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4

ぱっぱっぱーらぱぱぱらぱのぱくりのつもりでは

なかったんです。

本当ですよ←



かちっこちっ


「ちょっと聞いてんの?」


かちっこちっ




『めかくし』4




爆音。

30分足らずの戦闘を終えて、やっと一息ついたと思った時に不意打ちを食らう。今までいた部屋は炎を内包しながら、びくともしなかった部屋が突き破られたのだ。


大胆、かつ豪快。


二階の強化ガラスの割れた破片が太陽の光で輝く。


そして私達の前にドスン、と着地したのは憲ではなかった。


否、憲なのか?


「「…………!!」」


私と七宮は息を呑む。


落ちてきたのは、すでに人間ではなく遊園地でいそうな着ぐるみのパンダだった。赤いマントを首にくくりつけて背中でたなびいて、さらに茶色のムートンをはいていた。白黒の白の部分は煤で少し、灰色っぽくなっている。


「やぁ、若衆共」


パンダが喋った。

先程の体験も充分非日常なのだろう。

だが、これには勝てそうもない。


声は初老ぐらいの歳を連想させる、髭を生やしていそうな男性がこんな声だったら納得がいく。


とりあえず口調、声質、ともに憲の声ではなさそうだった。


「まさか……貴方は…………」


七宮智はギャグだとしか思えない目の前の着ぐるみパンダに、丁寧語を使う。


私は驚く。

七宮の表情は凍りついていて、恐ろしげに着ぐるみパンダを見ていた。


「ハハ、元気そうで何より。我輩の息子、刺宮智よ」


「貴方に遇うなんて、僕は夢でも見てるんですかね…………」



今、なんていった?



私の懐疑に満ち溢れた表情に着ぐるみパンダは気付いたのか、こちらの方を向く。そして着ぐるみパンダ、というよりパンダの中身がと言ったほうが正しいのだろうか。


「匂神唯、君は我輩の存在が不可解なんだろうね。よかろう、名乗ろうか」


そう喋ったパンダの左肩には足が二本ぶらさがっていた。


じゃらじゃらしたアクセサリーが垂れ下がっているあたり、憲の足だ。


どうやら救出されたらしい。

だが、着ぐるみパンダに救出されているあたり間抜けに見える。


「我輩の名、刺宮軋轢(しみやあつれき)、またの名を『殺物パンダ』、個人的には『刺宮家のパンダヒーロー』が気に入っているが」


パンダのくせに強そうな名前だな、と私は鼻で笑おうとした。


が、次の軋轢の言葉に呆然とし、何も言えなくなる。


「そこのへなちょこの父親、そして刺宮家の家長だ」


前者の肩書きも非常に驚くことではあるが、後者の肩書きほどの衝撃はない。


「刺宮家の首領………!?」


「いかにも。我輩が匂神家を襲撃させ、憲を君に襲わせた張本人さ」


こんなふざけた奴に?

私の家族が殺されたのか?


