1: 始まりの星空
宜しくお願いします。
グルミー族は、二足歩行のぬいぐるみ型モンスターです。
きなこ達子供は、350㎜ペットボトル1本分くらいの大きさです。
※今後の展開によっては、内容の追加や修正を行う可能性があります。
「助かった……の?」
赤黒い炎が村を包み込み、激しい轟音と共に家々が崩れ落ちる。
きなこは震えながらくろみつを抱きしめた。
村は壊滅状態だった。
周囲の音はぼやけ、遠ざかっていく。
きなこの鼓動だけが異様に大きく響き、現実感が薄れていく。
まるで夢の中にいるような感覚。
しかし、鼻を刺す焦げ臭い匂い。
立ち込める黒煙。
足元から伝わる瓦礫のざらついた感触に、これが、現実だと思い知らされる。
彩りの豊かな花々が咲き乱れ、笑い声が響いていたあの穏やかな場所は、もうどこにもない。
「……くろみつ、大丈夫……?」
震える声で弟に問いかけても、返ってくるのは小さな頷きだけ。
何が起きているのか理解できず、ただ震えながら身を縮めていた。
【ミッション】失敗
【達成状況: ※ 78/80】
【残り時間:00分00秒】
きなこには、その意味は分からない。
ただ、それが残酷な出来事を示していることだけは、確かだった。
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数ヶ月前――
あなたの選択が、新たな歴史を刻む――フォージド・ユートピア、ついに始動!
それは、自律進化するAIと最先端技術が織りなす、生きた世界。
ゲーム界の巨匠、柴旗 行翔 の遺作。
そして、亡き息子、来翔が試作した構想を基に生まれ変わった、VRMMO戦略シミュレーション。
すべてのプレイヤーが共有する世界で、あなたの行動は全土に影響を及ぼし、国家や種族の命運すら変えてしまう。
毎月のランキング上位者には、現金報酬や限定アイテムを贈呈。
さらに、世界の奥深くに眠る 「ゼノスキーム」 を最初に発見した者には、制作者の遺産を受け継ぐ権利 が与えられる。
理想郷を築くか、世界を変革するか、それとも未知の選択を貫くか――あなたの決断が、この世界を形作る。
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数週間前――メロウレスト村。
ここは、グルミー族の村
木漏れ日に照らされる草花、小川のせせらぎ、そして、笑い声が絶えない温かい場所。
「行商のおじさん、まだかなぁ!」
グルミー族(赤柴犬型)の少年・きなこは、村の広場にいた。
耳をぴくぴく動かしながら、落ち着きなくあたりを見回す。
オレンジがかった茶色の毛は、陽光を浴びてふんわり輝いている。
巻いた尾も小刻みに揺れていた。
双子の弟(黒柴犬型)のくろみつが、黒く艶やかな毛を揺らし、不思議そうに首を傾げる。
「そんなに待ち遠しいの?」
「当たり前じゃん! 今度こそ天体望遠鏡を買うんだ! これで星を追いかけるんだよ!」
彼の目はキラキラと輝き、情熱が感じられた。
「遠い国の珍しい品々が見たい」「最新のニュースを聞きたい」といった期待で、村人たちも行商人を心待ちにしていた。
地平線の向こうに小さな影が現れた。
「行商人だ!」と誰かが叫ぶ。
待ち望んだその姿に、村人たちは急いで駆け寄る。
「遅かったじゃないか!」
「何かあったんじゃないかって心配したよ!」
歓声と安堵の声が飛び交う中、一人の村人が気づいた。
「今回はいつもより品数が少ないんじゃないか?」
「本当だ、どうしてだ?」
みんなが不安げに尋ねると、行商人は渋い顔で語り始めた。
「アルバニアスで、“プレイヤー”と呼ばれる異質な存在が突然現れたらしい。やつらは住人を次々と狩って、村や街が壊滅状態だ。その影響で――」
村人たちは息を呑み、顔を見合わせた。
「アルバニアスだって、隣国じゃないか!」
「ここも安全じゃないかもしれない……」
と、不安が広がる。
そんな中、きなこは行商人に駆け寄る。
「天体望遠鏡はありますか?」
「ああ、ちゃんと取っておいたぞ。今やレア中のレアだ!」
その天体望遠鏡を大事そうに抱え、代金を渡した。
「ピッタリだ! ほらよ、こっちはおまけだ」
「ありがとう!」
笑顔には、まだ何も知らない無垢な喜びが溢れていた。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
その夜、家族全員で村外れの丘へ星を眺めに行った。
澄んだ夜空には無数の星々が輝き、きなこは夢中になり星座を追いかける。
「わー! すごい! こんなに近くで星が見えるなんて!」
声が弾む。家族みんなが、心から幸せそうだった。
夜空に一筋の光が走り、星がまるで迷子になったように急に方向を変え、揺れながら光を放ち始めた。
「みんな! 見て見て、すごい星だよ!」
興奮気味に天体望遠鏡から顔を上げ、叫んだ。
その声に、家族も次々と望遠鏡を覗き込む。
「本当……こんなの、初めて見るわ」
母がそう呟く中、きなこはふんわりと微笑んだ。
「こんなの図鑑にも載ってなかったよ! 僕が見つけたんだ!」
「兄ちゃん、すごい!」
くろみつが手を叩きながら跳ね回る。
一方、天文学者である父親はその星を覗き込み、眉をひそめた。
その星の動きは、普通の天体現象では考えられない奇妙な軌道を描いている。
「……何かがおかしい……」
父は天体望遠鏡をもう一度覗き込む。胸の奥に嫌な予感が生まれる。
脳裏をよぎるのは、古代の文献の一節。
