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久々の投稿です!
で、でも本当は結構前に書いてたんだからね!!
(なんかつんでれ)
さぁて今宵は満月。
狼男が出そうな月を、
上から見下すように眺めようじゃないか。
「めかくし」13
「七宮、本当によかったの?」
「俺らも足踏みしてるわけにはいかないだろ? 手当たり次第やってくしかないからね」
「遊園地な刺宮家から、志村けんを取り返さなきゃいけないからねー」
私達、匂神唯と七宮智と世辞沙也夏は新車に乗り高速道路を走っている最中である。4人用の小型車。黄色のボディで、なかなかかわいいデザインだ。嗅覚の家、匂神の者としては新車の臭いというのは相当きついものではあるのだが。そのせいで完璧に私は車酔いをしている。
「パーキングエリアに寄ろうか、唯ちゃん」
「ごめんよろしく……」
「次のパーキングエリアには何が売ってるかしらー?」
七宮が運転手、隣は食料。後ろの席に沙也夏さんと私が座っている。
「――――それにしても、沙也夏ちゃんの言葉が笑えなくなっちゃうなんてね」
運転手である智の苦笑いが、車の鏡に映った。私も思わず、同じように苦笑いをするのだった。今、私達が向かっているのは、とある場所にある遊園地。もちろん遊びに行くわけではない。七宮の隣にある席には、食料の入った沙也夏さんのリュックサックだけでなく、私のエナメルバックもある。
私のエナメルバックには、それなりの武器が入っている。果物ナイフに小型銃、石油入りペットボトルにチャッカマン。他にも、沙也夏さんの靴、外側がギラギラ光る薄い刃付きの物騒な靴が足元にある。今の沙也夏さんはクロックスを履いているが準備周到なわけである。
そして、私の腹に巻いたゴムにくくりつけてある、鞘に収まった一本のナイフ。今思えば鞘があるわけだし、大型ナイフというより中華刀に近い形状の、五町大供作の凶器『郷愁狂臭』。重ねて言うが、遊園地に遊びに行くつもりは毛頭ないわけである。こうなったのは、車の購入申し込みをして2週間後くらいの昼に私の携帯にかかってきた一件の電話が始まりだ。
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七宮とは違って『ヘビーローテーション』ではなく、『大声ダイヤモンド』が鳴り響く。AKB好きなんだ、誰推しなの?と聞いてくる七宮は無視して電話に出る。
電話の主は、私の兄である匂神庵だった。庵兄は私にたくさんの情報を提供してくれたのである。
『刺宮家は宗教団体を模した組織を持っていて、一ヶ月に一回ほど人が集まる場所に出没し強制的な勧誘をする』
『刺宮の家長は五町の家長と通じていて、大掛かりな勧誘も揉み消すことができる』
『そして、今から十日後にとある遊園地で刺宮家は一般人に勧誘を行う』
うまく要約できないが、庵兄が私に伝えた情報はこんな内容だった。それを七宮に伝えると、素直に驚いたのか「凄い」と呟いた。私は自称情報屋という七宮のその言葉に、庵兄の事を自分のように思って鼻が高くなった。
匂神家は元より情報を持ち、五感の家と渡り合っていた。私みたいに武力で渡り歩こうと考えている匂神は誰もいなかった。そういう意味で、庵兄は匂神らしい匂神なのだ。蜘蛛のように情報網を広げ、犬のように真偽を嗅ぎ分ける。庵兄に人探しをさせれば、誰よりも早く探し出すことができるのだ。私と違い匂神家に相応しいと思うのに、頑なに家長の座を拒否を続けたのが不思議である。やはり謙遜な一種なのだろう。
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とりあえず、そんな情報があって七宮の傷が全快したこともあり、私達はその勧誘が予定されている遊園地に行くことになったのだ。
「まぁそれがデマでも遊園地なんていいじゃない! 一回行ってみたかったのよー!!」
そんなことを確か沙也夏さんは言ってたっけ。
沙也夏さん的にはデマのほうがいいらしい。
「はいパーキングエリアに着いたよ。お昼ご飯ついでとっちゃおうか」
「やったお昼ご飯!」
「はい沙也夏ちゃん、唯ちゃん。主に沙也夏ちゃん、食費は2000円が最大ね」
「えー、ケチ」
「結構あげてるつもりなんだけどな……」
七宮は沙也夏さんの反応に、うーんと唸った。味覚の家、世辞家の食欲はなかなかのものだ。私は世辞家を最初、人を食べていなきゃ死んでしまうような化物じみた人を失礼ながら想像していた。だが、たこ焼き屋さんに直行して2パックたこ焼きを買いうっとりしている沙也夏さんを横目に見て思う。多分、他に自分の味覚を満足させるものがあればいいのだろう。沙也夏さんの場合は大好物は人だが、他に食べたことのない物の方が惹かれるようだ。
「ちょっと唯! これすっごい美味しいわよー! 唯も買いなよ!」
自分の分をあげるとかはないんですね?
