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第六章:勇者たちのクエスト受注!(なお、王様を撒くための奇策が講じられる)

 



 ギルドでの登録を終えた勇者軍団は、いよいよ初めてのクエストを受注しようとしていた。


 掲示板には様々な依頼が貼られている。



 

「魔物討伐系が多いな!」


「護衛依頼もあるみたい!」


「採集クエストもあるぞ!」


「よし! 初めてだから、難易度の低い依頼からやってみよう!」



 

 皆が真剣にクエストを選んでいるその時――



 

「……お主ら、クエストを受けるのじゃな?」



 

 背後から響く、どこかワクワクした声。



 

「えっ?」


「いやな予感しかしない……」



 

 振り向くと、そこには銀髪をなびかせた白ローブのナイスガイが、満面の笑みで立っておった。



 

「では、ワシも同行しよう!」


「やっぱりついてくるのかよ!!!」


「む? 何をそんなに驚いておるのじゃ?」


「いやいやいや、どう考えても王様がついてきたらクエストの意味がなくなるんですよ!!」


「何を言うか、ワシはただの見守り役じゃ! お主らの成長を促す存在! まるで温かい祖父のようなものじゃ!!」


「お前、祖父ポジションどころか老害そのものなんだよ!!!」


「第一、クエストには危険がつきものじゃろう? お主らの安全を守るために、ワシが同行するのは当然じゃ!!」


「いや、だからそれが問題なんですよ!!!」


「そうだよ!! どうせまた王様が敵をワンパンして、俺たち何もできなくなるんでしょ!!?」


「ぐむ……」



 

 ワシは腕を組みながら考え込む。



 

(確かに……これまでの流れを考えれば、ワシがついて行けばまた勇者たちの出番がなくなるのは明白……)


(だが!! ワシも冒険したい!! 褒められたい!!)


(うーむ、どうしたものか……)


「王様……申し訳ありませんが、どうしても俺たちだけでクエストに行きたいんです!!」



 

 天野拓斗が真剣な眼差しで訴えてくる。



 

「うむ、そちらの気持ちも理解できる……」


「じゃあ、どうか今日は俺たちだけで!!!」


「むう……」



 

 ワシは悩む。



 

「……何か代わりの楽しみがあれば、考えんこともないのじゃが……」



 

 その言葉を聞いた瞬間、勇者軍団の顔に閃きの表情が浮かんだ。




 

「王様!! いい店があります!!」


「ほう?」


「やっぱり大人の男には癒しが必要じゃないですか?」


「む? 確かに、王たる者、多くの民のために日々働いておる……」


「そんな王様にこそオススメしたいのが、キャバクラです!!」


「キャバクラ……?」



 

 ワシはその単語を聞き、首をかしげる。



 

「なんじゃ、それは?」


「美しい女性たちが、王様をちやほやしてくれる最高の店です!!!」


「なにぃぃぃぃぃ!!!???」



 

 ワシは雷に打たれたような衝撃を受けた。



 

「美しい女性たちが……? しかも、ワシをちやほやする……?」


「そうです!!! 王様が求める『すごい!』の嵐ですよ!!」


「うぉぉぉぉぉぉ!!! それは行かねばならん!!!」



 

 ワシは拳を握りしめた。



 

「今すぐに案内せよ!!! 勇者軍団のクエストより優先じゃ!!!」



 


――――――――――――――

 




 歓楽街。


 その一角にある、煌びやかなネオンが輝く建物。


 

 そこが勇者軍団が紹介した、キャバクラ――「麗しの楽園」である。

 店の扉の前に立つと、すでにワシの心は高鳴っておった。



 

「ふぉぉぉ……これが……!!!」



 

 扉を開けた瞬間――



 

「いらっしゃいませ~♡ ご来店ありがとうございます!!」



 

 店内から、甘ったるい声が一斉に響いた。


 目の前に広がるのは、豪華なシャンデリアに妖艶な装飾が施された煌びやかな世界。

 華やかなドレスを身にまとった美しき女性たちが、輝く笑顔でワシを囲むように寄ってくる。



 

「お席にどうぞ~♡」


「こちらへどうぞ~♡」


「なぁんて素敵なお客様♡」



 

 む……!!!


 こ、これは……!!!



 

(ワシ、ちやほやされておる!!!)



 

(これがキャバクラ……!!! 天国か!!!)




「じゃあ、この人お願いします!!」



 

 勇者軍団はニヤリと笑い、ワシを店の奥へと押し込む。



 

「では、おれ達はクエストに行ってきまーす!!!」


「えっ!?」



 

 ワシが振り向くと、勇者軍団は全力で店の外へダッシュ。



 

「お主らぁぁぁぁ!!!???」



 

 ドアがバタンと閉まり、ワシはキャバクラに取り残された。



 

(……む? まぁええか!!)


(だってワシ、ちやほやされるしな!!)




 ワシがソファに座ると、1人の美しき女性が妖艶な微笑みを浮かべながら尋ねてきた。



 

「なんてお呼びすればいいですか〜?」


(む……!!)



 

 本名を言えば、確実に身バレする。

 ワシの名が広まれば、この店に大量の民衆が押し寄せ、大騒ぎになるのは目に見えておる……!!


 だが――



 

(いや、どうせバレるなら……堂々と名乗ったほうが気持ちがええじゃろ!!!)



 

 ワシは堂々と胸を張り、誇らしげに宣言した。



 

「お、王様で頼む!!」



 

 ――数秒の沈黙。



 

「ふふっ♡ かしこまりました、王様♡」


「王様~♡ こちらのお席へどうぞ~♡」


「王様、お酒お持ちしました~♡」



 

 店内全体に「王様♡」という甘ったるい声が飛び交う。



 

(……すごい!!!!!!!!!)


(めっちゃ気持ちがええ!!!!!!!!)




「王様~♡ かんぱ~い♡」


「ふぉぉぉぉ!!! かんぱぁぁぁぁい!!!!」



 

 ワシはグラスを掲げ、豪快に酒をあおる。



 

「うっふふ♡ 王様、とってもお強いんですねぇ♡」


「うむ!!! そなたたちのような美しき女性たちを守るために、ワシはこの国を統べておるのじゃ!!」


「まぁ♡ なんて素敵なお方なの♡」


「王様、かっこいい~♡」


「むふぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」



 

 ワシのテンションは最高潮に達した。



 

(な、なんだこれは……!? 最高すぎる!!!)


「王様、お強いんですねぇ♡」


「ふぉっふぉっふぉ! 当然じゃ!! 魔王すらワシの敵ではない!!」


「きゃ~♡ すご~い♡」


「おおおおおおお!!!!!」



 

 ワシの自己顕示欲が爆発。


 完全にキャバクラの魔力に取り憑かれておる!!!



 


 一方その頃、勇者軍団はギルド前に集まっていた。




 

「よし、王様がキャバクラに夢中になってる間に、クエストに行くぞ!!」


「計画通り!!」


「よっしゃあああ!!! 王様を撒くことに成功したぞおおお!!!」




 

 勇者軍団は、見事に王様を撒くことに成功し、初のクエストへと旅立つことになった。


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