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No.10 『始まる前には終わっていて、終わる頃には完成している』

どうも鬼無里です。

長らくお待たせいたしました。やっとのことで投稿です。

ええ、お気づきかもしれませんが今回はかなり長い話となっております。

文字数が約三万程に。(ガクブル、ガクブル)

読み応えたっぷりですが、推敲しきれていません。(特に後半の方が)

誤字脱字等がございますのでどうかご指摘ください。

それと、この話のどこかに矛盾点があった気がするのですが、如何せんどこだったか忘れてしまいまして。(焦)

その点に関してもご指摘いただけたら幸いです。

 話をそらす。


 それは、二ヶ月前にあった出来事の中で俺が――僕が、気を失っていた時に見た夢だ。

 

 


 ――部屋の色はとても白い。

 ぼくが生まれて生きてきた実験施設は白い部屋ばかりだった。


 そんな白い部屋でぼくは生きるために仕事をしなければならない。

 働かざるもの食うべからず。

 白衣を着た女の人はそんなことを嘯いていた。

 本当のことは知らないけど、嘘しか言わない。

 だって、おかしいでしょ。

 ぼくの仕事は白い部屋を汚して赤く染めることだもの。

 それはただ汚しているだけなのに、みんなは仕事と言い張る。

 白衣を着た大人の人たちは、その仕事が早く終われば早く終わるほどぼくのことを褒めてくれた。

 でも、女の人はぼくのことを褒めもせずただひたすらに笑っていた。

 ぼくは何で笑っているのかわからなかった。

 女の人は笑い続けている。

 何でだろう。

 どうしてあの人は笑っているのに悲しそうなんだろう。

 何で今にも泣きそうなんだろう。

 分からないことは分かりません。

 だけど、ぼくは働き続けました。

 生きるためには働いて、働いて、働いて。

 白い部屋を赤く染めて。

 大人たちを喜ばせなければなりません。

 生きることは大変なのです。

 殺さなければ生きられないのですから。

 こういうこと何というか。

 女の人はぼくに言いました。

『貴方は、滑稽すぎるぐらいに矛盾している。人の形をしていて、人の心を持っていない。生物であるのに、殺すために生きている。逃げることを放棄して、殺すことしかしないなんて。本能そのものが殺戮兵器なのでしょうね。』

 難しい言葉でした。

 意味は分かりましたがぼくは何でそんなことを言われているのかわかりませんでした。

 ぼくは矛盾していません。

 人の形を持っているからと言って人の心を持つ必要はありません。

 生物であるからと言って、殺すことが目的で生きていても問題はありません。

 逃げる必要もないです。

 それより早く、殺せばいいのです。

 早くなるためには、余計なことを考えていてはいけません。

 思うよりも早く、体が動いてくれるからです。

 そして気が付いたら、ぼくの考えがいつの間にか動きになっているのです。

 だから、余計な心はいりません。

 無くていいのです。

 ぼくには必要ありません。

 だから殺すことを考えます。

 ほらね。

 矛盾なんてないじゃないですか。

 そういうと女の人は微笑んだ。

『貴方は確かにそれでいいのかもしれないわね。でも、だからこそ、殺すために人間の心は必要なの。兵器では効率が良すぎて時間が無駄にかかるときがあるのよ。貴方は人間。兵器であっても人間で殺す。心を持っていれば、より早く人間を殺せるわ。なんせ、心は人間の弱点だもの。』

 相も変わらず、白衣の女の人の言うことは難しいです。

 今度の言葉は理解すらできません。

 でも従うことにしました。

 生きるためです。

 早く殺さなければぼくは生きることができません。

 だから、ぼくは心を持つことにしました。


 ――上辺だけの真っ白な心を。



 全く。ウザったい夢だ。こんな夢を見たところで、思うことなど何もないというのに。


 逆に言えば、見る夢と言ったら精々これくらいのものであり、重要な夢なのかもしれない。

 

 夢は記憶を整理している時間という説がある。

 実際には詳しくは分かっていないので断定することなど肩書き上はただの高校生であった俺にはできないが、夢というものには自分が記憶したものしか出すことはできないようだ。

 

 記憶というものは曖昧だ。

 忘れてしまうという現象は、厳密には思い出しにくくなるということらしい。

 だから、忘れていることなど何もなく、たとえどんなにどうでもいいことでも人間の脳は一度見れば記憶はしている。

 しかし、普段は思い出せない。

 そんな些細な出来事が夢の中では頻繁に引っ張り出されてくるわけだ。

 無意識に。

 

 俺が見た夢も同じく。

 とても昔の出来事ではあったが、俺が経験して記憶したことではある。

 普段は特に思い出さない。

 だが無意識な時ではポロポロと、それこそひび割れてしまった砂時計から流れる砂のように、思い出は零れ落ちていく。

 浮かんでは消えて、思っては忘れ、何時しか溜まっていく。

 そんなどうでもいいこと。


 それが、俺の心に残っている数少ない出来事の一つだとしても。


 それがどうした。


 これだけ澄んだ心には、上辺だけの中身のない透明な心には、何もない心には、意味はない。

 無為だ。


 話を戻そう。


 こうやって俺は二ヶ月前に自分が経験したことを語ってきたわけだが、それもどうやら今回で最後になりそうだ。

 所謂、物語の区切りというやつだ。

 自分の話ではあるが、如何せん二ヶ月も前のことであり、似たようなことを何度も繰り返しているためどうも他人事のようにしか思えないのだが。

 とりあえず。ひとまず。

 一つのピリオドを打つときが来たわけだ。

 

 

 ――結果を言おう。この二ヶ月前の話で俺はいつものように人を殺して、殺しまくって、それでいて罪悪感を感じずに、再び同じ日常へ帰ることになる。

 但し、責任だけは追うことになった。

 人殺しの(いや人だけではないので生物殺しの)罪の責任――ではなく、これから俺が人を助けるというあまりにも似合わないことをするための責任の取り方であった。


 結論を言えば、これを機に暗殺(アサシン)ギルドのギルドマスターになることを決めたのである。









 少し、これまでのことを振り返ろう。

 これまでのあらすじ、といったところだ。


 俺は【ナナ・ルーヴァ】から東に三日ほど歩いたところにある村、【ドルガーノ】の真南にある二・三時間で到着する【ラドン森林】という場所での魔物のフリー討伐をしていた。

 ゴブリンやオーガを狩っていたところ、シテンの気配を捉えた。

 相対して、尾行していたわけを聞き出すと、暗殺ギルドのギルドマスターへの推薦と奴隷を願望された。

 しかし、その時の会話を聞いていた奴らがいた。

 正体は不明だったが、当然、暗殺ギルドの話を聞かれるわけにもいかないので俺はシテンを奴隷にした後、二人で聞いていた三十三人ほどを虐殺しようと試みた。

 だが、結果は五人も逃すことになった。

 また、それだけでなく新たに問題も発覚。

 森が荒れていた。

 それでいて殺し逃した五人が向った方角は、この地域で唯一の立ち入り禁止エリアである【ラドン森林】の奥地。

 魔法が”阻害(ジャミング)”されているというおまけつであり、最悪の事態だと俺は判断。

 それは、奥地の主である化物を怒らせてしまっているという可能性だった。

 どうにかして、その怒りを納めてもらうべく俺とシテンは奥地へと入ることにする。

 しかし、奥地で俺とシテンは魔蟲や魔草などに囲まれてしまい、俺はその中で意識を落とした。

 

 そう、死ぬ筈だったのだ。


 しかし、俺は生きていた。

 

「…………。」


 目を覚ましても視界は暗いままだった。


 今までに百回単位で気絶しているぐらい多々あるので、目を開いたら知らない天井だった――なんてことは特に珍しいことではなかった。

 しかし、これは流石に初体験だった。

 どうやら布のようなものを被せられて視界が暗くなっている。

 その布もタオルや手ぬぐいといったような見慣れたものの類ではないようだ。

 ……いや、回りくどい説明になってしまっているのは分かってはいるのだがお願いだから遠まわしに説明させてほしい。

 この状況に関して俺は恐らく困惑してる。


 まずは状況確認。

 体勢から行って仰向けに寝ているようで、背中に草の柔らかさと地面堅さを感じる。

 頭が高くなっているので、枕……ではないだろうが後頭部から何かで支えられている感覚があり、どこかしら優しい温もりを感じた。俺は一度も経験したことがないが、まるで誰かに膝枕をされているようだった。

 …………。

 意識ははっきりとしているが体が重く、まるで全身に鉛の塊を付けているようで、起き上がるどころか指一本動かすことでさ億劫だ。

 一番の原因は血を流し過ぎたことだろうが、どうやら何かしらの毒を受たみたいで些か感覚が麻痺して違和感があった。

 できるだけ情報を細かく認識しようと思い、もう一度目を開き、暗い視界で目を凝らして、視界を覆っている布の生地を分析する。

 …………。

 何でだろう。どうしてだろう。何故なんだ。

 混乱してしまい理解が追い付かない。

 この生地は衣類の裏側だと思うが、どうやら誰かが俺にこの衣類を掛けてくれたようで、少なくとも俺が生きている服で同じ素材のものはなく、また見たことない衣類でもあった。

 正しくは、この衣類の裏側など今までの人生の中ではない。

 恐らくは女性ものの服の様で、フリルらしきものが付いている。

 …………、…………、…………《思考停止中》。


 ――いや、分かった。覚悟を決めた。あるいは諦めた。正直に話そう。


 どうやら俺見知らぬ天井ではなく、見知らぬスカートの中で目を覚ますこととなったようだ。

 ――俺は咄嗟に飛び起きようと、重い体に鞭を打って全身に力を入れたが、しかし、いざ起きようとしたところで俺の頭は誰かに両腕で顎から包み込まれるようにガッチリとホールドされ、そのまま固定されて、起き上がることを阻止された。