呆れは怒りに変わった。


嘘だろうが構わない、私を、家族を馬鹿にしたのには変わりない。

殺せ、殺せば仇が完璧にとれる。


それが七宮の親であれ、知ったことはない。


ポケットに入っているナイフを取りだし、刺宮軋轢に突き出した。


「ゆ、唯ちゃんっ!!」


七宮はポケットにナイフがあるとは思わなかったのか、止めるように声をあげる。


「やれやれ」


軋轢はそう呟き、私の腕を掴む。

パンダの着ぐるみのくせに手は五本指で、人間の形をしている。


「匂宮唯」


私は軋轢に呼ばれ、顔をあげる。

どこかで期待していた。

刺宮家は部下は優秀でも、ボスはてんで駄目で成り立ってる組織じゃないかと。


「刺宮を舐めるな」


七宮の表情の薄さとは比較できないというより別物なのだろうが、パンダの顔は一寸足りとも変わらない。


「もう一度言うぞ。刺宮の末端を潰したくらいで、刺宮を舐めるな」


重力が何倍にもはねあがったような感覚に陥る。


右足をかばって壁にもたれていたのだが、左足が萎えて座り込む。


刺宮軋轢が大きく、果てしなく見えた。



憲とは桁違いの威圧。



「もうやめてください…、貴方がちょっかいを出すからこうなったんじゃないですか」


「それはそうかもしれないな。ただそんな実力行使でくるとは思わないだろうが?」


七宮の言葉に軋轢は声を出して失笑して、私の腕を離す。


今ならもう一度、この手で刺宮の家長を狙うチャンスがある。


「………………」


私は俯き唇を噛んで、立ち上がりまた壁にもたれた。今の私には敵に無様な格好を見せないことしかできない。


「それにしても、我が息子よ。やはり未だに刺宮に対して敵意があるのか」


「それをわかっているから、憲君に唯ちゃんのついでに俺を殺そうとしたんじゃないんですかね」


「ハハ、きつい事を言う」


軋轢は鼻で笑うように、軽く七宮をあしらう。


「この通り、憲君がのびてしまっているからね。若衆に危害を加えることはできない。だから、今回は失礼するよ」


「『殺物』、人体以外の破壊ですもんね」


「父のことを覚えておいてくれて、我輩は嬉しいぞ」


軋轢はそう言って、後ろに振り返る。

マントがその動きを後追いするように、ばさっと翻る。


憲の顔にばっさばっさマントがあたっていた。


「さらばだ、我が息子。そして…………」


軋轢は少しためて、歩き出しながら言う。


「我が宿敵、匂神の血族。唯殿よ、二度と遇わないことを願うよ」


軋轢は堂々と敵意を私に向けてから、後ろ姿を敵に向け闊歩する。


私は軋轢の赤い赤い深紅のマントが見えなくなるまで、見つめ……見えなくなったところで意識を失った。






「…………ん……」


「こんばんわ、唯ちゃん」


私はまたベッドの中で目を覚まして、目の前にはやっぱり七宮がいた。


「あんた…………」


「うん?」


今回は少し距離が近いというか、七宮も寝そべっている。


「なんで添い寝してんのぉぉ!!」


「わぁ! 痛い痛い痛い……今お腹はデリケート……痛いっ! 狙って殴ってこないで!!」


腹をボスボス殴って、ベッドから七宮を落としたところで周りを見渡した。


「ここ、ホテル?」


「そうそう、僕も唯ちゃんをおぶって歩くの限界になってね、近くのホテルとったんだ」


よく見ればダブルベッドで、部屋も二人分の大きさだった。


私の隣で寝そべってて普通だったということか、変に意識してしまったと思って少し恥ずかしくなる。


「そ、そうなんだ……」


「うん、お金はとりあえず困ってないからさ。多分環境もいいと思うし。夕御飯も出るって」


「なら部屋2つにしてほしかったな」


七宮の思考回路はやっぱり理解できそうにもない。


「で、これからどうする?」


「そうだね、明日になったら僕の部屋をもう一度を見に行こうか。燃えないで残ってる物もあるかもしれないし」


「確かにそうだね」


私はそれにはしっかり納得して、立ち上がろうとする。


だが右膝が悲鳴を上げ、またへたりと座り込んでしまった。


「あぁ駄目だよ、若いからすぐくっつくと思うけどさ。さすがに2日じゃ直らないって」


というか私は2日も昏睡してたのか。確かに私は運動した分寝ていたものだが、そんなに寝ていたなんて。


確かにそれだけ疲れることはたくさんあった、七宮智、刺宮憲、……そして刺宮軋轢。


「七宮」


「ん? どうしたの?」


「私はあの時、気が動転してたのはあるけど……あんたの父親を本気で殺そうとした。そんな私と一緒で、その、いいの?」


私は不安で思わず、小さな声になってしまう。もし、拒まれたら私と一緒にいてくれる人がいなくなる。

