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めかくし  作者: 初心者マーク(革波マク)
音楽会場編
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40




『めかくし』40




「危機一髪というところですか」


「お前は本当に分析するのが好きなようだな、その達者な口を閉ざしてくれよう」


軋轢は人間の姿を捨てた存在である。それは五感家を統べる者としていかなる反乱にも対応ができるように、人間の身体を離れることで自らの五感を封じた。つまり庵の能力である『統臭』は軋轢にとって効果を成さないのはずなのだ。だからこそ生身で勝負を挑んだ庵が理解できなかった。そんな不可解な気持ちを抱いたまま軋轢は庵に殴りかかる。


庵が冷静な態度の割には、軋轢の拳はすぐそこまで迫っていた。庵は真っ直ぐに伸ばされるその攻撃を伏せてかわし、懐に潜り込んで軋轢の顎を刺す勢いで殴り上げた。それはまるでボクシングかのように鮮麗された動きだ。


ガツッと妙な打音が響く。


「…………っ」


軋轢はその攻撃にびくともしない。庵は軋轢の様子ですぐに効果がないことがわかったのか、殴った反動を使って地面に手をつき横に移動する。しかし軋轢は間合いを作られる前に、太い腕を庵の顔に向けて振り下ろす。庵は咄嗟に顔の前で両腕を交差して、守ろうとしたが、両腕にその腕はヒットし、人間の力だとは思えない力で、細身とはいえど、男の身体である庵を吹っ飛ばした。


滑りやすい床だということもあり、一回地面に足がついただけでは体勢を整えることができず、庵は随分離れたところまでとばされていた。


「どういうつもりだ、まさかそのくらいの技術で我輩を潰せるとでも思ったか」


軋轢はどうしてもひっかかると言いたげな口調で庵に問いかける。庵はしばらくジンと痛む己の拳を見つめていた。そして薄ら笑みを浮かべる。


「……そんなわけないじゃないですか」


そして庵はポケットに入れていた果物ナイフを取り出し、軋轢をとらえるように刃先を向けた。軋轢はそれで疑問が払拭されるわけもなく、しばらく黙り込んでいた。


「拳じゃ駄目そうですから、刃物で対応するだけです。行きますよ――――」


すると庵は軋轢へ助走かのように疾走して、刃物で軋轢に斬りかかる。狙った部位は首と胴体の間だ。窪みに刃が沈んでいく。しかし庵の手応えは奥で『ゴリッ』と音が鳴り、そのまま奥へ入っていかなかった。


「小賢しいっ!!」


軋轢はその庵の腕を掴み無理矢理伸ばし、そして反対の腕で庵の肘をつかみ関節の逆方向へ折り曲げたのだった。明らかに有り得ないその角度に、肘関節は耐え切れず『バキ』と音を立てる。


「グッ…………!!」


庵は悲鳴を唇を噛み締めて我慢をする。人形遊びをするかのように軋轢は今度は肩を握って、思いきり押しつぶすように力を入れる。元より筋肉のない庵の身体は背骨をパキッと鳴らしながら、その力のままに押し倒され、軋轢は止めと言わんばかりに庵の胸――――心臓に向かって拳を振り下ろした。


庵はその瞬間、瞳をカッと見開いて真上にある軋轢を睨んだ。


予期しないことが起こったのだった。その時に、ビクンッと軋轢の身体を痙攣を起こしたのだ。庵はその間に軋轢の間からすり抜け、使い物にならない利き腕をぶらりと垂らしながらも、反対の腕と足の三肢を軸にして軋轢からまた距離をとる。


庵はふぅっと息をして、腕を抑えながら軋轢に対してにこりと笑った。


「…………私のことを殺さないんですね? 優しい方ですよ」


一方、軋轢のほうは庵を見て、忌々しげにしていた。表情はもちろん変わらないが、固く握った拳がわなわなと震えているのがわかった。


「どういうことだこれは……!」


「――――『統臭』、ですよ。零計画を実行する上で使いたくなかったのですが……まぁ刺宮の家長を相手にしていますからねぇ。本気を出さないと厳しいんですよ」


「ふざけるな!! 我輩が『統臭』の効果など受けるわけな――」


「そうなんですか? まさか本当にあなたの中身は人間ではないのですか? それは興味深い話です」


庵はクスクスと含み笑いを漏らしながら、軋轢の困惑する様子を眺めていた。その時軋轢は直感した。庵は何か恐ろしいことを考えている。予測はしていたが、自分は知らずうちに何かの術中にはまってしまったということを感じたのだ。


「とはいえ、どうやらあなたの動きを数分くらいは止めることができそうですね。その間に私は『コト』を終わらせましょうかね」


「『コト』だと……?」


「そうですよ、ちゃっちゃと『兵器』を起動しにいくんです。このまるで『静止』にかけるようなこの『統臭』という能力は……あなたの息子さんにもらえたかのようですね」


庵は軋轢への考えつく中で一番こたえるような台詞を呟き、初めて口を大きく開いて声を上げて笑い声をたてた。


「あはは!最高ですよ、早くその『静止』を解いて追いかけにきてくださいね」


そして軋轢の硬直した身体に背を向けて、庵は壊された腕を垂らしたまま来た道の扉を開け、走り出していった。




決着が決まる瞬間は刻々と近づいている。

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