『うふふ。元気なのは悪いことではありませんが、いきなり飛び起きるような激しい動きをして駄目ですよ、“ヨウ”。あなたはつい十分程度前、大量の血を流し続けていて失血死する直前だったのですから。それに、まだ完全に血は止まっていないので、当然傷も塞がっていませんし、私が生成した痛覚を一時的に鈍くする毒と血を取り戻す薬と傷を塞がりやすくする薬と、またあの落とし穴(人地獄)から貰った毒を打ち消す薬と精神を安定させるお香、それに心安らがせるためにこうして膝枕とともに私の愛を注ぎ続けているのです。だから、今はゆっくり安静にしてください。』


 視界が塞がっているためどうなっているかは分からないが、ていうか想像したくないが、かなり近い――息遣いまで伝わってきているような近距離から、とてもおっとりとした聞きやすい声と子供を諭すような優しく囁きかける口調で誰かかが俺を拘束しながら話しかけてきた。

 どうやら、『人地獄』に落ちた俺を引っ張り出して介抱してくれているようだ。


 じゃなくて。


「エリカ!!お願いだから離してくれ!!この体勢は俺の羞恥心が耐えるに堪えられない。作者が変態だと思われるのは別にかまわないが、このままだと俺まで変態扱いされてしまう!!」

 スカートの中に顔が入った状況を見て第三者はどう思うだろう。

 たとえ女性同士であってもそれは間違いなく変態行為である。

 少なくとも、俺はそう指摘するだろう。

「無理です。」

 断られた。即決。

 何故か、にっこりと笑う姿が目に浮かぶ。そして読者の皆様の白い目も目に浮かぶ。

 それは作者に向けてくれ。

「いや、何も動き回ったりするわけじゃない。ただこの体勢が俺のモラルを崩壊させそうだからせめて――」

「嫌です。」

 即決。

 交渉の余地も与えてくれないようだ。


〈中略〉


 ――十分ほど経過した辺りで、ようやく俺はその拘束から抜け出すことができた。十分間の間に様々な駆け引きやら問答やら叫び合いがあったのだが、あまりにも見るに堪えないものであったので、またあまり見て欲しくもないものであったので、全く残念ではないが割愛させてもらう。

 ……なんというか、精神が疲労するばかりだ。


 そして、俺は相対する。

 エリカと相対する。

 この【ラドン森林】の主であり、奥地の管理者であり、何よりも災害級の化物である。

 

 エリカと俺は相対した。


 見た目は中学生――つまりは13~15歳ほどの少女で、見た目通りに身長も高くない。大体俺の胸辺りほどで、155㎝ぐらいだろう。そもそも、外見だけなら全くもって人間と見分けがつかず、可愛らしい少女にしか見えない。髪の色は艶やかな黒で三つ編みにして伸ばしており、何とも向こうの世界の日本の女子中学生のような容姿だが、目の色は濃い緑色をしていて、尚且つ服も白を基調とし所々に緑色のラインと花や草木の刺繍が入っているワンピースを着ていいて、異国の人といったオーラを出している。黒髪なので着物を着れば似合うと思うし、セーラー服を着れば女子中学生が出来上がる。垂れ目でワンピースも清潔感溢れた色合いなため森の主や化物の雰囲気が全く出ていないのだが。まるで擬態でもしているかのように。頭に付けているカチューシャのような花(花飾りではない)も少女らしさを一層際立てている。


※外見だけの話だが。


 心の中で注釈を入れたところで本題を切り出した。

「まずは現状を確認させてくれ、エリカ。ここは奥地でお前の庭の中ということでいいのか?」

 周囲を見回して俺は言った。

 辺りは明るく、霧もかかっておらず、また魔物の気配も一つとして感じない。

 周りの風景は明らかに俺たちが進んでいた奥地の景色と違い、少なくとも俺が意識を失った場所ではないことだけは断言できた。

 それに、この場所は記憶が確かなら前回この奥地に入った時に訪れた場所だったはずだ。

「ええ、その通りですよ、“ヨウ”。貴方が奥地の途中で死にかけましたので、丁度タイミングが合いまして、あなたをここへ招待いたしました。」

 エリカは頷いた。

 丁寧な口調は相変わらずであり、何ともゆったりとした、決して遅いわけではないが時間の流れが遅くなったかのように錯覚する話し方をする。

 容姿と相まって毒気が抜かれてしまいそうだ。

 まあ、コイツに毒なんて効かないだろうがな。

 人間ものなんて尚更だ。


「――そう言えば、貴方がここへ来るのは二回目でしたね。私と初めて出会った思い出の場所でもありますけど。どうですか?私、ここの“管理”には力を入れているのですよ。」

 微笑みを深べながらエリカは尋ねた。

 俺はもう一度この場所を見渡した。

 あの乱立した鬱蒼と茂っている木々はここにはなく、小さな草原のように草や花畑が見た目綺麗に整頓されていた。そこには幻想的な、まるで蛍のともし火のように朧げな眩い光が照明となって辺りを照らしている。確か、『灯蟲(キャンドル・フライ)』というな虫だったな。魔力や空気の流れが整っている特定の森や水辺付近の草原にしか生息していない割とレアな虫。たまに出店などで売られているが寿命が短く一週間も持たないこの世界で異例ともいえるほど生命力が弱い虫である。そろそろ日没間近だというのにここ一体が明るいのはこの虫たちのせいだろう。そんな『灯蟲』が無数に飛び回っている姿は妖精のようである。

 幻想的な空間というのが俺の素直な感想だった。

 俺には似合わないぐらいに。

 エリカには似合わないぐらいに。

「……綺麗、ではあると思うよ。実際、二回目ではあるがこの風景には目を奪われる。俺の心でも揺さぶられるものがある。――だがしかし、このどうしようもなく苛烈な血の匂いは消せないものなのか?」

 俺はうんざりした様に答えた。

 そんな俺の表情を見てエリカはうふふと笑って言う。

「私、この匂い好きなんです。それはもう、興奮するほど。――貴方と同じように。」

 より一層、笑う。

 淑女の微笑みのように見えるのはコイツの格が高いからだろう。

 貴族の微笑みともまた違う、圧倒的高位者が見せる、あるいは魅せる微笑み。

 それはもう戦慄を覚えそうなほどおぞましく、それでいて美しいものだった。

「確かに匂いを消すことはできないわけであはありませんが。私にとっては造作もないことです。ですが、貴方だって知っているようにここには必然的に匂いが溜まってしまうのですよ。この奥地全体の『吸血樹』の本体の上ですから。」

 


 ――『吸血樹』とは、読んで字の如く血によって栄養を得て成長していく魔草の一種である。本来ならば、群生することはなく一本の紅く染まった樹がぽつんと立っていて、辺りに血の匂いに似た特殊な匂いを散布しそれによって魔物やらをおびき寄せ、近寄った獲物を蔓によって絡めとり直接蔓を突き刺して血を吸う植物である。

 まずもって自然に発生しないのだが、この奥地で乱立している紅い木々は全てが『吸血樹』であり、それらの木々は奥地の最深部に生える幹の太さが半径30mを超えるような巨大な一本の『吸血樹』によって管理されて群生されている。


 ――そう、今俺が立っている幻想的な空間の土台であるこの巨木こそ『吸血樹』だ。

 エリカはこの『吸血樹』をも操っているのだが。


「……一つ訂正を入れておくが、俺は血の匂いで興奮するような変態ではない。むしろ、うんざりしているぐらいだ。血の匂いには飽きている。今までに嫌っていうほど嗅いできたからな。」

 俺は淡々と告げた。そこには嘘も誇張表現も自慢もない。ただの事実。

 戦闘狂やエゴイストや血肉好きではないのだ。

 俺自体は一介の高校生で、暗殺稼業をしているだけだ。まあ、もう高校生ではないが。


 それにしても、ここまで巨大な『吸血樹』に成長させるまでに果たしてどれだけの生物の血を吸わせてきたのだろうか。

 自然発生しない『吸血樹』だが、血を与えてやればたとえ枯れ枝からでも根を地面にはり、増殖することができる。与えた分の血の量だけ生長するので限界値がなく、際限なく成長し巨大になる。

 但し、コストパフォーマンスが悪く、成人男性一人分の血液量では一ヶ月ほどで枯れてしまう。5mほどの樹に成長するのには何百人といった人の血が必要となってくるのだ。

 そんな『吸血樹』をここまでの巨木に育て上げ、尚且つ『吸血樹』を群生させているということは、恐らく何千万~何億といった単位で生物を殺して血を吸わせていることになるだろう。

 

 エリカの手によって。


 何も『吸血樹』だけではない、奥地全体――いや【ラドン森林】全体を管理しているだけでなく、獲物を特殊な匂いを森全体から出して他の地域から誘き寄せたりもできる。コイツにとってはこの森は言ってしまえばただの庭であり、獲物を狩ることも娯楽に等しく、気まぐれで気休めで近くの村や町を襲うこともしたそうだ。


 圧倒的な力を持ち、人間など歯牙にかけない高位者。


 目の前で笑う女子中学生の外見をしたコイツはそう言った化物だ。


 そうそう、言い忘れていたが“阻害(ジャミング)”を【ラドン森林】全域に仕掛けていたのもコイツの仕業だ。

 大雑把に説明すると。

 魔法は魔力を現象へと変化させて発動させるのだが、そのために魔力を一定以上集中させなければならない。しかし、“阻害(ジャミング)”を掛けられると魔力の集まりが悪くなり魔法の発動に必要な分だけの魔力が集中しなくなる。この技術は、魔法を発動させる相手との魔力の相性がよほど悪いか、相手の魔力を掻き消すほどの量の魔力を使ってやっと成功するものである。

 まず、人一人の力では不可能。少なくとも、エルフや魔人レベルの魔力が必要だ。

 それをコイツは魔力を感知させないように上手く森全体に仕込んで“阻害(ジャミング)”を一人で発動させたというわけだ。

 一つの街にいる全ての人を足しても足りないほどの魔力を消費するが、それを三時間以上は――いや、恐らく今日一日は掛けているにもかかわらず、目の前のエリカは全く堪えた様子がない。


 な、化物だろう?


