ちいさな同盟
「で?なんで夢芽に会いに来たの?」
クリフは本題に入ろうとするが、夢芽がどうにも気になっていたらしく、間に入る。
「待って待って!あのさ、まずは名前は?たまっころ……が名前でいいの?」
光るは玉は、ない鼻を鳴らすかのように音を出して答える。
「んなわけあるかよ。ディザイのやろうが勝手に呼んでたんだ。俺に名前なんてないよ」
「ないの?不便じゃない?」
「不便なもんか。誰も俺の名前を呼ばない。俺の村を見ただろ?誰も喋らない、食べない、ただそのへんを漂う生き物。それがホコホコ族さ」
夢芽は首をかしげる。
「え?でも玉っころ君は話してるじゃん」
夢芽は人差し指で光る玉に触れている。
ふわふわしてほんのりあったかい。
「俺は特別。
ある日突然、目の前が明るくなって、いろんなことが頭を駆けめぐった。まぁ、目なんてないけど、視界ってやつか?
今まで特に何も感じなかったのに、風が暖かったり、花の色が目についたり、それが嬉しかったり悲しかったり、苦しかったり、気持ちよかったり。とにかくいろんなものがグチャグチャ〜って俺の中を駆け巡ったんだ。
あーーー!!とか、うおーーー!!!とか叫んだ。
俺に人間だったらが泣いてたと思う」
口は悪いが、光る玉の見た世界の美しさを雄弁に語る。
その時得た感動をなんとかして伝えようとしているが分かる。
全身に駆け巡り、あふれ出す感情の素晴らしさを、一人で抱えきれないでいるのだろう。
ひとしきり語り尽くした光る玉を見据え、クリフが冷静に問う。
「誰が君をそうしたのか分かるかな」
落ち着いた言葉を聞いて、とたんに光る玉は平静を取り戻し、今までの熱い語りに少々恥ずかしさを感じたのか、ふてくされ気味に答える。
「ふん、今は言いたくないね。
なんとなく分かるだろ?そんなことができるやつ、普通じゃない。とんでもない存在だ」
意外な返答に思わず夢芽は身を乗り出す。
「じゃあなんで私たちの所に来たの?問い詰められるの分かってたでしょ?」
「いやだからさ、本音を言えば、あんたらに協力したいんだよ。でも、『あいつ』は怖い。
だからしばらく間にいさせてくれよ。
俺はどちらの味方もしない。
でも、『あいつ』が勝ちそうなら、あんたらから離れる。あんたらが勝ちそうなら、俺の知ってる情報を全部あんたらに話す。
どうよ」
クリフは考え込む。
どうにも判断が難しい。
会話の内容から察するに『あいつ』は味方ではない。情況によっては、渡してはならない情報を、光る玉が我が身かわいさに伝えてしまう可能性はあるのだ。
「どうよ……って、それで玉っころ君の身の安全は大丈夫なの?
宙ぶらりんって、『あいつ』さん的にはあり?なし?」
どうやら夢芽の気になるところはそこらしい。
確かに光る玉の安全がある程度確定するならば、情報を渡す可能性は少なくなるかもしれないが、おそらく夢芽はそこまで考えていないだろう。
「ああ、まぁ、その、大丈夫だ………と思う。まぁ、さすがに俺だってそれくらいは覚悟決めるさ」
光る玉もまさか自分の心配をされるとは思わなかったようで、複雑な感情の揺れが言葉から感じる。
夢芽はちらりとクリフの顔を見る。
夢芽的には光る玉の同行、取引は受けるに値するらしいが、彼女の主人はクリフだ。
最終的決定権は、クリフにある。
たとえその結果がどうなろうとも、彼女はそれに従う。
クリフは小さく頷く。
どのみち光る玉の持つ情報をやすやす手放す気はない。
それに、夢芽自身はたいした情報を持っていないし、クリフの情報も、漏れたところでどうにもならない。
ならば乗る以外の手段はないだろう。
クリフの合図を受け取った夢芽は、光る玉に返事をする。
「まぁ……、それならいいけど……」
「お!やった!とりあえず仮同盟成立だ!よろしくな」
「ところでさぁ」
「ん?」
「玉っころ君の声、どこかで聞いたことあるんだけど……」
「さぁ、ディザイと一緒にアジトにいたからな。そんときじゃね?」
そう言うと、光る玉は、ポンッと跳び上がり、夢芽のポーチにスポッと収まった。
飛べるはずなので、別にポーチに入る必要はないよあに思うが、どうやらその位置が気に入ったらしい。
「ん……、うん」
腑に落ちない部分はありつつも、夢芽は話を打ち切った。
2人と1つの玉は目的地へと進み始める。
「……………………………」
クリフの沈黙を残して。




