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15

戦闘突入です!

誰にも見せられない。

恥ずかしいから、

隠してしまおう、

かくして終おう。




『めかくし』15



『処刑人』かぁ。


私、匂神唯は大型ナイフの『郷愁狂臭』を手に握りながらぼんやりと考える。『処刑人』をできるだけ早く探し出さなくてはならないわけだが、私の臍曲がりな性格からかどうしてもここにいる気がしなかった。


私は仲間である沙也夏さんと手分けをして『処刑人』を探すことにした。私は左の『古代エリア』に。沙也夏さんは右の『未来エリア』に。だが、ボスである刺宮軋轢の立場で考えれば真ん中の『中世エリア』、突き詰めれば刺宮軋轢と刺宮雅、そして刺宮倦が『処刑人』の方が分があるのだ。


一番守りやすい地形にあるし、それを差し引いても刺宮家のその3人が固まっていれば、正直勝てる気がしない。それでも、雅の私達が負けてもペナルティ無しというのが引っ掛かった。『処刑人』を捕まえようが、捕まえまいが、あまり問題でないような言い方。


だとすれば、あちらの目的は『七宮を壊す事』なのかもしれない。


「…………」


私は何百の命を救うというよりも、七宮を気にかけていることに気付いて苦笑いをする。



昔から、『命の重さ』っていうのがいまいちわからなかった。それを気にして得したことなんて一度もなかった。殺すことを躊躇って殺された両親や猫は、道徳を守る為の代償としての対価?道徳なんて糞食らえ。私は地球上全てが幸せなんて無理だと、あっさり考えている。そりゃそうなれば、きっと幸せな世界だろうと思う。


でも、何かを得る為には何かを失わなきゃいけない。


だから。


「あ? なんでぃ、黒スーツのガリ勉野郎じゃなくてジャージのスポーティ少女じゃねぇか」


「よく見りゃかわいーじゃん! ボスに献上しなきゃな」


目の前には、モノトーンで身を包んだ黒スーツにサングラス集団ではなく、むしろ逆のド派手な集団。


「ここは『アンチドッグズ』のシマなんだよぉ、お兄ちゃん達は優しいからねー。大人しくしてりゃぁ命は逃してやっからさ」


「……うるさい。私はヘッド級の人にしか用はない。急いでるんです」


「んだ……と?」


私は自分の幸せの為に、好きな人だけを守れるように。


障害は、例外なく。


私は後ろで『郷愁狂臭』を右手で握り、腹に二重に巻いてあったゴムをほどき『郷愁狂臭』と右手を離れないようにくくりつけた。キィィンと、大型ナイフは嘶く。


「この生意気な女、どーにかしてやろうぜぇ? 多少悪戯してもボスにゃばれねぇだろうよ」


一人、スキンヘッドで頭に入れ墨を入れた男が私に近付いてきた。


私は一つ、息をつく。


「ほーら、お兄さん本気だよ? 脅しなんかでこんなことしないんだから、ね?」


男は包丁を私のほうに向けて、舌をベロリと出す。


「……黙ってください」


「あ?」


「馬鹿っぽいやつ、私嫌いなんですよ」


「ぁ……ぁあぁあああ!!?」


そう、私は馬鹿で汚くて、はっきり言えば臭い奴は大嫌いだ。可哀想だから、私はスキンヘッドの男の口に『郷愁狂臭』を突っ込んだ。斜めに入ったせいで、男の頭から切っ先が出た。手応えをあまり感じないくらいに、『郷愁狂臭』の切れ味は最高だった。ごほっと男は咳き込み、刃の間から血が飛び出して私の顔に付着する。


あぁ、汚い。


しばらく呆然としていた不良達が、私を動揺と驚きと恐れの目で見た。


「て、てめぇええ!」


「殺してやる!」


そして、男としてのプライドやらなんやら知らないが私に襲いかかってくる。


私は『郷愁狂臭』を横にスライドさせ男の口を引きちぎり、男の首を、腹を、胸を、次から次へと斬り刻んだ。


「へっ……へへ……へへへへ!!」


口から笑い声が、出したくもないのに漏れてくる。


『無臭化』をして私だけが、嗅げるようにしている『紅斑点の香』。私が『郷愁狂臭』に詰めた私自身が麻薬から作り出した香であり、嗅覚が超人並みの自分に使えばそれは。



一種の発狂状態になる。



ぞくぞくする。

沙也夏さんのように、口に入ってくる血が美味しいとは思わなかったけれど、悪くない。


自分が右に『郷愁狂臭』を振れば、相手の身体も同じように動くし左に『郷愁狂臭』を振れば、相手の身体も同じように動く。バスケでもこんな感覚だった。縫うようにフェイントをして、相手を出し抜くのが好きだった。


それと同じように、人を殺すときも楽しい。


「へへ……へへへ…………」


気付いたら10人ほどいた男が全員地に伏せていた。


ピクリとも、動く気配がない。


なんだ、意外と自分も制御さえなければいけるじゃないか。ゴムを一回解くのも面倒臭くて、『紅斑点の香』を振り撒きながら前進する。私が進もうとする先に、遺跡っぽい洞穴の入り口があった。そこから先程倒した男と同じ臭いがして、私は口元を緩めながら中に入った。入るとそこには普通に遊園地として機能していれば、アトラクションを待つ行列ができるスペースができている。


