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沙也夏パート開始!

遊びなんて

人に言わせれば

なんだって遊びだよね。




『めかくし』17




「んー…………」


あたしは、『我々ハ宇宙人デアール』という文字と一緒に描かれた歪な人間型のイラストを見ていた。


「にしても静かねー」


スピーカーから流れる不変の軽快な音楽も退屈で遠くのほうで鳴っているようにしか思えなかった。周りにはあたしを中心にして五、六人の残骸が転がっている。スッパリと綺麗に裂かれたものもあれば、グチャリと噛み千切られたものもある。


世辞沙也夏。

あたしは『世辞』という名字を持っている。


だからあたしを襲った奴はこんな目に遭ってしまったのだ。世辞家は人食いで有名な、五感家の中でも忌み嫌われる存在。あたしはそれでも、今までそれを隠すこともなく過ごしてきた。自分が楽しいように、素直に堂々と生きるようにと遠い昔言われたのだ。大事にしている言葉なのに誰に言われたのかは、不思議と覚えていない。



最近あたしは楽しいと思える居場所を見つけた。



匂神唯、七宮智、そしてあたし世辞沙也夏。

『家系なき家族』。


あの二人と共にいる時、自分の思い通りになっているかといえばそんなことはない。食事は制限されるし、夜型な生活リズムだって朝型に矯正された。何より人食ができない。それなのに、それを不満の要素としてたくさん差っ引いてもあたしは確かに楽しいのだ。些細な失敗に笑い合ったり、色んなところに散歩したり。


そんな小さなことがあたしにとって、かけがえのないことだった。


だが、人食をしないことにより身体に溜まるフラストレーションも間違いなくあった。たまたまこんな機会があったから良かったが、あのまま生活していたらどうだったのだろう。唯や智を喰らったのかな?そう思うと、快感だったはずのこの味覚がじん、と重たく苦いものに感じた。あたしは目の前の宇宙人と名乗っているイラストを見て、鏡を見てるみたいだと思った。


「どしたの、えーっと横瀬さん!」


「………………」


「シカトしないでよ! 横瀬、あーもーいいや、世辞さん!!」


「んー!」


あたしは不意に上の方から女の子の声が聞こえて、グイッと顎をあげて見上げた。斜め下をずっと見ていた状態から顔をあげたせいで、首の筋が伸び激痛が走った。


「ひててててー!」


このなんだかやるせない痛みにあたしはしばらく首筋を手で覆って悶絶していた。


「……あの」


「あー、痛かったー」


「えっと。自分の名字を相手に知られてる危機感とか、なんであんなとこに人間がいるんだ! とか思わないのかな!?」


やっと痛みが落ち着いて、あたしは声のする方を向いた。 その声の主は淡々と流れるBGMの発信源である電柱にくくりつけられたスピーカーの上に座っていた。


ド派手なピンクのボブショートの髪型に、その髪の色と同じくらいの色のドレス。ずっと前に読んだ絵本の世界にいそうなお姫様コスチュームだ。こんな人前であんな格好をするのはさすがに恥ずかしいことだろうと、常識外れとよく言われるあたしだってそう思う。


思わず目線をそらしたそれにしてもこの声、つい最近聞いたような気がする。


「あーもう! いいよ! せっかく無理と言われたカー●ィコスチュームで張り切ってきたのに」


そのお姫様はよくわからないが私に何かを伝えるのを諦めたようで、ストンとスピーカーの上から落ち着地した。


多分普通の人間なら足がベキベキと悲鳴を上げ、転げ回るところなのだろうがそんなことはなかった。そして考えても見ればこの血の海を見て、恐れるどころか眼中にもないあたりを見て、つまりは目の前にいる人は変な人だけれど、同時に『あたしと同じ種類の人』だということがわかった。


「あ、思い出した、あんた透藤愛美ねー?」


「そう僕ちゃんの名前は透藤愛美ぃってあれ? 僕ちゃん前、仮名使ってなかったっけ?」


そんなこと聞かれても困る。

あたしは言葉をあまり考えず直感で出すので、あたしの一言で困惑されても答えようがない。


「まぁいっか。そう僕ちゃんは視覚の超人透藤家の女の子! ぷにっとした女の子とか大好き、細眼鏡の男の子とか大好き!」


愛美は恍惚とした表情で、その場でクルクル回っていた。フリルが風圧でめくれるけれど、不思議なくらい下着は見えなかった。


「それでえっとー、やっぱりあたしを倒すとかそんな感じー?」


あたしは愛美の好みに特に興味はなかったので、話を促すことにした。


「いや? 特にそんなつもりは僕ちゃんにはないよ」


ん?とあたしは首を傾げた。


「僕ちゃんの仲間……ていうか庵の仲間になったりしない?」


「い……」


「だってさ、僕ちゃん達だって普通に笑ってたいじゃん」


あたしが口を開いた瞬間には、もう愛美は話し出していた。ひゅうっとこがらしが捨てられた空き缶を転がしていく。


「別に特別な能力なんていらなくない? そんなのがあるからちょっとした喧嘩だって殺し合いになる」


「それは……」


「全てを捨てて『零』に戻す方法を庵と僕ちゃんで探してる。僕ちゃん達に力を貸してくれない?」


「…………」


あたしはその言葉に何も言い出すことができなかった。


人を食べなくても生きていける『普通の人間』になりたい。あたし自身今さっきそれを考えていた。その話に食いついてしまいたい。すぐにでも仲間にいれてと頼みこみたいところだ。


しかし何かがひっかかる。


「あんた達の仲間になるってことは、唯達から離れなきゃいけないってわけー?」


「別にそんなことしなくてもいいよ! たまーにちょちょいとお願い事するだけ」


「………………」


あたしは首を縦に振らないあたし自身に驚いていた。理屈ではない自分の『直感』が承諾を許可してくれないのだ。倦を助ける為に大胡を殺めることは容易に許可したくせに。心の中で苦笑いを浮かべる。


「――――悪いけど、あたし気が乗らないみたいでねー。お断りしとくわー」


あたしがそう言った瞬間愛美は目を見開き、すぐににんまりと笑った。笑い直したというほうが表現は正しいかもしれない。


「そっかぁ、じゃあこの話はさっさと水に流れるプールにしちゃって……」


愛美は笑みを崩さないままで、派手な容姿で逆に目立つ真っ黒な瞳をあたしに向ける。


「庵の任務をきれーいに遂行しちゃおうね」


真っ黒な瞳がじわりと澱み、桃色に濁っていく。


あたしの背筋がぞ、と冷たくなる。これも曖昧な表現だが嫌な予感を『直感』したのだ。あたしは刃のついたスニーカーの爪先をトントンと整える。


ふぅっと息を吐いた。


相変わらず鳴り響く遊園地のBGM。そんな陳腐な曲じゃ舞うには気分が乗らない。手元を見ずにジーンズのポケットに入っていたipodの電源をつけ、いつもヴィジュアル的にしか効果を成していない青く光るヘッドホンを仕事モードにさせる。


耳いっぱいに『不明アーティストの無題』が流れ出す。荒々しくきちがいじみた楽器達のシャウト。


「『オープニング』は譲らないわよー?」


あたしは愛美に向かって走りだし、細い腕で力いっぱい反動をつけ思いきり足で蹴りつけた。


宇宙人同士の闘いが始まる。






>18


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