「星が揺れる時、大地に影が生まれる――」
きなこの純粋な声が、その不安をかき消すように広がった。
「この謎を解明して、父さんよりすごい天文学者になってみせるよ!」
きなこは、家族を見つめながら、力強く夢を語る。
その笑顔を見て、父は一度言葉を飲み込む。
だが、胸騒ぎは心の奥底に居座り続けていた。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
数日後、父は家族を呼び寄せた。
「星の異変を調べるため、王都の天文台へ行く。暫く家を頼む」
「え? どうして急に?」
きなこが不安そうに尋ねると、父は微笑んで応えた。
「世界の危機に繋がるかもしれない異変だ。天文学者として、真相を突き止めねばならない」
そう言って、きなこの手に研究ノートを握らせた。
「これは父さんの研究成果だ。きなこ、第一発見者として解明に力を貸してくれ。母さんとくろみつも、家を頼む」
父は家族を優しく抱きしめ、夜明け前の静かな村を後にした。
「父さん、すぐ帰ってくるよね?」
くろみつの不安げな声に、母は微笑みながら頭を撫でた。
「きっとすぐ帰るわ、大丈夫よ」
だが、その微笑みの奥には、言いようのない不安が隠されていた。
――――――
父が旅立った後、村は突然炎に包まれた。
【メロウレスト村、発見】
【グルミー族、多数確認】
【経験値効率: 良好】
【ターゲットロック。ミッションを開始します】
突如現れた“プレイヤー”たちが村を襲撃したのだ。
「あの、ヒーラーに内緒で受注って、大丈夫かな……? 心配、というか……」
「ちょ、マジ? 炎上不可避……」
「大丈夫だって! あいつ、いつもリーダー気取りでマジうざいからな! たまには俺たちの意見も聞けってんだ!」
「わかるー! マジそれな!」
「効率的な経験値獲得のため、速やかにミッションを完了させる」
そう言って村を見渡した瞬間、彼らの視界に浮かび上がったのは冷徹なシステムウィンドウだった。
【ミッション:メロウレスト村を殲滅せよ】
【制限時間:60分】
【目標:グルミー族全滅】
【達成状況:0/80】
【残り時間:60分00秒】
「うわぁー、ぬいぐるみみたい……。可愛すぎる……」
「見た目以上に、戦えるな! ってか、マジで強くない?」
「神引き! 【ふわふわの尻尾】ドロップだと!? 至高の逸品コレクション確定!」
「経験値効率:低。アイテム市場価値:高。換金効率は高いだろう」
「えー、猫型どこ? 猫ガチ勢だから、猫型グルミー拝みたい!」
「ここは柴犬型の村。文献調査済み。猫型? このエリアにはいない。別エリアを調査する必要がある」
「え、猫型いないとかありえない! 早く終わらせて、レアキャラ探しに行こ!」
彼らは興奮した声をあげながら、狩りを続けた。
村は瞬く間に炎と悲鳴に包まれる。
――――――
湯気の立ちのぼる鍋の香りが満ちる民家。
コッペは、いつものように、お昼ご飯を作っていた。
もうすぐ、お腹を空かせた子供たちが帰ってくる。
きなことくろみつは、今日も村の外れへ遊びに出かけた。
「きっと、また面白い話を聞かせてくれるわね」
微笑みながら、スープの味を確かめる。
しかし――。
「……?」
遠くから何かが聞こえた。
最初は風の音かと思った。
だが、よく耳を澄ませば、それは違う。
叫び声。怒号。
胸がざわつく。
鍋をかき混ぜる手を止め、窓の外を見た。
――炎が立ち上がっている。
「火事?」
嫌な予感が胸をよぎる。
火を止め、急いで外へ出た。
熱気が肌を刺す。
村の中央から黒煙が立ち昇り、人々が慌ただしく逃げている。
「いったい何が……」
その時――。
「早く逃げろ!」
突然、駆けてくる村人が叫んだ。
「こんなところにいたら危ない! 逃げるんだ!」
息を切らしながら、急かす。
「ちょっと……どうしたの?」
混乱するコッペに、村人は怯えた目を向ける。
その視線の先――炎ではない。
何か別のものを、恐れていた。
ぞくり、と背筋が冷える。
不安と共に、村の外れへ出かけた子供たちのことが頭をよぎる。
「きなこ、くろみつは……!?」
この混乱の中、無事でいるのだろうか。
考えるよりも早く、コッペは駆け出した。
炎の熱が背後から迫る。
耳元で村人の悲鳴が響く。
(お願いだから、無事でいて――!)
その思いだけを胸に、村の外れへ向かって走る。
目の前に影が現れた。
反射的に息を呑み、勢いを殺せずそのままぶつかる。
「ごめんなさい。急いでいて」
顔を上げる。
そこにいたのは――村人ではなかった。
異様な服装。見慣れぬ顔。
静かに立ち尽くす彼の表情に、不気味なほど感情がない。
「おーっ、ここにも発見!」
陽気な声が響いた。
背後では、まだ村人たちの叫びが続いている。
なのに、目の前の人間は、それを何とも思っていないかのようだった。
じわりと理解が追いつく。
この人は――村の者ではない。
「ねえ……あなたは……誰?」
問いかける声は震えていた。
だが、それでも相手の顔に何の変化もない。
まるで、彼女の言葉は聞こえていないかのように。
そして、その視線がゆっくりと、コッペに向けられた。
――次の瞬間。
彼は一歩前へ踏み出した。コッペの背筋が凍る。
プレイヤーに名前はありませんが、設定はあります。
性格(呼ばれ方)
A: 控えめ優しい (見守り隊)
B: オタク (オタク)
C: ハイテンション (ムードメーカー(気取り))
D: 効率主義 (効率)
E: Z世代女子 (紅一点)