第七章:勇者軍団の初クエスト
勇者軍団の初クエスト――それは、廃城野調査だった。
王都から少し離れた森の奥。そこには、かつて魔王軍が拠点としていたという古びた城がそびえている。
高い石壁は風化し、ツタが絡まり、瓦礫が散らばっている。城門は半ば崩れ、入口は暗闇に沈んでいた。
「うわぁ……めっちゃダンジョン感ある!!」
「すげぇ、本当に異世界の遺跡って感じ!!」
「これぞ冒険の醍醐味ってやつだな!!」
勇者たちはワクワクした様子で城の中へと足を踏み入れた。
城の内部は、年月の経過を物語るように荒れ果てていた。
崩れた柱、割れた天井、そしてホコリまみれの絨毯が、かつてここが威厳ある城だったことを物語っている。
「結構広いな……」
足元には砕けた石や散らばった装飾品の残骸。
どこかに潜んでいるかもしれない魔物の気配を警戒しながら、勇者たちは慎重に歩みを進める。
今回の調査依頼は、「夜になると廃城から何か物音が聞こえる」というもの。
正体不明の怪異がこの城に巣食っている可能性がある。
勇者たちは緊張しながらも、探索を進めていく。
だが――
ザザ……ザザザ……
どこからか、不気味な音が響いた。
「……今、何か聞こえなかった?」
「え……?」
勇者たちは一斉に立ち止まり、辺りを見回す。
ひゅううう……
風が吹き抜け、古びたシャンデリアが軋む音を立てた。
勇者たちの背筋に、ゾクリと冷たい感覚が走る。
何かがいる。
彼らの背後で、闇に沈んだ廊下の奥から――
「クスクスクス……ククク……クハハハハハ!!!」
奇妙な笑い声が響き渡った。
「ハァ~イ、よく来たねェェェ!!!」
「ッ!?」
勇者たちが声の方向を振り返ると、暗闇の中から一人の男が姿を現した。
道化の仮面をつけた、異様な雰囲気を纏う男。
着ている服はカラフルなピエロ風の衣装だが、どこか不気味な気配が漂っている。
背筋が凍るような笑みを浮かべながら、ゆっくりと勇者たちに近づいてくる。
「初めましてェェ、勇者サマたちィィ!!」
「お前は……何者だ!!?」
勇者・天野拓斗が剣を構える。
道化の男は、ゆっくりと両手を広げながら、口を大きく歪めた。
「ボクの名前は《カリオ・ザ・ジョーカー》!! かつての魔王軍幹部の一人!!!」
「魔王軍……幹部!?」
勇者たちの顔が青ざめる。
「さァァァァ!!! 楽しいパーティーの始まりだァァァ!!!」
カリオが手を叩いた瞬間――
カチッ
足元の床が突然、沈み込む。
「なっ!?」
次の瞬間、大量の矢が壁から発射され、勇者たちを襲う!!!
シュババババババ!!!
「くっ!!」
「罠だ!! 伏せろ!!!」
勇者たちは慌てて回避するが、そこに次の罠が待ち受けていた。
ズガァァァァン!!!
天井から巨大な鉄球が振り下ろされる。
「うわああああ!!?」
「何なんだよ、このトラップの量!!!」
「モチロンだヨォォォォ!!! だって、ここはボクの遊園地だものォォ!!!」
カリオはケタケタと笑いながら、さらに手を打ち鳴らした。
「くそっ、いい加減にしろ!!」
天野拓斗が叫び、剣を振るいながらカリオへと突撃する。
「おォォっとォォ!?」
カリオは異常なほど軽やかに後方へ飛び、まるで踊るように宙を舞った。
「ンッフッフッ! そんなノロマな剣、当たらないヨォォ!!!」
「っ……この動き、速すぎる!!?」
カリオの動きは常軌を逸していた。
ピエロのように軽快なステップを踏みながら、まるで地面に足が触れていないかのような異様なスピードで勇者たちを翻弄する。
「さァァァ、もっと面白い顔を見せてくれよォォ!!!」
「ふざけんなァァ!!!」
魔法使いの白石玲奈が火炎魔法を詠唱する。
「ファイアランス!!!」
轟炎の槍がカリオへと向かって放たれた。
しかし――
「アハハハハハ!!! そんなモノォォ……!!!」
カリオは空中で回転しながら火炎槍をかわす。
「ハズレだヨォォォ!!!」
「なっ!?」
「こんな動き、人間の反応速度じゃ……!」
カリオはニヤリと笑いながら、右手をクルリと回した。
「はい、オカエシィィ!!!」
その瞬間、カリオの指先から魔法弾が放たれる!!!
ズガァァァァン!!!
「ぐああっ!!」
「くそっ……!!」
勇者たちは次々と魔法弾の直撃を受け、吹き飛ばされる。
「フッフッフ……やっぱり勇者サマは最高のおもちゃだネェェ!!!」
「もっともっと楽しもうじゃないかァァァ!!!」
「クッ……!! なんてヤツだ……!!」
天野拓斗が歯を食いしばりながら、剣を握り直す。
しかし、彼の腕はすでに震えていた。
「このままじゃ……ダメだ……!!」
「まだだ!! 戦える!!!」
勇者たちは再び立ち上がる。
しかし――
「ンッフッフッフッ……!! いいねェェ、まだやる気はあるようだァァ!!!」
「けど、そろそろ時間切れだヨォォ……!!!」
カリオが高らかに笑う。
その瞬間、城全体が揺れた。
ズガァァァァァァン!!!!
勇者軍団の足元が、一瞬にして崩れ落ちる!!!
「うわあああああ!!!?」
勇者たちは、なすすべもなく落とし穴へと落下していった。
「クハハハハハハ!!! まさに滑稽!!!
勇者サマたち、しばらく地下で大人しくしていてねェェ!!!」
勇者軍団、敗北――!!!
こうして勇者軍団は、魔王軍幹部・カリオの手によって捕らえられてしまうのだった――。