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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

指輪の願い

ボーイズラブです。相変わらず、あらすじとタイトル付けが下手っぴです。

 ナージャは第一王子の婚約者候補だった。何人もいる婚約者候補の内の1人。ナージャは第一王子と結婚なんてしたくない。王子と結婚したら、今までの生活がガラリと変わり、窮屈で仕方が無いと思っていたから。



*****



 小さな国だった。すごく豊かでもなく、貧しくも無い。みんなが寄り添って生きていく様な国だった。ナージャが生まれるずっと前は、他国に攻められたり、蛮族が襲って来た事もあるらしいが、ナージャが知る限りそんな経験は一度も無かった。


 ナージャは元気な男の子で、良く日に焼けていた。小麦色の肌とサラサラの金髪がよく似合う、可愛い男の子だった。顔だけは、、、。



*****



 ナージャには秘密があった、家族も知らない、本人も知らない秘密。雨を呼ぶ力。ただし、本人も知らない事なので、どうしたら雨を呼べるかはわからない。

 ナージャの国には、山から湧いた美しい水が川を作り流れている。その水で、作物や家畜が育ち、人々の生活を潤している。多少雨が降らなくても何とかなって来た為、ナージャの力はそれ程重要では無かった。

 本当は、ナージャが

(そろそろ雨が降ればいいのに、、、)

と思っただけで、数日後サーッと雨が降る。王族だけが知っている秘密だった。 

 ナージャの薬指にはリングの様な細いアザがある。パッと見、指輪をしている様だ。それが雨を呼ぶ者の証だった。

 ナージャの家系には極稀に、その力を持った者が生まれる。ナージャの家族や、ナージャ本人がその力を知らないのは願ってから数日後に効果が出るからだった。



 第一王子のイシスは、ナージャがちゃんと指輪をしているのを確認した。婚約者候補への贈り物として、王族から贈った指輪だが、万が一の事を考えての事だった。指輪をする事で痣を隠したかった。

 しかし、別の意味もあった。イシスはずっとナージャが好きだった。だから、この指輪をナージャに付けさせた。本当はもっと豪華でしっかりした物を贈りたかったのに、まだ婚約者候補だった時だし、他の婚約者候補もいた為に細い細い指輪にした。

 他の婚約者候補者達には指輪では無く違う物を贈っていた。ある者にはネックレスを、別の者にはアンクレットを、口紅を贈った者もいる。


 山を超えた遥か遠くの国には、雨が降らなくて飢えた国もある。雨を呼ぶ力の話しは、王族しか知らない話でも、他国が知らないとは限らない。ナージャの力が欲しくて奪いに来る者がいるかも知れない。ナージャの指輪は痣を見られない様にする、お守りの様な物だ。

 しかし、イシスは心配している。最近、見かけない風貌の人物が街中まちなかを歩いている事がある。国境があるとは言え、全てを柵で覆う訳にもいかない。

 国境付近を巡回しているが、上手く目を盗んで、街中に入り込む者はいる。



*****



「どれどれ、今日の俺の婚約者殿のご機嫌はいかがかな?」

ナージャはため息を吐く。

「俺の婚約者は、ミリアだもんねー!」

「あーい!」

ナージャは3歳のミリアににっこりと笑いかける。イシスの方はチラリとも見ない。

 馬上からナージャを見て、いつもと変わらない様子を確認すると

「ツレない婚約者殿だ」

と笑って馬の向きを変える。馬の足音が遠ざかるのを確認してから、ナージャは振り返る。

「イシス、ケガしてるー!」

ミリアが叫ぶとイシスが振り向いた。

「国境付近は危ないから近寄るなよ」

とだけ言うと王宮に戻って行った。

「ミリア、1人で行動したらダメだよ。危ないんだって」

「あいっ」

と言うと、ナージャに両手を広げて抱っこをせがむ。ナージャはイシスがケガをした左腕をじっと見た。



*****



(アイツがケガするなんて、珍しい、、、)

と思いながら、頭を洗う。

 この国では、街から少し離れた森の中に、小さな湖があり昼間暖かい時間に洗髪する習慣がある。久しぶりにすっきりしたナージャは荷物を持って、街に戻る。

 

 街の入り口に1人の知らないお婆さんが座っていたから、声を掛けた。

「ばーさん、見かけない人だな。何してるんだ?」

「おや、珍しい相を持った子だね。運勢を見てあげよう」

「運勢?」

「これから先、生きていく上でのヒントの様なものだね」

「金は取るのか?」

「お前は子供だから、いらないよ」

「へぇ〜。じゃあ、見てくれよ!」

「まず、手の相を見ようか。両手を見せてごらん」

ナージャは、一度腰の辺りで手の平を擦り、両手を見せた.

