第十九話
少年の名はアモル。夢は英雄、四英雄の一人「剣士フデッカ」のごとく、臆することなく強者に立ち向かい、無法の輩を無垢なる民草の剣となってそれを討つ。そんな存在に恋焦がれる。
少年の名はアモル。コーブルクの村に狩人フェイオンの子として生まれ、老境の元剣士ヴァンタナからの薫陶を受け、夢物語に憧れて握るものを弓から剣へと変えた。
少年の名はアモル。アモルは自分よりも随分と小さい、少年というよりも幼子と言った方がいいほどの存在の背中を見て、夢を見た。友人だとは思っていない。多分きっと、それは向こうもそうなのだろう。だけど、アモルとその子は、いつしか互いに肩を並べることを自然なものと感じるようになっていた。
あいつがやれるのなら俺だって。アモルを乾坤一擲の一撃に走らせたのはそんな感情が原因だ。無謀とも思える突貫を成功させたのは、置いていかれてたまるものか、お前の横には俺がいるというアモルの意志が働いていたはずだ。
少年の名はアモル。そんな彼の姿を見て、ちぐはぐな幼子もまた、その背中に未来の英雄の姿を幻視した。
――何故! 何故? 何故!? 何故っ!?
――卑小なる者どもに、何故俺はこうも痛めつけられている!?
――吹けば飛ぶような存在、俺が近づけその身を平伏し、ただ通り過ぎるのを恐怖に震えながらじっと待つことしかできない、愚かな存在!
――だというのに何故俺は、この群れに……している!?
フェイトも、ヴァンタナも、フェイオンも、地獄の釜の蓋を開けたかのような悲痛な叫びを発する魔獣を、ただ眺めていることしか出来なかった。
誰一人として、このような結末を思い描いていてはなかった。空から落ちたアモルは、握っていた剣を魔獣の右目に残したまま、転がるようにして地面へ着地し、既に魔獣の傍から駆け出している。
少年がヴァンタナの後ろへ身を隠すようにして滑り込めば、周囲から呆れたような、しかし同時に誇らしく思われているような、なんとも例えがたい視線が向けられた。
フェイオンがそんな少年に近づき、力強く乱暴に頭を撫で回した。心配と、賞賛と、怒りと、喜びなどが複雑に入り混じった感情が、その手のひらから伝わってくる。そして、ただ一言。よくやった、と、それだけを告げて。
それを受けて、面映いような、誇らしいような、ただ、暖かい感情が少年の身体を駆け巡っていた。
「折れた、な」
ヴァンタナが小さく呟いた。折れた、それは確実に。魔獣の戦意というものが、少年の下した一撃で、ぱきりとへし折れた。逃走するのならそれでいい。しかし、ここまで痛めつけられてなお村に、前に進もうとするのなら。
「全員構えろ」
ヴァンタナの号令と共に、今一度男たちが剣を、弓を構えた。無論その中には剣を置き去りにしたアモルも、鐘楼の上に立ち杖を構えるフェイトも含まれていた。アモルが無手であることに気付いたヴァンタナが腰にぶら下げていた短剣を渡す。それをしっかりと握ったアモルが、赫灼とした強い意志を持ちながら魔獣を見据える。それはその場にいる戦士たち全員が同じだった。戦う意志を持って、魔獣を睨む。
最早彼らが臆することはない。小さな二人の勇者が灯した勇気の灯火が、しっかりと彼らの心に火を点けている。その火は彼らの想いを消えることなく焦がし続けていくようにさえ錯覚していた。
流れ出る血液と苦悶を隠すことなく顕わにし、眼を覆いながら地に伏していた魔獣はようやくその苦痛を抑え込み、口角に泡を浮かべながら村人たちを睨んでいた。本能が彼に訴える。「逃げ出すべきだ」と。唸りを上げる狂気が彼に嘆願する。「奴らを屠らせてくれ」と。相反する二つの感情の鬩ぎ合いをその脳内で受け止めながら、魔獣は数瞬の間に、浮かべていた全ての表情と感情を消し去った。
