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第五章:冒険者ギルドへ! なお、謎のおっさんが混ざっている件について





 勇者軍団は異世界での正式な身分を得るため、冒険者ギルドへ向かうことになった。


 

 ギルドの建物は石造りの堂々たるもので、広いロビーには多くの冒険者が行き交っている。

 武装した戦士やローブを纏った魔法使い、斥候風の軽装の者まで、様々な人々が行き交っていた。



 

「うわー、これぞ異世界の冒険者ギルドって感じ!」


「受付のお姉さん、めっちゃ美人じゃね?」


「クエストボードに依頼がいっぱい貼ってある!」


「やべぇ、テンション上がる!!!」



 

 クラスメイトたちは皆、興奮気味にギルド内を見渡している。


 

 その中に――


 

 明らかに場違いな人物が混ざっておる。



 

「……お主ら、ギルド登録をするのじゃな?」



 

 王様である。


 

 異世界転生した高校生たちに囲まれながら、

 堂々と冒険者登録に並んでいる、銀髪の白ローブのオッサン。


 

 しかもワシだけ威厳のオーラが凄まじく、周囲の冒険者たちがビクビクしておるではないか。



 

(む? これはもしや、ワシがカリスマ的存在として崇められる流れでは……?)



 

 ……などと期待しておると、勇者軍団の冷静なツッコミが入る。



 

「なんで王様が一緒に冒険者登録してるんですか!?」


「いや、ワシも冒険者になりたくての?」


「国王が冒険者ってどういうこと!?」


「お主らと同じ目線で楽しむのが王としての器というものじゃ!!」


「いや、むしろ立場を考えてください!!!」


「ほれ、いくぞ」


 


 勇者軍団のツッコミを完全に無視し、ワシは受付へと向かう。


 

 

「では、登録手続きを進めますね!」



 

 受付嬢が笑顔で手続きを進める。



 

「まずは、魔力測定を行います。こちらの水晶に手をかざしてください」



 

 カウンターに設置されたのは、透明な魔力測定水晶。

 魔力量が多ければ多いほど、水晶が強く光るというものらしい。



 

「おお、まさにファンタジー!! 俺、どれくらいの魔力あるんだろ?」



 

 トップバッターは勇者・天野拓斗。

 彼が手をかざすと――



 

 ボワァァァァァ……!!



 

 水晶が強く輝き、ギルド内に光が広がる。



 

「おおお!!」


「やっぱり拓人はすごい!」


「俺、やべぇ魔法も使えるかも!!」



 

 勇者軍団の面々が歓声を上げる。

 どうやら普通の人間よりも遥かに高い魔力量らしい。



 

 ……が。



 

「次の方、どうぞ」


「では、私が」



 


 天野拓斗の後に手をかざしたのは、クラスで最も魔法適性が高いとされる少女・白石玲奈だった。


 

 彼女は長い黒髪をかきあげながら、冷静に水晶へと手を伸ばす。


 

 ――その瞬間。




 バチバチバチバチバチィィィ!!!!


 

 水晶が激しく光り、眩しすぎて誰も目を開けられなくなった。



 

「ちょ、まぶしっ!!!」


「え、なんかヤバくない!?」


「爆発しそうなんだけど!?」



 

 ギルド内が騒然とする。



 

「な、なんなの!? これ、普通なの!?」


「いや、普通じゃないです!!!」



 

 受付嬢が驚きの声を上げる。


 その中心にいる玲奈は、メガネをクイッと押し上げながら、冷静に言い放った。



 

「……まぁ、こんなものかしら」




 白石さん凄い!と言うなか、


 


「では、ワシも魔力測定を――」


「王様はやらなくていいです!!!」


「むう……」




 ワシはしぶしぶ手を引っ込めることにした。



 

(うむ……若者の成長を見守るのも、王の役目じゃからな……)




 ワシは腕を組みながら、満足げに勇者軍団の様子を眺めていた。


 

 魔力測定を終えた彼らは、互いに結果を報告し合い、盛り上がっている。



 

「すごい! お前、魔力めっちゃ高いじゃん!」


「マジ!? 俺、もしかして魔法使い向き!?」


「おお、俺の水晶も結構光ったぞ!」


「すげぇ……異世界の力って感じだな!!」



 

 あちらこちらで歓声が上がり、まるで文化祭の打ち上げのような空気になっている。



 

(ほほう……楽しそうじゃのう……)




 彼らの笑顔、興奮、そして互いに「すごい!」と褒め合う声。


 ワシはじっとそれを見つめながら――



 

 むくむくむくむく……!!!



