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第十章:王の降臨




 


 轟音とともに、天井が砕け散る



 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!



 

「ッ!?!?」




 

 突如、天井が轟音とともに砕けた。


 無数の瓦礫が舞い散り、

 地下遊園地のカラフルな光が、土埃にまみれてくすむ。



 

「な、なにィィ!?!?!?」


「きゃあああぁぁ!!??」



 

 キャストたちが悲鳴を上げ、カリオが驚愕の表情を浮かべる。


 そして、勇者軍団の頭上――

 天井の裂け目から、眩い光が差し込んだ。



 その光の中、王は現れる



 

「ふむ……随分と不気味な場所じゃのう。」



 

 光の中から、ゆっくりと現れる巨大な影。


 白銀の髪をなびかせ、琥珀色の瞳を鋭く輝かせながら、王は降臨した。


 そして、その手には――



 

「神殺しの槍」――《グングニル》が握られていた。



 

 彼が降り立つだけで、空気が一変する。


 先ほどまで勇者軍団を絡め取っていた狂気の雰囲気が、

 一瞬にして払われた。


 まるで、彼の存在そのものが「理不尽な狂気」を否定するかのように。



 

「な、なんだァァァァ!?!?」



 

 カリオ・ザ・ジョーカーが、驚愕の声を上げる。


 勇者軍団を囲んでいた着ぐるみたちも、

 全員が硬直し、まるで壊れた人形のように動きを止めた。



 

「勇者軍団よ――」



 

 王は、ゆっくりとグングニルを掲げる。



 

「目を覚ますのじゃ。」



 

 その声が響いた瞬間――


 勇者たちの瞳に宿っていた濁った光が、一瞬で晴れた。



 

「――ッ!?!?!」



 

 天野拓斗は、ハッと目を覚ます。



 

「俺……何を……?」


「くっ……意識が……!!」


「王様……!!??」



 

 勇者軍団の面々が、まるで水面から顔を出したように、

 狂気の洗脳から解き放たれる。


 その瞬間、勇者たちは確信した。



 

 ――――――王が来た



 


「ふむ……随分と汚れた空気じゃのう。」



 

 王は、グングニルを軽く振るった。


 その動きだけで、空気が震える。


 先ほどまで勇者軍団を捕らえていた不気味な「何か」が、

 まるで霧が晴れるように、一瞬で消えていく。


 そして――王は、ゆっくりと前に進み出る。



 

 着ぐるみたちは、先ほどまでの異様な笑顔のまま動けずにいた。


 彼らは王を前にして、一歩も動けなかった。


 まるで本能的に理解したかのように。



 

「この男に逆らえば――絶対に勝てない」と。



 

「さて――」 



 

 王は、ゆっくりとグングニルを構えた。


 


「カリオ・ザ・ジョーカー。貴様の狂った宴は、ここまでじゃ。」



「さァァァァ!!! これはこれはァァァ!!!」



 

 カリオが、顔を歪ませて笑う。



 

「オモシロォォォォイ!!!!

 これまでにないゲストだァァァ!!!」



 

 カリオ・ザ・ジョーカーの高笑いが地下遊園地に響く。



 

「王様サマサマァァァ!!! さァァァ、楽しもうジャァァナイカァァ!!! クハハハハハ!!!」



 

 狂気に満ちた目をギラつかせながら、カリオは広げた両腕を軽く振る。



 

 すると――



 

「こっちには人質がいるんだよォォォ!!!」



 

 カリオが指をさす先には――


 

 着ぐるみたちに拘束されている勇者軍団の姿があった。


 巨大なウサギの着ぐるみが、拓斗の首元に細長い指を添え、

 クマの着ぐるみが玲奈の肩をがっしりと掴み、

 ネズミの着ぐるみが、甲高い笑い声をあげながら他のクラスメイトたちを締め上げる。



 

「どうするゥゥゥ、王様サマァァァァァ!!!???」


「アナタの可愛い勇者サマたちがァァァ、今にも死んじゃいそうだヨォォォ!!! クハハハハハ!!!」


「人質?」


 


 王は、カリオの言葉を聞き流すように呟く。


 その琥珀色の瞳が、ほんの一瞬、冷たく細められる。


 

 そして――

 

 王は、全力で槍を投擲した。



 

「投げた!?」



 

 勇者軍団の誰かが思わず叫ぶ。


 槍が放たれた瞬間、

 その速度はまるで空間を引き裂く閃光のようだった。


 

 目視すらできないほどの速さで飛翔し、

 まるで意志を持っているかのように、

 着ぐるみたちの群れへと突き進む。



 

「ズシャアアアアアアアッッッ!!!!」


「ガアアアアアアア!!!!?」


「キャアアアアア!!!!」


 


 着ぐるみたちが断末魔のような声を上げる。


 槍が縦横無尽に動き、次々と貫いていった。


 

 ウサギの着ぐるみの胸を貫通し――

 そのまま背後にいたクマの着ぐるみの頭を貫き――

 さらにネズミの着ぐるみの胴体をえぐる。

 


 一撃で、すべての着ぐるみを貫いた。


 


 槍が貫通した瞬間、

 着ぐるみたちの体が、まるで脆い陶器のように砕けていく。


 

 表面を覆っていたぬいぐるみの毛皮が剥がれ落ち、

 中から覗いたのは――


 真っ黒な、どろりとした何か。


 それがまるで力を失ったかのように地面へと崩れ落ち、

 二度と動くことはなかった。


 


「スッ……」


 


 グングニルが空中で軌道を変え、

 王の元へと戻っていく。


 

