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あにさん。

感想ありましたらご気軽に・・・笑

幼い日、砂に書いた草案。

誰もが笑った。

『すぐに消えてしまうだろう』と。

砂から芽がでるなんてないと考える辺り、この世界では終わってる。




『めかくし』9




『匂神家に、私以外の生き残りがいる』


唐突に切り出された七宮の情報に、私は動揺を隠せなかった。


「あんた……もしかしてずっと黙ってたの!?」


私、匂神唯は七宮智に思わず強い口調で言う。


「違うんだ、『夜祭』の最後のほうでわかったんだ」


私はそう言われ『夜祭』での出来事を思い返す。それでも匂神家について触れたことはなかったように思う。


「そんなこと何も言ってなかったよ……?」


私は眉をひそめて七宮に尋ねると、彼は少し躊躇うような仕草を見せた。


微かに貧乏揺すりもしている。


「それはね……」


「何よ何よ告白じゃないわけ?つまんなーい」


緊張した七宮の声に対して、弛緩した沙也夏さんの声。


私と七宮は顔を見合わせ、七宮は頷いた。


言いたいことはよくわかった。


私も大人しく頷き、七宮に従うことにした。


そして七宮は不服そうにしている沙也夏さんに、私と七宮が出会った経緯と、匂神家を滅ぼした刺宮家の人間、憲と軋轢との関わりを話した。


聞き終わった沙也夏さんは『匂神家にもう一人生き残りがいる』ということに緊張感を持ってくれたのか静かになる。


「ナイフで四肢を刺された時にね、右肩のナイフにこれが貼ってあったんだ」


七宮はそう言って、くしゃくしゃになった蛍光黄色の付箋を取り出した。


その付箋は血飛沫がついていて柄のようになっている。


『26人、合ってるか』と付箋には書いていった。


「何これ、どういうこと?」


私はいまいち文字の意味がわからなくて、七宮を見て首を傾げる。


「唯ちゃんは僕の刺宮からの能力、『静止』は知っているよね」


「ん?うん……」


話が飛躍したとつっこもうとしたが、とりあえず頷く。


刺宮憲に襲撃されたときに使った、短時間触れた部位を動けなくする能力。


正直、私がいうのも難だがあまり実戦向きではない。


「だから、僕の血筋のもう半分、七基の能力も僕にはあるんだよ」


「七基の能力……」


聴覚の七基、七宮の母方にあたる家の能力。


私もそれを考えた事がある。

だが、七宮のつけている補聴器からしてその線はないと自分で結論つけていた。


「二刀流なんて倦みたいじゃない! どんな能力なの?」


沙也夏さんの脳内にはきっと彼氏が映っているのだろう。そして無邪気な笑みで、七宮に尋ねた。七宮はしばらく言うのを躊躇い、ピクッと反応し傷を庇いながらも立ち上がった。


「窓、見てごらん」


今度は私と沙也夏さんが顔を見合わすことになる。そして言葉を交わさず、七宮の両脇に私と沙也夏さんが並んで、強化ガラスから見える風景を見た。


「向こう側に高層マンションがあるのはわかる?」


七宮は窓を人指し指で突くようにして、ビルを指さした。視力が1,0ほどあれば余裕で見えるほどの距離にあるビルだ。まぁ多分それくらい大きいビルだから見えるのだろうけど。