 

(――いや、待てよ?)


(ワシ、このまま見てるだけでええんか?)


(いや、よくない! ワシも「すごい!」と言われたい!!!)


(むしろ、ワシこそが一番「すごい!」のでは!?)


(いや、ワシがこの場にいる以上、むしろワシが主役であるべきでは!?)



 

 ワシの承認欲求が、最大級の膨張を見せる。



 

 ぐっ……耐えろ……!!



 

 ワシは拳を握り、奥歯を噛みしめた。



 

(今、ワシが動いたら……また迷惑をかけてしまうかもしれん……!!)


(しかし!! 若者たちが褒められとるのに、ワシだけ褒められないというのは許されるのか!?)


(この王たるワシが、ただ黙って見ておるだけで満足できるのか!?)



 

 ……無理じゃ!!!!



 


「やっぱりワシもやりたい!!!!」


「えええええ!?!?」



 

 突然の叫びに、勇者軍団の顔が凍りつく。



 

「ちょ、ちょっと待ってください王様!!」


「今、完全に『老害ムーブ』の入り方した!!」


「王様がやったらどうせ碌なことにならないってわかりきってるじゃないですか!!」



 

 慌てた勇者たちが、総出でワシを止めにかかる。




「おい! 誰か押さえろ!!」


「よし! 抑えるぞ!!」


「ぐぬぬ……! 何をするか、お主ら!」



 

 ワシは突然、勇者軍団に羽交い締めにされた。


 四方から腕を押さえられ、腰を固められ、完全に動きを封じられておる。



 

 むう……なかなかやるのう……!!!



 

 だが、ワシはそう簡単に止められる存在ではない!!



 

「どかんかい!! ばかもの!!!!」


「うわっ!? 強い!!」


「この人、ほんとに王様なの!?怪力すぎる!!」


「みんな! 必死に抑えろ!! これ以上、国王の暴走を許すな!!!」



 

 勇者軍団が必死にワシを抑え込もうとするが、無駄じゃ!!!



 

 ワシは肩を揺らし、腰を捻り、一気に拘束を振り払った!!



 

「ぐああ!! く、くそ、抑えきれない!!!」


「こいつ、ほんとに国王か!? やってることただの老害じゃねえか!!」



 

 ダッシュ。


 


 ワシは全身の筋肉を躍動させ、地面を蹴り、受付へと猛進する。



 

「ちょ、待て!!」


「うおおおおお!!! 逃がすなあああ!!」



 

 勇者軍団が慌ててワシを追いかけるが、無駄じゃ。


 このワシの脚力をなめるでない!!


 ギルドの床を蹴り、一直線にカウンターへ向かう。


 


「わしにもやらせろおぉぉぉぉぉぉ!!!」


「ひっ!!??」


 


 カウンターの受付嬢がビクリと肩を震わせる。


 目を見開き、後ずさる彼女の前に、銀髪のローブを翻した王が全力疾走で突っ込んでくる図。



 まさに狂気。


 


 さあ、ワシの魔力量を測るのじゃ!!!」


 ワシは意気揚々と水晶へと手を伸ばす。


 


「ま、待ってください!!!」



 

 受付嬢が制止するが、もう手遅れじゃ。


 バキィィィィン!!!



 

 ――水晶、砕け散る。


 


 ギルド内、沈黙。



 

「…………」


「…………」


「……えっ?」


「……あの、壊れたんですけど?」


「水晶割れてるんですけど!?」


「魔力量が……測定限界を超えているってことですね……」


「いや、超えてるっていうか……限界突破して壊れてるよね!?」


「水晶作った職人が泣くわ!!!」


 


 勇者軍団が頭を抱える中、ワシは満足げに頷く。



 

「ふむ、なかなかの測定結果じゃな!!」


「測定どころじゃねぇよ!!!」



 

 ギルド職員は戦慄した表情で記録用紙に震える手で何かを書き込んだ。



 

「……こ、国王陛下の魔力量……測定不能(機器破壊レベル)と記録しておきます……」


「うむ、妥当な評価じゃな!!」


「どこがだよ!!!」


 


 勇者軍団の総ツッコミが響き渡る中、ワシは腕を組んで堂々と胸を張る。



 

(ふむ……やはり「すごい!」と言われるのは気持ちが良いのう!)


 


 ――こうして、王の自己顕示欲によってギルドの魔力測定器は犠牲になったのであった。





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