 前回聞いた話だと精霊と神木の類が合わさってできた云わば森の化身のような存在らしい。

 それ故に、怪我をしないし病気にはかからないし年をとっても外見は自由自在に変えることができるし全ての植物を意のままに操れるし魔蟲など使役することもできるし……etc。


 完全に裏ボスである。

 チートがどうこうの話ではない。

 インフレが起きすぎている存在だ。


「――そう言えば、シテンをどうした?」

 ふと思い出して聞いてみる。

 あの時、俺が爆風から庇ってやったので無傷なはずだが。

「シテン?ああ、あの熊のことですか。“ヨウ”を助けようとしたときに今にも襲い掛かってきそうな唸り声を上げていたので、このように――」

 どこからともなく紅い蔓が下がってきて、

「此方で拘束させていただきました。」

シテンが全身を蔓で拘束された状態で降りてきた。

 エリカは微笑みを絶やさない。

「…………。」

 いや、何で駿河問いの縛り方なんだよ。何処でその知識を仕入れた。

 そして何故かシテンの頬が朱く染まっている。

 敢えて無言を貫いた。下手に突っ込むと精神を衰弱させてしまいそうだ。


 俺はため息を吐きたくなるのを必死で堪えて、シテンからまたエリカへと視線を戻した。

 覚悟は既にしている。

 後は野となれ山とれ――というか、ケースバイケースだな。

 少なくとも……、いや下手にフラグを立てるのはやめておくか。


「本題に入るが、エリカにお願いしたいことがある。」

 そう、前置いてから俺は両膝を地面につけて、三つ指を立てて、頭を下げた。

「今回森の中で暴れ回ったことを、どうか許してほしい。」

 

 土下座。

 

「ごめんなさい。」


 謝罪。


 人に対して迷惑を掛けたらすぐさま謝る。

 誠心誠意。

 なんて。

 心が上辺だけな俺に誠心誠意なんてものは全く分からないのだけれども。

 でも、これは教わったことだ。

 あの女性(ヒト)から。生きるための常識として。

 生き抜くためには必要だからと言われて。


「本当ならば、生け贄の一つや二つを献上するべきなのだろうが、生憎さっきの爆発のせいでそれを失ってしまって、今の俺にはこうして謝罪する以外にとれる行動がない。俺のような矮小たる存在の人間なんかにお願いされることはお前からしたら癇に障るかもしれないが、どうか頼む。許してくれ。」


 ペテン師かよ、俺は。

 人の心が全く分からない人間に詐欺行為ができるとも思えないが、少なくともこういったセリフを述べる素質はあるようだ。


 しかし、本音はどうなのだろう。

 誰のためにこんなことをしているのだろう。

 俺はエリカに対して何を思っているのだろうか。

 俺には分からない。


「……つまらない。」

果たして、エリカの返答はその一言であった。

 

 土下座も謝罪もペテン師のようなセリフもその一言である。


「つまらない、つまらない、つまらない、つまらない、つまらない。――つまらないですよ、小布施 陽。貴方は謝罪をして許しを請うような人間ではないでしょう?謝罪なんて弱い者がすることですよ。貴方は違うはずです。私は認めているのですよ。貴方のその強さを。人間でありながら人間の心を持たず、生物でありながら生物を殺すことを躊躇せず、息をするように殺して殺して殺す。私と同等の又はそれ以上の心を持った貴方が許しを請うなんてしない。少なくともこの前に初めて会ったときはそんなことしませんでしたよ。ほら――」


 エリカは白いワンピースをワザと肌蹴させて、女子中学生に似合わない大きめな胸と一緒に胸元を露出した。

 そこに刻まれていたのは傷。

 ザックリと深く鋭く切り裂かれているその傷は人間なら致命傷であり、万が一にも助からないような傷だ。

 俺がよく知っている、生き物を殺すがための最小限の傷である。

 

「うふふ。私はしっかりと覚えてます。貴方と出会った時のことを。貴方は最初から容赦なく私を殺しにかかってきましたから。私は驚きました。まさか、人間如きが鬼のそれとかわりないほどの殺気を纏って、尚且つ正確に的確に私に必殺の一撃を与えるとは夢にも思いませんでした。かれこれ一万年近く生きていますがあれほど酷くやられたのは初めての体験です。私を傷つけられるものなど精々龍か神獣か神程度のものだと思っていましたが。――小布施 陽。貴方が最初なんです。貴方が私を刺した初めての人なんです。あの時胸を切り裂くナイフの感覚は今でも忘れられません。」


 恍惚とした表情で口元を三日月状に上げながらより一層エリカは笑う。

 それはもう、欲しものを手に入れた時のように凄艶せいえんとしたものだった。


 俺はその笑みを見た瞬間、本能的な恐怖故に反射的に警戒態勢に入ってしまった。

 動物的第六感。生命の危機による恐怖を五感以外で察知する。俺という人間は普通の人間よりもその感覚は鋭敏である。

 生きるために生きている俺には最も欠かせないものだから。


「貴方のそんな姿を見ることになるとは。……失望しました。残念です。本当に――残念です。」


 エリカの笑みが消えて一瞬で無表情になる。

 その顔を見るいや否や俺は咄嗟にその場を飛び退いた。

 体中が軋み、嫌な音を立てているがそれどころではない。

 

 俺のすぐ右隣に紅い蔓が振り下ろされた。

 風切音が遅れて聞こえた気がした。

 先程まで土下座をしていた場所は蔓が喰いこみ陥没かんぼつしている。

 直撃したら反応する暇もなく即肉塊(ミンチ)である。

 

 俺はエリカから目を離さないで、エリカを中心に弧を描くようにして走り出した。


「惜しいです。もう少しで綺麗なものが見れるところだったのに。」

 エリカが笑いながら呟く。目だけは全く笑わずに瞳孔を開いているが。


 と、足元が不意に揺れたので地面を強くけって横に跳ぶ。

 すると、三本の紅い蔓が一点でクロスするようにして俺の体が在った場所に突き出る。


「チッ!!結局このパターンか!!」

 回避してぐらついた態勢をすぐに整え、変わらずに全力で走り抜けながら悪態をついた。

 これだけの運動をしているにもかかわらず首筋から発せられる凄まじい冷気は-10℃を常にキープしている。


 この状態を抜け出すにはどうにかしてエリカのことを止める必要がある。

 だが、言葉で説得をすることは土下座が通用しなかった時点で確率はゼロとなった。もともと、人間如きの言葉を聞くような奴でもない。

 言葉が通じないなら戦争――というわけにも、流石にエリカ相手だといかない。はっきり言ってエリカに戦闘を仕掛けるのは自殺行為である。天と地、月とすっぽん、ドラゴンとカエル、バズーカ砲と輪ゴム鉄砲ぐらいの差があって話にならない。

 だが、だがしかし。けれど、けれども。

 ――勝率がないわけではない。

 ポーチやナイフホルダーはなかったが、学生服の中にはまだいくつかのナイフが残っていた。

 大した武器ではないが、殺すには十分すぎるほどの得物。

 勝利は低い。低すぎる程に低い。そもそもエリカは人間が刃向う様な相手じゃないことなど百も承知である。

  

 それでも、勝つなら今だ。



「――よそ見をしている暇はないですよ?」

 エリカが呟くとともに目の前の地面が盛り上がり、そこから五本の蔓が俺を狙って突き出された。

 右足でブレーキをかけて踵を返し反転、そのままUターンを試みる。

 しかし、その行動を読んでいたのだろう。眼前には左右対称にナナメ上から交差して二本の紅い蔓が風切音とともに襲い掛かってきていた。

 挟み撃ちをして俺の逃げる隙間を奪う攻撃だが、抜け道はある。獣道ならいくらでも。

 交差されている蔓と蔓の間、地表から50㎝程だが隙間が空いている。

 俺は迷わずに、反射に近い感覚で、頭からその空間へと突っ込み、そこで左手を地面につけて獣のような体勢をとって前へと駆け抜け、その間留守になった右手で学生服の右袖から仕込みナイフを取り出し、蔓が頭上すれすれを通過するのとほぼ同時にエリカに向けて思い切りナイフを投擲した。


「…………!!」

 心の中では獣に近い叫び声をあげながらも、俺は静かに黙ったままだった。

 それでも、尋常ではないほどの殺気が体の奥底から爆散するように湧き上がってくるのが分かる。

 ドロドロとしたマグマのような黒い何かが全身を乗っ取るように急激に広がる感覚。

 それは決して悪意ではない。

 快くはないが、澄み切った純粋な黒い殺意の奔流であった。


 無茶な体勢で投げられたナイフは、しかし風を裂いてカタパルトによって発射された弾丸のように速く鋭く直線で飛んでいく。

 エリカとほんのわずかな距離にまで迫ったナイフは、そこで地面から勢いよく生えてきた蔓の先端に突き刺さり止められる。

「流石です。本当にゾクゾクしてきました。あの時みたいに楽しませて――――!!なっ!!」

 エリカの言葉は続けざまに飛んできた二本のナイフによって中断される。

 喉元と心臓へそれぞれ蔓を避ける軌道でより速く押し迫る。

 殺気はただのカモフラージュ、最初に投げた一本目のナイフもただの布石にすぎない。

「くっ!!」

 エリカは後ろに飛び退きながら距離をとって上方から蔓を降ろしてナイフを防ぐ。

 エリカと俺の間には三本もの蔓が伸び、お互いの位置の把握を阻害していた。

 

 当然、ナイフの結果を確認するという無駄な行為を俺はせず、蔓を利用して『足無し幽鬼の歩術(ファントム・ウォーク)』を応用し、エリカの死角に入り込みながら全速力で迫りよった。

