白
………………
…真っ白だ。
白以外の色は自分だけなのではないのか。
いや、むしろ自分自身も白なのではないかという考えすらも過るほどの白。
自分の身体を見ればわかるであろうことだろうが、体に力が入らない。
瞼を上げて、こうして呼吸をしていることすらとても億劫だ。
俺はどうしてしまったのだろう。
「やあ、目が覚めた?」
声がどこからか降ってくる。
この真っ白な空間に自分以外の人間がいるのかと少し安心した。
「───…」
呼び掛けに応えようと口を開いたが、言葉が出ない。
いや、声が出ないんだ。
「あ、無理して喋らなくてもいいよ。
君、ずいぶん長い間眠ってたからね。 ま、リハビリ代わりに僕の話でも聞いて脳みそ働かせなよ。」
その言葉に素直に従い、口を閉じて耳を傾ける。
「まず、君はここがどこかわからないだろ?
ここはね、死んだ人が来る所なんだ。」
てことは、俺は死んだのか。
「うん、君は死んだよ」
声を出していないはずなのに会話が成り立つ。
しかしここが死後の世界なのならあり得ないことでもないんだろうな。
「あまり驚かないんだね。
それどころか疑いすらしないなんて、君は不思議な人だね」
別に、不思議なんてないよ。
最後に残っている記憶が脳内で再生される。
「へぇ…ああでも、死んだ人が来る所と言ってもね、ここに来れる人はほんの一部なんだ」
なぜ?
「殺された人の中でも、殺されることを受け入れた人がここに来るんだ」
成る程。
「君が今動けないのは、本当は眠ってたからじゃない
もう、わかるでしょ?」
殺された時のまま
ってことかな?
「大当たり。
君は落ち着いてるし話が進めやすくて助かるよ。」
そりゃどうも。
「さて、そろそろ動けると思うよ。
まずは起き上がってみて」
指示に従い、手を少し冷たい床について重い体を起こす。
自分の足が視界に入ったところで一旦動きを止めて息をつく。
「意外と大丈夫そうだね」
起き上がってみてやっと声の主が頭の上、今は背後にいることがわかった。
「あー…あー、んんっ」
声を出して咳払いをする。
「で、お前何者?」
調整が終わったところで背を向けたまま訪ねる。
「僕は…うーん、何て言えばいいのかな」
うーむ と悩むように唸る。
「案内人…?」
「なんで疑問形なんだよ」
思わず笑いがこぼれる。
「まあ、そんなのどうでもいいじゃないか」
「そうだな」
生きていた頃ならきっとしつこく訪ねたのだろうが、死んだなら別になにもかもどうでもいい。
でも、…
「君が死んだあと、どうなったか気になる?」
「……」
ただ頷く。
母はあの後どうしたのだろうか。
父は?
周りの人は?
俺がいなくなって、なにか変わったことはあるのか?