「ふむふむ、人とは少し違った運命だね。周りの人に色々助けられるだろう」

「へぇ〜」

お婆さんは、ナージャの指輪を少しずらす。

「どれ、顔の相も見せておくれ」

ナージャはお婆さんから視線を外して、顔を近づけた。

「前向きで積極的な子だね」

ナージャは褒められて嬉しかった。お婆さんの横に座り、色々話しをした。

「ばーさんはどこに行くんだ?」

「色んな相を見る為に旅に出てるんだ。沢山の相が見れて面白いぞ。まぁ、修行みたいなもんかのぅ」

「修行って、その年でまだまだ修行が必要なのか?」

「幾つになっても完成する事はないのさ」

「へぇ、でも旅かぁ、1人で寂しくないのかよ」

「気ままで楽しいぞ。何より、他人に責任を感じなくて済む。失敗も成功も自分だけの物だな」

ナージャは素直にすごいなと感心した。



*****



「あ?誰と誰が結婚だって?」

ナージャは、入り口で腕組みをして立つイシスを睨んで言った。

「俺とお前」

「はあぁぁぁ〜、、、」

ナージャが長いため息をいた。

「俺とお前は結婚出来ないだろ?何、冗談言ってるんだよ」

「冗談じゃないさ。しかも出来るだけ早く」

「俺とお前と結婚しても、後継ぎとか無理だろ?お前、第一王子なんだから、いつか王様だろ?」

「それが?」

「王家を継ぐ子がいないと困るだろうが!」

「困らないさ、弟がいる」

「ええええ〜、、、。お前、それでいいの?」

「弟の方が冷静で策略家だ、俺は剣を振ってる方が性に合うしな。アイツが国を守った方がいい」

「で、お前は何するんだよ」

「俺は国境付近を守りながら、お前とイチャイチャしてればいいんだよ」

「、、、、っ!」

ナージャは一気に顔が赤くなり

「そーゆー冗談止めろっ!」

と言って、枕を投げた。



*****



数日後、ナージャの家に婚礼衣装や道具が届いた。衣装は白一色。装飾品は全て黄金色だった。

「本当に結婚式やるのかよ、、、」

「やるよ。お前が俺の嫁だとアピールしないとな」

「めんどくせー」

ナージャはそう言うと、出掛けようとした。

「国境の方へは行くなよ」

出掛けるなと言われないだけ、ありがたい。ナージャはフラフラと散歩をする。街を出て、少し歩こうとしたら、遠くにミリアの姿が見えた。知らない大人に手を引かれ国境の方へ向かっていた。

 あの大人は誰だろう。何だか違和感がある。着ている物の所為だろうか、、、。

 イシスが何度も国境に近づくなと言っていたのが気になる。しかも、一度は怪我をしていた。イヤな予感がして、ミリアを追いかける。声を出して、呼んだ方がいいのかわからなかった。自分が名前を呼んだ事でミリアに何かあったら、、、。

 でも、ミリアは手を繋いだ大人と、どんどん先に進んで行く。見慣れない馬車があった、アレに乗せられたらマズイ。急がないとと慌てて走る。

「ミリアッ!」

その時、馬車から数人飛び出て来た。ヤバいと思った時には遅かった。後ろからもう1人近づいて来ていたらしく、ナージャは何かを嗅がされて意識が遠のいた。


 

 気がついたら、後ろ手で縛られていた。目隠しをされ、口には猿轡。ミリアが心配でたまらない。狭い馬車の中には、居ないみたいだ。まだ3歳のミリアを、殺した、、、なんて事はないだろう。でも、わからない。無事でいてくれる事を願うしかない。

 身体中が痛い。馬車の揺れで、あちこちぶつかる。何で俺がこんな目に遭うんだとムカムカして来た。アイツらは知らない言葉を話しているし、イライラが募る。

 どれ位時間が経ったのかわからない。街からどれ程離れたんだろう。俺はこのまま殺されるのか?でも、それならあの場で殺されただろう。まさか、奴隷商人に売られる、、、とか?