ぞっと背後を奔る得体の知れぬ恐怖から、ヴァンタナは改めて眼前にいる存在が未だ脅威足りえると認識した。此処にきて魔獣は全てを受け止め、そして悟り、原点へと立ち返った。恐れを知りながらも、それを知らぬと自身を誤認させ、いっそ傲慢なほどに超常的な立ち居振る舞い。まるで取るに足りぬ蟻を見るかのような、硝子のような目線。潰れて白く濁る右目は全てを凪ぎに変え凍りつかせてしまうような、そんな錯覚さえ覚えるほど寒々しい。
――来る。
ヴァンタナは確信した。
「……来る」
――なるほど、お前も理解したのか。
鐘楼の上から声を飛ばしたフェイトもまた同じ感覚を抱いたのだと思い、ヴァンタナは心中で首肯する。
――来る。
ゆらりと、朧のように魔獣が一つ歩を進めた。
「……来る!」
ああそうだ、来るぞフェイト。魔術を行使しろ。この鉄火場に足を踏み入れたのを叱るのは後だ。悔しいが今はお前の力が必要になっている。ヴァンタナは剣を再び握りなおした。
魔獣は今までよりも手強くある。万全の状態よりも、手負いになり狂気と殺意に溺れていたころよりもだ。再び魔獣が歩を進める。音もなく、地面にただ足跡だけを残して。
「来る!」
フェイトが絶叫した。
「何かが、来る!!」
ヴァンタナは驚愕の眼差しで鐘楼に立つ孫を振り返った。フェイトは、地を見ていない。地に立ち歩む魔獣を見ていなかった。フェイトの視線はヴァンタナと同じものを見てはいなかった。
「空」
空を、見ていた。
「死」が墜ちてくる。「死」が、落ちてきた。夜を駆け、月を飛び、闇を踏みつけ、災厄を運び墜ちてきた。風鳴りを響かせ、漆黒の外套翻し、生命を抉り取る槍を握り締め、死が、アモルたちの下を訪れた。
それは数多の骨から作り上げられた化物だった。人の形を模った骨の群れが、同じく馬の形を模った骨に乗り、赤黒い鮮血を凝り固めて作りあげたような色合いの鎧を着込み、空を駆っていた。
それを為す骨の量は人間一人分のそれではなかった。数多の躯から人骨だけを拾い上げて、それを「生きた人の形」に組み上げて、その上にしゃれこうべを一つ戴冠させたような姿だ。馬もそうだ。肉と皮を剥いだ一頭の馬ではない。骨が肉と皮のように置かれていて、濁った白馬そのもののような姿で生者の世界に現出している。躯の騎馬に跨った死者の騎士、その双眸には鬼火のような青い炎が二つ、瞳代わりに音を立て揺らめいていた。
ゆっくりと、空中から、月夜から村人と魔獣の間に騎士が降り立った。生者と死者を分かつように、人と化物を隔てるように、彼岸の境界を示すかのごとくヴァンタナたちとの間に音を上げ蹄鉄を突き立てた。
右手に持つは長大な突撃槍。鈍色に輝くそれは月光を反射させ、無機質な光を照らしその存在を高らかに謳っている。
ぶるる、と騎馬が一つ首を振りながら気分を鎮めていた。余りに「生々しい」その声を聞けば、粘性の畏怖が背後を一舐めしたかのように不快感を覚える。騎士は愛騎の首を撫で、宥めすかせるように二度軽く叩いた。人が、馬を慈しむ姿そのままに。
亡者の騎士は、ただそこにいた。ただそれだけで、周囲の生物から戦意を、生への執着を、生気を、緩やかに奪い取っていった。
ヴァンタナの背後からどさりと膝が地面を打つ音が聞こえた。狩人の一人が膝を折り、地面にへたり込んだ音だった。ヴァンタナにはそれを叱責することが出来なかった。
声を上げたくなかった。もしもこの場で声を張り上げ今一度立ち上がれと叱咤すれば、あの騎士に見咎められる。それが怖かった。
心挫け足から力が抜ける。その気持ちがよく分かっていた。出来ることなら自分もそうしたいのだから、それを否定することなぞヴァンタナには不可能だった。
一目、だ。一目あの化物を視界に捉えてしまったその瞬間、既にヴァンタナの闘志は刈り取られてしまっていた。想像するのは、真っ黒い襤褸を纏った死神が己の首元に大鎌をあてがう姿だ。
ああ、見ろ。騎士の後ろにいるあの魔獣を。
