詩小説: 猫に小判の猫
わたしの家の白猫・ロンには、理解できないものがあります。
それは、人間にとっての価値です。
もちろん、猫にそんなものを求めるほうが間違っているのですが、それでも彼の行動を見ていると、つい苦笑してしまいます
ある日、わたしは会社で表彰され、ケースに入った立派な記念メダルをもらいました。
重みのある金色の円盤は、わたしにとって努力の証そのものでした。
帰宅して、大きめの段ボールから記念メダルの入ったケースを取り出しました。
メダルをテーブルに置くと、ロンがすっと近づき、まるで新しいおもちゃを見つけた子どものように目を輝かせました。
「ロン、これは大事なものだから触っちゃダメだよ」
そう言ったのに、ロンは前脚でメダルをちょい、と突きました。
カラン、と軽い音がして、メダルは床へ転がり落ちます。
「ちょっと! 割れたらどうするの!」
慌てて拾い上げるわたしをよそに、ロンはケースの入っていた段ボールのほうに興味津々で近づき、その中にすっぽりと座り込みました。
「……そっちがいいの?」
ロンは満足げに喉を鳴らし、段ボールの中で丸くなってしまいました。
どうやら、わたしの努力の結晶よりも、ちょうどいいサイズの箱のほうが、彼にとっては価値があるのでしょう。
また別の日。
わたしは祖父の形見の古い懐中時計を磨いていました。
金色の細工が美しく、子どもの頃から憧れていた宝物です。
ふと気づくと、ロンがじっとこちらを見つめていました。
その視線は、完全に「それ、ちょうだい」の目でした。
「ダメ。これは本当に大事なものだから」
そう言って棚の上に置いたのですが、数分後、コトンと音がしました。
急いで振り返ると、棚に飛び乗ったロンが、懐中時計ではなく――時計を包んでいた柔らかい布の袋をふみふみしていました。
「……袋のほうがいいの?」
懐中時計の横で、ロンは袋に顔をうずめ、幸せそうに目を細めました。
わたしはため息をつきながらも、笑ってしまいました。
結局、ロンにとって価値があるのは、メダルでも歴史ある時計でもなく、「ちょうどいい箱」と「柔らかい袋」と「わたしのそば」、それだけなのです。
ある夜、わたしはロンに言いました。
「ねえロン、君に小判をあげても意味ないんだよね」
ロンは眠そうに目を細め、わたしの膝にぽすんと乗りました。
その温かさに触れながら、わたしは小さく呟きました。
「……でも、価値って、人それぞれ、猫それぞれなのかもしれないね」
ロンは返事の代わりに、静かに喉を鳴らしました。