 急に話し声が止んだ。馬車が勢いよく止まり、ナージャの身体は投げ飛ばされて、どこかに思い切りぶつかった。あまりの痛さに気を失いそうだった、、、。外では、人の声と、剣がぶつかり合う音がする。

 音が止んだと思ったら、扉をガチャガチャ回す音がする。

「ナージャっ!」

イシスがナージャの名前を呼ぶ。ナージャは動かない。

「ナージャ、ナージャ、、、。嘘だろ、、、」

イシスはナージャを抱きしめた。まさか、死んではいないだろう。動かないナージャをそっと横たえ、目隠しを取った。ナージャが瞼をキツく結んで、生きているのを確認した。

(生きていた、、、)

ホッとしながら、猿轡を外す。

「う、、、」

ナージャが声を漏らす。イシスは意地悪な気分になり、ロープを解かなかった。

「イシス、、、」

「ナージャ」

「イシス、、、縄、解いて、、、」

「ナージャ、国境付近に近寄るなと言ったはずだ、、、」

「ミリア、、、ミリアは?」

イシスはため息をく。

「ミリアは無事だ。お前の名前を呼びながら、大泣きで歩いて帰って来た」

「良かった、、、」

「お前、このまま国境を超えていたら、どうなっていたかわかっているのか?」

「あ〜、、、。奴隷商人に売られるとか?」

イシスはナージャを立たせる。

「それもあり得るな、、、」

後ろ手で縛られた縄を解く。

「他に何かあるか?」

イシスは黙って、ナージャの両手を前で縛る。

「お前、何やってんの?」

一度付いた傷に縄が当たり、ナージャは顔を顰めた。そのまま、馬に乗せ、イシスも後ろに跨る。

「ちょっ!えっ?」

「はっ!」

と掛け声を掛け、馬を走らせる。かなりのスピードを出す所為でナージャは不安定な身体をイシスに預ける。イシスは左手でナージャを抱きしめ、身体を密着させる。

「おおお、お前っ!何考えてるんだよ!落ちる、落ちる!」

縛られた両手でイシスの腕にしがみつく。

 イシスは馬にわざと大きな岩の上を飛び越えさせたり、川の中を走らせる。その度にナージャが

「うわーっ!」

とか

「やめろっ!」

とか

「死ぬ死ぬー!」

と叫ぶからやめられない。ニヤニヤ笑いながら街まで帰って行った。

 漸く街の近くまで戻って来ると、馬を歩かせてのんびり帰る。

「お前な〜。俺を殺す気?」

ナージャはイシスに身体を預けたままだった。

「俺の婚約者殿は言う事を聞かないから、少しお仕置きしないとな」

「そんな事言っても、ミリアが連れて行かれそうだったから」

「わかってる。ミリアはナージャの所に行くつもりだったらしい」

「あ?どーゆう事?」

「ミリアにナージャの所に行こうと声を掛けたようだ」

「なんで俺?」

「ミリアを連れて歩けば、お前が来ると思ったんだろ。つまりお前が目的だったって事だ」

「俺、、、やっぱり奴隷商人に売られる予定だったんだ、、、。ヤバい。死ぬまで肉体労働させられるところだった、、、」

街中に入るとナージャの縄を解き、馬から降ろした。ミリアがナージャを見つけて走って来る。

「ナージャ!」

ナージャはミリアの身体に合わす様にしゃがみ込み、ミリアを抱きしめた。ミリアはナージャの首に腕を回して抱きつく。

「おいおい、お熱い抱擁だな、婚約者は俺なんだが」

「うっせぇ」

「イシス、うっせー!」

「ミリア、誰がナージャを取り戻したと思ってるんだ?」

ミリアはナージャの腕から離れ、洋服の裾を指先で摘んでお辞儀をしながら

「イシスさま、ありあと!」

とにっこり笑う。

「ミリア可愛いなー!」

ナージャはミリアにデレデレだった。



*****



 ナージャはそのまま王宮に連れて行かれ、まず、風呂に入れられた。打ち身や擦り傷が滲みる。グッと我慢して、大人しく入る。風呂から上がり、傷の消毒と治療をする。イシスが部屋に入って来る。

「明日、結婚式をする」

「明日?!」

「本当は今すぐにもしたい位だ」

「何でそんなに急ぐんだよ!」

「今日、何があったか、わかっているんだろう?」

「おおっ、おぅ、、、」

「あのまま、国境を超えていたらどうなっていたと思うんだ」

「奴隷商人に売られてた」

「お前は2度とこちらに帰って来られなくなる」

「、、、」

「何があっても助けられない」

「それと、結婚とどう繋がるんだよっ!」

「王宮の人間を攫ったら、こちらも攻撃出来る」

「がーっ!俺1人に何でそこまでやるんだよ!」

イシスは考える。雨を呼ぶ力の話しをするべきか、、、。今まで、王族しか知らなかったのには、意味があるのかも知れない、、、。イシスはナージャの指輪に触れる。指輪を少しずらす。サイズがほんの少し合っていない為、すぐに痣が見える。

(どうして、コイツを攫おうとしたんだ?)