そしてこの状況下では、不良の溜まり場になっていた。奇抜な髪型や服装をしている色んな人がいたが、私は特に興味がなかった。私は目の前にいる男に、視線を向ける。


「そんな血にまみれちまったよ、一体どうしたんだ?」


「へへ、あなたがボスですか」


「ひゃはは……まぁどうやらそうらしいな。」


目の前の男はどこから持ってきたのか、古ぼけたソファに腰をかけていた。そして男は顎をクイッと上げる。


「おら、俺が女と話してんだ。気ぃ利かせろよばーか」


ボスと呼ばれた男がそう言うと、両サイドに不良達が寄って真ん中を空けながら私の横を通りすぎていった。


「これで話はゆっくり聞けるな。俺は『アンチドッグズ』のボスって名乗ってるけどよ、まぁ地獄の番犬か、岩下可器で呼んでくれ」


岩下可器と名乗った男は自分より少し年上くらいの容姿だった。その男はじゃらじゃらと鎖を首から、腰から垂らしていて耳と目尻にピアスを空けていた。そして何よりも、スキンヘッドの男の入れ墨と同じ柄が、左頬に刻みこまれていた。



自分の嫌いなタイプの集大成、と言ったところだ。



「そんな嫌そうな顔すんなっての。俺がしっかりお前の相手するからよぉ」


可器はそう言って、重たそうな腰を上げてニヤリと笑った。右手には使い古したような、金色をしていない金属バット。


「私、可器さんみたいな人、嫌いです」


「うわぁ、軽く傷つくじゃねぇか。罪なやつ」


可器はひゃははと軽く笑って、金属バットを振り上げた。私のその間に『郷愁狂臭』を素早く可器の胸に突き立てる。それで終わりだと思った。


「そう簡単に終わらねぇんだな、それが」


可器はそう言い、私のナイフを持っている手首をぐっと掴んだのだった。それと同時に、手首に激痛が走り私は目を見開く。手首から肉が焼かれる臭いがしたのだ。これはただの痛みじゃなくて、火傷の痛みだ。


そう思い至った後には、可器はすでに金属バットを振り下ろしていた。私は咄嗟に、致命傷になる頭と右肩を避け、左肩で金属バットを受ける。そしてその金属バットも熱を持ち、私の肩を炙り始めた。


「ぅっ……ぁあ……!!」


私は首を伸ばして、掴まれて使えない右腕にある『郷愁狂臭』を口で持ち変え、そのまま可器に体当たりをする。


「ひゃはは、すっげぇな」


可器は余裕の笑みを見せて、私を力任せに突き飛ばす。それでも単純な力勝負に勝てず、私はバランスを崩して壁にもたれかかった。追撃がこなかっただけ、まだマシと思うしかない。


「お前そんな怪我しててよ、よくそんな動けるよな」


金属バットを地面でコンコンと叩きながら、可器は私のほうを見る。否、私は左肩と右腕くらいしか攻撃をくらってないはず。そう思って、初めて自分の身体を見てぎょっとする。身体中切り傷だらけで、左の鎖骨を折られているのか完全に陥没していた。


他にも太股に刺し傷があって、ドクドクと血が流れていた。それに気付いた途端、身体が言うことを聞かなくなりべたっと地面に座りこんだ。『紅斑点の香』がきれてしまったのだ。この香は致死量があり、それ以上の量を詰めることができない。そして興奮状態で気付かなかった怪我に、今になって気付くことになったのだ。


「ひゃはぁ? あれ、もうお手上げか」


可器はコツコツと金属バットで地面を叩きながら歩いてくる。


「………………!」


私は地面を蹴って低い姿勢からナイフを繰り出す、はずだった。だが、『郷愁狂臭』を持つ右手の甲を串刺しにするように可器が金属バットを私の手に叩きつけたのだ。


「ぅあぁああっ!!」


私は右手を砕かれる痛みに、喉の奥から絶叫を上げる。そのまま握っているわけにもいかず、私は思わず『郷愁狂臭』を手放した。可器はそのまま『郷愁狂臭』を遠くに蹴り飛ばし、私の襟元を掴む。私を軽々と、可器は持ち上げて首を傾げた。


「ん、なんかふつーの子に戻ったな」


可器は物珍しげな顔をして、私をジッと見ていた。


「……私のこと、殺さないんですか?」


私は10人ほどの『アンチドッグズ』を殺したのだ。


殺さないほうが、どうかしている。


死ぬのに未練がないというのは嘘になるが、それがわかった以上10人単位の命を笑って殺した私の罪深さも痛感したのだ。もう足が正常でも恐怖で立てないほどに。私は視界がぶれるくらいにガタガタと震えていた。


「殺す? いーや、俺は女は殺さねぇ主義なんだよな」


可器は軽い調子で言って、私を持ち上げ鼻息を鳴らす。そしてひょいと、投げられた。私は受け身をとることもできずに、可器が座っていたソファに叩きつけられた。


「ぅ………………!」


「まー、そうだな。俺の大事な仲間が10人くらいか? 殺されちまったんだからよ」


可器は歩いてきて、ソファに私を押し付けた。


あれ、なんか違う?

これは、押し倒されたのか?


可器の頬に刻まれた入れ墨が、不敵に笑う。


「身体でたっぷり代償を払ってもらうぜ」


可器の舌ピアスが、鈍く光った。


さっきまで恐怖とは違う恐怖が、私を襲う。






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