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第九章:狂気の地下遊園地――勇者軍団、絶望の囚われ



 

「よォォォォコソォォ!!! 夢と希望のォォ!! 楽園へェェェ!!! クハハハハハハ!!!!!」



 

 カリオ・ザ・ジョーカーの耳障りな笑い声が響く。


 

 勇者軍団は気を失っていたはずだった。

 しかし、目を覚ました彼らがいた場所――それは、とんでもない異空間だった。



 

「……え?」



 

 勇者・天野拓斗は目を見開いた。


 彼らが立たされていたのは、

 鮮やかにライトアップされた、異様なほど巨大なアミューズメントパークの入り口。


 

 観覧車、ジェットコースター、メリーゴーランド……

 全てが並んでいる。


 ただし……


 明らかにおかしい。



 

「地下にこんな場所が……!?!?」


「な、何だよここ!!?」


「ちょ、待て待て待て!! これ、どう考えても普通の遊園地じゃない!!」


「なんか、全部のアトラクションの色合いが不気味なんだけど……」



 

 目に映るのは異様なまでにカラフルな光景。


 だが、よく見ると……



 メリーゴーランドの馬が不気味に歪んでいる(顔がひどく捻じ曲がって笑っている)

 観覧車のゴンドラが何かの目のように動いている

 ジェットコースターのレールが途中で異様な角度に曲がっている


 

 すべてのアトラクションが狂気に満ちている。




 

「みんなァァァ!! 勇者サマの登場だヨォォ!!」



 

 異様なまでに明るい声が響き渡る。


 勇者軍団が身を強張らせる中、

 不気味な着ぐるみたちが歓喜に震えながら駆け寄ってきた。


 


「わぁぁぁ~~~!!! みんなで楽しんじゃお~~!!!♡」


 


 ――奇妙な声とともに、彼らの前に現れたのは、着ぐるみを纏った「キャスト」たちだった。



 

 しかし、それは明らかに普通のマスコットではなかった。


 

 先頭に立っていたのは、異様に大きなウサギの着ぐるみだった。


 耳は長く垂れ下がり、白い毛皮は不自然に黄ばんでいる。

 それよりも目を引くのは――


 笑顔が異様なほどに広がっていることだった。


 裂けるように引きつった口元。

 まるで人間の顔を引き伸ばしたかのような、不自然な造形。


 目は完全に黒い虚無と化し、どこを見ているのかまったく分からない。


 さらに――




「カクッ、カクッ」



 

 首が不自然に揺れながら、カクカクとぎこちない動きで勇者たちへと近づいてくる。



 

「うわっ……!!?」



 

 天野拓斗が思わず後ずさる。


 ウサギの着ぐるみは、無機質な笑顔のまま、ゆっくりと両腕を広げた。



 

「うさぎさんとォォ~~~♡ 一緒に遊びましょォォォ♡♡♡」



 

 その横から、クマの着ぐるみがじわじわと距離を詰めてくる。


 元々はフワフワだったであろう毛皮は、古びて薄汚れており、あちこちに黒ずんだ染みが浮かんでいる。


 ぎこちない足取りで、ゆっくりと一歩、また一歩と近づいてくる。


 その口元は、縫い目がほつれたようにわずかに開いており――



 

「クマさんと遊ぼぉぉぉ♡」



 

 壊れた音声のように、同じセリフを繰り返しながら、にじり寄ってくる。



 

「ひっ……」



 

 勇者たちの足がすくむ。


 その気配は、どこか獣のようなものだった。



 

 そして――



 

「きゃははははは!!!♡♡♡」




 異様に甲高い笑い声が響き渡る。


 勇者たちが音のする方を見ると、

 そこにはネズミの着ぐるみがスキップしながら近づいてくる。


 

 他のキャストたちよりも小柄で、

 膝を曲げながら不規則に跳ねるような動き。


 

 その動きは、妙に滑らかで、

 まるで関節の動きを無視しているかのようだった。

 


 ニコニコと笑顔を浮かべながら、ピョン、ピョン、と跳ねるたびに異様な笑い声を響かせる。


 

 

 そして――


 

 

 「おかしい」のは、その口元だった。


 普通のネズミの着ぐるみであれば、

 愛嬌のある丸みを帯びた口元をしているはず。


 しかし、このネズミの着ぐるみは――


 口を開くたびに、ほんのり鋭い歯がのぞいている。



 

 彼らは、あくまで「歓迎している」ようだった。



 

 ウサギ、クマ、ネズミの着ぐるみたちは、

 笑顔のまま、勇者軍団を取り囲む。


 その笑顔は、崩れることがない。


 まるで、無理やり固定された人形のように――



 

「ワクワクしちゃうねェェ~~~!!!♡」


「いっぱい遊ぼうねェェ~~~♡♡♡」


「特別なお客様ァァ!!! さァァァ、思う存分楽しんでねェェェェ!!!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 

 勇者軍団は一斉に後ずさる。


 これは……遊園地のキャストなんかじゃない。


 まるで……「人間ではないナニカ」のように、勇者たちを歓迎しているのだ。



 

「これ……本当に歓迎なのか……!?」


「やべぇ……この空間、やべぇ……!!」


「さぁさぁ!! 最初のゲームを始めましょぉぉぉ~~!!!」



 

