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ロリコンボーイと

ツンデレガールの話は

まだまだ続きます、笑


彼も誰もかちっこちっ

楽しいくらい、悲しいくらい。


彼女も誰もかちっこちっ

笑うくらい、泣くくらい。


いつのまにか僕は、

狂ってました。


はい、ごめんなさい。




『めかくし』2




「むむ…………」


僕の寝付きは浅い分、眠る時間は常人よりも長い。


10時から9時まで寝ていたらしい。

つまり11時間睡眠だ。


愛用のデジタル時計が嘘偽りなくそれを示している。


「早くパパッと起きてくださいよ」


「ゆ、唯ちゃん…………!」


思わず僕は目を丸くして、びょっと飛び上がってしまった。その衝撃で眼鏡が飛んでいきそうになる。


微妙なアンバランスを保っていた周りの物は、唯ちゃんの手によって綺麗さっぱり片付けられている。


「僕の混沌ワールドがっ……これじゃあ僕は浦島太郎だ」


「浦島太郎でもなんでもいいですけど、帰らせてください」


「僕が寝てる間に帰るって手もあったと思うけどな?」


「番号式の鍵なんて外せません、しかも窓も強化ガラス。嫌がらせですか」


あぁ、そうだったか。

一人暮らしだし、何よりつもりはないけど女の子を監禁するなんて状況は考えていなかった。


だけれども母方から、父方から命を狙われる身で堅いガードにはなってるわけである。


「悪いね、でもお掃除をしてくれるあたり、諦めて僕のメイドになる気に――」


「――この瞬間七宮さんの心臓が止まりますように。」


遠回しに死ねと言われた。

昨日のパンチは心身彼女に衝撃を与えたらしい。


直接死ねとは言ってこなかった。


見かけで判断すれば中学生くらいの少女にそんなことをしたのは、本当に心が痛む。


「逃げ出せないと感じた今、とりあえず……その」


「もしかして男の家泊まるの初めてで緊張しちゃった? 大丈夫だよ僕何も……」


「この部屋臭かったんで、全部無臭化しました」


墓穴を掘った。

彼女はさすがに言いずらかったのだろう、言いかけてやめた。


にも関わらずからかったせいで、きつい一言を聞いてしまった。


おそらく昨日のパンチよりも痛いのではなかろうか。


「うん、ありがとう」


素直にお礼を言っておいた。

これこそ先程自分自身で語った、本当のお礼というものである。


「で――――、早く帰らせて」


先へ急ごうとする唯ちゃんは、自分の近くに正座する。


髪型は昨日までのポニーテイルではなく、下ろしていた。

雰囲気的にバスケ部に入ってますというような感じで、小麦色の肌というわけではないが運動大好きっ子に見える。


服は『得体の知れない人から借りられない』と、昨日と同じパーカーを着てチノパンを履いていた。


「やっぱり唯ちゃん、かわいいね」


「ロリコン七宮さん、イヤホン外して話をしっかり聞いて下さい」


「それはできないよ、このイヤホン補聴器だから」


「え、耳悪いんですか…………」


「ま、そんな感じ」


七基の血はどこにいってしまったんだろう、そう言いたげな顔で唯ちゃんは俺を見ていた。


「そ、それはともかく」


「家出をした君に、帰る場所なんてあるのか?」


「…………!」


俺の言葉に唯ちゃんは目を丸くして黙りこんだ。


「俺は『勢力均衡』で自分の立場を守ってる。七基と刺宮に対して同じくらいに弱味を握ってね。だから、五感の家の情報は多いんだよ」


随分汚い方法だとは思う。

しかし最も五月蝿くない方法が情報戦なわけである。


その中でも唯ちゃんを巻き込む家騒動は、あまり俺の生死には関わらなかったのだが。


「それでもよくわからない男の家よりはマシですっ!」


「もう君の、匂神の家は昨日滅ぼされた」


「………………!」


「刺宮の人間総動員で、君で家出をしたのを見計らってね。君の家はお父さんとお母さんとお兄ちゃんだよね、あと猫もいたか」


「嘘、嘘だっ――――」


「俺も、この情報が嘘だって信じたいよ」


「ぁ……あぁぁあぁぁ!!」


俺の言葉は唯ちゃんの叫び声にかき消された。


「だから言ったんだ! 生き残るには殺すしかないって!! 甘ったれた事言ったから、だからぁ!」


唯ちゃんは頭を抱えて、悲鳴のような声で叫び続ける。


漆黒の瞳からは透明な水の雫があふれだす。

綺麗とは消して言えない、顔をくしゃくしゃにして絞り出すような泣き方をしていた。


まるで産まれてから泣いたのは産声数えて2回目かというように。


ヘタクソな泣き方だった。


「だから皆、自業自得なんだよね……あは、あははは。」


匂神。

彼らは五感の家の中では穏健派に入る。


というよりも、それ以前に嗅覚は戦闘に使うものではない。


嗅覚は何かを探し出す事に多大な効力を発揮する。


麻薬、血、物騒なものじゃなくても逃げ出したペットでもいいだろう。


