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推しが死神でVTuberで同居人!?  作者: 妙原奇天


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2/17

第2話「死神、炊飯器に敗れる」

 翌朝。目覚ましのアラームを止めて、カーテンの隙間から差し込む光を見た瞬間、俺は昨夜の出来事を思い出した。

 ——死神が同居人になって、VTuberデビューを果たした。


 視線を横にずらすと、ベッドの隅でクレハが正座したまま目を閉じていた。眠らないらしい。俺のスマホの充電ケーブルをじっと観察している。


「悠斗。これは、生命維持装置ですか?」


「違う。スマホの充電器」


「なるほど。あなたの寿命と直結していないのですね。では間違えて切っても——」


「切るな! 大事なんだよ!」


 朝食を作ろうと炊飯器の蓋を開けた瞬間、クレハが顔を近づけてきた。


「これは、魂を蒸す器ですか?」


「米! ただの米!」


「米……人間界ではエネルギー資源なのですね」


 クレハは興味津々でスイッチを押したが、なぜか保温モードに切り替わっただけで炊けない。ボタンを連打し、最終的に「エラー」の赤ランプが点灯する。


「……敗北しました」


「敗北じゃなくて、操作ミスな」


 朝からドタバタだが、不思議と腹は立たない。こういうのを「ポンコツかわいい」って言うんだろう。


 大学へ行っている間、彼女は留守番。帰宅してPCを開くと、昨夜のアーカイブにコメントが山ほどついていた。再生数は千を越えている。


《声きれいすぎ》

《死神って設定凝ってる》

《次の配信はいつですか?》

《ガチ恋したので布教します》


 ……やばい。ほんとに伸び始めてる。


「悠斗。数字が増えています。これは寿命の残量のようなものですか?」


「違う! 再生数! 人気が出てるってこと!」


「なるほど。では、これは延命につながりますか?」


「まあ、そういうもんかもな」


 次の配信テーマを相談していると、クレハが真剣な顔で言った。


「次は“炊飯器との戦い”をコンテンツ化します」


「おい、それはやめろ」


「視聴者に『死神でも炊飯器に勝てない』と伝えれば、親近感を得られます」


「自虐系VTuberかよ……」


 でも、その発想は悪くないかもしれない。昨夜はクール路線だったが、日常のドジを見せればさらに距離が縮まる。


 その夜。二回目の配信。タイトルは【死神、炊飯器に挑む】。

 開始五分で、クレハは米を床にぶちまけ、コメント欄が爆笑で埋まった。


《草》《尊い》《炊飯器最強説》《死神かわいい》《俺の寿命も炊け》


 登録者数は配信終了時点で一万人を突破。

 俺は画面を見ながら、笑いと同時に背筋をぞくりとさせた。

 ——この勢い、本物だ。


 配信後、クレハは真面目に反省していた。


「悠斗。わたし、また間違えました」


「いや、間違えて正解だろ。今日はあのミスが一番の盛り上がりだった」


「……そうですか。人間は“欠陥”に愛着を持つのですね」


「まあ、そういうもんだ」


 クレハはしばらく考え込み、やがて小さく笑った。

 その笑顔は、寿命帳に記されない種類の温度を持っていた。

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