「お前、誰かに指輪を触らせたか?」

「占いのばーさんに」

「ソイツか、、、」

「何だよっ!指輪はお前がくれたんだろ?」

「指輪じゃない。痣を見られたんだ、、、」

「痣?それが?」

イシスはナージャの顔をじっと見た。言うべきか言わざるべきか、、、。ナージャの腕を引き、抱きしめる。

「ぐっ!」

ナージャがイシスの腹に一発お見舞いした。

「お、、、前、、、」

「は、な、し、を、誤魔化すな!」



*****



「なぁ、何で一緒に寝ないといけない訳?」

「また、攫われないとも限らないだろ?」 

「だからって、1つの布団じゃなくても良くない?」

「何かあったらすぐわかるだろ?」

「それにしてもさぁ!」

先に布団に入ったイシスは、布団をめくり

「さぁ」

とニヤリと笑う。

「何だかなぁ、、、」

ブツブツ言いながら布団に入るナージャ。イシスはナージャを後ろからそっと抱きしめる。

「抱きしめない!」

ピシャリと腕を叩くナージャ。とは言え、身体が温まって来るとウトウトして来て眠くなる。ナージャはモゾモゾと動いて向きを変える。イシスの方を向き、すっぽりと胸の中に入ると安心して眠りに着いた。ナージャも何だかんだ、イシスが好きなのだ。

 イシスはナージャをギュッと抱きしめた。反抗しないナージャは可愛い。長いまつ毛、サラサラの金髪。細い体。でも、意外と筋肉が付いている。ナージャを誰にも取られたく無い。何があっても、必ず守る、、、。そう思いながら眠りについた。



*****



 翌日は早朝から準備が始まった。もう一度風呂に入れられ、傷の手当てをする。あまりにひどい打ち身は化粧で隠した。先日届いた衣装に着替える前に、食事をしっかりと取らされる。

「なぁ、お前、朝からこんなに食ってんの?」

「昼間食えない時もあるからな、食える時に食っとかないと」

「まぁ、そっか、、、」

もう食べられないと言う限界まで食べる。

 別室に案内され、白一色の婚礼衣装を身に付ける。黄金色の飾りを侍女が丁寧にはめる。準備が終わると侍女達が静かに下がり、1人きりになった。 ナージャの両親達ももうすぐ着くだろう。ナージャはイシスに衣装を見せようと隣の部屋へ向かった。イシスはどんな衣装だろう。背が高く、がっしりとした体格のイシスなら、何を着てもかっこいいと思う。

 ナージャの口元は本人が気づかない内に、微笑んでいた。

 隣の部屋にはイシスだけだと思い、バレない様に静かに扉を開いた。ちょっとした、イタズラ心だった。カーテンの向こうから

「痣、、、」

「指輪、、、」

と聞こえて来たので。自分の話しだと思いそっと近づく。イシスと王様が話していた。

「ナージャに力の話しをするべきか、、、」

「本人も知らない力だ。わざわざ話す事はないだろう。力の存在を知れば、ナージャ自身が辛くなる。あの力は無闇に使うものでは無いし、1度使えば皆があの力を当てにする。万が一、あの力が無くなった時、今度はナージャを責めるだろう。他国から狙われる度に自身を恨むかも知れない。今まで通り、ナージャにも家族にも知らせなくていい。しかし、他国にだけは絶対に渡してはならない。もしも他国に奪われたら、、、」

王様は静かに言った。

「わかった」

ナージャは音を立てない様に、その場を離れた。


 ナージャは元の部屋に戻り静かに考えた。

(俺にどんな力があるってんだ?)

花嫁の控えの間。綺麗に整えられて、花がたくさん飾ってある。窓の外には青い空。

(「他国にだけは絶対に渡してはならない。もしも他国に奪われたら、、、」って事は、俺をよその国に出さない為にイシスと結婚させるって事か?)

力があるから、イシスと結婚する。力が無かったら?

(俺は選ばれない、、、)

「何だよ、、、俺の事、好きだったんじゃないのかよ、、、」

ナージャは窓の外を見て呟く。自分の言葉にハッ!とした。

(待て待て待て!俺は別にアイツなんか好きじゃない!)