「透藤家じゃなくても見えると思うよ」


七宮は冗談めかしくそう言ったが、声のトーンがいつもより低い。


「今ね、あのビルの多分真ん中あたりかな……」


七宮はビルの階まで明らかにわからないが、目を凝らすように細めた。


「あそこからね、『かちっこちっ』って音がしたよ。よく見ててね」


そう言う七宮は心底嫌そうな、忌避すべき事を嫌々行っているような、そんな顔をしていた。



そしてそのビルの真ん中から、ゴミが捨てられた。



「え…………!?」


いやゴミじゃ、ない。

ここから見えるゴミなんてあるわけない。

ここから見えるということは、相当大きいはずだ。


そして一瞬だったが、それは人の形をしていたような。


「もしかしてあれって……!」


私は見るにもおぞましいものを多分、いやほぼ確実に見てしまった。沙也夏さんはその瞬間を見逃したのか、うーんと唸っている。


「飛び降り自殺、だね」


七宮は私の予測を的中させ、またベッドに腰かけた。


七宮が窓を見ろ、と言って約3分くらいだろうか、普通ならお目にかかることができない、人が自ら命を絶つ姿を見てしまった。


「七基から頂いた残酷な能力、『振子』」


七宮はイヤホンをつけていない方の耳を、手で触れた。


「殺す者から『かちっ』と鳴り、その手で死ぬ者から『こちっ』と鳴る……命の振り子が聞こえちゃうんだよ」


私も沙也夏さんも、その能力を聞いて『凄い』とかプラスの言葉を使おうと思わなかった。それどころか、何も言えない。


「だからこの付箋も、刺宮軋轢からの嫌がらせなわけだよ」


七宮はその付箋をビリビリに破り、ゴミ箱に捨てた。


「『26人、合ってるか。』ってそういうこと……なんだ」


私はそれで納得した。

確かにあの時、刺宮軋轢が出る前に七宮は私を連れて逃がそうとしていた。


まるで予測していたかのように。


つまり、あの時すでに26人分の『こちっ』と1人分の、刺宮倦の『かちっ』が聞こえていたということだ。


「でもね、あの嫌がらせのおかげで1つ、収穫があった。僕の聞いた『こちっ』はね、27回だったんだ」


「…………?」


「どういうことよー?」


私は右側、沙也夏は左側で、首を傾げた。


妙に息が合う。


「確かにね、結果的な死亡者は26人だったんだ。でも1人、いや、1匹がカウントされてなかったんだ」


「『殺しても死なない豚』!」


私はすぐにピンときて、思わず叫んだ。


沙也夏さんの見世物が終わりながらも、群を抜くグロさで印象強かった為、すぐに思い出した。


内臓を撒き散らして走る姿。あぁ、思い出したくない。


そんな異名を持つ豚もこまぎりにされたら死んでしまう。


「でも名前通りやっぱり死なないんじゃ……」


「いや、倦なら殺せるわよ」


私の言葉に、沙也夏さんは断言する。


その理由を聞きたかったが、やっとこの話が始まった質問の解答に気付く。


「もしかして七宮は私の家が皆殺しになったっていうのは、七宮の『振子』でわかったの?」


「そう、唯ちゃんの父さんと母さん、そして兄さんの分、3回の『こちっ』が、ね」


あぁ、やっとわかった。

つまりは。


「私の飼っていた猫の分が3回の中に入ってるかもしれない」


「その通りだよ、刺宮家は一家の撲滅なら猫でも鼠でも絶対殺すからね。ほぼ確実に誰か1人は生きてることになる」


七宮はそこまで話が行き着き、一息ついて寝転んだ。


「唯ちゃん、誰だか予測はつく?」


「多分、生き残るとしたら庵兄さんだと……思う。」


匂神庵、私の兄。

匂神の家長になるはずだったが、庵兄さんは固くそれを拒んでいた。


とても優しくて、風のように飄々としている、そして椿の柔らかい匂いがする、自慢の兄。


だが匂神家の家長が決まらず、家庭内がぎくしゃくしたのも間違いなく兄なのだ。


複雑な心境だが、それでも一家の人間が生き残ってると思うと頬が緩む。


「なら僕がマシに動けるようになったら、唯ちゃんの家に行ってみようか。誰かいるかもしれないしね」


「うんっ……へへっ……」


思わず、私は嬉しくなって顔がにやけてしまった。


すぐにクッションを抱き締めて、顔を隠す。七宮も、想像するに沙也夏さんも、家族にたいしてあまり良い思いはしていないんじゃないかと思ったのだ。


露骨に喜んでは、いけない。


それでもやっぱり嬉しくて、この喜びは明日のご飯にたくさん注ごうと思った。


それならきっと、二人も許してくれるだろう……。






次の日の朝、その決意に冷蔵庫が答えてくれないことに気付く。沙也夏さんに捧げた食料でなくなっていたのだった。朝ご飯くらい食べられなくても、私と七宮は大丈夫だったのだが沙也夏さんが黙ってなかった。