私はそれを口に出さず思うだけにして、たこ焼きを買い沙也夏さんの隣に座る。
「沙也夏さん、倦さん……志村けんさんに会えるの、楽しみですか?」
私はたこ焼きの中身が意外と熱いことに驚きながら、沙也夏さんに尋ねる。
「そうね、ちょっと怖いかもしれない」
沙也夏さんは二粒のたこ焼きを口に頬張りながら、苦笑いをする。
「智や唯から聞いてるけど、刺宮家は……家長だっけ、あのパンダのことを慕ってるんでしょ? だから、あたしより刺宮家をとると思うんだよねー」
「そ、そんなことは……」
「だから志村けんが刺宮家をとっても、無理矢理こっちに引きずりこむの。そうすればすぐ慣れて、こっちのほうが良いって言うから、ね」
沙也夏さんはなんでもないように、たこ焼きを食べながら笑う。沙也夏さんは真面目な事を言う時、饒舌になるんだなと一つ発見した。いや真面目なことと言うより『楽しくないこと』なのかもしれない。
「あたしね、あんた達のこと好きなのよ」
沙也夏さんはそう言って、自分のたこ焼きを一つ無理矢理私の頬に突っ込んだ。これには私も驚いた。
「だから私は『家族』と志村けん、どっちも欲張るからね。そこらへんよろしくー」
沙也夏さんはそう言って私の頬を串でつつく。私はなんだかくすぐったくて、自然と笑みを溢した。
「へへっ……私達、血の繋がらない『家族』ですもんね」
「そうよ、お父さんは変態なんだけどねー」
沙也夏さんは楽しそうに笑う。すると噂をすれば影が差すと言ったところか、七宮が後ろからポンと沙也夏さんを叩いた。沙也夏さんは驚いて思わずたこ焼きを取り落としそうになる。
「唯ちゃんも沙也夏ちゃんも、食べ終わった?」
「智、危ないじゃない!」
「あぁごめんごめん。ほら、これで許してよ。はい唯ちゃんも」
そう言って七宮は二つに小分けされた袋を、それぞれ私と沙也夏さんに渡した。
「開けてみて?」
七宮は緊張してるのか、頭をかきながら私と沙也夏さんの反応を待っている。
「あ、綺麗」
「何これやるじゃないー!」
それはお土産屋さんよくありそうな、正直少し安っぽい勾玉のネックレスだった。しかも勉強運やら金運やら恋愛運やらではなく、私のにも沙也夏さんのにも『強運』と大雑把に書かれてある。私は黄で、沙也夏さんは赤。七宮は笑み浮かべながら自らの首にかかった青の勾玉を見せた。
「一つも怪我せず、乗りきろうね。絶対無理しないでね……」
七宮はそう言って、私と沙也夏さんまとめて抱き締めた。とても力強く、抱きしめた。
「もちろんっ」
「あたし達が負けるわけないわよー」
私と沙也夏さんは七宮に笑いかけ、勾玉のネックレスを首にかけた。生死を分ける戦いが起こるかもしれない遊園地に向かおうとしているのだ。七宮の『振子』が、鳴ってしまうかもしれない。
七宮は刺宮家に対して、あちら側からは殺されそうになっても、七宮が刺宮家を滅ぼそうとは思っていないだろう。殺し殺される事を嫌う七宮が、ここまで私と沙也夏さんに付き合ってくれているのだ。七宮は優しい。庵兄と匹敵するくらいに。私自身、劣等感を味わうほどに。
「じゃあ遊園地で大きいぬいぐるみ買って、七宮の部屋飾ろうね」
私はそんな想いを隠しながら、そんなことを言って笑った。
「そうねー。あの殺風景さを打開しないとね!」
「確かに全部燃えちゃったからね。よし! 鎮魂歌だ! 遊園地着くまでバンバンアニソンとアイドルの歌流すぞ!」
七宮はそんな事を言って、さっさと黄色の小型車に乗り込んだ。私と沙也夏さんは顔を見合わせて、微かな反抗心からお土産屋さんでお菓子を買ってから車に乗り込む。そしてそれから女の曲ばっか流しながら黄色の小型車は高速道路を走り抜ける。この曲好きと沙也夏さんが言ったものに、七宮は帰ったら買ってiPod入れてあげるねとワンプッシュしていた。沙也夏さんをそちらの世界に引き込む気なのだろう。そうしてなるものかと私と七宮の言葉による沙也夏さん争奪戦が始まる。そしてあーだこーだ言ってる間に、遊園地に着いてしまった。
「なんだかんだ着いちゃったね」
七宮は少し陰鬱そうに目の前の遊園地を遠いものを見るように見上げた。駐車場から推測するに、人はたくさん来ていそうだ。観覧車やジェットコースターが見える中で、沙也夏さんは目を輝かせていた。
「早く行こー! 刺宮家が見つかる前は遊んでも構わないわよねー!?」
そう言って沙也夏さんは私の手を引っ張って、はしゃいでいた。私は引っ張られるまま車から出て、目の前の遊園地を見上げる。
そういえば、家族で遊園地なんて行ったことないな。私はそんな事を思いながら『郷愁狂臭』の鞘に触れる。復讐を成し遂げたい、でも心のどこかでここに敵がいてほしくないと思いながら。
「最初ジェットコースター乗りません?」
「ジェットコースターって早いやつ? いいねいいねー!」
「いきなりそんなハードで大丈夫? 唯ちゃん、沙也夏ちゃん」
そして私達『家系なき家族』、匂神唯、七宮智、世辞沙也夏は遊園地に足を踏み入れた。
「我輩に相応しい舞台だな。」
駒はどう動くか。
月さえも読めない『夜祭』も凌駕した宴会の始まり。
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