 エリカに先手を打たせるわけにはいかない。待ってくれるような甘い奴ではないことを俺は既に経験している。

 その距離約20m。

 二秒間で事足りる距離。

 それでも、エリカが体勢を立て直し俺を攻撃するのには十分な時間であった。

 残り10mといったところで、エリカが次の攻撃へと打って出るべくして、既に俺とエリカの間に生えている三本の蔓に加えて、下から四本上から三本追加して合計十本もの紅く染まった蔓を俺に襲い掛からせた。

 俺の視界は紅一色で埋め尽くされて逃げ込む隙間など存在しない。

 しかしながら、目の前を覆う十本の蔓は心なしか挟み撃ちされた時の蔓よりも速度とキレが落ちていた。

 エリカの操作が精彩を欠いている。

 ならば、ここが狙い時だろう。

 

 同じ轍は踏まない。

 踏むぐらいなら跳び越えるまで。

 

「疾っ!!」

 俺はスピードを落とさずに走り込み蔓にぶつかる直前で跳躍した。

 垂直跳びでは越えられない。

 だから、他の蔓の阻害されて動きが鈍い蔓を足場にしてより高く跳び上がる。

  

 蔓を跳び超えてそのままエリカへと迫る。

 既に右手にナイフを握りしめて、エリカを見据える。


 が、如何せん10mの距離をただの跳躍――しかも垂直跳びで詰めるの人間の体ではどうやっても不可能だ。

 恐らく、距離的にはあと8mほどなのだが、ここからエリカにナイフの刃を届かせるには着地して二歩ほど踏み込まなければならない。


 エリカがこちらを見ながら口元を三日月状に歪ませて笑う。

 着地の瞬間を狙っているのだろう。

 

 ナイフを投げてから詰めるという手段もあるが、実は次のナイフをすぐに取り出せない。

 残りは酷く複雑な部分に隠してあるため、抜き取るのに何秒かタイムラグが発生する。

 それでは間に合わない。

 ならばこのナイフ一本で殺しきるしかないのだ。


 さてはて、今まで俺はいろんな“殺し方(ギミック)”を使ってきた。

 体術から始まり、ナイフの投擲、『足無し幽鬼の歩術(ファントム・ウォーク)』、『生命線(ライフ・ライン)』、それに改造された手榴弾も使った。


 体術やナイフ捌きが通常の攻撃。

 『足無し幽鬼の歩術(ファントム・ウォーク)』が暗殺技。

 『生命線(ライフ・ライン)』が切り札。

 手榴弾は裏技にあてはまるだろう。

 

 ……だとしたら、次に使う“殺し方(これ)”は完全に反則技だ。

 禁じ手と言っても過言ではないかもしれない。少なくともこの世界に於いては。


 だから、今まで使わなかった。

 戦い――殺し合いに於いて出し惜しみなどしている余裕はないのだが、こればかりはそうもいかなかった。

 なんせ、この世界『アルス・ミリア』では使われていない能力なのだから。


「『通行制限(リストリクション)』――“CLOSED AREA”――(通行禁止)」


 そう小さく呟くと空中のちょうど俺の足場と為るような位置に円状の形をした半透明な赤い魔方陣のようなものが現れた。しかし、決してそれは魔方陣などではない。元いた世界ではよく日常的に見かけた道路標識の進入禁止を意味する赤に白い線で×マークが描かれたものにとても似ていた。


 エリカが驚愕を浮かべた目でこちらを見ている。

 それが果たして何に対する驚きなのか、やっぱり俺には分からないけど。


 未だに“阻害”は効力を発し続けていているので魔法を使うことはできない。だが、今俺が使っているこの能力は魔法ではない。“psychokinesis”。PK――要はサイコキネシス、超能力のこと。俺が元いた世界では決して多くはないが、確かに使える人間が存在した技術だ。俺は異能と呼んでいたが。科学的に完全に解明されているため、超能力を学ぶためだけの学校があるほどだ。超能力といったら、風を操ったり、発火現象を起こしたり、プラズマを発生させたり、テレポートしたり、宙に浮いたりなど様々なことができると思われがちだが実際には超能力というものはそこまで多芸な技術ではない。単純に言うと、自然に溢れる力をほんの少しだけ弄ることができる能力である。あくまでもPKであるためにESP(=extrasensory perception)のように、テレパシーや予知・透視ができるわけではない。力を弄ることによって風を操り、火をつけ、自然放電をさせ、瞬間的に移動し、浮遊する。この世界にはないオーバーテクノロジーといった代物だ。

 行き過ぎた科学は魔法と区別ができないというが、正にその実例だな。超能力と魔法にそこまでの差はない。

 ただ、今俺が発動しているこの異能はそこまで大したものではない。ほんの少しだけ力を制限しているにすぎない。というより、これ以上は俺には扱えない。何といっても超能力にも才能は不可欠だからな。俺にはない。


 ――空中に現れた赤い標識を足場にして思い切り踏み蹴り、そしてさらにもう一段階発動させる。

「“Acceleration”――(加速)」

 踏み蹴った瞬間、体が異常な速さで跳び出す。

 あっという間に10mの距離を超え、エリカの背後で身を翻し宙返りをする。

 エリカは咄嗟に後ろを振り向くが、俺の方が一瞬速かった。

 宙返りと同時に右手のナイフを水平に斬りつけ、エリカの首を切り裂いた。


 ナイフが光を反射し、俺の手にはしっかりとした手ごたえが残った。

 エリカは目を見開きながら後ろに倒れていく。


 


 


 


 ――ことはなかった。


 先程までの驚愕した表情は一変して愉悦の笑みへと変わり、まだ自由落下を続けている俺の顔を見据える。

 深く切り裂かれたその首筋からは、しかし一滴も血が垂れることはなかった。

 エリカが俺を指さしながら何かを唱えるようにして口を動かす。

 瞬間、着地することもなく俺は吹き飛んだ。

 まるで空気砲のような見えない何か押し飛ばされているような感覚全身を襲う。


 恐らくエリカは魔法を使ったのだ。

 ほんの少しだけ本気を出して。お返しと言わんばかりに。

 

 結果としては俺は敗北したようだ。

 次からはこの反則技(超能力)は使えないだろうしな。

 それでも、まあ上手くやれただろう。一撃を入れることもできたわけだし、献杯献杯。

 エリカもこれでで満足しただろう。

 よっぽど俺に集中していたしな。

 ――だから、

「殺れ、“シテン”。」


「はい、“ヨウ”様。」

 濃い紫色をしたダガーが閃き、空間を一閃する。音もなく振り抜かれた刃は容赦なくエリカの首を撥ね飛ばした。

「なっ!!」

 エリカが再び驚愕する。

 ナイフは布石、殺気はフェイク、『通行制限(リストリクション)』だってただの見世物にしか過ぎない。

本命は俺じゃない。

 エリカが俺に集中しすぎたことでシテンを縛る蔓が途中から緩んでしまったのだ。

 もちろんエリカだって気が付くはずだが、俺がそれをさせなかった。特攻のように攻めてたのだ。

 故に意識から外れた、外された。

 そんな隙を見逃すほど甘くはない。

 そしてシテンには容赦はない。

 拘束から解かれた片耳の猛獣は暗殺者として音も気配もなく背後をとりそのダガーで見た目は女子中学生の首を刎ねた。

 それが事実。


 強かに地面に打ち付けられて、慣性に従い体は二転三転する。受け身をとりつつ感想が頭の中に浮かんだ。

 やっぱり、シテンは優秀である、と。











 







 俺はこの時、今回の件はこれで終わったと思っていた。完全に終了し、後は帰路に就くだけだ。そう言えば、暗殺ギルドのギルドマスターのことをシテンと話したり、虐殺した盗賊のような奴等のことも調べておかなければならないな。そうそう、【ドルガーノ】の鍛冶屋にメインウェポンをメンテナンスしてもらっていたので帰りに取りに行くか。そして【ナナ・ルーヴァ】に戻ったらウェイターのアルバイトでもするか。

 とりとめのないことを考えていた。

 しかし、どうやらもう少しこの話には続きがあるようだ。

 終わらない。終わらせくれない。

 俺が甘いのか、世界が厳しいのか。

 どちらでもいいことだが。

 結局、俺にできることは限られているわけだし。


〈中略〉


 三十秒後。

 俺とシテンは再び、紅い蔓によって拘束されいた。大したこともなさげに刎ねられた首をくっつけて復活したエリカは、いとも簡単に俺たちを拘束し、磔のようにして蔓で俺らの自由を奪った。関節を一つ二つ外した程度では抜けられそうにもない縛り方であったため、早々に抵抗を諦めて目の前で恍惚とした表情でこちらを見てくる化物(エリカ)を眺めていた。エリカは流石に首はくっつけて元に戻したが、俺が切り裂いた喉元の傷はそのまま残している。血は流れていないがかなりショッキングな光景ではある。それを実に愛おしそうに触りながら、どこからから取り出した鏡(鏡台)を使ってまるでネックレスを付けた時のように傷を確認し、時折此方を見ては顔を赤らめてくるエリカはもう理解の範疇を超えていた。当然、拘束されているのでこちらとしてはやることが無くかなり暇を持て余しているが、できればさっさと拘束を解いて日が暮れる前に帰らせてほしいものだ。それにまだ完全に傷も治ってないので、というかエリカとの戦闘で傷が再び開いたので、結構な激痛が体を襲っている。しんどい。横を見るとシテンが相変わらずの無表情で張り付けられていて、どこかしら余裕のありそうな感じで黙っている。何故か俺がこの場にいるのが酷く場違いな気がしてきたが、そんなことを考えても仕方がない。しかし、だからと言って他に何か考えることがあるわけでもなく、拘束されているこの状況では結局何もできないので、痛みに耐えながらエリカが元に戻るのひたすら待っていた。




