ちいさな仲間?
雲ひとつない快晴、あたたかい陽射しと冷たい空気が広がっているを感じる。
身体の中に入ってくる空気は、喉を潤す水のように心地よい。
青い空はどこまでもどこまでも続いていて、己の小ささを痛感せずにはいられないが、なぜかそれが気持ちを高揚させた。
道などない。
ただただ一面に広がる大地は、土と草が無秩序に並ぶ。誰の手入れをされていない、美しくないが美しい。夢芽は矛盾した感覚を楽しみ、己が吐く息の白さにすら称賛した。
「今だいたいどれくらい進んでる?」
夢芽はクリフの顔を嬉しそうに覗き込む。
「だいたい半分くらいかな。このへんは空を飛ぶ魔物が多いから徒歩になるけど、もうしばらく歩けばまた飛べるから、そこからははやいと思う」
2人の間に少しの沈黙。
それは重いものではない。
「食べていいんじゃない?」
そう言ってフッとクリフが笑みを零す。
「いや、ワガママになるかと。大事な食料だし」
「元々夢芽のおやつなんだから。たまたま今となっては非常食になってるだけで」
夢芽は、ビスケットやキャンデイを入れたポーチを腰にさげていた。
チアや真穂、幸太に貰ったお菓子を紙に包んではポイポイと入れて、食べたい時に取り出す夢芽の癒しポーチだ。
普段当たり前にさげていたので、ファーレガビャを脱出する際、そのままになっていた。
もちろん夢芽は忘れていたわけではない。中には保存のきく物が入っていたので、頭の中で非常食へと変更し、いざという時の為に食べずにいたのだ。
「今は非常食だし」
そんな夢芽を見つめるクリフは、ニコニコと楽しそうに見える。
何が楽しいのか夢芽には分からず、少し口をとがらせた。
「甘い物を我慢しすぎるのも、イライラしたりするんじゃかいかな。そんなに気にするなら、ビスケット一枚とかでもいいから食べなよ」
「……………………………、ほんとにいいの?」
「俺も一枚貰おうかな」
「じゃ、じゃあ、一枚ずつ」
夢芽はパッと花ひらくように笑うと、ポーチの留め具を外した。
「え………………」
中にはビスケットもキャンデイもなく。
そこには光る球体が埋まっていた。
「はああああああ????」
「やーーっと気づいたか。鈍いなぁ、人間」
光る、喋る球体は、ふわりと浮かび上がり、茶化すように言葉を発した。
これは夢芽がずっと探してた。
「ディザイが言ってた光る玉っころ!!!」
夢芽の叫びに、さすがにクリフの顔から笑みは消え、目を大きく広げて驚きの表情を浮かべた。
「ディザイ!?盗賊の頭の……。確かにホコホコ族、それに喋ってる」
「な、なんで私のお菓子ポーチに!!!いつの間に」
探し物は実は直ぐ側に……というおとぎ話にでも出てくるような設定。
しかし実際自分の身に起こってみれば、夢芽の頭は怒りで満ちていく。
『いつから?いつから?いつから??』
混乱する頭の中を必死になだめ、最後をポーチを開けたのは、水の力場からファーレガビャに到着する少し前と答えを出す。
「まぁ、落ち着けって。ずっとオレのこと探してたんだってな。だから来てやってもいいかなぁて。っでもさぁ、あんた前に大暴れしてただろ。
繊細なオレにしてみれば、怖くて仕方なかったのさ。
だからこうして、様子を見させてもらったってわけ。
いやぁ〜、お2人さん、仲睦まじくてこちとら背中がむず痒くなっちまったよ。
恐怖なんて忘れちまった」
「中のお菓子は?」
「ごちそうさん。オレたちホコホコ族は飯を食う必要無かったんだけど、隠れるのに邪魔だったからさ。
いいもんだな。『うまい』ってやつは」
「食べる必要ないのに食べちゃったの???」
「おいおい、そいつは差別ってやつだろ。
腹が減らなくても『うまい』に心躍らせる資格はある。
お前はこれを嗜好品として持ち歩いていたんだ。それならオレがこれを食べる理由と同じさ」
「そ、それは、確かに。
ごめんなさい」
夢芽はハッと後悔の表情を見せると、まるで耳と尻尾をたらした犬のようにしゅんとした。
それとは逆に、満足そうに光る玉は返事する。
「わかれば良し!」
光る玉には表情どころか身体すらないのに、そこには口の端を大きくあげふんぞりかえるような尊大な態度が見えたような気がした。
元々嗜好品として持ち歩いていたとは言え、今は非常食として持っていたし、そもそも嗜好品だったとしても、他人の物を勝手に食べていい理屈にはならないのだから、普通に怒っていいのではないだろうかとクリフは思ったが、そこを突っついてしまうと話が進まないので黙ることにした。




