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推しが死神でVTuberで同居人!?  作者: 妙原奇天


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3/17

第3話「死神、アンチに出会う」

 配信三回目。

 タイトルは【死神、料理に挑戦】。

 クレハが包丁を手に取り、俺が横で監督する。

 映像の向こう、コメント欄はいつものように賑やかだった。


《死神包丁こわい》

《絶対指切る》

《声かわいいから許す》

《今日も尊死》


 俺は横でキャプボの画面を見守り、音量メーターを監視する。

 クレハは包丁を持つ所作まで妙に優雅で、カメラ映えは完璧だ。

 ただし、実際の技術はゼロ。玉ねぎを切ろうとして芯に突き刺し、涙目になってフードをずらす姿にコメントが爆発する。


《草》

《死神涙目w》

《俺の寿命削っていいから守ってやりたい》


 笑いに包まれる空気。

 俺も思わず、声を出して笑った。

 けれど、そのときだった。


《こんなの死神じゃない》

《設定寒すぎ》

《作り話乙》


 画面の右端に、冷たい文字が混じった。

 ——初めての、アンチコメント。


「悠斗」


 クレハが小さく俺の名を呼ぶ。

 視線はカメラのまま、声だけ俺に届くように低く。

 彼女の声がわずかに震えているのを、俺は聞き逃さなかった。


「大丈夫。無視していい」


「……無視、ですか」


「ああ。配信ってのは、八割の人が楽しんで、二割がつまらないって言うもんだ。気にするだけ損」


 俺が答えると、クレハはほんの一秒沈黙してから、再び画面に向き直った。

 そして柔らかい笑みを浮かべ、視聴者に語りかける。


「——そう。たしかに、わたしは“本物の死神”です。信じるかどうかは、あなたの自由。でも、今日も人間の時間は流れています。だから、わたしは配信します。あなたの今が、少しだけやさしくなればいいと思って」


 コメント欄が一気に反転した。


《尊い》

《アンチ涙目》

《本物だろうが設定だろうがどうでもいい、好き》

《こういう返しできる子、強い》


 俺は横で息を吐いた。

 ……強い。

 少なくとも表面上は、俺なんかよりよほど肝が据わってる。


 配信終了後。

 PCをシャットダウンし、照明を落とすと、部屋は静けさを取り戻した。

 コンビニで買った惣菜を机に並べ、クレハと向かい合う。


「……本当は、怖かった」


 箸を持ったまま、彼女がぽつりと言った。

 顔は俯き、影に隠れている。

 配信中の完璧な仮面ではなく、ポンコツな同居人の顔。


「“偽物”と言われること。死神であることを、嘘だと思われること。わたしは……存在の証明が、ずっと下手だから」


「存在の、証明?」


 クレハは小さく頷いた。

 そして、胸元からあの寿命帳を取り出す。

 銀の筆で開かれたページに、また俺の名前があった。


「これが、わたしの唯一の仕事。けれど、数字を間違える。命を数える者が、命を間違える。……そんな死神に価値があるのか、ずっと怖い」


 冗談みたいな口調で語るときとは違う。

 本気で悩んでいる声だった。

 俺はしばらく箸を止め、考える。

 どう返せばいいか、わからない。

 でも、言わなきゃと思った。


「……配信見たろ? 君が“死神かどうか”なんて、正直どうでもいいんだ。大事なのは、見た人が少しでも笑ったかどうか。それで十分じゃないか」


「笑わせることが、死神の価値になる?」


「俺は、そう思う」


 クレハはしばらく黙り、やがて小さな声で「……なるほど」と言った。

 灰色の瞳に、微かな光が宿る。

 死神としての矜持と、人間としての弱さ。その狭間で揺れているように見えた。


 翌日。

 大学から戻ると、机の上に見慣れない封筒が置いてあった。

 差出人不明。開けると、中には一枚の紙。


 ——「死神を名乗るな。お前の寿命は、俺が数える」


 震える字で書かれていた。

 背筋が冷たくなる。

 誰かが、俺たちの配信を本気で“危険視”している?


「悠斗、どうした?」


 クレハが背後から覗き込む。

 紙を見た瞬間、彼女の顔から血の気が引いたように見えた。


「これは……ただの人間のいたずらではありません。死神の世界の文体です。わたし以外の、誰かが——」


 言葉を切る。

 灰の瞳が、深く揺れた。


「悠斗。あなた、本当に三日後に死んでいたかもしれません」


「は?」


「わたしが直したあの帳面。もし、わたしの“間違い”ではなく、誰かの“介入”だったとしたら——」


 静寂が、部屋を満たした。

 死神としての修行。VTuberとしての挑戦。

 その裏で、もっと大きなものが動いているのかもしれない。


 クレハは小さく拳を握り、宣言した。


「悠斗。次の配信、テーマは決まりました。“死神は、偽物か本物か”——そこで、わたしは答えます」


 俺は喉を鳴らし、息を呑んだ。

 配信はもう、ただの娯楽じゃなくなる。

 命と、存在と、嘘と真実が交差する舞台になろうとしていた。

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