 クマの着ぐるみがギギギ……と不自然に首を傾げた。



 

「楽しいよぉぉぉ♡♡♡」




 ウサギの着ぐるみが、手をブンブン振りながら、異様なステップで勇者たちに詰め寄る。



 

「オォォォ!! たっぷり楽しんでねェェ~~♡♡♡」



 

 ネズミの着ぐるみが、ヒタヒタと地面を這うように忍び寄る。



 

「うわああああああ!!!!!」


 

 

 勇者軍団は、心の底から恐怖した。


 この地下遊園地のキャストたちは――


 「もてなし」の名のもとに、勇者たちを狂気の渦へと引きずり込もうとしていたのだ。




 

「まずはァァァ、特別なドリンクをどうぞォォ!!!」



 

 カリオが指を鳴らすとウサギの着ぐるみが、

 トレイの上にカラフルなドリンクを並べて差し出した。



 

 ピンク、ブルー、グリーン、イエロー……

 どれも鮮やかすぎる色合い。


 


「さぁァァァァ!!! 早く飲んでェェ!!!」


「え……?」


「いや、飲むわけないだろ!!」



 

 勇者たちは即座に拒絶した。


 しかし、クマの着ぐるみが異様な速さで距離を詰める。



 

「飲まなきゃダメぇぇぇ……!!!」



 

 クマの着ぐるみが異様な力で、

 勇者の口にドリンクを押し込もうとする。


 


「くっ……!! こいつら、力が……強い!!!」


「やめろッ!!」


 

 勇者たちは必死に抵抗するが、

 着ぐるみたちは想像以上の怪力を持っていた。



 

「ぐっ……!!?」


 

 天野拓斗の両腕が、ウサギの細長い手でがっちりと押さえつけられる。


 まるで鉄の爪で締め上げられているような異常な力。



 

「う……っ、ぐぅ……!!」


「ハイ、アーーーン♡♡♡」



 

 無理やり口をこじ開けられる。


 そして、グラスの中の液体が流し込まれた。



 

「ゴボッ!? ……っ!!!」


「げほっ……!! くそっ……何だこれ……!?」



 

 液体が喉を通った瞬間、異様な感覚が広がる。


 

 熱いのに、冷たい。

 甘いのに、苦い。

 軽いのに、重い。

 


 ――理解できない。

 


 体の内側を何かが這いずり回るような感覚。

 意識がふわふわと浮遊するような感覚。


 


「う……ぁ……!!!」


 


 拓斗の意識が、一瞬にして霞んだ。



「や、やめろ!!!」


「ぐぅぅっ!! くそっ……!!」


「んっ……! ごぼっ……!!!」


 


 勇者たちは、次々とドリンクを流し込まれていった。


 誰もが、目を見開き、息を詰まらせる。


 そのまま、体をガクンと震わせ、意識を揺らがせていく。

 

 


「ンッフッフッフッフ!!! ようやく『準備』ができたネェェ!!!」



 

 カリオが、ピエロのように跳ねながら、

 どこからかリモコンのようなものを取り出した。



 

「さァァァァ!!! これからァァァ!!! もっと楽しくなるヨォォォ!!!!」




〈カチッ〉



 

 カリオがボタンを押した瞬間――


 どこからともなく、奇妙なメロディーが流れ始めた。



 

「楽しい~~~♪ 楽しい~~~♪ みんなで遊ぼう~~~♪」


「なっ……!? こ、この音楽……!?」



 

 勇者たちの目が、ぼんやりと霞む。


 この曲は――「洗脳のメロディー」だった。




「う…………頭が……」



 

 勇者たちは耳を塞ぐ。


 しかし、音は直接頭に響くように流れ込んでくる。



 

「楽しい~~~♪ 楽しい~~~♪」



 

 次第に、勇者たちの目の光が鈍くなっていく。



 

「や、やめろ……」


「頭が……クラクラする……」


「お、おかしくなる……!!」



 

 勇者たちの意識が、徐々に変化していく。


 先ほどまでの恐怖が、

 次第に違和感のないものへと塗り替えられていく。




 ――ここは、楽しい場所。


 ――このキャストたちは、みんな優しい。


 ――ずっと、ここにいたい……。



 

「そうォォ!!! その調子ォォ!!! もっともっと楽しんでネェェェ!!!」



 

 カリオが狂ったように笑う。


 着ぐるみたちが、にじり寄る。



 

「楽しいよぉぉ~~♡♡♡」


「ここはァァァ♡ みんなのオウチだよォォォ♡♡♡」



 

 勇者たちの肩をポンポンと叩きながら、

 優しく、ゆっくりと、耳元で囁く。



 

 勇者たちの目から、光が消えかけていく。


 カリオは笑いながら、ゆっくりと勇者軍団を見下ろす。



 

「ンッフッフッフ!! さァァァァァ、もうワケわかんなくなっちゃえェェェ!!!」


 


 着ぐるみたちが勇者たちを優しく抱きしめる。



 

「勇者サマァァァ♡♡♡ もう、抵抗しなくていいよォォ♡♡♡」


「さァァァァァ!! これでキミたちも、立派な『家族』だァァァァ!!!!」


 


 ――勇者軍団、洗脳完了まであと一歩。




 その時だった。




 


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