そして今現在、近くのスーパーに買いだしに行くことになったのだ。


「唯のお兄ちゃんねー、んふ、絶対かっこいーだろうなー」


しかも沙也夏さんと二人で。七宮が「沙也夏ちゃんに社会勉強を」とか言って私に超責任の重い大役を背負わせたのだ。スーパーのものを食べ始めちゃうのはもちろん、他のお客様をつまみ食いしたらどうしよう……と。


万が一そんなことが起こったら、五町の方が揉み消してくれるかなとか思ったが、そういう問題ではないと自分に突っ込みを入れる。


「ゆーい、シカトとかされるとつまんないわよー」


「わっ、ごめんなさい。えっと……なんですっけ?」


「唯のお兄ちゃんの話よ、でも私のお姉ちゃんには勝てないだろーなー」


私は沙也夏さんが今にもカートに入ったポッキーを開けようとしているのを見て、慌ててやめさせた。


「沙也夏さんもお姉さんがいるんですか!?」


それにしても沙也夏さんにお姉ちゃんがいるなんて意外だ。


勝手に家族全員死んでいるのだと思っていた。


「いるわよ、えっとねーお兄ちゃん合わせて2、30人くらい」


「だ、大家族……なんですね」


大家族、で済ませられるものなのか?


「まぁ血は繋がってないけどね、上層部の研究員が世辞家の人間も創ったから、あたしの家族はいっぱいなのよー!」


沙也夏さんの家族はなかなか濃い人達のようだ。


相当前、天才と呼ばれる4人の研究員を中心として鬼が創りだされ、それと対となる者が竜を創ったんだという。だが、もはや昔話くらいの信憑性で話は曖昧であり、伝説上の人間くらいの認識で私は今まで過ごしていた。


「そしたら鬼の人達とずっといたり……したんですか?」


「しばらく居座って、鬼の皆に戦闘術を教わったりしたわよー」


そして世辞沙也夏の家である、世辞家は五感の家の中で例外にあたる。世辞家はその上層部にあたる鬼の研究員が関与して、創り出されたのだ。だから沙也夏さんの話も、決して滑稽なお伽草子と言い切れないのである。


「鬼で強かったのは『白鬼』君と『橙鬼』さんだったなー」


沙也夏さんの思い出に浸るような言い方でそんなこと言う。


「鬼って、普通は赤鬼と青鬼みたいな色を想像しますけど……」


「んふふふ、あたしの尊敬するのは『朱鬼』姉さんよー!!」


私の話を聞いてか聞かずかわからないが、沙也夏さんはうっとりとした。


沙也夏さんが尊敬するのだから、すごい人だったのだろう。


「お世辞じゃなく、超セクシーで! すっごく強くって! ずっとファンなのよ、真っ赤な髪がすごい綺麗で……だからあたしも尊敬の意を込めて、真っ赤なメッシュ入れたのよー!」


その言葉を聞く限り、沙也夏さんの性格構成に深く関わっている人のようだ。


だから私が沙也夏さんに「ファンになりました」と言って沙也夏さんが嬉しそうに笑ったのかな、と漠然と思った。


「凄いですね、私もその『朱鬼』さんに会ってみたいですよ」


「あたしもファンが出来たって自慢したいけど、今どこにいるかわからないのよねー」


沙也夏さんはそう言って、『夜祭』の時と違う、明らかに寂しそうな顔をしてため息をつく。15年間の付き合いよりも、その『朱鬼』さんとの時間のほうが大事ということらしい。



ん?



目の前の沙也夏さんは、老いて見積もっても20歳前半。

5歳くらいまで鬼の人達と一緒にいたということだろうか。


否、そもそも鬼と竜というのは、百年前と言っても過言ではないくらいに昔の存在なはず。


「沙也夏さん」


「ん?どうしたの、唯」


「沙也夏さんって、今何歳なんですか?」


そう言った瞬間、沙也夏さんは私の掴んでいたカートの持ち手をかっさらい走り出した。


「女性の歳を聞くなんて唯最低よぉぉぉ!!」


「わぁぁ! 待ってください! もう何も聞きません、聞きませんからぁ!!」


私は必死で、世辞沙也夏という名の暴走車を追いかける。


その後、結局朝ご飯が昼ご飯になってしまったのは言うまでもない。






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