 王が無造作に右手を広げると、

 槍はまるで「そこに戻るべき運命だった」かのように、

 吸い込まれるように王の手の中へ収まった。



 

「――人質がなんだって?」



 

 王は、槍を軽く肩に担ぎながら、

 何事もなかったかのように呟く。



 無表情のまま、

 琥珀の瞳でカリオをじっと見つめる。



 その視線は、まるで「何かを見下ろしている」かのように冷たい。


 

 

「……ッ」



 

 カリオ・ザ・ジョーカーの表情が、一瞬にして凍りつく。


 彼の計算では――



 勇者軍団を人質に取ることで、王の行動を封じることができるはずだった。

 


 だが、その策は――一瞬で無に帰した。


 


「馬鹿なァァァ!!!」


 


 カリオが叫ぶ。


 


「ナンダァァァァコレェェェェ!!!???」


「着ぐるみたちがァァァ!!!??? えっ!?!? 一撃!?!?!?」



 

 彼は愕然とし、額から冷や汗を流しながら王を睨む。




「このワンダーランドで、オマエみたいなの、聞いてないヨォォォ!!!」


 


 この戦い――

 


 もはや勝負にすらならない。


 そして、王は静かに言い放つ。




 

「さて――遊びはここまでじゃ。」



 

 王の低く響く声が、地下遊園地の空気を震わせる。


 カリオ・ザ・ジョーカーは、その言葉に反応し、

 大きく両手を広げて笑った。


 


「クハハハハハ!!! まだ終わらないヨォォ!!!」


「オマエがどんなに強かろうとォォ!!!

 このワンダーランドの支配者は、ボクだァァァ!!!!!」



 

 カリオが背後へと飛び退き、

 その両手を高く掲げる。


 


「フッフッフ……見せてやるヨォォ!!!」



 

 次の瞬間――


 地下遊園地の地面が不気味な紫色の光を帯び始めた。


 壁に埋め込まれていた奇妙なネオンライトが、ギラギラと怪しい光を放つ。


 そして――



 

「解放するヨォォォ!!!!」



 

 カリオが叫んだ瞬間、

 空間が歪んだ。



 

「これは……!?」



 

 勇者軍団が息を呑む。


 地下遊園地の空気が重くなり、

 まるで異質な何かが「降りてくる」ような感覚が広がる。


 

 カリオの身体から、黒い霧のようなものが噴き出し、

 それは彼の周囲に渦を巻きながら形を変えていった。



 

「オマエェェ!!! ここで終わるとでも思ったかァァァ!!!?」


「さァァ!! ボクの究極の『秘術』を見せてやるヨォォォ!!!」




 その瞬間――


 カリオの姿が変貌した。


 

 彼の体が、異様に伸び、

 関節が逆に折れ曲がるような動きをする。


 仮面の奥から、異形の笑みが覗く。


 その口が、耳まで裂けるほどに開き――



 

「ンッフッフッフッフ!!!!!」



 

 皮膚が引き裂かれ、

 黒く不定形な「何か」がそこから滲み出ていく。


 カリオの手足は伸び、

 その指は異様に細長くなり――



 

「さァァァァ!!! 王様サマサマァァァ!!!

 『本物の地獄』を見せてやるヨォォ!!!!!」




 王は、無言のまま、ただ静かにカリオを見つめていた。


 その琥珀色の瞳に、恐れの色は一切ない。



 ふむ……」



 

 王は槍を軽く回しながら、静かに言った。



 

「貴様は……実に見苦しいのう。」


「ハァァァ!!! ククククク!!!!」


 

 カリオが異形の四肢を広げながら、瞬時に王へと跳びかかる。


 その速さは、人間の反応速度を遥かに超えていた。



 

「ンッフッフッフ!!! 捕まえたァァ!!!」



 

 その長い指が、王の首を掴みかけた――


 しかし。



 

「遅い。」




 王の声が響いた瞬間、



 

 ――バキィィィィィッ!!!!


「グハァッ!!??」


 


 王が振るったグングニルの一撃が、

 カリオの身体を完全に吹き飛ばした。



 

「アッ……アァァァァァ!!!!?」


 


 カリオの身体が猛烈な勢いで壁へと叩きつけられる。




〈ズガァァァァァァン!!!!」


 


 遊園地の壁が、衝撃で大きく崩れた。


 カリオの体は、崩れた瓦礫の中に埋もれる。



 

「ぐ……グフッ……な……ナンダ……?」



 

 王は、まだ一歩も動いていなかった。



 

「はぁ……」


 

 王は、グングニルの穂先を軽く振る。


 カリオの黒い霧が、その一振りで完全に霧散する。



 

「……つまらん。」


「なァァ……!!??」


 


 カリオの目が見開かれる。




「嘘だァァァァァ!!!!!」


「こんなことがアリ得るカァァァァ!!!??」


「ボクはァァァ!!!」


「最強のォォォ!!! ワンダーランドの支配者ァァァァァ!!!!」


「これで終わるなんて!!! 認めないィィィィィ!!!!」




 王は、ゆっくりと歩み寄る。


 そして、冷たく告げた。


 


「――終わりじゃ。」



 

 グングニルを、軽く構える。



 

 次の瞬間――




 王が槍を振り抜いた。




 「ズバァァァァン!!!!!」



 

 カリオの身体が、グングニルの一閃によって両断された。


 異形の体は断裂し、悲鳴すら上げることなく、黒い霧へと崩れ落ちていく。


 


「ア……アァァァァァ…………」



 

 カリオの目が見開かれ、そのまま闇へと消えていった。



 王は、無言のまま槍を収めた。


 地下遊園地に広がっていた異様な狂気は、

 カリオの消滅とともに、完全に消え去っていた。



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