躯の騎士が現れたその瞬間から、がたがたと震え、うずくまり、眼を伏せ、頭をかばう様に両腕で隠しているではないか。まるで親から離れた子熊のように、哀れな姿で必死にその身を守っている。
誰一人として、声を出せない。誰一人として、身動きが取れない。誰一人として、かの騎士から眼を離せない。
誰一人として、声を出したくない。誰一人として、身動きを取りたくない。全ての人間が、かの騎士から眼を離したいと思っている。
見たくない、見られたくない、逃げ出したい、動きたくない、叫びだしたい、叫べない。蛇に睨まれた蛙のような……いや、それよりももっとずっと酷い。死の淵から手招きされているような、根源的な恐怖が場を支配する。
「……夜分」
躯の騎士が口を開いた。発声器官はないはずだ。だがそれでも頭蓋の顎は開閉し、空気を振動させ言葉を発する。その場にいた全員が雷を受けたかのように全身を緊張が走りぬけた。
「遅くに失礼する。我の名はアルゴル」
「君たちは我を指してこうも言う。『騎士公アルゴル』『夜を駆る者』『亡者の騎士』。どれで呼ぼうが我は構わない。以後、お見知りおきを」
右腕を胸に当て、うやうやしく礼をした。雅やかな貴族がするような所作が、酷く不釣合いのように思えて、しかしそれがあるべき姿でもあると感じられるような自然さがそこにあった。
その名を知っているのは、この場に三人。一人はフェイト。読書家である彼は『諸侯』たちの存在を知識として覚えている。もう一人はヴァンタナ。戦士上がりの彼は当然諸侯という極めて危険な存在を知っておく必要があったし、対アルゴル戦との戦線に参加したこともある。その戦で、アルゴル自身の姿を目にすることはなかったが。最後の一人はリリアム。元々彼は王都に住んでいた。高等教育を受けることができる家庭に育っていたし、その特異な家庭環境から、特にアルゴルとケイネロンという二つの諸侯に関しては口うるさく教えられていた。
ならば必然理解の及ばぬところがある。何故、どうして国の南部を制圧する騎士公アルゴルが国の北方寄りに位置するコーブルクにまで現れているのか。まさかアルゴルの一軍が国を真っ二つに貫きここまで至ったというのか。まさか、そのような大事が起きていたのなら、如何に辺境に近いコーブルクであろうと風の噂が立ち昇っていたはずだ。それに、村人に対して兵士として徴兵が掛かっていてもおかしくはない。
フェイトは、混乱する頭で考え、そして、すぐさまその答えを見つけ出す。いや、そこまで複雑に考えることはなかったのだ。なぜならばアルゴルは、その方法を目の前で見せていたのだから。
「夜を、駆る」
口元で小さく呟いた答え。南方に座するアルゴルはどうやって此処まで辿り着いた? そんなのは簡単だ。アルゴルは文字通り、夜を駆けていた。彼がフェイトたちの前に姿を現したのはどのようにして? 空から降りてきた。
夜を駆る者、アルゴル。彼の愛馬は夜を跳ね、月を跨ぎ、暗闇の中を一陣の風となり駆け抜ける。
――そんなもの、避けようがないじゃないか。
気ままに夜を駆けるその存在は、まるで人知の及ばぬ災害のようだ。ふと気を向けてふらりと人里へ足を伸ばす、そんなことが出来る規格外の化物。防塞も防壁も何も関係ない。空を支配するその四足は縦横無尽に人界を踏み荒らすことが出来る。
「なに、皆々そこまでかしこまることはない。別に我は此処へ戦に来たなどという訳ではないのだ。……我の後ろのあの熊。最近産まれたばかりなのだろうあの小熊、このまま死なせるには偲びないのだ。選れた戦士になる素質を持つ者を易々と、命散らせるのが許せない性質でな」
「あれを我が領内へ持って帰ろうと、そう思ってここまで来た」
「……っ!」
その場にいた全ての人間が息を呑んだ。わざわざそんなことの為に? 俺たちが必死に戦っていたところに横槍を入れて? 好都合じゃないか、厄災を引き渡せば去ってくれるんだろう?
