第三章:勇者軍団、無双するはずが……(なお、ワシが全部やる)
「いやぁ~実に良い戦じゃった!」
ワシは満足げに腕を組み、戦場を見渡した。
辺りには、かつて魔王軍の残党だったオークやゴブリン、低級デーモンたちがいた……はずなのじゃが、
ワシの一撃で更地になっておる。
「…………」
「…………」
クラス全員が沈黙。
天野拓斗も、真っ白になった顔で呟いた。
「……いやいや、俺たち何しに来たの!?」
「勇者軍団、何もしてなくね!? ていうか、国王一人で全部終わったじゃん!!」
「いやぁ、これでも手加減したんじゃがな」
ワシは少し残念そうに言うた。
本来なら勇者たちの見せ場を作ってやるつもりだったのじゃが、気づいたら戦闘が終わっておった。
「よし! これでここら辺の魔王軍は片付いたな! 勇者たちよ、お主らの初陣、大成功じゃ!!」
「何もしてねぇよ!!!!」
勇者軍団の総ツッコミが入る。
「くっそおおおおお!! 俺たちの異世界無双はどこに行ったんだよおおおお!!!」
「異世界転生したら、まさかの引率付きだった件について」
「勇者とは……」
クラスの皆が、がっくりと肩を落とす。
……まぁ、気持ちは分かる。
「ふむ。ならば、次はお主らだけで何かやってみるといい!」
「ほ、本当ですか!?」
「うむ、次こそお主らの見せ場を作るのじゃ!」
勇者たちは、やる気を取り戻す。
「よし! 俺たちで冒険しよう!」
「ダンジョン攻略とかしたい!」
「モンスター倒して経験値稼ごうぜ!」
そうして、クラス全員で冒険することが決まった。
……が。
そこへ、ワシの側近であり宮廷魔術師長のゼノン・アルヴェルトが近づいてくる。
「王様、勇者軍団を帰らせた方が良いのでは?」
「え?」
「いや、王様が強すぎて、勇者たちがいても意味がありませんし……このままだと彼らの存在意義が……」
「むう……」
ゼノンの言うことはもっともじゃ。
ワシがいれば、この国は安泰。
むしろ、勇者たちがいなくても問題ない。
「まあ、せっかく異世界から来てくれたんだし、もう少し楽しんで貰ってから帰せばいいじゃろ」
「……そうですね」
ゼノンは渋い顔をしたが、結局、ワシの意見には逆らえなかった。
勇者軍団の冒険が始まった。
クラスの皆が、ようやく異世界の冒険を楽しめる時が来たんじゃ!
ワシも心の底から応援しておるぞ!!
……というわけで、ワシもついて行く。
「いやいや、なんで国王陛下がついてくるんですか!!?」
天野拓斗が叫んだ。
「お主らの安全を確保するためじゃ!」
「安全確保のレベルが違うんですよ!!!」
周りのクラスメイトたちも、大混乱しておる。
「王様がいるってことは……また俺らの見せ場なくなるんじゃね?」
「異世界冒険、先生同伴の社会科見学みたいなもんじゃん!」
「ていうか、どうせまた王様が全部倒しちゃうんでしょ?」
「むう……そんなことはない!!」
ワシは拳を握りしめ、声を張った。
「今回はお主らがメインじゃ! ワシは見守るだけ!」
「本当に!?」
「うむ!!」
勇者たちはようやく安心した様子で、ダンジョンへと歩みを進めた。
さあ、ついに彼らの冒険が始まるのじゃ……!!