頭を抱えて、叫びそうになる。

「花嫁殿は準備が出来たのか?」

イシスが勝手に入って来る。ナージャはビクリと肩を上げ、ゆっくり振り返る。自分でも顔が赤いのがわかる。

「似合うじゃないか、花嫁衣装」

満足気にニヤリと笑う。

「さすが俺だな。お前の事を良くわかっている」

ナージャは内心

(本当は俺の事、何とも思って無いクセに!)

と思いつつ、イシスの衣装に見惚れる。

「カッコいいだろ?」

ナージャは悔しいけど、似合ってると思った。イシスも白い花婿衣装で黄金色の装飾。ナージャの物より、大きめでしっかりしている。

(コイツ、何で俺と結婚するんだろう。別に俺を他国に渡さない為に結婚するなら、第二王子でも良かったはずなのに、、、)

考えながら、イシスを見つめる。イシスはナージャの頬に手を添えて、そっとキスをした。

「ぐっ!」

「あ、わりぃ!」

つい、いつものクセでナージャはイシスの腹を殴ってしまった。

「いや、今のは俺が悪かった」

右手を上げて、イシスは謝った。

「相変わらず、良いパンチ持ってるな」

と言いながら、2人で部屋を出る。結婚式が始まる。



 式は神殿で行われた。青い空に、白い神殿が眩しかった。衣装の白も美しかった。人々が集まり、祝福してくれる。ミリアの姿も見えた。

「ナージャ!かわいー!」

一輪の花を握りしめ、大きく振り回す。人々が一輪ずつ花を手に持っている。結婚式が終わり、神殿を出る。ナージャが侍女から籠を貰って、胸の前で抱える。人々が集まり、お祝いの言葉と共に花を入れる。最初は軽かった籠もたくさんのお祝いの言葉と花で、ずっしり重たくなっていく。この花は後で風呂に入れたり、ベッド周りを飾るのに使われる。

 ミリアの目の前に行くと

「ナージャ、イシスのお嫁さん、可愛い!ミリアはナージャのお嫁さんになるからね!」

と言いながら花を入れる。イシスは、ミリアに

「それは困ったな、結婚は1人としか出来ない」

と真剣に言った。大人気ない。



*****



 式が終わり、1度控えの間に移動する。イシスがかなり重たくなった花籠を預かっている。侍女に手渡すとどこかに持って行った。イシスはナージャに近寄る。ナージャは外を見ながら考えていた。

「ナージャ?」

「どうして?」

「?」

「どうして俺と結婚したんだ?」

イシスは少し考える。

「ナージャ、、、」

「お前は第一王子で、婚約者候補もたくさんいただろう?みんな美人で頭も良い、あれだけの候補がいたんだから、お前の好みの女もいただろ?どうして男の俺なんだよ」

「お前が良いからだ。お前と結婚したかった」

ナージャは信じられなかった。深呼吸を一つする。

「俺の力って何?」

「誰から、、、」

「その力が無かったら、俺と結婚する必要はなかったんじゃないの?」

イシスは答えない。力の話しをどうして知っているのか、どこまで知っているのか、考えていた。

「ほらね、、、」

「?」

「やっぱり本気じゃ無かった」

侍女が2人を呼びに来た。披露宴の席に移動する。

 披露宴では、食事が振る舞われた。王族とナージャの家族、上級貴族、近しい友人達。残念ながらミリアはいない。ミリアがいれば近くに呼んで、気を紛らわせたのに。

 ナージャは皆に愛想笑いをしながら食事をした。いつもなら、何でも美味しいのに、今日は砂の味しかしない、、、。2人は顔を背け合った。


 侍女がイシスにそっと声を掛ける。

「イシス様、ナージャ様がお隣で、、、」

寝ている。疲れていたのか?と思い、そっと声を掛ける。

「ナージャ?」

酒の匂いがする。まさかと思って、ナージャのグラスの中身の匂いを嗅ぐ。

(誰がコイツに酒を飲ませたんだ!)

イライラしながら、ナージャを抱きかかえる。夜も大分更けてきたし、主役が抜けても問題ないだろう。今日は初夜だし、、、。イシスは侍女に指示を出し、サッサとその場から立ち去った。

 


*****



 夜中にナージャは目が覚めた。水が飲みたい。横でイシスが眠っている。起こさない様にベッドから出て、水差しから水を注ぐ。一杯目を一気に飲み干し、2杯目はゆっくり飲む。


 イシスはナージャがベッドから降りる気配で目が覚めた。後ろ姿を眺める。ナージャは水差しから水を注ぎ、一気に飲み干す。

(コイツにどこまで話したらいいんだ?)