彼らは俺と同じ手法で五感の家間での関係を保っている。


情報戦の他にも人質をとったり、決していつも平和思考というわけではなさそうだったが。


「殺さなくちゃいけなかったんだ………………。」


だが僕の目の前に座り込んでいる黒髪の黒瞳なこの少女は、匂神家の世の中の渡り方に不満を持っていたようだ。


「家出した理由はそれかな?」


「――私は匂神家の跡取りになる予定でした、本当なら兄がそうなる予定でしたが……色々ありまして…………私が」


少女、唯ちゃんは嗚咽を漏らしながらボソボソと呟くように言う。


「だから私が意志を通せば解ってくれると思ってた、家出なんてしたくなかったのに……」


「唯ちゃん……」


匂神唯。


匂神で唯一の存在。

殺す事で家を守ろうとした少女。


何も見ていないような、虚ろな瞳の少女はバックの中に入ったナイフを取りだし、頸動脈にそえる。


殺すなんて五月蝿いだけ。

死ぬことだって同じ。


愚かしいと思った、醜いと思った、僕と唯ちゃんは相容れないと思った。



それでも。



健気だと思った、儚く思った、僕は唯ちゃんを守ってみたいと思った。



パンッ



僕は彼女を叩いた。

グーではなくパーで、ナイフを持つ唯ちゃんの手をはたき落とした。


慌ててナイフを拾おうとする唯ちゃんの手首を、僕はぎゅっと握る。


「唯ちゃん」


「やめてっ……放して!!」


「君は死ぬべきじゃない、刺宮を滅ぼし返すのが匂神の生き残りとしてするべきじゃないのか?」


「………………!」


「僕は刺宮と七基を敵にまわしている。そして刺宮が匂神を滅亡させた。『勢力均衡』を保つためには刺宮を叩かなければならない」


「手を組もうってわけ……?」


「僕は惜しみなく君に情報を提供しよう。君は……そうだな、可愛い顔で僕の目の保養をしてくれ。」


唯ちゃんは僕の落とし文句を全く無視して、僕を睨む。それでも敵討ちの内容に興味を持ったのか、嗚咽が止み、少女らしからぬ不敵な笑みを浮かべる。


「七宮さんの嫌いな惨殺劇を見せてもいいなら、ですけど」


敬語の口調も戻っていた。


「それは駄目。俺の目の前で人が死んだり殺しちゃいけない。」


「人の話を聞いてたのっ!?」


また我を忘れた口調になる。


「もちろん聞いていたよ、だから人を殺したい時は僕を殺してからなら構わない。まぁパンチ覚悟でやってみるんだね」


「わかりましたよ、即実行に移します」


「あぁ、もうお互い信頼しあう関係になったんだからさ。タメ口でいいよ」


「殺す!!」



バチン



乾いた打音が響く。






「もうナイフ持つのやめてよ、僕自己嫌悪でお浄土に行きそう」


「さっさと行ってよ馬鹿」


一時休戦。

朝ご飯と昼ご飯の間。

いわばブランチを食べることにした。


こんなに険悪なムードでカップヌードルをすすっている男女なんて、そうそういるもんじゃない。


「七宮って…性格悪い、変態、いいとこない」


「そんな歪で酷い三拍子ないよ唯ちゃん、それともあれかな?会ってまだ2日だからツンデレのツンしか出てないのかな?」


「さっきからロリコンやらショタコンやらツンデレやら…、オタク?あんたは」


「友達はテレビとかパソコンの中にいるから」


唯ちゃんってこんな切なげな顔するんだ。

僕の言ったことはそんなに悲しいことだったのだろうか。


まぁ唯ちゃんがかわいいから、いいとしよう。


「あんたの友達関係はいいとして。……とりあえず、刺宮について知ってること話してよ」


「僕にキスしてくれたら」


「あやとりミスして首吊ればいいのに」


微妙な言い回しで死ねと言われてしまった。


僕は息をつく。


「別に急がなくても、すぐにあっちから来てくれるよ」


それを言うだけで、こちらとしてはテンションが下がるものである。


刺宮で1人、僕と匂神の連中にのみ弱味を握られている奴がいるのだ。


匂神を唯ちゃん除いて根絶やしにした今、唯ちゃんと僕さえ殺せば……つまりここにくれば万々歳な人間がいる。



ピンポーン



「あれ、友達は二次元だけじゃなかったの?」


インターホンの音に唯ちゃんは首を傾げ、立ち上がる。僕もあとに続き、訪問者がわかるカメラを目に向けた。


「いや……参ったね」


男が映し出されている。


今時の男の子ヘアーなのだろう、ワックスで軽く立たせた茶髪。

そしてカラコンをつけたかのような鳶色の目。


そしてなにより手の甲に入れ墨された、不気味さを感じさせる梵字。その字をカメラ越しにこちらに見せつけている。



普通と言われれば、普通の男に見えなくもないのだが。



僕はそこまで記憶力が悪いわけではないし、楽天家なわけでもない。


「どもーす!速達でっせー郵便でっせー!!刺宮憲(しみやのり)と申します!智ちん開けてー!」






>3


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