第二話
皆に一つ言い忘れていたことがある。
勇者4人はモテる。
そりゃあたいそうおモテになる。
世界を救った英雄となればモテるのは当然なのかもしれないが、それだけでなく4人が4人ともルックスまで完璧なのだ。
あんなに人を振り回し、勇者とは思えない子供っぷりのダイチですら、本当に非の打ち所のないイケメンだ。
4人を例えるならダイチは元気な活発系イケメン男子。
マナは見た目可愛いと綺麗を足した感じの美少女。
リクトは無口で知的、冷たそうな印象だがそこがまたいいクール系イケメン男子。
最後にリオはちっこくてカッコいいというよりは可愛い、弟にしたいマスコット系。
要するに俺が何を言いたいのかというと、そんな4人と一緒に街中を歩いていると、必然的にフツメン(であると信じたい)な俺の存在が浮いてしまうのだ。
歩き進んでいく度に周りから聞こえる黄色い声と、突き刺さるような男どもの嫉妬の視線。
国の兵士だというのに完全アウェーな状況になってしまっている。
ここ以外、ホームなどないので何処へ行こうとアウェーだけど。
「あの……やはりもう帰ってもいいでしょうか……?」
「「「「ダメです」」」」
「即答ですね……」
それでもせめて周りの視線を避けるが為にドロップアウトを要望してみるが、4人が4人に一斉に拒否される。
もう嫌だ……。
鬱だ……。
これは何かの嫌がらせなのだろうか…。
モテない俺に自分モテますよアピールなのだろうか。
そんなことしなくても分かっているというのに。
まぁそんなことをするような人達ではないのでそうではないとも分かっているのだが。
でも、お願いだから誰か俺の目の前に広がる惨めなイマジンを右手でをブレイクできる人を召喚してください……。
その幻想をぶち壊す! って。
持って生まれ持ったものの差を見せつけられながら、街を歩く。
「俺がいる意味ってダイチの付き添い以外ないですよね……?」
「そんなことないですよ。ダイチさん、面白いですし頼りがいもありますから私達も安心できます」
「そうですかね……?」
どう考えてもマナの方が俺なんかよりも強いのだし、頼りがいはないと思うのだが……。
いや、我儘言わずせめて存在意義が面白いというだけでもいいか。
仮にお世辞だとしても、な。
そんな俺が自分の存在意義を考えている中で、段々と俺たちーー失礼、勇者達に直接声をかける人が増えてきた。
「ダイチさん、サインください!」
「リクトさん握手お願いします!」
「リオ君頭撫でさせて!」
「マナ様罵倒してください!」
皆それぞれがお目当ての英雄に接触をはかり、最後以外は断る理由もないので3人はお願いを受け入れていた。
こういうファンサービスも皆しっかりしている。
「ダイチさんこっちもお願いします!」
「リクトさ〜ん! 一緒に写真を!」
「リオ君こっち向いて!」
「マナ様俺を踏んづけて下さい!」
「皆さん、すみませんがこの中に一名危険人物がいるようですので捕まえて少し注意してきます」
「ダメですよレオンさん!? 目が、目がマジですから!」
誰ださっきからマナにけしからんお願いをしている野郎は。
そんなものしてもらえるなら皆してもらいたいというのに。
目をギラつかせ、欲望のままに叫んでいる変態を追っ払う。
確かにこういう追い払いの役目は勇者には出来ないだろうから、そういう点では俺のような人気のないモテないやつが必要なのかもしれない。
よっしゃ。存在意義一つゲット。
それとさっきマナの写真取ってたやつ。
お金払うから俺にも一枚くれ。
一緒にいるから頼みづらいんだよ。
そこ、お前も欲望に忠実じゃないかとか言うな。
いくら勇者に絡まれたくないとはいえ、可愛い女の子の写真は欲しいものなんだ。
「レオンさん…。写真くらいならあげますよ……?」
「……俺、声出てましたか…?」
「ええ…まぁ…」
少し顔を赤らめて困ったように返答するマナ。
やはり近くの人に頼まれるのら恥ずかしいのだろう。
………ああっ! 恥ずっ!? 超恥ずかしいんですけど!?
何なんだこの羞恥心!?
まるで妹に『お兄ちゃん、私のお風呂覗いてたでしょ』って言われたかのような……!
いや、決して言われたことはないぞ。一応。
「やっぱレオンさん面白いです。ほんと、ダイチの兄みたいですよ。優しい面でも、面白い面でも」
「……またですか…? 俺をそんなにダイチの兄にしたいですか…?」
恥ずかしい思いをしている俺に追い討ちか…。
中々やるな…。
「なぁレオン。ちょっとあっち見て回らね?」
「えぇ。いいですよ」
サインを終えたダイチが俺の肩を叩き、市場の方を指差す。
あっちの方は割と客と店員の喧嘩が多いし見て回る必要があるしいいか。
リクトやマナに一言伝えようと思ったが、二人とも対応に追われていたので代わりにリオに告げておいた。
カメラと写真を一枚よろしく、の一言を添えて。
誰かのは察してくれ。
恥ずかしいから。
というわけで抜け出した俺たちなのだが、早速店頭で誰かが揉めている声が聞こえる。
すぐさま向かうとどうやら値切りで喧嘩を繰り広げている様子。
「なぁ負けてくれよオヤジ〜」
「いくら勇者様の頼みでもウチもギリギリでな〜」
「ってダイチじゃないですか! あなたが喧嘩してどうするんですか!」
ダイチを引っ張りマナがしていたように頭を下げる。
本当に何をしているんだ。
英雄扱いされている街で値切りしている勇者なんて聞いたことないぞ…。
一体何がしたいんだお前は……。
「すみません…。ちゃんとお金は払います…」
オヤジさんが優しい人で『いいよいいよ』と許してくれたらか助かったものの、今は万引きして捕まった主婦の気持ちだ。
発言も絵面も誰がどう見たって勇者や国の兵隊のものではないだろう。
さっきのサイン中の英雄らしいカッコいい姿はどうした。
マナから離れたからっていきなりやらかしてどうする…。
いや、俺の前だからやらかすのだろうか……?
構ってほしくてこんなことをするのならもっと構うべきなのだろうか……?
「はぁ……。分かりましたよダイチ。とりえずマナ達にバレない範囲で行きたいことろ行ってあげてもいいですか……ら……?」
『ダイチさん! 私ダイチさんのファンなんですっ!』
「あ〜、とりあえずサインだけでいい?」
……本当に、マジで一発顔面を殴ってもいいだろうか…?