悩みながら寝たふりをする。

 水を飲んでベッドに戻る、イシスの寝顔を見ていたら、段々腹が立って来た。

「何か、言いたい事でもあるのか?」

イシスが寝たふりをしたまま言う。

「起きてたのかよ」

ナージャがベッドに腰掛ける。イシスが、座ったナージャの腰に腕を回す。

「どうして、隠すんだ?」

「、、、誰から聞いたんだ」

「イシスと王様が話してた」

「聞いてたのか」

「、、、」

イシスはどうやって話そうか考えながら、ため息をく。

「そんなに話したくないなら、話さなくてもいい」

イシスは回した腕に力を込める。

「そうじゃない。何から話せばいいか考えていた」

「俺の力って何?」

イシスは隠す事を諦めた。

「雨を呼ぶ力」

「はぁ?なんだそりゃ」

「お前も、お前の家族も知らない。知っているのは、王家だけだ」

「どうして、俺にそんな力があるってわかったんだよ」

「薬指の痣だ」

「痣?確かに変わった痣だけど」

「王族にだけ伝わる話しだ。今までそんな痣を持ったヤツは出て来なかった」

「本当か嘘かわからないって事か?」

「そうだ、ただ万が一という事もある」

「どうやって俺が雨を呼ぶんだよ」

「それはわからない。だから危険なんだ」

「危険?」

「他国のヤツらに攫われて、方法を見つける為に何をされるか、、、拷問を受けるかも知れない」

「拷問って、まさか」

ハハッと笑う。イシスは真剣な顔で続けた。

「遠く離れた国では、なかなか雨が降らない国もある。土地は痩せ、草木は枯れ、動物も痩せている。人々も日々の糧さえ不安定だ。そんな国に連れて行かれたら、、、」

イシスはナージャの腰をギュッと抱く。

「俺は一生後悔する」

「どうして、俺に黙ってたんだ?」

「この国に雨が降らなかったら、お前の力を頼るだろう。一つ願いが叶えば、人間はもっと欲しがる生き物だ。お前が雨を降らせば降らす程、お前の力に依存する。「ちょっと雨を降らせてくれ」「ここだけ雨を降らせてくれ」「あいつの所には雨を降らすな」「今年は雨が多いから降らさないでくれ」「災害が来たら、お前が降らせたからだ」雨に関する事、全てに責任を負わされる様になる。もし、力が無くなったら?役立たずと言われるかも知れない、雨を降らせたくないから、ウソを付いているんだと責められるかも知れない、、、」

「そんな事言うヤツは、この国にはいないよ」

「それはお前の力をみんな知らないからだ。知ってしまえば、態度は変わる」

「自国の人間ですらそうなり得るのに、もし他国に攫われたら扱いはもっと酷いだろう。お前が逃げない様に牢屋に閉じ込めるかも知れない。雨が降らなければ傷を付けるかも知れない。力が無くなったら捨てられるかも知れない。一生自由も無く、何処かに閉じ込められる人生なんて、生きる意味が無いじゃないか、、、。家族だってわからない」

「俺の家族はそんな事しない、、、」

「人間なんだ、お前の力に価値があるとわかれば変わって来る。もし、お前の父親が働けなくなって、金が必要になったら?そんな時に、金を払うから雨を降らせてくれと言われたら?最初は些細な事がきっかけでも、どんどん要求は大きくなっていくもんだ、、、」

「この国は幸い、雨に困る事は無かった。でも、未来の事はわからない。王と相談して、お前にもお前の家族にも黙っている事にした。」

「俺には話しても良いじゃないか。俺自身の事だぞ」

「お前は優しい」

「、、、」

「力の事を知ってしまったら、自分から力を提供するだろう」

イシスはベッドに座り、ナージャを背中から抱きしめた。

「俺は、今までのままがいい。どうせ、使い方がわからないんだ、何も知らないでいて欲しかった、、、。お願いだ、この話しは家族にもしないでくれ」

ナージャは何も言えなくなった。



*****



「明日から、周辺の国々を訪問する。新婚旅行だと思っていいぞ」

イシスはニヤリとわらう。

「旅?やった!」

ナージャの顔が一気に明るくほぐれる。

「お前が俺の嫁になったと周知させる」

「なんか仕事みたいな言い方だな」

ナージャがブスッとむくれる。

「ちゃんと愛してるぞ」

「だから、そーゆーのはいらないっつーのっ!」

手元の枕でイシスを叩く。イシスはニヤニヤ笑い、ナージャを抱きしめる。



*****



 旅は思った以上に大変だった。最初は見知らぬ景色に気分も高揚したが、同じ景色ばかりで1日も経たずに飽きてしまう。移動の馬車の中は退屈で、不満が増える。何と無くイライラして、ナージャはイシスに当たってしまう。ちゃんと仲良くしたいのに、イシスが近くに来ると気づかないフリをして距離を置く。