 ……まさか三十分も経過するとは。【ラドン森林】を抜けるには最低でも一時間はかかるので(魔物や危険地帯を無視して突っ切った場合)、もう日没までに森を抜けるのは無理なようだ。

 いい加減に拘束を解いて降ろしてもらいたい。

 何とか身をよじって鬱血うっけつしないように気を付けているがしんどい。背中の傷も熱を帯びている気がする。

 と、大いに心労が溜まったところでやっと鏡をしまったエリカが俺らに向き直った。


「うふふ。やっぱり“ヨウ”は素晴らしいです。ここまで深い傷を私にくれるなんて。うふふ。本当に素晴らしいです。ねぇ、“ヨウ”。提案があるのですが。人間をやめてここで私と一緒に暮らしませんか?」

 唐突な提案である。

「悪いが断る。」

 即答。

「どうしてですか?まさ人間をやめたくないというようなくだらない理由ではないですよね。」

「今は少しばかり厄介ごとを溜め込んでいるんだ、それが解決したら――」

「――解決したら、一緒になってくれるのですか?」

「…………かもな。」

 はぐらかす。予定は未定ということで。

 まあ、悪くはない提案ではあるが。特に、俺のような人間にとっては。

 人間と暮らすよりはよっぽど気が楽だ。

 人と心を通わすことは難しい。

 思いやりも、心遣いも、助け合いも、分かち合いも、愛情でさえも。

 俺にはどうもただの枷のようにしか思えないようで、生きることを邪魔されているようで、酷く疲れるだけだ。

「なあ、エリカ。お前には好きなものって何かあるか?」

 素朴な質問。違うな。これは確認作業のようなものだ。俺を確かめるための。

「好きなものですか?唐突ですね。そうですね、たくさんありますよ。長い時間を生きてきましたから。」

 エリカは答える。やはりそこには脚色などないただの事実が述べられている。

「それでも強いてあげるなら、今のこのひと時が好きですね。今までにはなかった経験です。」

 そうだよな。やっぱり俺とエリカは違う。

 根本的には人間ではないエリカと人間であっても人間の心を持っていない俺は確かに共通点の多い近しい存在ではある。でも、似てはいない。同じにはなれない。

 たとえエリカは化物であっても、心はあるのだから。

 寂しいわけではない。妬ましさや苦しさは生まれない。悲しみなんてもってのほかだ。

 辛くも痛くもしんどくもないのに、無関心にだけはなれない。

 無為にはならない。

 上辺だけの心でも、どうやら心ではあるようだった。

 同時に思う。まだ、生物ではあるのだと。生きようとして心を保ち続けているのだと。

「エリカ。俺はお前とは違って心がかなり異常らしい。好きだと言えるものが、確信を持てるものがない。他人に好まれていたり嫌われていると判断することはできる。でも、その判断はただの常識論なんだ。」

 人に好かれていると、嫌われていると、どう反応するのかを教わったから。

 教わらなければ分からなかったから。

 だけど、自分がどう思っているかだけは、――いや何かを思っているのかどうかすら曖昧だ。

 人の形をしているのに、人の心を持っていない。

 だけど、

「それでも俺は生きてこれた。生きようとして生きてこれた。だから、これからも同じように生きていこうと思う。生きるために生きる。たとえどんな手段を使ったとしても、どれだけの生物を殺したとしても、俺は生きる。生き抜く。」

 変われないのなら、変わらなくていい。上辺だけの心でも生きるのには十分だと今までの過程で分かった。

「そして、そんな俺のような異端な存在でも一緒にいてくれる奴はいた。俺を好いてくれる奴もいた。」

 異端であっても独りではなかった。異常であっても孤独ではなかった。

 一人ではない。たくさんはいないけれど確かに俺の周りにはいろんな奴がいた。

 そして今もいる。

 シテンやエリカのような俺の周りにいてくれる存在が。

「――そう、エリカ。お前らのような奴のために生きることは、どうやら俺にとっては生きる理由になりそうだ。」

 そこにあるのはただの義務感だろう。俺はそう感じた。

 だけど、結果的に俺もみんなも生きられるのならば恐らく最善策だ。

「だから、ここにはまた来るよ。エリカが望んでくれるなら是非もないことだ。」

 今の俺にはこれが精一杯。

 上辺だけの心で取り繕うにはこれが限界値だ。

「……………………………………。」

 エリカはしばらく呆然としていた。

 そして、破顔させて蕩ける様な笑みを浮かべた後、俯いて自分自身を抱くように両腕を絡ませて震え始めた。

「うふふ。うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。――凄い、凄すぎます。まさかここまで悶えてしまうなんて。興奮してきました。うふふふふ。」

 そしてひとしきり笑い終えた後。

「分かりました。貴方が来るのを待ちましょう。“ヨウ”、やはり貴方は貴方でしたね。今日の件については許しましょう。――但し、一つ条件があります。“ヨウ”目を瞑ってください。」

「…………?」

 言われたとおりに目を瞑る。

「動かないでください。」

 俺の顔の近くでエリカの声が息の音と共に聞こえてきた。

 と、少しした時だった、俺の唇に何か柔らかくて暖かいものが当たり、そして唇をこじ開けるかのようにして中に何かが侵入してくる。

 温もりを感じさせるような優しい感触が口の中に広がる。

 つまりは、多分接吻くちづけられた。

 十秒ほどでそれは終わり、

「これで今日のことは許してあげます。ついでに、体の傷も早く治るように薬を飲ませました。」

 目を開けると、そこには俺よりも目線が高い長身の黒い長髪を三つ編みにしている着物が似合いそうな垂れ目の女性がたっていた。

 淑女のような笑みを見せる彼女はどこか扇情的で綺麗だった。


〈中略〉


 かくして、俺とシテンは拘束を解かれ、エリカへの謝罪は功を成し、結果的に世界の平和は保たれた。

 

 おしまい。













 なんて。


 さてはて、そんなにすっきりと終わっていいものなのだろうか?

 おかしい。

 何かが変だ。


 一つ一つ整理していこう。

 俺がこの【ラドン森林】に来たのは依頼であるフリー討伐をこなすため。

 シテンはそんな俺を尾行。

 オーガなどの中級ランクの魔物が現れたのは、恐らくエリカが故意的に呼び寄せたため。

 途中でシーフもどきに遭遇して、それを虐殺。

 待ち伏せされていたようだ。

 五人ほど逃したが既に気配は消えている。

 魔物にでも喰われたのだろう。


「待ち伏せ?この森に。」

「…………”ヨウ”様?」

 シテンが無表情でこちらを見てくる。

「なんで森の中に隠れる必要がある。殺すなら、別に郊外ならどこでもいいはずだ。それこそ、道中で襲ってもいいはずだ。」

 この世界では街を離れてしまえばほぼ無法状態である。ならば態々魔物に襲われやすい森の中で待ち伏せをする必要はない。

「森の方が殺しやすかった。は、ないな。だとしたら弱すぎる。」

 というか、完全に森慣れしていない動きだった。

「それじゃあ、殺すことが目的ではなかった、または今日殺す予定ではなかった。たまたまバッティングしてしまって引くに引けない状況になった。――それとも、実はまだ終わっていない。これから殺す予定で、奴らはただの捨て駒だった。」

 どうだろうか。俺一人のためにそこまでするだろうか。

 自問自答。

「俺を殺すことの利益は…………。ほとんどと言っていいほど、ない。」

 それこそ、仇討ぐらいしか。復讐ならいつでもある。

「じゃあ、俺を殺すこと以外の利益は……。」

 盗賊ならば、俺の持ち物や財産を奪ったり、権利や情報を入手することぐらいだろう。

 情報が漏れた、のか。

 例えば、俺が隠しているものとか。財産とか。

 漏れるような、そんな相手に心当たりは――。

「いや、漏れたんじゃないな盗んだのか。シーフなら。正しくは盗賊(シーフ)ギルドなら、できないことはないだろう。」

 ギルドには設立すると同時に権限と義務が与えられる。

 冒険者ギルドはもちろん。たとえ、暗殺ギルドだろうが盗賊ギルドだろうが、そう言った裏のギルドであってもあることにはある。

 それを駆使すれば、情報屋の連中から、あるいは冒険者ギルドなどの表の役員の連中から俺の情報を引き出せるかもしれない。

 問題は、

「――何を盗んだか、か。」

 いや、結論は出ているけど。



「エリカ。一つ聞いてもいいか?今日この奥地に俺たち以外に何人か入って行かなかったか?具体的には五人ぐらい。」


「ええ、入ってきましたよ。討ち残し。確か、」

 とそこで、紅い蔓に絡まった人間(多種族含む)が見るも無残な散々たる恰好で降りてきた。

「――この、四人です。」


 屍が一つ足りない。

 どこかへ逃げた。

 どこへ逃げる。

 俺ならば、逃げるには。

 街は遠い。

 だとしたら、村?


