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一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。  作者: 木山楽斗


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第6話 真っ直ぐな性格

「悲鳴が聞こえてきた所にランパーがいた時は肝が冷えました」

「まあ、ゲルトさんの立場からすればそうですよね……」


 自室に戻った私は、ランパーとその祖父であるゲルトさんに来てもらっていた。

 ラナーシャの方は、マグナス様が話を聞いてくれている。彼女のケアに関しては、兄である彼に任せるべきだろう。

 私はランパーから話を聞くことにする。もっとも、彼の方は何か特別な事情を抱えている訳でもないので、ケアする必要はないかもしれないが。


「爺さん、まさか俺が女の子にひどいことをするとでも思っていたのかよ?」

「いや、そういう訳ではないが……誤ったとしても怪我なんかさせたりしたら、大変なことになるだろう」

「いやまあ、それはそうだが……」


 ゲルトさんにとって、ランパーはたった一人の孫である。

 そんな彼が、特別な立場にあると思っている女性に何かをしてしまった。そう考えた時のゲルトさんの心境は、計り知れないものだっただろう。


「ランパーは、ラナーシャとこれまで話したことがあったの?」

「え? ああ、それはもちろん。同僚ですからね」

「どんな印象だったのかしら?」

「印象? 真面目なメイドとか、そんな感じですかね……」


 私の質問に、ランパーはすらすらと答えてくれた。

 やはり彼は、ラナーシャの内面に関して特に気付いていないらしい。ランパーは結構鈍感であるし、ラナーシャも自らの内面を隠そうとしているため、悟られなかったということだろう。


「特に仲が良かったり悪かったりはしなかったの?」

「ええ、そうです。まあ、本当に同僚というだけですね。他に関係性は特にありません」

「なるほど……」

「アラティア様……一体どうしてそんなことを聞くんです?」

「いえ、これは単純に個人的な興味よ。ほら、あなたも年頃だし」

「え? そういう感じなんですか?」


 ランパーとは、幼少期の頃からの関係だ。メルテナさんが姉であるならば、彼は弟といった所だろうか。

 それはきっと、ランパーも理解している。故にこういう風に言っておけば、まず疑われはしないだろう。

 事情は後日説明する訳だし、余計な心配をかける必要はない。今日は何もなかったということにして、ゆっくり休んでもらうことにしよう。


「まあとにかく何もなくて良かったわ。ゲルトさんやメルテナさんについては心配していないけれど、あなたは少々粗暴な所があるから心配だったのよ」

「粗暴って、お言葉ですが、俺はこれでも紳士を心掛けていますよ」

「もちろん私はわかっているわよ? でもあなたは勘違いされやすいから」

「いや、その……」


 私の言葉に、ランパーは頬をかいていた。

 彼の心根は、きっとラナーシャも理解しているだろう。故に二人の間に何か溝ができることもないはずだ。

 そんなことを考えながら、私は一日を終えるのだった。




◇◇◇




 私が連れてきた三人の使用人には、ラナーシャに関する事情をある程度開示した。

 ゲルトさんとメルテナさんは、大方の事情を察していたためかそれ程驚かなかった。ただ問題は、ランパーである。


「……大丈夫だろうか?」

「それはちょっと私にもわかないわね。かなり衝撃を受けていたみたいだし……」


 話を聞いたランパーは、とてもまずいことをしたというような顔をしていた。

 年が近いこともあって、彼はラナーシャに結構砕けた態度をしていた気がする。事実を知って、それをひどく後悔したといった所だろうか。


「まあ、ゲルトさん辺りがフォローしてくれるとは思うから、仕事に支障が出たりすることはないと思うけれど……」

「聞いていた通り、ランパーはかなり真っ直ぐで真面目な性格であるようだな……」

「ええ、そうだけれど。えっと、どなたからそのことを?」

「ああ、ラナーシャから聞いたのだ」


 マグナス様は、私に笑顔を見せながらそう言ってきた。

 ラナーシャの分析は、的確である。確かにランパーは、そんな性格だ。

 やはり彼女は、ランパーの心根を見抜いていたということだろうか。それはなんというか、私としても嬉しい事柄だ。


「年も近いこともあって、ラナーシャも親近感を抱いているのだろうな。他の使用人よりも、もしかしたら心を開くかもしれない」

「ああ、考えてみれば彼女は年上ばかりの職場で働いているのね」

「そういうことになるな。まあ、兄としては少々複雑な気もするが、それでもあの子が交友を広げることは嬉しく思う」


 当然のことながら、マグナス様はラナーシャに他者と普通に交流して欲しいと思っているのだろう。

 以前の彼女は、今よりもっとひどい状態だったと聞く。そこから改善していっているらしいため、ランパーとの交流も一種の治療であるということだろうか。


「相手として、ランパーは適切だと思うわ。あの子は、ちょっとぶっきら棒な所もあるけれど、善良で裏表がないし」

「立派な男であるようだな? あなたが連れてきただけある」

「そう言ってもらえると私としてもありがたいわね」


 嫁ぐにあたって連れてきた三人のことを、私は信頼している。実の親にさえ見向きもされない私にとって、あの三人は数少ない味方であり、尊敬できる人達なのだ。

 あの三人なら、ラナーシャとも上手くやっていけるだろう。時間はかかるかもしれないが、きっと信頼を得られるはずだ。


「さて、それでは我々は我々の役目を果たすとしよう」

「ええ、そうしましょうか」


 マグナス様の言葉に頷いて、私達は仕事を始める。

 こうして私達は、また新しい一日を始めるのだった。

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