 ナージャは自分でも自分が嫌になっていた。旅行に行くのが楽しみだったのに、こんな気持ちになるとは思わなかった。


「ナージャ、身体を動かそう」

そう言って、イシスが近づいて来た。面倒臭いなと思いながら

「今はいい」

と背中を向けたら、尻に一発蹴りが入って来た。突然で頭に来たナージャは、振り向きざまに一発殴る。イシスは少し下がって、思いっきり入るのを避けた。ナージャは冷静になろうとも考えず、何発も何発も繰り出す。なかなか当たらない。イシスはたまに、わざと軽く当たり

「お前、もうちょっと手加減しろっ!」

と言う。

 大した時間では無かった。ずっと馬車の移動で久しぶりに身体を動かしたから息も上がりやすい。ナージャが肩で息をし出したので、イシスはもういいだろうと考えて

「腹減った。飯にしよう」

とナージャを誘う。ナージャも素直に従い、2人で馬車に戻る。

 身体を動かしたせいか、気分がすっきりした。軽食を食べながらナージャはイシスに言った。

「剣の練習とか出来ないかな。馬も乗れる様になりたい」

「時間ならたくさんある。馬車の中で出来る事もあるし、休憩の時は剣の使い方を教えるよ。馬の乗り方は取り敢えず、馬車で練習するか」

イシスはニコリと笑う。

(そう言えば、コイツが怒るところ、見た事が無いな)

ナージャは何と無く思った。



「指輪を反対の指に変えるぞ」

そう言って、イシスはナージャの手を引く。そっと薬指の指輪を外す。

「痣が見えてもいいのか?」

「わざと見せる。見せた上で、俺と結婚したと報告する。雨を呼ぶ力の事を知っているのが誰かわからないからな。お前が俺の嫁だとわかれば、迂闊に手は出さないだろう」

「そっか」

イシスがナージャの反対の薬指に指輪をはめる。ナージャはゾクゾクして少し顔が赤くなった。

「帰ったら、もっとすごい結婚指輪を贈る」

ナージャは今、指にはまっている指輪を見て

「いらない。これが良い」

と言った。細くて、か弱い指輪だった。痣を隠す程太くは無かったが、指にはまっていると視線が指輪に行くから、痣に気づく人はいなかった。ずっと一緒にいた指輪だった。愛着がある。それに、イシスが初めてくれた物だった。



 始めに立ち寄った国は、ナージャ達の国より少し大きくて、少し発展していた。街も綺麗で食べ物も美味しかった。王と王妃も優しく、その国と同じ様に穏やかな2人だった。

 次の国も素晴らしかった。この国はまだ、若い王と王妃だったが、民に好かれているのがわかる。街並みはゴミ一つ無く、清潔で、ゆったりとした空気が流れていた。

 ナージャ達の周りの国は、大きくは無いが、争う事も無く落ち着いた国が多かった。

 一つだけ、他の国より遠い国があった。移動にも時間が掛かり、近づくに連れ、空気が変わって来た。ナージャは良くわからないけど、行きたくなかった。

「問題はあの国だ」

遠くから見ても何と無くわかる。色が無い。緑も少ないし、覇気が無い。

「お前を攫おうとしたヤツらが使っていた言葉は、あの国の言葉だ」

ナージャはあそこに行きたくなかった。遠くから見ているだけで、嫌な気分になる。どうしてだろう。呼吸が早くなって、イシスの腕にしがみつく。

「あそこは嫌だ」

「ナージャ?大丈夫か?」

「あそこにだけは、行きたくない」

ナージャにもわからない何かがあるのか、しきりに馬車に戻りたがる。イシスはナージャの肩を抱き、馬車に戻った。

 馬車の中でも気分は良くならず、イシスに寄り掛かる。頭がガンガンして、胸がムカムカする。早く家に帰りたい。イシスはナージャの肩をそっと撫でる。ナージャがポロポロ涙を流す。イシスはびっくりして、ナージャを抱きしめる。

「どうしたんだ?」

「わからない。でも、あの国は嫌だ。緑が無い。木が痩せて、葉っぱが無い。地面には土しか無い。牛がガリガリに痩せていて、骨が浮き出ていた。人だって、、、あんなに痩せて、、、」