「……厄介なことになってるな。」


 そう、素直に感想を述べたところで爆発音が上がった。

 そこまで大きな音ではないのはここから十分な距離が空いているからだろう。

 実際この距離からでも立ち込める黒煙が筋になって空に上がっていくのが見えた。

 この奥地の中心から真南――ちょうど【ドルガーノ】の村がある辺りで。


「…………。」

「成程。面白いことになってますね。……それで、あれは私が片付けていいですか?」

 相変わらず無表情で静かなシテンと、丁寧な口調でどこか格式高いエリカの笑み。

 しかし、もう俺にはこいつらにかまっている余裕はなかった。

 いや、余裕どころか時間もない。

 

「エリカ、俺のナイフホルダーを返してくれ。シテン、お前の持っているダガーも貸してくれ。」

 やることはただ一つ。

 いつも通り、殺すだけ。


「まさか、その体で行くのですか?流石ですね。解毒されているとはいえ体力は相当失っていますし、血も大量に流しているのですよ。確かに、貴方は前回私と戦った後、私が直接打ち込んだ毒を追いながらも一人でこの森を抜けていきましたが、それで何日かは寝込んだのでは?」

 エリカは俺のことを見ているかのようなことを言った。

 多分、羽虫かなんかを操って俺のことでも監視していたのだろう。

 薄々は勘づいてはいたが。

「別に、それのどこに問題がある?」

 俺のやることに支障は出ないだろう。

 いつもやってきたことだ、たかが体の不調くらいで辞める理由がどこにある。

「うふふ。やっぱり貴方は貴方ですね。ですが、そうだとしたら気になりますね。――“ヨウ”、貴方の性格ならば、いえ、貴方という生物ならば、たった一つや二つの集落が潰されたところで、村や街が消えたところで、気にも留めないのでは?貴方は殺すことが本業であっても、助けること救うことは考えたりしないのでは?」

 エリカは言う。

「貴方はいったいこれから何を成し遂げに行くのですか?」

 俺へと問いを突きつける。


「――仕事だよ。いつも通り殺すことが本業の暗殺の依頼だよ。頼まれて雇われただけさ。村のために、村を守るために人殺しをしてくれと。」

 俺は暗殺者でもある。

 仕事は割と真面目にこなす方だからな。

 

 そんなことを呟いて、一歩前に踏み出す。

 未だに体の痛み――特に背中の痛みは熱を発して続いている。

 骨が軋むような音を立てて悲鳴を上げ、筋肉や腱がギチギチと張って疲労を訴える。

 だけど、これくらいならいつものことだろう。

 少なくとも、昔暮らしていた実験施設での日々よりは随分と楽だ。


 二歩目を踏み出した瞬間、眩暈とともに体がふらついた。

 体幹のバランスが狂ったのか、脳の平衡感覚がいかれたのか、熱による眩暈か、貧血か、それとも疲労からくる睡眠欲か。

 もしかしたら、この世界で超能力という全く次元が違うものを使った副作用かもしれない。

 初めてこの世界で使った時はたった一回で気絶しかけたからな。

 しかし、どうでもいい。

 倒れる程ではない。

 仕事(殺し)を破棄するほどでもない。


 そのまま進んでいこうと思っていたが、目の前に立ちふさがるようにして人影が現れた。

 2mを超える身長と、熊種(グリズリー)としての体格は確かに威圧感を覚えるものだ。

「……“ヨウ”様、ここはお引きください。安静にして体を癒してからこの森を出ましょう。」

 ダガーを構えたシテンがこちらを無表情で見つめながら、しかし、殺気をほとばしらせて悠然と立塞がっている。

 俺が気に入っているシテンは熊種(グリズリー)なのに物静かで理解力があって、決して無謀なことをしないシテンだ。

 だからこそ、言うぞ。

「どけ。殺すぞ。」

 俺はいつもの事のように、淡々と言い放つ。

 エリカの時みたいにフェイクで殺気を放ったりすることもない。

 それが、本来の有るべき俺である。


 ダガーが閃き右から首を刎ねるようにして俺に襲い掛かってくる。

 俺は避けようとはしない。

 防ぐ気すら湧かない。

 シテンがそのダガーを振るうよりも速く、俺は既にシテンの懐へと体勢を低くして潜り込み、そのまま踵落としの要領で回し蹴りを首筋へと打ち込んだ。

「……っ!……」

 容赦も躊躇いもなく蹴り込んだその一撃はいとも容易く、シテンの意識を奪う。

 前かがみに倒れ込んでくるシテンを片手で支え、それでもなお握りしめているダガーをするりと引き抜き、ゆっくりとシテンを降ろす。


「……容赦ないですね。」

 エリカが後ろから声をかけてくる。

 俺はダガーの握り具合を確認して、左手から右手に持ち替え、後ろを振り向くことをせず前に進む。

「本当に貴方は凄いです。私などとは比べものにならないほどに。」

 爆音や煙から大体の位置と場所は分かる。

 加速し続ければ十分に間に合う距離だろう。

「……“ヨウ”。いえ、小布施 陽。どうか、気を付けて。」

 俺は一度も振り返ることをせずに、後ろから飛んでくるそれを左手でつかみ取り、ダガーの持ち手を口に咥えて、受け取ったナイフホルダーを両手で腰に巻き付ける。

 首を一度“コキン”と鳴らし、再びダガーを右手で握る。


 それじゃあ、始めよう。

 

 ゆっくりと、意識が消えて思考がクリアになっていく。

 半ば強制的に最も効率化され最適化される。

 人が最も動くのに適した状態――無意識へと俺は意識的に飛び込んだ。


「『通行制限(リストリクション)』“Acceleration”――(加速)」

  

 無為な行為は始まりを告げる。



















 ここから語られることは小布施陽が行ったことの一部始終にしか過ぎない。

 例えば、小布施陽が思ったことや考えたこと、それに彼のその感情は語られることはない。 

 何故なら、彼はこの時意志や決意をもって行動しなかったからだ。

 無意識。

 それは彼が彼たる所以の代物である。

 正確に言うのならば、彼は意識的に無意識状態へと入り込むことができる。

 意識的に無意識になっているため目的を達成するためだけに彼の思考は回転し、最も効率がよい最適化された行動を本能のままに行う。

 ただ目的を達成するがための無機物的な、それでいて本能のままにしか動けない生物的な矛盾した行為を彼はやってのけることができる。

 それが彼の本質。

 生きるために殺し、殺すために生きてきた彼の原点にして全てである。


 


 ――【ラドン森林】の真南、ほとんど森に密接するような場所にある【ドルガーノ】の村は、崩壊しかけていた。陽がエリカと戦って約三十分ぐらいたった頃、村はとある組織によって襲撃を受けて闘争する事態に陥っていたのだ。組織は【ナナ・ルーヴァ】に拠点を置く裏ギルド、“狡猾な牙(ガイル・ファング)”という盗賊(シーフ)暗殺者(アサシン)や傭兵崩れのゴロツキなどで構成され報酬をだせば強盗や暗殺や隠蔽工作や拉致・誘拐などの汚れた裏の仕事をすべて請け負う俗に云う盗賊(シーフ)ギルドの派生である。このギルドは性質たちの悪いことに、元々大きな盗賊団だったものがギルドへと名前を変えただけで、幹部やギルドマスターはその盗賊団の有力者が占めており、私利私欲のために依頼を受けずとも勝手に強奪や襲撃を行うことがある。もう、元の盗賊団と何ら変わりがないがそれでもギルドはギルド。取り締まるにも街に拠点を置くことができるような巨大さは迂闊に手を出せるものではない。更に、そういったギルドへ依頼をするマフィア組織などともつながっている。そこまでの組織を相手に、街や王都、又は冒険者ギルドのような強い権力を持った組織ならまだしも、辺境にある小さな村では到底その襲撃から身を守ることは不可能であった。


 村で三度ほど爆発が起こりあっという間にバリケードである木の壁は壊され、傭兵崩れの屈強とした男たちが抵抗してくる村人次々に殺し、家々や倉庫は荒らされて金目の物を根こそぎ奪い取られる。

 悲鳴を上げ死に物狂いで逃げる女・子供が捕まるのも時間の問題だった。

 


「やめろ!!近寄るな!!ここは俺の店なんだ入って来るな!!」

 村に一軒だけある鍛冶屋の前で、まだ十二歳ほどの少年が自分の体躯に合わない大きな両手剣を盗賊相手に振り回していた。

「お前らみたいな盗賊なんかに俺の店の武器をとらせてたまるか!!」

 ブン、ブンとやみくもに振り回しているが、まだまだ剣を振るための体ができていない少年では、逆に剣に振り回されている。

「うるせぇ!!邪魔くせぇんだよ、餓鬼!!」

 当然のようにそんなものが当たるわけもなく、思い切り腹部を蹴り抜かれて少年は転がった。

「うっ!――ゲホッ、……ぐ。くそ、お前らなんかに、やられるかっ!」

 少年は悶絶しながらも、立ち上がり再び盗賊に立ち向かっていく。

「しつけんだよ!!」

 少年の振りかぶった剣は簡単に弾き飛ばされて、胸ぐらをつかまれる。

「……うっ、ぐ……。お前ら……は……ゴミ……だ。人の物を……奪うことしか……でき……ない、低能な……ゴミだ。」

 しかし、苦しみながらも少年は決して抵抗をやめない。

 胸ぐらをつかまれてなお、鋭く盗賊の顔を睨みつけ言葉を吐く。

「……お前ら……なんか、全員……死ね。兄ちゃんに……殺され……ろ。」

 少年は地面へと思い切り投げつけられた。

 立ち上がる暇もなく何回も何回も蹴り続けられる。


 やがて、反応を示さなくなった少年を一瞥して、唾を吐き、盗賊は鍛冶屋の方へと歩いていった。

 

 怒りと憎しみが込み上げてくる中、少年はそれを見つめることしかできない。

 悔しさから涙が込み上げる。


 ――盗賊が鍛冶屋の戸を蹴り破ろうとしたその時のことだった。


 一瞬、風が通り抜けた。


 少なくとも、少年にはそう感じ取ることしかできなかった。


 だが、盗賊にはそれを感じ取る暇すらなかっただろう。

 それでも、結果は目にすることができた。

 盗賊の喉からは鋭く紫色をしたダガーが突き出していた。


「……あ、……が……。」


 ダガーが引き抜かれるとともに大量の血を噴き上げながら、盗賊は地面に倒れ、そのまま動かなくなった。

 

 血飛沫を上手く躱し、ダガーについた血糊を軽く払って、視線を少年へと移動する。

 

「“ヨウ”兄ちゃん、来てくれたんだ。……ありがとう。」


 返事も頷きもせず、視線を騒がしい村の中心へと戻した彼――小布施陽は再びダガーを構えると、風のような速度で駆け出して行った。


 