そう思うと胸が苦しくなった。


「あぁ、俺は気にしてないよ」


七宮は困ったように笑い、冷蔵庫を開けてカルピスを取り出す。


そしてコップを2つ取り出して、注ぎ込んだ。


「それにね、刺宮軋轢……俺の父さんは俺の前で死んでるんだ」


「え…………?」


「父さんは触覚を司る者として、あらゆる研究をして瞑想をした。どうすれば刺宮で最強になれるかってね」


七宮は注いだカルピスを揺らしながら、目を細めた。


「そして父さんは1つの結論に辿りつく」


「なんだったの?」


「人体じゃなければ、人間の五感を頼らなくても済むってね。だから硫酸の入った浴槽に自分の身体をつけて死んだ」


「………………」


信じがたい話だった。

想像するだけで冒涜的な光景である。


「だから今、刺宮軋轢と名乗っている男は父さんじゃない」


「あのパンダ男を殺して、それを証明しようってこと?」


「いや、別に。俺は父親のこと、変人だったし……嫌いだったから」


「――そうなんだ」


七宮が相当変な人間なのは、それなりに理由があるということか。


「だから仇を打とうとするほど家族を思いやる君に……協力したいんだ」


「うん……ありがとう」


全てを見据えるような焦げ茶の瞳で真っ直ぐ見られて、冗談の1つもでなかった。



純粋に嬉しかった。



「刺宮を倒すためには、やっぱり物理的に戦える奴に味方についてもらうのが一番だ」


七宮はそう言ってバラエティパックのチロルチョコを1つ口に含んだ。


「私達じゃ勝てそうもないもんね」


私も1つチロルチョコをとりながら、ため息をつく。


しかもとったチロルチョコは、私の苦手なヌガーだった。



なんとも憂鬱な気分。



「聴覚の七基、視覚の透藤、味覚の世辞。その中で仲間につけるとしたらどこがいいだろうね。個人的には七基は嫌だな」


七宮の母方である七基は確かに、七宮にとっては嫌だろう。本当に父方から命を狙われた後だから尚更である。


「透藤は全てに置いて『美』を求めるからあんまりよくないな」


「美?」


「うん、美だよ。視覚的に美しくなくっちゃいけないんだ。登場シーンも退場シーンも、殺した後の死体だって綺麗じゃなくちゃいけない」


二回も嫌いな言葉を言ってしまった…と七宮はため息をつく。


「そしたら味覚の世辞ってことになるけど、それは……」


世辞に関しては、私も少しくらい知識はある。



一番話が通じなくて、常識を逸脱してる五感の家の中でも一番酷い。


「人が主食……なんでしょ?」


「うん、ちょうど唯ちゃんくらいの年な女の子が美味らしいよ」


おぞましい情報ありがとう。


「絶対嫌、食われるくらいなら綺麗な死人見たほうがマシだよ七宮」


「俺もそう思うよ。でもね、俺が思うに世辞の人間が仲間に入れるのに都合がいいと思うんだ」


「な、なんで!? 私嫌だよ! ぱっくり食べられるの!」


化物に食べられる想像をぶんぶん頭を振って、頭から追い出す。


「世辞は家自体が組織化されてないんだ、そして何より快感が最優先される。つまり……『食』を」


「だから死人がたくさん出る場所なら、仲間になってくれるってこと?」


「簡単にうまくいくかわからないけど、それに美味しい特典もついてくる」


「特典?」


「世辞は五感の家でも変わっていてね。昔、俺らを作った研究員より上の階級の奴が兼任して『味覚』を担当したんだってさ」


「上って静と動……『竜』と『鬼』ってやつ?」


竜と鬼に関しては、五感の家の人間一人ずつで5人のチームを作ったところで、やっと対等になるんだと言われている。



それだけ私達よりも『神』に近付いた人がそこで作られたらしい。どちらにしても、ずっと前に両者が相打ちになって現在は互いに滅びたらしいが。


「だから世辞は周りの家に比べて、変な話……完成度が高いと言われてる。だから仲間にすればこれほど心強いものはない」


「なるほど……ね」


どうしても食われる想像しかできないが、ここまで力説されては従うしかなさそうだった。


「でも七宮は身近で死んだり殺したりするの嫌じゃなかったっけ?」


「もちろん嫌だよ、でもその度に殴るのはやめて別の方法に変えたんだ」


「……待って、私確か憲と戦った時相当死ねやら殺すやら言った気が……」


「うんっ、唯ちゃんが起きる前にお返ししといたよっ!」


「無邪気に言うなぁ!! 一体何したんだよ変態七味唐辛子!」


「何それっ……?」






>5


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