「ナージャ」

「雨が、、、雨が降ればいいのに、、、。雨が降って、土が柔らかくなったら、花も育つのかな?緑が増えて、食べ物があって、牛も人も元気になればいいのに、、、。こんなのひどい、、、」

イシスはナージャを抱き寄せるしかなかった。あの国に行って、牽制しようと考えていたが、このまま無理にナージャを連れて行けない。他の国には、周知した、いずれあの国にも伝わるだろう。イシスはナージャを抱きながら、帰国する事を考えた。

 


「帰る?」

「ああ」

「あの国に行かなくていいのか?」

「お前があんなになっているのに、連れて行けない。それに他の国には周知した」

「そっか、、、」

馬車は少しずつあの国を離れて行く。ナージャは後ろを振り向き

(あの国に、優しい雨が降って、国が豊かになるといいな)

と思った。



 帰りの馬車の旅も長かった。慌てて帰る必要もない為、イシスはナージャに馬車を操らせ、馬を休ませている間は剣の練習をしたり、体術を教えながらゆっくりと進んだ。



*****



「ミリアー!」

半年以上ミリアに会っていなかった。久しぶりに会うミリアは可愛い。

「ナージャ!」

地面にしゃがみ込んで遊んでいたミリアは、ナージャの声に気付き振り向いた。その横に1人の小さな男の子がいる。

「ナージャ、このこ、ミリアのだんなさま!」

隣でイシスが笑いを堪える。

「半年会わないだけで、結婚済みとは可哀想に、、、」

ナージャがイシスの尻を思いっきり叩いた。



*****



  長旅のお陰か、イシスとナージャは同じ布団に入る事に違和感が無かった。ナージャも当然の流れの様に自然に布団に入って来る。それをナージャに言うと意識して、一緒の布団で寝られなくなると困るので、イシスは1人でニマニマする。

 イシスは布団の中でナージャを抱き寄せる。ナージャは大人しくイシスの腕を抱く。嫁として成長している。後は、、、。後は、、、。後は、、、むぅ、、、。


「どうしてもわからない事があるんだけど」

「何が?」

「第一王子のお前と俺が結婚する必要あったのか?」

「???」

「だって、俺を他の国にやらない為に結婚したなら、第二王子でも良かっただろ?」

「え?ナージャはアイツと結婚したかったのか?」

「そうじゃなくて、お前は第一王子だからって話しだろ?」

「その話しは前にもしただろ?」

「そうだけどさ、やっぱり気になるじゃん」

ナージャはモゾモゾ動いてこっちを向く。上目遣いが可愛い。

「王様とか王妃様は納得してるの?第二王子は?」

イシスはナージャの頬に手を添える。

「俺が何もしてないと思うか?」

親指で頬を撫でる。ナージャは瞬きをしてイシスを見つめる。

「お前との結婚を説得するのは、大変だったぞ。毎日国境周りを警備して、他の仕事も勉強もそれはそれは頑張ったさ。やっと王と弟を説得したんだ」

親指がそっとナージャの口元に触れる。イシスは優しく笑う。

「ナージャがずっと好きだった。力の事は関係ない、俺が結婚したかったから説得した。愛してる、大切なんだ」

ナージャの唇を撫でる。ナージャがゆっくり瞬きをした。少し顔を上げる。イシスの顔が近寄ると、ナージャは瞳を閉じた。



*****



「亭主元気で留守が良いって、ホント言い得て妙よね〜オホホホ」

「でも、おくさん、だんなさまにはしっかりかせいでもらわないと、こまっちゃうわよ〜」

「そうですわね、お金が無いとお洋服も買えないもの〜」

「、、、」

ミリアの視線が俺の後方斜め上を見ている、ヤバい。と、思ったら頭を引っ叩かれた。

「暴力反対、、、」

「変なままごと、ミリアに教えるな」

「用事は終わったのか?」

「ああ、もう帰れる」

「ミリア、またな」

「うん、またね!」

ミリアは少し大きくなって、たくさん友達が増えた。言葉も大分しっかりして来て、たまにお姉さんっぽく見える。


「すごい事が起きたぞ。あの国」

ナージャはドキリとする。

「雨が降ったらしい」

「え?」

「そこそこ、まとまった雨らしいぞ」

「すごい、、、」

ナージャはあの国を思い出した。痩せた土地、土だらけの地面。葉っぱの無い木々。骨が浮き出た牛、元気の無い人々。

(あの国に雨が降って、緑がたくさん生えて、みんなが幸せになると良いな。)



最後まで読んで頂いてうれしいです。

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