 今回【ドルガーノ】の村へのへの襲撃の首謀者であり、また“狡猾な牙(ガイル・ファング)”の指揮を執っているのはジャック・A・デリタという男だった。

 彼は“狡猾な牙(ガイル・ファング)”の三代目のギルドマスターで、同時に【ナナ・ルーヴァ】で数少ないA+ランクの冒険者の肩書を持つ相当な実力者である。

 また、その権力もかなり大きい。

 “狡猾な牙(ガイル・ファング)”という裏ギルドが【ナナ・ルーヴァ】で巨大になったのは実のところ彼の影響おかげである。

 Cランク以上の冒険者はそこらへんのゴロツキ程度では全く刃向えない実力者で、さらにその上のBランクでは悪人が避けて通るほどだ。

 AやSランク以上になるともうそれは一つの組織と同等のレベルであり、マフィアなどの裏組織や例え軍や騎士団であっても迂闊には手を出せない。

 特にジャックの実力は折り紙付きでそのあまりにも残酷な戦い方から『血濡れの虐殺師』や『冥界の惨殺鬼』などといった通り名で恐れられている。

 また、気性が荒く盗賊としての性か欲しいものはどんな手段を使ってでも手に入れようとするため、今までにいくつもの組織や村などを壊滅させてきたことも人々を恐怖させていた。


「――だからさぁ、この村の何処に隠してるかを聞いてるんですがぁ。」

 少ししわがれた低い声で、薄汚れている錆びた鉄のような暗い赤色をしたコートを被っている線の細い男は尋ねた。その男は両手で鋼でできている丈夫な鎖をジャラジャラと鳴らしながら弄ぶ。

情報(ネタ)は上がってるんでさぁ。お前ら、はぐらかさないで正直に言ってもらえると助かるんですがぁ。」

「そんな、【ラドン森林】の奥地にいる魔物の素材など私たちはしらない。第一、奥地は立ち入りが禁止されているんだ。入るわけがないだろう。」

 質問に答えたのは、両手両足を縛られて地面に転がされている若い男性だった。

 服は汚れ、顔には何かで殴りつけられた跡と多少の血が付いている。

 地面に這いつくばりながらも抵抗の意思をもって線の細い男を睨んでいた。

「それに、奥地に入ったところで生きて帰ってこれるわけがない、あそこに入って帰ってきた人間などいないのだから。」

「うぜ。」

 瞬間、線の細い男が持っていた鎖が地面に転がされている男性の顔に投げつけられた。

 手足を縛れられているので、避けようがなくまともに顔面へ直撃する。

 若い男性は痛みによって苦悶の声を上げて地面を暴れるが、線の細い男はその男の頭を踏みつけて動きを止めた。

「そんな誰でも知っているような一般論はもう聞き飽きたんですがぁ。村長さん、隠しごとしないでくれますかぁ。」

 線の細い男は踏みつけている足に圧力をかけながら言う。

「C+ランク冒険者、“ヨウ”って奴がさぁ。この村を拠点にして活動しているですがぁ。そいつがなんと奥地から素材をこの村に持ち帰って加工しているという噂がオレの耳に届いたんでさぁ。そりゃあ奪わなきゃもったいないもんですからぁ。この村を潰して奪おうとしてんですがぁ。」

「知らないな、そんな名前の者など。」

「嘘つきはやめてくれますかぁ。他ならぬこの村人のチクリでさぁ。」

「何!?」

 はあ、と線の細い男はそこで一旦足をどけて溜め息を吐いた。

「もういいや。潰してから根こそぎ奪えばいいかぁ。」

 そして、新たに取り出した鋼の鎖――但し先端には成人男性の頭がい骨程の大きさの鉄球が付いている――を本気で若い村長の頭へと投げつけた。


 


 ジャラリ、と鎖を鳴らし薄汚れた暗めの赤のコートを着ている男、もといジャック・A・デリタは舌打ちをした。

「全く。どいつもこいつも使えないもんでさぁ。森に待ち伏せさせた連中は遅ぇし、村人は情報を吐かねぇし、未だにこの小さな村を潰しきれねぇでいるしさぁ。」

 悪態を漏らし、不機嫌な表情が顔に浮かんだ。

「手っ取り早くオレが行きゃあ良かったかぁ?」

 鎖を鳴らしながらジャックは、地面に転がっている屍を蹴った。

 この村の村長であったそれは既に無残な屍として血の水溜りに伏せていた。


「デリタさん、大変です。森に送ったウチ等の仲間が一人を残して全滅しました!!」

 一人の盗賊がジャックの元へ慌てた様子で駆けつけてそう伝えた。

 その後ろからは肩車をされながら、ボロボロな状態で一人の盗賊が連れてこられた。

「はん。……失敗したぁ?」

 満身創痍なその男を見てジャックは言った。

「……申し訳ありません。私たちの力ぶそ――」

 ボロボロな男は小さな声で謝罪の言葉を伝えようとしたが、途中で鉄球が顔面へ飛んでいき頭を潰されて紅い血が飛び散った。

「使えねぇな。ほんとにさぁ。」

 明らかに憤りが篭った口調でそう呟き、ジャック鎖を手繰り寄せる。


「マスター!!大変だ!!」

 今度は別の盗賊がジャックに焦った様子で駆けつけてきた。

 今度はなんだと、口にはしなかったが、既に怒りが溜まっている状態で目線をその盗賊へとジャックはむけた。

「いきなりあらわれた一人の黒い服の野郎がとんでもねぇ速さで動いて、うちのギルドの連中を殺しまわっててる!!あまりにも速いて、それでいて強いもんだから抵抗する間もなくあっという間殺されちまった。もう、五割は殺されていますぜ!!」


「はぁ?」


 と、ジャックが疑問の声を上げるのもつかの間、目の前にいた盗賊は背後から突然首筋に伸びてきたダガーによって、その頸動脈を抵抗する暇を与えずに切り裂かれた。

 切り裂いた張本人は黒い服を着て紫色のダガーを持った一人の少年だった。 


「なっ!!てめぇ!!何もんだ!」

 先程、殺された盗賊の一足前に報告をしに来た盗賊がいきなり現れたに少年に驚きつつも曲刀を構える。

 が、遅すぎた。

 既に、狙いを付けられて襲い掛かられていたその盗賊の眼前には少年が迫っている。

 慌てて水平に右から曲刀を斬りつけるが、少年の左手に握られているダガーに上へ流す様に弾かれ空を斬る。

 盗賊は曲刀を弾かれたことにより体は完全にがら空きとなり、曲刀を戻すよりも速く少年の右手にいつの間にか握られていた大ぶりのナイフによって心臓を一突きされ、動きが止まり、盗賊はそこで腹部に思い切り蹴りが入り飛ばされた。

 そしてもう一人、森へ行ってボロボロとなった仲間を肩車していた盗賊は――

「ひっ!く、来るな!がっ!」

 完全に腰が抜けているところへブーメランのように、しかし、弓矢で射たかのような速度で飛来したダガーが首に突き刺さり崩れ落ちた。


 

 ――そして、小布施陽は相対する。

 左手にシテンの紫色をしたダガー、右手に『斬魚(ざんぎょ)』のヒレで作られた大ぶりなナイフを構え、まるで虚構でも見つめているかのような虚ろで無機質な目で目的を見据える。

 

 ジャック・A・デリタは敵視する。

 怒りで臨界寸前だった思考は先ほどの小布施陽によって作られた鮮やかすぎる惨殺の光景で一気に冷やされ、相変わらず鎖を弄びながらも冷静に、目の前の異常な存在を観察していた。


「お前が“ヨウ”かぁ。なんとも鮮やかにウチの連中を殺してくれるなぁ。」

「…………。」

 小布施陽は答えない。

「成程。それぐらいの殺しの技術をもっていりゃあ、森に送った連中なんぞ簡単に殺れるかぁ。」

「…………。」

 小布施陽は押し黙る。

「お前が奥地から魔物の素材を持って帰った、って噂があるんですがぁ。それは本当なのかぁ。」

「…………。」

 小布施陽は喋れない。


 その様子を見てジャックは小さく舌打ちをした。

 もともと、気性の荒いジャックはいつもよりはマシといえ沸点は低い。

 

「死ね。」


 だから、先に仕掛けたのは恐らくジャックだった。

 殺気を迸らせながら、鉄球のついた鎖をいつのものように陽の頭へと投げつけたのだ。

 しかし、先手をとってはいなかった。

 いや、どう見てもジャックの方が速く動いたのだが、それもほとんど目に追えないような早業であったのだが、それを上回り、後手であったはずの陽がナイフを同時に三本、しかもジャックの投げた鎖よりも速い速度で投擲したのだ。

 これにジャックは当然驚いた。

 もちろん、陽が投げたナイフの異常な速さにも驚いたが、それ以上に陽がナイフを投擲するモーションが全くもってジャックには見えなかったことに驚いていた。

 投げた仕草が一つとしてなかったはずなのにいつの間にか陽はナイフを投げていて、それに気づいたのはナイフが目の前に迫ってくる時だった。

 早業というよりも、ノーモーション。

 マジシャンのように投擲の仕草を隠したのだ。

 最早曲芸ともいえる技だが、意表を突き、不意打ち・暗殺をするにあたってこれほど適している技もない。

 一介の人間ならば何をされたか気づく前にナイフが脳や心臓に突き刺さり即死する。戦い慣れている戦士や兵士が相手だとしても反応することはできても急所を庇うのが精一杯で避けることはまず無理だろう。

 

 しかし、ジャックはそのレベルをすでに超えている。 

 咄嗟の判断で投げつけた鉄球付きの鎖を手放し、飛んできた三本中二本のナイフを身を捩じるようにして避け、残った一本のナイフをコートの中に常に隠し持っている鎖に当て弾いた。

 そして、防いだ隙を狙って繰り出された陽のダガーによる首を斬ろうとする右側からの一撃を、ジャックは懐から抜刀した小刀で受け止めたのだ。

 

