、銅の価値が鉄より高いという事実がある。

 異世界に来たことを実感させる差異だとしみじみ思う。


「すまないが、干し肉と兵糧丸は俺の借家まで送って行ってくれないか。」

 そう言って、俺は更に三緑硬貨を一つ店主に渡し、俺の借家の住所を伝える。

「まいど、今度はもうちっと面白いものをしいれておくよ。」

 そんなことを笑顔で言いつつ、店主は俺の借家の住所を書き留めた紙を小間遣いのような新入りの少年に商品と共に渡す。

 雑貨屋というよりは道具屋の方がしっくりする店だが、店主曰く雑貨屋だそうだ。


「また来る」


 そう言い残して、商品を入れた革袋を担いでその場を後にした。


〈中略〉


 雑貨屋を後にした俺はそのまま街の東側へ歩いていき、東門と呼ばれる首都へ行くものが多く通る門へと向かった。

 東門の周りには行商人が多く集まり、ちょっとした露店が広がっている。

 主には首都の特産品が多いが、中にはここら一帯ではお目に掛かれないような地方の物品も売られていることがあり、掘り出し物を探すには中々面白い場所である。

 行商人たちは皆特殊な格好をしているものが多く、自由都市【ナナ・ルーヴァ】の中でも特に種族がごった返しているエリアとなっている。


 耳が尖っているエルフらしき青年がオカリナに似た形をしている楽器を売っていれば、種族として背が総じて低いドワーフの夫婦が指輪やブレスレッドなどのアクセサリを地べたに敷いたシートに並べ、また獣人族(ビースト)の中でもあまり見かけない翼人種の女性が衣類を展示している。

 どの商人たちも活気にあふれていて珍しいものを見た客の足を引き留めて上手く交渉して売りさばいている。

 混雑というほどではないが、東門の付近は人が多く歩いているのがいつもの光景だった。


 そんな行商人たちの人込みの中から外れるように俺は歩いていくと、ポツリと全く客がいない露店があった。

 そこには背が小さい老婆が一人いるだけだ。

 恐らく老婆の私物であろう大きな荷車とそれを引いているグルーゴというダチョウのような大きな鳥が、轡を嵌められて老婆の隣でおとなしく佇んでいる。

 老婆は陽だまりで和やかに座っていた。

 老婆の耳もまたエルフのように耳が尖っているが、よく見るとその手の甲にはまるで蛇のような鱗がちらほらと付いている。

 と、そこで老婆口を開けてあくびをするとその小さな口の中に決して人間にはない鋭い犬歯があった。


 龍人(ドラゴノイド)


 この行商人である老婆は一般ではそう呼ばれている種族である。

 人間族(ヒューマン)でもなく獣人族(ビースト)でもなく亜人族(デミ・ヒューマン)でもない。それらの人型の種族とは隔絶している存在が龍人だ。 

 謂れでは龍の血を受け継いでいると伝えられていて、険しい山岳地帯に住むため交流が乏しい少数種族だ。


 違いを挙げればきりがないが、それでも敢えて特筆する違いといえば――


「婆さん、そこにある霊薬はいくら?」

「        。」

 

 ――言葉がまるで通じないことだ。

 

 龍人の老婆は人懐っこい笑みを浮かべながら俺の指さした薬ビンを一目見て、また俺に振り向き直りよく聞き取れない恐らく龍人独特の言語を喋って指を二本ピース際のように俺に示した。

 つまりは何かしらの硬貨が二枚ということだろう。

 俺はしばし逡巡してから銀貨一枚出した。

 龍人の老婆は俺が出した銀貨をしっかりと両手で受け取ると、

「      。」

 と、何かしらを呟いてからお釣りとして五紫銀貨一枚と一赤銅貨を三枚をにっこりと笑って霊薬とともに手渡してきた。

 恐らくはその笑みは商売道具の一つなんだろうなと考えながらお釣りを受け取り、並べられている他の商品を見ていく。

 霊薬に関してもそうだが、この龍人の行商人は滅多に見ないようなものを平然と売っている。市場に出回ればこの婆さん売り値の三倍は超えるであろう代物を簡単に。

 たとえ言語が通じなくとも俺がこの行商人の所に買い物に来るのはいつもの事となっている。

 五回ほど買いに来ているが、どうやら適正な価格で売りさばいているようで騙すようなことはしないようだ。



 その後も幾つか商品を購入して、一通り革袋にしまい、俺は通じない言語で婆さんに話しかけた。


「婆さん、婆さんならこれ一体いくらで買う?」


 学生服のポケットから俺は小ビンを一つ取り出した。

 ビンはコルクのようなもので完全に密封されており、また日に当てないように褐色になっている。

 

 その小ビンの中には一つの種が入っていた。





「……これ、『人地獄』の種なのだけれども。――いくら?」


 別名“犠牲草”とも呼ばれた最悪な植物の種を俺は龍人の老婆に提示した。


 その小ビンを見つめる老婆のの笑顔の奥にはギラギラと深淵を見つめるような鋭い瞳がのぞいていた――

この章って作者予定によるとあと十人近く新キャラが出てくるのですけれど……。

後で、登場人物一覧のようなものを作れたら作っておきます。

お粗末さまでした。


【アルス・ミリア】となっていたところを『アルス・ミリア』に訂正。

【ナナ・ルーバス】となっていたところを【ナナ・ルーヴァ】に訂正。

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