第二章: 理解のある年寄り、自己顕示欲に耐えられず暴走する
「安心しろ!魔王はわしが殺したが、勇者達にも役割はあるからの!」
「そうですよね!? そうですよね!??」
勇者軍団のリーダー、天野拓斗が若干泣きそうな顔で問いかけてくる。
ワシはゆっくりと頷き、彼の肩をぽんぽんと叩いた。
「魔王軍の残党がこの世界にはまだおる! 討伐してこい!!!」
「やった! 俺らの異世界無双が始まる!!」
「よし、俺は剣士スタイルで行く!」
「じゃあ私は魔法特化で!」
勇者の面々が意気込む。
わしはそんな彼らを見て、満足げに頷いた。
(うむ……よきかな、よきかな……)
期待に胸を膨らませる勇者たち。
だが、わしは思う。
――もっと褒められたい。若者に「すげぇ!」って言われたい。
ただでさえ、わしの偉業は十分伝わった。
だが、それでもまだ足りぬ……!!
わしは、さりげなく提案した。
「よし、わしもついていくかの」
「え?」
「え?」
一瞬の沈黙。
そして、次の瞬間、クラス全員が大混乱に陥る。
「いやいやいや!! 国王陛下が出陣したら勇者の存在意義が消えるんですけど!?」
「いや、わしもイキりたいし……」
「やめてください!!!!!」
天野拓斗が全力でツッコミを入れる。
「っていうか、王様がついてきたら、どう考えても俺たち何もできないでしょ!?」
「そうだよ!! 王様のステータス、全部100万だったじゃん!? 俺たちいらないじゃん!!」
「お主ら、勇者としての誇りはないのか!!」
「いやいや、王様がついてきたら、誇りもクソもねぇんだわ!!」
「魔王すら単独で倒した人が護衛についてくるって、どう考えても俺たちの立場がないんだけど!!!」
勇者軍団が大騒ぎする中、ワシは両腕を広げ、満面の笑みを浮かべた。
「なぁに、安心するがよい! わしはサポート役じゃ!! お主らの成長を見守るだけじゃ!」
「絶対嘘だ!!!」
「どうせ敵が出てきたらワンパンするんでしょ!? やめてくれぇ!!!」
「勇者軍団、討伐ミッション前から絶望するの巻」
勇者たちの悲鳴を聞きながら、ワシは満足げに頷いた。
よし、これでまたワシの偉大さが証明されるな!!
――――――――
勇者たちはそれぞれ装備を整え、剣や魔法の練習に励んでいた。
――この世界に召喚されて間もない彼らだが、やはり若者は順応が早い。
未熟ながらも、彼らは自分の持つ力を最大限に活かそうと必死で努力している。
「よし、俺の剣技を見てくれ!」
「おお! かっこいい!」
勇者たちは、互いに技を披露し合いながら、興奮気味に成長を実感しているようだ。
それを、ワシは玉座に座る王のごとく、どっしりと構えながらにこやかに見守っていた。
(うむ……よきかな、よきかな……)
腕を組み、満足げに頷く。
かつての自分と重ねるわけではないが、こうして努力する若者の姿を見るのは悪くない。
成長していく姿というのは、見ているだけで嬉しくなるものじゃ。
「なぁ、王様。何ニコニコしながら見てるんですか?」
「ん? わしか?」
不思議そうに尋ねる勇者軍団の面々に、わしはにっこり微笑んだ。
「いやぁ、若者の鍛錬する姿を見ておると、ほっこりするのう。
まるで孫の成長を見守る優しいお爺ちゃんの気分じゃ!!」
「爺ちゃん面するな!!!」
天野拓斗が全力でツッコミを入れた。
「ていうか、王様、実際何歳なんですか?」
「ふむ……忘れた。」
「忘れるなよ!!」
「まぁまぁ、些細なことじゃろう?」
わしは涼しい顔で笑いながら、勇者たちの練習を再び見守る。
剣を振るう者、魔法を試す者、互いに技を教え合う者……皆が真剣に取り組んでおる。
(よい……とてもよいぞ……)
わしはゆっくりと頷く。
なんと健気で、愛らしいことか。
この子らが一生懸命努力している姿……これは間違いなく「すごい!」と言って褒めるべき流れじゃな!?
そう思ったワシは、勇者たちの元へすっと近寄り――
「お主ら、なかなかやるのう!」
「おお! 王様に褒められた!」
「ふふふ、まだまだじゃが、努力は認めよう! 若者よ、伸び伸びと鍛錬するがよい!」
わしは慈愛に満ちた笑みを浮かべながら、彼らの肩をぽんぽんと叩いた。
「な、なんか……すごい励まされてる気がする……」
「王様、理解のある年寄りポジション上手すぎません!?」
「わしはな、こういう時は若者を褒めて伸ばすタイプなんじゃ!」
ワシは得意げに胸を張る。
そう、若者の成長を温かく見守る、それこそが大人の役目。
ワシは王であり、導く者。決してでしゃばることなく、後進を支えるべきなのじゃ――!
――しかし。
むくむく……むくむく……!!!!
ワシの中に眠る自己顕示欲が暴れ始める。
(……いや、待てよ?)
(若者を見守るのも悪くないが……やはり、ワシも目立ちたい!!)
(もっとこう……「すげえええ!!!」とか「王様、ヤバすぎる!!!」とか言われたいんじゃ!!!)
(何より……!!!)
(ワシの技を見せれば、お主ら、もっと盛り上がるじゃろう!!!??)
――駄目じゃ!!! もう耐えられん!!!!!!!
ワシは勢いよく立ち上がり、堂々と胸を張った。
「よし!! わしの剣技も見せてやろう!!」
「えっ」
「ちょ、王様!? いや、俺たちが頑張る流れじゃないの!?」
勇者たちが困惑するが、もう止まらん!!
この湧き上がる承認欲求の爆発を誰が止められようか!!!
「ふぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
ワシは腰に佩いていた剣を抜き放つ。
刃が月光を受けて鈍く煌めき、空気がビリビリと震える。
勇者軍団が慌てて距離を取る。
「お、おい! なんか王様のオーラがヤバいんだけど!?」
「え、なに!? なんでそんなに気合い入ってるの!?」
だが、ワシにはもう周りの声は届かん!!!!
「見よ!! これが王たる者の剣じゃああああ!!!!!」
〈――ズバァァァァァァァァァン!!!!!!〉
ワシが剣を振るった瞬間、凄まじい衝撃波が大地を裂き、空を貫いた。
遠くの山が、まるで紙でできていたかのように、一瞬で吹き飛んだ。
「…………」
「…………」
勇者軍団、全員沈黙。
風が吹き抜け、砂埃が舞う。
誰も言葉を発せない。
ただ、目の前で起きた理不尽なまでの破壊を、呆然と見つめるのみであった。
「……あの、王様?」
「なんじゃ?」
「やめてもらっていいですか???」
天野拓斗が必死にツッコミを入れる。
「いや、わしも俺TUEEEEしたくてな?」
「もう勇者いらないじゃん!!!」
勇者軍団、全員が絶望。
ワシはそんな彼らを見て、腕を組みながら満足げに頷いた。
(うむ……よきかな、よきかな……!)