第6話 真っ直ぐな性格
「悲鳴が聞こえてきた所にランパーがいた時は肝が冷えました」
「まあ、ゲルトさんの立場からすればそうですよね……」
自室に戻った私は、ランパーとその祖父であるゲルトさんに来てもらっていた。
ラナーシャの方は、マグナス様が話を聞いてくれている。彼女のケアに関しては、兄である彼に任せるべきだろう。
私はランパーから話を聞くことにする。もっとも、彼の方は何か特別な事情を抱えている訳でもないので、ケアする必要はないかもしれないが。
「爺さん、まさか俺が女の子にひどいことをするとでも思っていたのかよ?」
「いや、そういう訳ではないが……誤ったとしても怪我なんかさせたりしたら、大変なことになるだろう」
「いやまあ、それはそうだが……」
ゲルトさんにとって、ランパーはたった一人の孫である。
そんな彼が、特別な立場にあると思っている女性に何かをしてしまった。そう考えた時のゲルトさんの心境は、計り知れないものだっただろう。
「ランパーは、ラナーシャとこれまで話したことがあったの?」
「え? ああ、それはもちろん。同僚ですからね」
「どんな印象だったのかしら?」
「印象? 真面目なメイドとか、そんな感じですかね……」
私の質問に、ランパーはすらすらと答えてくれた。
やはり彼は、ラナーシャの内面に関して特に気付いていないらしい。ランパーは結構鈍感であるし、ラナーシャも自らの内面を隠そうとしているため、悟られなかったということだろう。
「特に仲が良かったり悪かったりはしなかったの?」
「ええ、そうです。まあ、本当に同僚というだけですね。他に関係性は特にありません」
「なるほど……」
「アラティア様……一体どうしてそんなことを聞くんです?」
「いえ、これは単純に個人的な興味よ。ほら、あなたも年頃だし」
「え? そういう感じなんですか?」
ランパーとは、幼少期の頃からの関係だ。メルテナさんが姉であるならば、彼は弟といった所だろうか。
それはきっと、ランパーも理解している。故にこういう風に言っておけば、まず疑われはしないだろう。
事情は後日説明する訳だし、余計な心配をかける必要はない。今日は何もなかったということにして、ゆっくり休んでもらうことにしよう。
「まあとにかく何もなくて良かったわ。ゲルトさんやメルテナさんについては心配していないけれど、あなたは少々粗暴な所があるから心配だったのよ」
「粗暴って、お言葉ですが、俺はこれでも紳士を心掛けていますよ」
「もちろん私はわかっているわよ? でもあなたは勘違いされやすいから」
「いや、その……」
私の言葉に、ランパーは頬をかいていた。
彼の心根は、きっとラナーシャも理解しているだろう。故に二人の間に何か溝ができることもないはずだ。
そんなことを考えながら、私は一日を終えるのだった。
◇◇◇
私が連れてきた三人の使用人には、ラナーシャに関する事情をある程度開示した。
ゲルトさんとメルテナさんは、大方の事情を察していたためかそれ程驚かなかった。ただ問題は、ランパーである。
「……大丈夫だろうか?」
「それはちょっと私にもわかないわね。かなり衝撃を受けていたみたいだし……」
話を聞いたランパーは、とてもまずいことをしたというような顔をしていた。
年が近いこともあって、彼はラナーシャに結構砕けた態度をしていた気がする。事実を知って、それをひどく後悔したといった所だろうか。
「まあ、ゲルトさん辺りがフォローしてくれるとは思うから、仕事に支障が出たりすることはないと思うけれど……」
「聞いていた通り、ランパーはかなり真っ直ぐで真面目な性格であるようだな……」
「ええ、そうだけれど。えっと、どなたからそのことを?」
「ああ、ラナーシャから聞いたのだ」
マグナス様は、私に笑顔を見せながらそう言ってきた。
ラナーシャの分析は、的確である。確かにランパーは、そんな性格だ。
やはり彼女は、ランパーの心根を見抜いていたということだろうか。それはなんというか、私としても嬉しい事柄だ。
「年も近いこともあって、ラナーシャも親近感を抱いているのだろうな。他の使用人よりも、もしかしたら心を開くかもしれない」
「ああ、考えてみれば彼女は年上ばかりの職場で働いているのね」
「そういうことになるな。まあ、兄としては少々複雑な気もするが、それでもあの子が交友を広げることは嬉しく思う」
当然のことながら、マグナス様はラナーシャに他者と普通に交流して欲しいと思っているのだろう。
以前の彼女は、今よりもっとひどい状態だったと聞く。そこから改善していっているらしいため、ランパーとの交流も一種の治療であるということだろうか。
「相手として、ランパーは適切だと思うわ。あの子は、ちょっとぶっきら棒な所もあるけれど、善良で裏表がないし」
「立派な男であるようだな? あなたが連れてきただけある」
「そう言ってもらえると私としてもありがたいわね」
嫁ぐにあたって連れてきた三人のことを、私は信頼している。実の親にさえ見向きもされない私にとって、あの三人は数少ない味方であり、尊敬できる人達なのだ。
あの三人なら、ラナーシャとも上手くやっていけるだろう。時間はかかるかもしれないが、きっと信頼を得られるはずだ。
「さて、それでは我々は我々の役目を果たすとしよう」
「ええ、そうしましょうか」
マグナス様の言葉に頷いて、私達は仕事を始める。
こうして私達は、また新しい一日を始めるのだった。