それぞれが様々な思惑を抱き、瞳に困惑の色が浮かぶ。村人同士が互い互いに眼を向け合い、おろおろと視線が漂い、最終的に一人の男の背中へ集まった。
「……それが目的ならば、そうすればいいだろう」
村人の視線をじりじりと背中に浴びながら、ヴァンタナは剣をアルゴルへ向けながら吐き捨てるように言う。声が震えてしまわぬよう、精一杯の虚勢を張って。
「そうか、ならばそうしよう」
アルゴルはそんな風にいじらしい抵抗を見せるヴァンタナに何の感慨も見せることなく、素直に頷き、馬首を返した。背後から斬りかかられることなど考えず、弓を射掛けられる可能性なぞ毛頭抱かず、無防備なその後姿を晒した。アルゴルは知っている、理解している。自身が村人の前に姿を見せたその時から、既に彼らの戦意は尽く薙ぎ取られ、ただ災厄が過ぎるのを祈りながら待ち続けることしか出来ない、哀れな子羊と化したことを。
アルゴル自身を目の当たりにしてなお刃を向け斬りかかる気概の持ち主はこの場にはいないと。
アルゴルが求めるのは強者との邂逅だ。「こう」なった直後はそれ以外にも希求してやまぬ物があったはずだが、千と三百という永い歳月を自身の狂気に晒されて経てしまっては、それがいったいなんだったのか覚えてすらいない。ただ、自身に立ち向かう勇ある者がいれば、自身に抗しうる力を持った者と出会うことが出来れば、それを思い出せると理由のない確信を抱いている。
故に、この瞬間をアルゴルは後悔することとなる。自分自身が持つ業を。千三百年もの間磨き続けた自分自身の技を。もはや反応反射と言った次元さえ超える、絶対的な防衛行動を行ったことを。
しかしそれさえも、アルゴルは化物へ堕ちた時から背負う地獄の業火のような狂気ですぐさま灰燼と化してしまうのだ。自身が摘み取った命を、その名前を、アルゴルは懺悔しながらも心に留めることが出来ない。瞬く間に、その名前は、それまで屠ってきた人間たちの屍山血川へ紛れこんでしまうのだ。
少年が抱いたのはいったいどのような激情だったのだろうか。憤怒? 逆上? それとも、勇気?