「甘ぇ。」


 刃と刃がぶつかり合う金属音が鳴り響くのと同時に、ジャックの蹴りが攻撃によって無防備になった陽の左脇腹に振り抜いた。

 防ぎようがない蹴り。

 だが、陽はその蹴り敢えて突っ込むことで威力が最大になるインパクトのタイミングを外して蹴りを強引に抑えた。

 本来ならば、ジャックの蹴りはあばら骨の一本や二本を折るほどの威力があるが、インパクトのタイミングが外されたことで弱まり、結果陽は蹴り飛ばされることなく踏みとどまり、むしろジャックの蹴りが抑えられたことで隙を生み出してしまうこととなった。

 すかさず、苦悶の表情を見せることなく振るわれた陽の右手に握られたナイフがジャックの首を襲う。

「チッ!」

 ジャックは舌打ちをしながら後ろへと飛び退ることで回避を試みるが、わずかに首の皮を掠め少量の血が飛ぶ。

 痛みなどあってないようなものであったが、目の間にいる陽は止まることなく踏み込んで、ジャックが完全に着地しきる前に腹部へと追撃の蹴りを打ち込んだ。

「がはっ!!」

 ジャックは思わず空気を吐き出すが、痛みに気をとられている場合ではない。

 たかがCランクの冒険者にここまでやられるとは思ってもいなかったが、これ以上は油断も出し惜しみもしていられない。

 殺されてしまう、と素直にジャックは戦慄していた。

 先程の数秒の攻防で陽の実力はCランクのそれではないと分からされた。

 そして何よりも、異常なまでに殺し技が優れているということも感じ取っていた。

 暗殺者かそれに近い何か。

 ジャックはそのように小布施陽のことを推測していた。

 ここでカタを付ける――ジャックはそう覚悟した。


 ジャックは先ほどまでの戦闘を決して本気で行っていなかったわけではない。

 しかし、手は抜いていた。全力ではない。

 何故ならジャックはまだ一度も魔法を使っていないのだから。


 蹴られた腹部の痛みを無視して足を踏ん張り、陽のことを睨みつける。

「“|灼熱の炎よ、その業火によって標的を塵とせよ《ロプスミネ》”」

 短い詠唱ながら、それでいても村のバリケードを一撃で焼き尽すほどの威力を持つ火球を生み出す魔法。

 魔導士のように魔法を使うことを専門としているわけではないジャックではあるが、それでも決して魔法を使うのが苦手なわけでなく、むしろ炎や爆発などを起こす魔法に関しては魔導士をも凌ぐ才能を持っている。

 鎖を使った特殊な戦闘技術と高威力の魔法行使がジャックのAランクたる所以である。

 そして、詠唱された魔法は巨大な火球を生み出して、詠唱の通りに標的である小布施陽のことを塵となるまでに焼き尽くす。




 ――筈だった。


「……魔法が発動しねぇ。」

 そう、まるで何者かに“阻害(ジャミング)”されたように魔法が使えないのだ。

「何故だぁ。お前何かしたのかぁ。」

 ジャックの疑問はもっともである。つい、十分もしないうちにこの村のバリケードを破壊するためにジャック自身は魔法を使ったのだ。

 問題なく、いつも通りに魔法が発動したのだ。

 しかし、今この場では発動しない。

 小布施陽がいるこの場では発動しない。

 ――そう、ジャックが考えても無理はなかった。

 

 睨みつけられている陽本人は全くもって反応を示さず、無表情な顔で、無機質な瞳で、ジャックのことをただ見ているだけだ。


 そこで、ジャックは違和感を感じた。

 先程まで容赦なく隙を狙ってきた陽の連撃が止まっているのだ。

 魔法が使えないという決定的な隙を見せたにもかかわらず、陽は動かなかった。

 何故。

 

 と、今更ながらやっとのことでジャックは自分の体を蝕んでいる高熱に気が付いた。

 体中が熱い。

 そしてそれは段々と焼けるような痛みになっていく。

 ジャックはこれと似た症状を知っていた。

「まさか、毒……かぁ。」

 不意に眩暈がして、ジャックは膝をついた。

 呼吸も少しずつ苦しくなってきている。

 ジャックは自分の首筋にある傷を触りながら、陽の右手にあるナイフを見た。

 

 ほんの少量だが、液体のようなものが刃先に付着して光っているのが分かる。


「……くそ……っ、たれ…………がぁ!!」

 息も絶え絶えに、既に助かりそうなことはないと分かっていながらもジャックは声を搾り出す。

 怒りと悔しさと、どうにもならない死への恐怖から。


 もう、動ける状態ではないジャックへと右手のナイフをホルダーに戻してから陽は近寄って行った。

 呼吸が止まり、心肺停止に追い込まれているジャックの頭を掴んだ陽は、紫色に閃くダガーをジャックの首筋にあて、


 ―――そしてそのまま――



















 酷くあっけなく、それでいて不条理に。

 ――盗賊(シーフ)ギルド“狡猾な牙(ガイル・ファング)”はその半数以上を虐殺され、A+ランク冒険者であり“狡猾な牙(ガイル・ファング)”のギルドマスターであったジャック・A・デリタは殺された。


 ジャックの敗因を挙げるならば、一つは【ラドン森林】全体に掛かっていた“阻害(ジャミング)”のことを実際に森に入らなかったために知りうることができなかったこと、二つは陽が持っていたナイフには猛毒を持つ『火炎蜂』の毒液が少量ではあるが付着していたことに気付かなかったことだろう。


 しかし、たとえ二つの敗因がなかったとしても。

 切り札も、裏技も反則技も使っておらず、ただ純粋な体術とメインウェポンなしの殺し技で圧倒していた陽に勝てたかどうか分からないが。



















 後日談。もしくは、後片付けの話。


 二ヶ月前に起こった物語の後始末を簡潔に話しておこう。

 

 まず、【ドルガーノ】の村はほぼ壊滅した。

 村長を始め、村の若い働き手などが“狡猾な牙(ガイル・ファング)”の連中によって大多数を殺され、魔物などから村を守っていたバリケードは全焼し、村にある三分の二以上の建築物が破壊された。

 残ったのは村はずれにある小さな鍛冶屋と、地下に掘られてシェルターのようになっていた倉庫と、たくさんの墓地だけであった。

 働き手をほとんど失っているので村の復興には何年という月日がかかるだろう。

 

 “狡猾な牙(ガイル・ファング)”はギルドマスターを失ったことにより壊滅した。

 俺は特に行動を起こさなかったが、ついに【ナナ・ルーヴァ】の街の拠点が警備兵によって摘発及び、解体させられたのだ。

 何人かが仇討に襲い掛かってきたが、後腐れがないよう全員殺した。


 あの後、森を突っ切るときに何度も連続で『通行制限(リストリクション)』を使ったため体がボロボロであったが、無茶を押して再び【ラドン森林】の奥地へ向かおうとしたところ道半ば力尽き倒れてしまった。

 目を覚ましたら再び……〈中略〉、またエリカに助けられたようで多大な借りを作ってしまった。

 いざこざに関してはどうにか会話で解決し、定期的に奥地へと会いに行くことで和解した。

 一週間前後、奥地で体を癒してから帰路に就いた。

 

 シテンはいつの間にかいた。

 というのも、再び【ラドン森林】の奥地へ向かおうとして力尽き倒れてしまった時に、奥地へと俺を背負って運んでくれたようで。

 結局、シテンと二人で帰ることになった。

 その途中、シテンに借りていたダガーを返したり、暗殺ギルドのギルドマスターの件について話したり、奴隷がどうのこうのでシテンが襲いかかってきたので蹴り飛ばしたり。

 ああ、そう。

 ギルドマスターはどうやら俺がなるとこの時に決めたのだった。

 まあ、半分冗談だったのだが……。


 帰る途中、もう一度【ドルガーノ】の村に寄った。

 村はずれの小さな鍛冶屋にメンテナンスに出しておいた俺のメインウェポンを返してもらい、その後に墓地へと立ち寄った。

 殺された村人が弔われている巨大な墓地があった。

 俺が初めてこの世界に来た時に、最初に立ち寄った場所がこの【ドルガーノ】の村だった。

 村長を始め村の人たちにはいろいろとお世話になったな。

 と、そんなことを思い出して、俺はしばらく墓の前に佇んでいた。

 そして、帰り際に『人地獄』の体液で溶けてボロボロになっていたナイフとそのホルダーを取り出し、墓前に供えて村を後にした。


 これが、二ヶ月前に起きたことの終焉である。

お粗末さまでした。

いや~長い。

一応、これで第一章完結みたいなノリで書き込んでいったら歯止めが利かなくなりました。

本当に投稿遅れて申し訳ありません。

また、非常に拙い文章となっていると思いますので適宜修正を加えさせていただきます。


さて、言い訳はほどほどにここで少しこの物語について補足説明を入れておきたいと思います。


まず一つ目、作者は変態です。(因みにヤンデレ好き)

これからも変態的なシーンが多量に出てくると思いますがどうかご容赦ください。

二つ目、作者は厨二病です。(魔法とか超能力とか大好き。意味の解らない設定が大好き。)不快な言語や理解不能なシーンが多く描かれると思いますがどうか温かい目で見守ってください。

三つ目、ここからはちゃんとしたことですが、この先の展開についてです。

次章からは主に主人公の日常を描いていきたいと思っています。

暗殺ギルドや冒険者ギルドを登場させていきます。

そこで、一つ読者の皆様方へお願いがあります。

次章にシテンやエリカに次ぐ女性のキャラクターを登場させるのですが、どんな種族でどんな見た目がいいか皆様方に決めていただきたいと思っています。


具体的には感想にこんなキャラがいいなということを書いてもらえるとありがたいです。(種族・見た目・性格・特徴・喋り方など)


一応、暗殺ギルドの一員にする予定なのでその点についてはお察しください。


締め切りは11月の15日までとさせていただきます。


ありがとうございました。

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