出来ることなら「ふざけるな」と、怒鳴り上げたかった。人を、俺たちを舐めるな、と。これはあの熊の魔獣と、俺たちの戦いだったはずじゃないか。そこに突然現れて、手前勝手な理由で敵を掻っ攫う。随分とふざけた行動じゃないか。
第一、いっそ哀れなほどに怯えるあの魔獣はなんだ。見ているこっちが気の毒になるほど気丈に振舞う憧れたあの人の背中はなんだ。
ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。
そんなのは違う、夢見たものじゃない。抗いようのない災いを目の当たりにして、超えようのない壁を目の前にして、ただ運が悪かったと諦めて、その矛先が自身に向かないよう必死に息を潜めて。そんなの生きているだなんて言えない。そんなものは、死んでいるだけだ。死んで、そこにいるだけだ。
そんな人生は御免こうむる。戦うんだ。戦って、歯向かって、牙を立てて。「人は生きている」ということを実感するんだ。先ほどのフェイトのように。
届かない刃はない。敵わない相手なんてない。人の勇気は、いつだって前を指し示している。
そうだ、俺がそうなるんだ。物語で読んだ勇者のように。人を奮い立たせる、万人を導くその存在に。
やってやる。
剣を握った。
首を落としてやる。
随分と高い場所にある。
大丈夫だ。思い切り跳べば、あそこにだって届く。
声を上げずに、一直線に、迷うことなく、躊躇うことなく。
――行け。
少年は音もなく駆け出した。尊敬する剣の師の背後から飛び出した。一歩、強く地を踏み、二歩、跳ねるように土を蹴り、三歩、舞うが如く砂を巻き上げる。
騎士の背後から、跳躍し、剣を振りかざし、曝け出された首元を断ち切るべく、その若き刃を……。
その光景を、フェイトの眼にはやけにゆっくりと、ゆっくりと映っていた。まるで戯曲のような、年端の行かぬ勇者が強大な魔王へ向け刃を振り下ろさんとする姿。
雲間から覗いた月明かりが少年を照らしていた。きらきらと少年の周囲が輝いて見える。白刃は月光に照らされ、まるで聖剣のように光を放っていた。
ゆっくりと、ゆっくりと、少年の剣が魔王に迫る。
そして、まるでその光景があるべき姿であったかのように、帰結する。
滴り落ちる赤い鮮血。ひゅう、ひゅう、と喉から零れる切れ切れの息。
びくんびくんと力なく脈打つ身体。
胴体に開けられた大きな風穴からするりと摩擦なく命が抜け出ていく。
くの字に力なく折れた身体は、微動だにしない村人たちへ向けるように頭を垂れて。
その眼は未だ力強く光を湛えていて。
まるで誇るかのように、無事魔王を討ち果たしたのだという満足気な表情で、それは彼の名を呼ぶのだ。
「フェ……い……ト……」
血が、落ちる。鈍色の槍を伝って、少年の血が滴り落ちる。血溜まりが、地面に出来上がる。
穿たれた身体。宿ることのない感情。抜け落ちた魂。
フェイトの視界が反転する。
あかく、しろく、くろく。くるくるとその三色が視界を色とりどりに飾りつける。いや、その三色だけを与え続ける。瑞々しいはずの木々の緑も、人を暖め暗闇の中進むべき道を教えてくれる篝火の橙も、人が寄って立つべき大地の茶も、フェイトの視界から一つ残さず姿を消していく。
色が消える、溶けていく。フェイトの世界が朽ち果てたかのように、色彩を失った。
「……っ! ああっ! なんて、なんてことを! 我は、我はなんという度し難いことを!」
フェイトは、その言葉を誰が言ったのかよく分からなかった。
「我に臆することなく立ち向かった、勇ある者を! それも、こんな、このような若き勇者を! 我は! 私はぁっ! なんと愚かなことをしてしまったのだ!」
骨が、少年をゆっくりと地面に下ろした。百舌の早贄のような形にあった少年を、丁寧に己が長槍から引き抜き、労わるように地面へ寝かせた。
「将来ある者を、我はこの手で屠ってしまった。……どうか、許してほしい。この子の父親よ、母親よ。我は、許されぬことをした……。深く、深く、謝意を示そう」
何を、言っているのか、フェイトは、よく、分からなかった。
骨は、地に下ろした少年から離れ、熊の下へ向かう。
フェイトは、鐘楼から一息に飛び降りる。
ゆらり、ゆらりと幽鬼のように歩み進む。
フェイオンの横を通りすぎた。ヴァンタナの横を通りすぎた。
そして、少年の傍らにしゃがみこんだ。
手のひらで、少年の頬を撫ぞる。
熱はもう、なかった。
少年の名はアモル。
愚か者のアモル。
将来の夢は、英雄、だった。